- Amazon.co.jp ・本 (544ページ)
- / ISBN・EAN: 9784062757584
感想・レビュー・書評
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浪華は面白い
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国民的作家司馬遼太郎は大阪の出身。本書の主役明石家万吉には筆者の祖父の生涯が反映されているという。町人の街大阪から見た明治維新。
「手掘り日本史」に紹介されていたのを機に本書を手に取る。江戸とは異なり大阪は一部の町奉行のほかはほとんどの町人の街。司馬遼太郎が大阪の出身ということもあり、心地よい関西弁のリズムが楽しめる。大上段に構えた代表的作品に比べれば、どこか肩の力を抜いて筆者自身が楽しんで書いたように思われる。それだけテンポが良い。
”どつかれ屋”として名を上げた極道屋の明石家万吉の生涯。上下巻の上巻は西大阪の港一帯の警備を請け負った万吉が長州藩士たちの上京に出くわし維新の動乱に巻き込まれるところまで。
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久しぶりの司馬遼太郎さん。
動機は単純で、折角だから大阪に住んでいる間に再読しようかな、と。
地名に馴染みがあって雰囲気がわかるだけでも、結構違うものです。
司馬遼太郎さんの長編は中学生くらいまでに、もうホントにほぼ全部読んでいて、これもそうです。
ただ、改めて読み直すと、「いやあ、この面白さは絶対子供の頃にはわかってなかったなあ」ということがあるので。
江戸末期から大正時代まで生きた、実在の大阪の侠客、「明石屋万吉」という人のお話。
司馬遼太郎さんにしては、人物が小さい(笑)。坂本龍馬とか豊臣秀吉とかに比べれば、ですが。
なんだけど、再読すると矢張り司馬さんらしい。基本、「この男子の生き様、カッコイイ!」という情熱があります。
でも描写は天の目線から。司馬史観。
そのギャップが良いんですね。
無茶苦茶な人の話です。
最貧の町人の生まれで、丁稚奉公中に父親が失踪。
母と妹を飢えから救うために、アウトローの生き方をすることを決意。わずか9歳。
なんだけど、母と妹はほぼ出てきません(笑)。そのへんが、司馬遼太郎、すごい。
見せたいのは万吉の無茶苦茶な痛快さだけなんですよね。で、ウェットなコト、司馬さん嫌いなんで(笑)。人情物にはしないんですね。
このあたりが、いいか悪いか別として、山本周五郎でも藤沢周平でもない。正直、稀有ですね。驚嘆です。
で、明石屋万吉とは何か、という、この小説なりの本質を、剥き身にブレなく貫きます。
それは、「命とか安定とかを捨ててかかる。肉体の痛みを捨ててかかる」という信念。ココに司馬さんは、万吉の魅力を定めて、一切ブレません。
言ってみれば、馬鹿なんですよね。その馬鹿さ加減、馬鹿を貫く痛快さ。
で、実際の万吉さんがドウだったかは知りませんが、司馬さんが好意的に描くからには、司馬万吉は、根っこはやっぱり大阪町人らしいあっけらかんとした合理主義がある。
なんだけど、「阿呆に死ぬのが自分の商売」と割り切る。
決して、大義名分や思想のためじゃないんですね。「たまたま」「ご縁」「頼まれたから」「かわいそうだから」という理由なら、死ぬ。なぜならそれが商売だから。
それが商売、というところが大阪らしい町人らしい合理主義。ただ、基本が大アホな、我が身を投げ打ってるので、何かがねじ曲がって来る。それが痛快。
見方によっては、後年は民権運動潰しをしたり、要は要人に良いように利用される右翼ヤクザみたいなもの、という一面もあると思いますが。
子供の頃の万吉の面倒を見る色っぽい江戸芸者のお姐さんが出てきて。あー、司馬小説的には後半出てこないんだろうなあ、と思ってたらやっぱり出てこない(笑)。
一応備忘録で以下ネタバレ。粗筋。
9歳で、捨て身の賭場荒しから始まって、10代で頼まれて米相場を喧嘩で崩壊させる。
これは幕府の相場操作から大阪商人を守った行為。拷問に耐えて何も言わずに放免。一躍、街のヒーロー、親分に。
なんと小藩に頼まれて、武士になってしまい、「大阪の新選組的な警護組織」の親玉に。
その間、何度も無茶苦茶な死線を渡っては、生き延びる。
といったあたりが上巻ですね。 -
勉強になるかならないかは別として面白い。あっという間に上巻を読み終え下巻にすすむ。
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読んでる時は気が付かなかったけどこれ司馬さんの小説なのね。
幕末に生きた任侠物のすかっとしたお話です。
こんなキモの座った人間がいたんだな〜。 -
任侠モノ。面白い!
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男のプライドって気恥かしいけどかっこいい。
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どうも良いですね。やはり司馬さんは性に合いますね。
しかも司馬さんの作品の中でも、私の好みからすれば1、2を争う作品です。
最近の作家さんの作品を読むと、ショーウインドに飾ってる服を眺めて「良いな〜」って感じ。ところが司馬さんの作品だと、それを着て肌にしっくりなじんだ感じがします。
司馬さんといえば、どうしても歴史上の武将を初めとした偉人伝のイメージ(忍者ものも有りますけど)です。でもこの作品は、実在の人物とはいえ一介の侠客を描いたもの。そのせいもあるのでしょうか、肩から力が抜けたような、自由で奔放な感じが良く出ていて、堅苦しさが無い。その分、物語としての面白さに充溢した、隠れた名作では無いかと思います。
久しぶりの再読。後半、ややダレた感じもするのですが、十分に楽しませて貰いました。