- Amazon.co.jp ・本 (192ページ)
- / ISBN・EAN: 9784062756938
感想・レビュー・書評
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『あたたかくて、せつなくて、いとおしい。極上の文学世界をご堪能ください。』
胴の1.2倍もある尻尾、大理石の様な模様の茶色い毛皮、泳ぎが得意 etc.
ブラフマンの細かな描写はあるものの、何の動物か分からないままっていうのが非常にもどかしい。
アライグマかビーバーか?なんて想像もしましたが、案外架空の生き物だったりして。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
山と川に囲まれた村にある〈創作者の家〉には,作家や彫刻家,演奏家といった芸術家が逗留する。そこで住む込みの管理人をしている僕は,ある日森で傷付いた小動物を救い,「ブラフマン」と名付けて一緒に暮らすことにした――四つ足で歩き,長い尾を持ち,上手く泳ぐための水掻きを持ち,ひまわりの種を好んで食べるこの小動物は一体何者なんだろう――。トイレを教え,家具を噛まぬように躾け,甘えるのをなだめ,暗闇を恐れるブラフマンを抱いて眠る。そして小説のタイトルは『〜の埋葬』である。謎めいた物語。寓話なのか?
(乃木坂文庫版,表紙は久保史緒里さん) -
第32回泉鏡花文学賞
著者:小川洋子(1962-、岡山市中区、小説家)
解説:奥泉光(1956-、山形県三川町、小説家) -
ブラフマンの埋葬 (講談社文庫)
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小さなブラフマンが愛くるしく、ほほえましい。
言葉を発しない彼と管理人に成立する、素敵なコミュニケーション。
いきいきとした彼らの日常がこまやかに描かれ、魅力的だった。
タイトルや、雑貨屋の娘がまとう、負の空気が、穏やかな生活をじわじわと侵食していく。
静かな物語で、ひきこまれた。
第32回泉鏡花文学賞受賞作。 -
美しい風景描写と愛らしいブラフマン。愛しくて哀しい気持ちになりました。
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なんとも不思議な雰囲気の小説。ネコのようなイタチのような正体不明の動物ブラフマンと主人公の僕との交流を描く。小動物を飼っている人であれば、自分に懐いてくる存在の愛おしさがわかるだろうが、この物語の大半はブラフマンのかわいさ推しである。タイトルから推測される通りブラフマンとの別れが待っているが、意外と悲しさの描写がない。登場人物には名前がなく淡々とした印象。
主人公僕が娘に抱く叶わぬ恋心があるが、破滅への願望が透けて見える。その結果として最愛のブラフマンとの別れを招いてしまう。淡々とした描き口の中にじんわりとした母性本能と寂寥感を感じられる小説。 -
娘に対する叶わぬ恋をブラフマンが永遠なものにしたのか。
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ブラフマンとは何か?ヒンドゥー教の超越的な宇宙心理を名前に持つ生き物は、結局具体的な生物としては示されない。名前の由来となった「謎」そのものだ。しかしそれは「僕」の生活に変化を与え、なんとなくせわしない毎日にそっと彩りを与えるような「愛すべき」存在だったのだ。
そのことは、ブラフマンに出会った時から感じていたのだが、改めてはっきり認識したのはその埋葬のときだった。ホルン奏者のホルンの音が遠く響くとき、森の静謐を改めて感じつつ、もうこれ以上心配しなくても「僕」はずっとそばにいると伝えるときだ。
「僕」が好きな娘からは冷たくされていることにうすうす気づきつつ、それが恋ごころの妨げにはならない、ということとどこまでも心配なブラフマンを守ってあげるという気持ちが崩れるとき、何が変わるのだろうか。小川洋子はそこは示していない。水面に小石が落ちた時の水紋が静かに広がっているように読者にさざ波をおこしたところで物語は終わるのだ。