ブラフマンの埋葬 (講談社文庫)

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  • 講談社
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レビュー : 330
  • Amazon.co.jp ・本 (192ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062756938

感想・レビュー・書評

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  • 「創作者の家」の管理人をしている「僕」の元に、傷ついた「ブラフマン」がやってきた。

    黒く澄んだ大きな瞳、胴回りに比べてあきらかに短い四本の脚、水かきとひげ、首のつけねあたりに申し訳程度に付け足されたような目立たない耳、しっかりと太く胴の一・二倍の長さの尻尾、好奇心旺盛な渇いた小さな鼻先。

    「碑文彫刻師」により、「彼」に与えられた名はサンスクリット語で謎を示す「ブラフマン」だった。

    最後まで「ブラフマン」が一体なんの動物なのか明かされることはなく、ビーバーや貂、ダックスフンド…ウナギイヌまでも想像しながら読み進めた。

    動物ってなんでこんなに可愛いのだろう、でもタイトルからすると…死の予感を漂わせる美しい文章に酔う。

    またブラフマンを優しく諭し、動物の「彼」ときちんと言葉で意思疎通をはかる「僕」であるが、雑貨屋の「娘」への密かな執着は不気味に官能的ですらある。

    「娘」に何も告げられないくせに、「娘」と「男」が古代墓地で何をするか知っていて、それでも「娘」にとり憑かれている「僕」…

    泉鏡花賞受賞と聞けばなるほど、である。「ミーナの行進」が谷崎潤一郎賞なのはいまいち納得がいかないが。もう少し爽やかなイメージじゃない?

  • 静かで温かで切ない、ひと夏のお話。
    創作活動に勤しむ芸術家に仕事場を提供している"創作者の家"。
    そこの管理人である僕の前にブラフマンは現れた。
    傷だらけの彼は謎の小さな生き物だった。
    描写から読み取れる確かなものは何もない。
    登場人物はブラフマン以外、名前もない。
    だけどそれで十分だった。
    曖昧なようで鮮明な景色の中で僕とブラフマンの温かな生活が描かれている。
    外国の田舎の雰囲気で、創作者ではないけれど少しの間そこで過ごしてみたいと思った。

  • 「静謐」って言葉が、色んな人のレビューに書かれてたけど、まさにそんな世界だなぁ。
    起伏は無いけど、心に何か残る感じというか... うーんうまく表現できない。
    個人的に、ブラフマンはイタチ的な生き物かなぁと。

  • 短めで手軽に読めて良い
    小川さんの犬に対する愛情が、細かい描写ににじみ出ているなと思った

    いろんな詳細を省いてシンプルでなんだか新鮮だけど、ラストまであっさりしていて読んだあと少し途方にくれる


    あと、 小川洋子の本で、好きになれない女性が出てきたの、はじめてかもしれない
    それで勝手に少し悲しくなった

  • 絵画的な美しい情景が目に浮かぶ作品でした。
    物語としてはあっさりしているかもしれません。

    ブラフマンはどんな生き物なんでしょう。
    犬のようでいて水かきがあり、前歯があり、しっぽが長い…
    はっ、まさかウナギイヌ?

    …失礼しました。

  • この物語の世界はとても心地いい。
    北には山,南には海,東を川,西を沼地に遮られたちいさな村だ。

    けれど特徴的なのが,主人公「僕」が仕事をしている<創作者の家>と村の南側の海を見渡せる丘の斜面にある古代墓地。

    <創作者の家>には創作活動の為に音楽家から画家,彫刻家などあらゆる芸術家が,やって来ては去っていく。

    古代墓地はその昔,火葬ではなかった時代に,死者を石棺に納めて埋葬していた場所だ。

    閉鎖的だけど,風通しの良さと素朴さが感じられる。


    それで,「ブラフマン」ってなにってことだけれど,此処ではヒンドゥー教の単語ではなくて,主人公が拾ってきた動物につけた名前だ。
    しかも不思議な動物,尻尾が生えててちっちゃくて,手には水掻きがあって泳ぎが得意,etc…サル?イヌ?カッパ?!

    まぁ兎に角,主人公はとても可愛がっているのだけど,この動物を認めてくれるのは<創作者の家>の碑文彫刻家だけで,「僕」が親しく接している雑貨屋の娘やレース編み作家からはものすごく嫌がられる!!

    しかもそれが最後まで気持ちよく解消されないあたりが不快。
    特に雑貨屋の娘は。

    だって,それぐらい「ブラフマン」が可愛く描写されているんだもん。
    つまり,村の風景と謎の小動物の魅力に惹かれました。

  • 美しい風景描写と愛らしいブラフマン。愛しくて哀しい気持ちになりました。

  • なんとも不思議な雰囲気の小説。ネコのようなイタチのような正体不明の動物ブラフマンと主人公の僕との交流を描く。小動物を飼っている人であれば、自分に懐いてくる存在の愛おしさがわかるだろうが、この物語の大半はブラフマンのかわいさ推しである。タイトルから推測される通りブラフマンとの別れが待っているが、意外と悲しさの描写がない。登場人物には名前がなく淡々とした印象。
    主人公僕が娘に抱く叶わぬ恋心があるが、破滅への願望が透けて見える。その結果として最愛のブラフマンとの別れを招いてしまう。淡々とした描き口の中にじんわりとした母性本能と寂寥感を感じられる小説。

  • ブラフマンとは何か?ヒンドゥー教の超越的な宇宙心理を名前に持つ生き物は、結局具体的な生物としては示されない。名前の由来となった「謎」そのものだ。しかしそれは「僕」の生活に変化を与え、なんとなくせわしない毎日にそっと彩りを与えるような「愛すべき」存在だったのだ。

    そのことは、ブラフマンに出会った時から感じていたのだが、改めてはっきり認識したのはその埋葬のときだった。ホルン奏者のホルンの音が遠く響くとき、森の静謐を改めて感じつつ、もうこれ以上心配しなくても「僕」はずっとそばにいると伝えるときだ。

    「僕」が好きな娘からは冷たくされていることにうすうす気づきつつ、それが恋ごころの妨げにはならない、ということとどこまでも心配なブラフマンを守ってあげるという気持ちが崩れるとき、何が変わるのだろうか。小川洋子はそこは示していない。水面に小石が落ちた時の水紋が静かに広がっているように読者にさざ波をおこしたところで物語は終わるのだ。

  • ブラフマンと、僕が過ごした一夏の物語。
    ブラフマンがとてもいとおしくなります。
    どんな動物かは想像するしかありませんが、かわいい。わたしもブラフマンを撫でたい。
    日射しや風景が日本っぽくない、と思っていましたが、解説で、南仏のイメージなのだと知りました。
    タイトルから感じてはいましたが、ラストが寂しいです。

著者プロフィール

小川 洋子(おがわ ようこ)
1962年、岡山県生まれ。高校時代に文芸を志し、早稲田大学第一文学部文芸専修入学。在学中から文芸賞に応募。卒業後一般企業に就職したが、1986年の結婚を機に退職、小説家の道に進む。
1991年『妊娠カレンダー』で芥川賞、2004年『博士の愛した数式』読売文学賞、本屋大賞、2006年『ミーナの行進』谷崎潤一郎賞、2012年『ことり』で芸術選奨文部科学大臣賞、2013年早稲田大学坪内逍遙大賞をそれぞれ受賞。芥川賞、太宰治賞、読売文学賞、河合隼雄物語賞などの選考委員を務める。
『博士の愛した数式』は映画化され、大ヒットとなった。受賞作以外の代表作として、『薬指の標本』『人質の朗読会』『猫を抱いて象と泳ぐ』。

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