ブラフマンの埋葬 (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社
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レビュー : 329
  • Amazon.co.jp ・本 (192ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062756938

作品紹介・あらすじ

読めば読むほどいとおしくなる。
胴の1・2倍に達する尻尾の動きは自由自在、僕が言葉を発する時には目をそらさないブラフマン。
静謐な文章から愛が溢れだす。

ある出版社の社長の遺言によって、あらゆる種類の創作活動に励む芸術家に仕事場を提供している〈創作者の家〉。その家の世話をする僕の元にブラフマンはやってきた――。サンスクリット語で「謎」を意味する名前を与えられた、愛すべき生き物と触れ合い、見守りつづけたひと夏の物語。

朝日を遮るものが何もない庭の真ん中に、2人で寝転がる。僕は草の上に、ブラフマンは僕のお腹の上に。
みぞおちに頭を埋め、首の後ろをベルトのバックルで固定し、下腹にお尻を載せている。少しでもたくさん光を浴びられるよう、脚は4本とも水かきを開いてだらんとさせている。僕が深呼吸すると、膨らむ下腹に合わせてうまくお尻をくねらせる。――<本文より>

第32回泉鏡花賞受賞作

感想・レビュー・書評

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  • 美しく、静謐な物語だった。
    ブラフマンがどういう生き物であるか、丹念に観察し、文字として記録を残してゆく。そう、まるで「謎」を一つ一つ解き明かしてゆくように。
    しかし、雑貨屋の娘の心に入って行こうとした時、世界は崩れ去る。世界は、解き明かされない「謎」を残したまま、驚くほど小さな石棺の中に姿を隠す。
    そして後に残るのは、再びの静寂。
    失ってしまったものは、戻らない。世界の謎は解き明かされない。ただその尻尾の先に触れることが出来るのみなのだ。

  • 「創作者の家」の管理人をしている「僕」の元に、傷ついた「ブラフマン」がやってきた。

    黒く澄んだ大きな瞳、胴回りに比べてあきらかに短い四本の脚、水かきとひげ、首のつけねあたりに申し訳程度に付け足されたような目立たない耳、しっかりと太く胴の一・二倍の長さの尻尾、好奇心旺盛な渇いた小さな鼻先。

    「碑文彫刻師」により、「彼」に与えられた名はサンスクリット語で謎を示す「ブラフマン」だった。

    最後まで「ブラフマン」が一体なんの動物なのか明かされることはなく、ビーバーや貂、ダックスフンド…ウナギイヌまでも想像しながら読み進めた。

    動物ってなんでこんなに可愛いのだろう、でもタイトルからすると…死の予感を漂わせる美しい文章に酔う。

    またブラフマンを優しく諭し、動物の「彼」ときちんと言葉で意思疎通をはかる「僕」であるが、雑貨屋の「娘」への密かな執着は不気味に官能的ですらある。

    「娘」に何も告げられないくせに、「娘」と「男」が古代墓地で何をするか知っていて、それでも「娘」にとり憑かれている「僕」…

    泉鏡花賞受賞と聞けばなるほど、である。「ミーナの行進」が谷崎潤一郎賞なのはいまいち納得がいかないが。もう少し爽やかなイメージじゃない?

  • 最後 悲しい
    ブラフマンて何のことなんだろうと、普段あまりしない読み方をした。
    不思議な気持ちになった。

  • 小川洋子さんの物語を読むと必ずのように「静謐」という言葉が浮かんできます。活発で愛らしい小動物ブラフマン(カワウソ?)を主要な脇役とするこの物語でもそうです。おそらく文体がなせる業なのだと思うのですが、賑やかなはずなのに静謐。小川作品に手を出す理由は、その心地良い静謐感に浸りたくなる時が多いのです。
    タイトルが示すように、最後にはブラフマンは死んでしまうのですが、なぜこのタイミングなのかは良く判りませんでした。何か小川さんなりのこだわりがあるのでしょうが。。。

  • 静かで温かで切ない、ひと夏のお話。
    創作活動に勤しむ芸術家に仕事場を提供している"創作者の家"。
    そこの管理人である僕の前にブラフマンは現れた。
    傷だらけの彼は謎の小さな生き物だった。
    描写から読み取れる確かなものは何もない。
    登場人物はブラフマン以外、名前もない。
    だけどそれで十分だった。
    曖昧なようで鮮明な景色の中で僕とブラフマンの温かな生活が描かれている。
    外国の田舎の雰囲気で、創作者ではないけれど少しの間そこで過ごしてみたいと思った。

  • なんだかよく分からないけど、不思議な満足感がある。心理描写がここまで少ない話は珍しい。そのおかげか読者である自分の気持ちを素直に重ねて読んでいた気がする。それが狙いだったのか?

    ブラフマンと名付けられた動物の種別も最後まで明かされない。部分部分の特徴が話に沿って描写されるだけである。しかし、輪郭は分からなくても生き生きとした姿がちゃんと脳内にイメージされ、愛着も湧くのである。不思議だ。

    そういえばこの話にはブラフマン以外、固有名詞が出てこない。他の人物は皆、職業で呼ばれる。名前も職業もその人の一面を表すだけで本質ではないということを暗に示しているのだろう。そして、主人公の心理描写をしないことで読者に人の本質とは自分の心で捉えるものなのだということを伝えたいのかもしれない。

    物語に固有名詞が出てこない一方で石碑彫刻師という墓石に名前を刻む専門家が出てくる。「名前」と「死後」がテーマの鍵なのかな?
    死んだ後、他人が死者をどんな想いでどう扱うのか。身近な者の死は悲しみ、時間がたっても墓や写真を見て懐かしみ慈しむ。全く見ず知らずの人の死は逆に墓の存在などで初めて知る。でも知れるのは存在があったことだけ。墓に掘られた名前や文章、墓の大きさから少しばかりの想像が得られるだけ。しかし、確かに死には人それぞれの形があるのだ。そして死の形とはその人がどのように生きてどのように周りに見られていたかということなのだろう。
    ああ、ある人(動物含)の死が他人からどう捉えられているかという「他者から見た個別の死」が本書のテーマなのかな。ブラフマンという愛着ある存在の死と古代墓に象徴される赤の他人の死を対比して。全体に死者への温かい敬意が漂っている印象深い物語だった。

  • 「静謐」って言葉が、色んな人のレビューに書かれてたけど、まさにそんな世界だなぁ。
    起伏は無いけど、心に何か残る感じというか... うーんうまく表現できない。
    個人的に、ブラフマンはイタチ的な生き物かなぁと。

  • 旅のお供として借りた文庫本の一つ。とても短いお話。泉鏡花賞を取っているそうだ。この人の小説はいつも不思議だ。おちがはっきりしてない話は苦手なのに、この人のは読んでる間が気持ちいいというか、心地いいんだよな。ブラフマン、ちゃんと想像すると大きなトカゲみたいな気持ち悪い生き物なんじゃないかと思うけど、それが小説のいいところだよね。ブラフマンをかわいがる「僕」の気持ちはよく分かる。私もペットを飼えばこんな気持ちになるんだろうか。碑文彫刻師も好きだ。

  • タイトルからどうしても
    物語の終着する方向を示されてしまうので
    常に静かな物悲しさを感じながら読むことになる。
    慈しみと執着と愛と無関心とが
    奇妙なバランスで調合され
    穏やかな景色としてそこにあるような感触。

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著者プロフィール

小川 洋子(おがわ ようこ)
1962年、岡山県生まれ。高校時代に文芸を志し、早稲田大学第一文学部文芸専修入学。在学中から文芸賞に応募。卒業後一般企業に就職したが、1986年の結婚を機に退職、小説家の道に進む。
1991年『妊娠カレンダー』で芥川賞、2004年『博士の愛した数式』読売文学賞、本屋大賞、2006年『ミーナの行進』谷崎潤一郎賞、2012年『ことり』で芸術選奨文部科学大臣賞、2013年早稲田大学坪内逍遙大賞をそれぞれ受賞。芥川賞、太宰治賞、読売文学賞、河合隼雄物語賞などの選考委員を務める。
『博士の愛した数式』は映画化され、大ヒットとなった。受賞作以外の代表作として、『薬指の標本』『人質の朗読会』『猫を抱いて象と泳ぐ』。

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