キルプの軍団 (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (416ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062758086

作品紹介・あらすじ

高校生の僕は、ディケンズの『骨董屋』を読み、作中のキルプにひかれる。そして、刑事の忠叔父さんと一緒に原文で読み進めるうちに、事件に巻き込まれてしまう。「罪のゆるし」「苦しい患いからの恢復」「癒し」を、書くことと読むことが結び合う新たな語り口で示した大江文学の結晶。若い読者に向けて、今復刊。

感想・レビュー・書評

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  • ニュージーランドと日本を往復する旅路の中で一息に読んだ思い出がまずある。そんな個人的な体験はいいとして。。。

    罪やゆるしについてが根底のテーマに、やや変わった語り口(高校生という主人公設定だからよりそのように感じるのかもしれない)で、大江氏らしい展開で書かれた本。
    この年代の大江作品らしく、さまざまな自身の過去作品をモチーフとして含んだ反復的別作品といった調子を楽しむならば、いろいろ他を読んだ後のほうにとっておくのがおすすめです。
    もちろん、これだけでも充分成立しますが、やや難解かもしれません。

  • 高校生である主人公が家族や叔父、元極左活動家で映画を作る大人たち、ディケンズの小説、そして終盤のある事件などに関わって考えたり悩んだりって内容。文庫版あとがきで作者が同時代を生きている若い人へのメッセージを、これだけ直接的に書き込むということは、他の作品では決してなかったこと、と語る通りメッセージ性は高いように思いますが、決して押し付けがましくはなく主人公に父親が「きみはこのところずっと苦しんで、論理的に考えつめてきたわけだから、これまで通りの仕方で、おれが正しくないといっても、きみは受けいれぬだろうがな? そこでおれとしては、困ったなあ、というほかにないんだね」と語るシーンが象徴的で、過激な場面もあるけれど全体的には若者(というか自身の子供)に寄り添った印象の温かみを感じる作品でした。

  • あまり言及されることがないがとてもおもしろい。特に文学から文学をつくるという大江的手法が明示的に採られている。

  • 初めて大江氏の本を手に取りました。 題材が社会思想等、重くなりがちなモノをあたりの柔らかい言葉で書かれていて、意識してゆっくり読みたくなりました。(*^^*)

  • 久しぶりに大江さんの文体を読んで、懐かしい気分。

    ディケンズは読んだことがないから、読んでみたいと思った。
    一度読んだだけでは読みこなすことのできない、難しいけど、心地いい感じを久々に味わった。

    悪意に取り囲まれた時、あるいは自分が悪意の側に立った時、その窮境から抜け出すには、、、
    思いつめればきりがないし、神からの声もかからない、かといって死という選択もできない、
    自分にはそのとき支えになるものがあるのだろうか

  • 高橋源一郎氏の文学がこんなにわかっていいかしら (福武文庫)に出てきて、とっても気になっていた本です。

    何がいいって、書き出しのサービス精神です。
    上述の書籍で、高橋氏が引用しているのですが、書き出しはこんな感じです。

    「まずキルプという名前が、気にいったのでした。Quilpとアルファベットで印刷した様子は、ネズミに似ていると思います。これが自分の名前だったらことだぜ、そう考えたと、最初の個人授業の後で忠叔父さんにいいました。―そうかい?ディケンズは、悪役には悪役らしい名前をつけるものやから、という返事だったのですが、現役の暴力犯係長の叔父さんが妙に寂しそうだったので、僕は説明しました。」

    惚れ惚れするという高橋氏の意見に全く同感で、私もこの部分だけは何度読み返したかわかりません。
    こんな風に書きたいと思って真似もしてみました。うまくいったためしはないですけれども。

    つかみでこの情報量。無駄のない文章。期待を高める効果に満ちています。
    かっこいいなあ。(*゚ー゚*)

    また、ディケンズは、原文はもちろん、邦訳でさえ読んだことはなかったので、ところどころ原文が引用されているのをみて初めこそたいそう驚きましたが、そこはお話の推進力たる装置であるだけに、作中人物の邦訳という形で必ず訳がついていたので、問題なく読み進められました。

    主人公は高校生の男の子なんですが、とてもそうは思えません。
    知的レベルが相当高いです。
    自分を振り返ると話になりませんが、どんな優秀な設定だとしても、高校生でそこまで考え付くか?と思う場面が多々あります。

    でも、だからこそお話が進んでいくんですけれどもね。

    そして、お兄さん役で光さんも、名前もそのまま特別出演しています。
    著者の光さんへの愛情を強く感じました。

    学生運動とか、一輪車とか、徒手体操とか、なんとなく耳慣れないざらりとした手触りの言葉も出てきますが、全体を通すと難解さは皆無です。

    とても楽しめました。

    混沌として先の見えないなんとも不安な今の時代だからこそ、魂の浄化、癒しをテーマとされたこの作品を読んで、あなたもなんとなく心を軽くしてみませんか。
    たとえほんのひとときの夢にすぎないとしても。

  • 主人公の少年は骨が曲がっていて、叔父さんの憧れている女性は元サーカス団員の少女の様な一輪車乗り。

    沢山のキルプがいて、もう誰がキルプか分からない。
    ネルの結末を早く知りたくて、ただじっと読み進めてしまった。

  • 次男が主人公。

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著者プロフィール

大江健三郎(おおえけんざぶろう)
1935年1月、愛媛県喜多郡内子町(旧大瀬村)に生まれる。東京大学フランス文学科在学中の1957年に「奇妙な仕事」で東大五月祭賞を受賞する。さらに在学中の58年、当時最年少の23歳で「飼育」にて芥川賞、64年『個人的な体験』で新潮文学賞、67年『万延元年のフットボール』で谷崎賞、73年『洪水はわが魂におよび』で野間文芸賞、83年『「雨の木」(レイン・ツリー)を聴く女たち』で読売文学賞、『新しい人よ眼ざめよ』で大佛賞、84年「河馬に噛まれる」で川端賞、90年『人生の親戚』で伊藤整文学賞をそれぞれ受賞。94年には、「詩的な力によって想像的な世界を創りだした。そこでは人生と神話が渾然一体となり、現代の人間の窮状を描いて読者の心をかき乱すような情景が形作られている」という理由でノーベル文学賞を受賞した。

「2019年 『大江健三郎全小説 第13巻』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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