ブラフマンの埋葬 (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社
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本棚登録 : 2941
レビュー : 370
  • Amazon.co.jp ・本 (192ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062756938

作品紹介・あらすじ

読めば読むほどいとおしくなる。
胴の1・2倍に達する尻尾の動きは自由自在、僕が言葉を発する時には目をそらさないブラフマン。
静謐な文章から愛が溢れだす。

ある出版社の社長の遺言によって、あらゆる種類の創作活動に励む芸術家に仕事場を提供している〈創作者の家〉。その家の世話をする僕の元にブラフマンはやってきた――。サンスクリット語で「謎」を意味する名前を与えられた、愛すべき生き物と触れ合い、見守りつづけたひと夏の物語。

朝日を遮るものが何もない庭の真ん中に、2人で寝転がる。僕は草の上に、ブラフマンは僕のお腹の上に。
みぞおちに頭を埋め、首の後ろをベルトのバックルで固定し、下腹にお尻を載せている。少しでもたくさん光を浴びられるよう、脚は4本とも水かきを開いてだらんとさせている。僕が深呼吸すると、膨らむ下腹に合わせてうまくお尻をくねらせる。――<本文より>

第32回泉鏡花賞受賞作

感想・レビュー・書評

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  • 僕とブラフマンの幸せな日々。だけどそれは終わりに向かっていた。皮肉にも僕がきっかけを作った思いもよらぬ原因で。現実にはこういうこともある、という教えにも受け取れた。
    創作者の家の泉でブラフマンは美しく泳ぐ。落ち葉の上で転げ回ったり、どんぐりを拾って森で遊ぶ。一つ一つの場面が浮かんで美しい世界が輝やきました。
    (おそらく)自然界で居場所のなくなったブラフマンは優しい僕の元にやってきた。心が清らかすぎる青年、僕は社会で生き辛く感じていたのかもしれない。似たもの同士。
    ブラフマンは僕の元で過ごせて、僕に抱かれて息絶えて幸せだった。
    創作者の家の管理人僕は、自分も究極の創作物をと、
    最高の埋葬でブラフマンに愛情表現をする。
    ラストは泣けてしかたない。
    最初で最後のたった一回きりの、ブラマンの声。どんなだろうと想像するのは辛すぎた。

    レース編み作家の人間性が素晴らしいと思った。最初は冷たく感じもしたが、言っていることは真っ当だし、最後は限りない優しさを見せる。
    淡々とした中に、優しさと残酷さがありとても心に染みました。現実逃避できそうな物語。周りの人に優しくしようと思えました。

  • 夏のはじめのある日、ブラフマンが僕の元にやってきた。
    ブラフマンという名前をつけてくれたのは、<創作者の家>に工房を持つ碑文彫刻師。『謎』という意味である。
    ブラフマンが何の動物かは、最後までわからない。
    傷の手当てをし、溢れんばかりの愛情を注いだ青年の期待に応えるように、ブラフマンはどんどん活発に動き回るようになる。
    森で走り回り、泉で泳いだブラフマンとのかけがえのない日々。
    けれどそれはほんのひと夏の出来事に終わってしまった。
    愛おしさに胸が熱くなり、切なくて泣けてくる。
    そして、骨董市で買った白黒の家族写真が、妙に気にかかってしまう。

  • ぼくがブラフマンを大事に思っていることを
    読者に伝える表現の仕方が、
    こんなにたくさんあることに驚いた。

    そして物語が進んで
    ブラフマンを愛しく思う気持ちが高まるにつれ、
    きっと来る(と、読者は題名で知っている)
    ブラフマンとの死別のことを考えて
    不安とか緊張とか、
    心のざわめきが強くなってくるのを
    感じながら読んだ。

    「静謐」ってよく表現される小川洋子さんの文章、
    個人的にとても好きだなぁ。
    淡々と綴られるからこそ
    小さくて鋭くて品のいい痛みが
    感じられるというか。
    博士の愛した数式をまだ読んでないので、
    読了即Kindleで買いました。

  • 最後 悲しい
    ブラフマンて何のことなんだろうと、普段あまりしない読み方をした。
    不思議な気持ちになった。

  • 美しく、静謐な物語だった。
    ブラフマンがどういう生き物であるか、丹念に観察し、文字として記録を残してゆく。そう、まるで「謎」を一つ一つ解き明かしてゆくように。
    しかし、雑貨屋の娘の心に入って行こうとした時、世界は崩れ去る。世界は、解き明かされない「謎」を残したまま、驚くほど小さな石棺の中に姿を隠す。
    そして後に残るのは、再びの静寂。
    失ってしまったものは、戻らない。世界の謎は解き明かされない。ただその尻尾の先に触れることが出来るのみなのだ。

  • ブラフマンの埋葬 小川洋子

    かわいいかわいいブラフマン。茶色い毛並みのふわふわしたかわいい生き物。

    ブラフマンと過ごした時間が堪らなく愛しくて、ブラフマンを見守る主人公の目線と同期し、読んでて私もブラフマンと一緒に暮らした気持ちになります。そして突然の別れに、心が痛みます。

    主人公は娘への横恋慕から本来なら取らない行動を取り、結果としてブラフマンは死んでしまいます。理不尽だけれども、死を受け入れ、静かに埋葬します。

    キャンドルに灯した明かりのような、小さくてほわんと暖かい物語です。

    晩秋に読むのがいいかな。あまりに人恋しくなりすぎてしまうか。

  • <創作者の家>の管理人の“僕”が拾ってきた謎の生物“ブラフマン”。
    <創作者の家>にやってくる芸術家たちの世話をしながら、ブラフマンとの絆を深めていった“僕”のひと夏の物語。

    登場人物は他には碑文彫刻師、雑貨屋の娘、<創作者の家>にやってくる芸術家たちぐらいで、ブラフマン以外の名前はでてきません。
    だから尚更、独立した世界観があるような気がします。


    謎の生物ブラフマンですが、“僕”の細かい描写でいきいきとした愛らしいペットとして私の頭の中で動き回っていました。
    このままささやかな発見を楽しむブラフマンとの穏やかな生活が続けばいいのに、と思いながら読んでいましたが、やっぱり終わりはくるのです。
    予想とは違った形で。

    そして、その終わり方もブラフマンの世界の完結として胸の中に残るものでした。
    こういう不思議な優しい世界はクセになるので困ります。

  • 最初、ブラフマンは、得体の知れない不気味な生き物としか写らず、拒絶感がありましたが、物語が進んでいくうちに、可愛らしい目で、ひげもあって、水かきもあるというふうに、ブラフマンに関する情報がぽつりぽつりと増えいき、加えて主人公の「僕」に懐く様子も微笑ましく、どんどん愛らしく感じられるようになりました。

    情報を小出しにして、読者を惹きつける手法が非常に効果的に働いていると感じました。

    誰ひとり名前で語られていないので、日本のお話なのか、どこか外国のお話なのかわかりませんでしたが、そのことがこの物語の独特な雰囲気を引き立てていると思いました。

  • 小川洋子さんらしい雰囲気の漂う物語。
    不思議な動物との不思議な生活。日常生活は当たり前のように過ぎていくのだけど、その中で起こる非日常。
    それが流れるようにゆるやかに起きていく。

    映画を観ているように美しいシーン。

  • 「創作者の家」の管理人をしている「僕」の元に、傷ついた「ブラフマン」がやってきた。

    黒く澄んだ大きな瞳、胴回りに比べてあきらかに短い四本の脚、水かきとひげ、首のつけねあたりに申し訳程度に付け足されたような目立たない耳、しっかりと太く胴の一・二倍の長さの尻尾、好奇心旺盛な渇いた小さな鼻先。

    「碑文彫刻師」により、「彼」に与えられた名はサンスクリット語で謎を示す「ブラフマン」だった。

    最後まで「ブラフマン」が一体なんの動物なのか明かされることはなく、ビーバーや貂、ダックスフンド…ウナギイヌまでも想像しながら読み進めた。

    動物ってなんでこんなに可愛いのだろう、でもタイトルからすると…死の予感を漂わせる美しい文章に酔う。

    またブラフマンを優しく諭し、動物の「彼」ときちんと言葉で意思疎通をはかる「僕」であるが、雑貨屋の「娘」への密かな執着は不気味に官能的ですらある。

    「娘」に何も告げられないくせに、「娘」と「男」が古代墓地で何をするか知っていて、それでも「娘」にとり憑かれている「僕」…

    泉鏡花賞受賞と聞けばなるほど、である。「ミーナの行進」が谷崎潤一郎賞なのはいまいち納得がいかないが。もう少し爽やかなイメージじゃない?

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著者プロフィール

1943年 鹿児島県生まれ
1974年 東京大学大学院人文科学研究科博士課程単位
取得退学

主な訳書
テオプラストス『植物誌1』(京都大学学術出版会)
フィンレイ編著『西洋古代の奴隷制』(共訳、東京大学
出版会)
クラウト編著『ロンドン歴史地図』(共訳、東京書籍)
ストライスグス『ギリシア』(国土社)

「2015年 『植物誌2』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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