私はなぜ逮捕され、そこで何を見たか。 (講談社文庫)

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  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062758673

感想・レビュー・書評

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  • 著者は1941年生まれの地震学者。
    2006年2月1日に詐欺の疑いで逮捕され、札幌拘置所に拘留されます。
    7月21日に保釈が認められるまで171日間の拘置所での生活を詳細に記録した本です。
    島村氏の罪状は、北大在職中に、ノルウェーのベルゲン大学に海底地震計をあたかも個人の所有であるかのように騙って、代金約2000万円をだまし取った、というものです。
    この本においては事件の内容はあまり詳しく触れられていませんが、氏のホームページに「裁判通信」という形でレポートされています。

    拘置所での自身の生活を描いたものとしては佐藤優氏の「国家の罠」があります(この本の中でも一か所引用があります)が、この本に書かれている内容は「国家の罠」の内容と重なる部分も多く、「国家の罠」をすでに読んでいる人にはそれほど新たな知見が得られるというわけではないように思います。
    ただ、こちらの島村氏の本の方は非常に克明です。
    このあたりはやはり学者らしさが出ているのでしょうか。
    特に、入所以来の食事メニューを20ページ近くにわたって書き連ねた部分はある意味壮観です。

    結局島村氏は札幌地裁で執行猶予つきの有罪判決を受け、迷った末に控訴を断念、判決が確定します。
    ただしそれは罪を認めたということを意味するのではなく、控訴して上級審へ進んでも無罪にはさせないだろうという検察と裁判所に対する深い不信から下した決断なのです。
    佐藤氏にしても、島村氏にしても、国家の意思によって罪を着せられたと認識している(島村氏の場合は地震予知という「国策」に対して批判的な立場をとってきたことが原因ではないかと自身で分析しています)点が共通しています。
    そして、不自由で窮屈な拘置所生活を強いられながらも、自分と周囲を客観的に見つめる知性と強い精神力を持っているところも。

    本件が本当に「国策」的に作り上げられた事件だったのか判断することはできませんが、国家が国民個人の自由を奪い拘禁することの危うさを知るという点において、この種の本は読んでおくべきと思います。

  • 本筋とは違うが、渡辺淳一について「初期の才能がどんなにすり減って変容するか」(p.160)に、妙に納得。

  • 自分語りにならず、事実を淡々と記しておられる点がいかにも学者で好感が持てる。

    最後の筆者が推察する起訴された理由が恐ろしい。

  • 事件の内容 は軽く流し、留置場内の生活が中心。興味深い内容であった。

  • 結局、検察がどんな主張をしているのか、著者の視点でしか書かれていない。もう少し客観的に書いてくれないと、どんな事件だったか何も知らない人間には、何が正しいのかわからないと感じた。まあここに書かれているようなことは十分ありうるとは思うけれど。

  • 考え抜かれたルールには魅力を感じる

  • 一人の人間が書く本なので当然ある限界とは思うけど、どうしても一面的な印象を免れなかった。他の拘置所の人間と関わる事がなかったせいか、自分は無罪だが他は、という思いがあったのか、止むを得ないか。
    保釈の場面や、公判へ行くまで等は参考になった。
    「バスに乗るのに80円かかった。」というような備忘録的部分多し。

  • 島村英紀氏は、有名な地震学者。と言ひつつ、不勉強な私は知りませんでした。
    この島村氏が、2006年2月1日、突然の家宅捜索を受け、そのまま逮捕され拘置所で171日も過ごしたといふ、およそ日常とはかけ離れた経験を綴つた手記であります。
    容疑は詐欺罪。島村氏が勤務する北海道大学の訴へであります。そもそも島村氏が開発した海底地震計なるものを、ノルウェーの大学に売つて研究費を得たのは、業務上横領である、といふのが北大の主張でした。しかし業務上横領では立件が無理なので、ノルウェー・ベルゲン大学を被害者とする詐欺罪で刑事告訴されたのでした。
    ところがベルゲン大学側は、被害に遭つた覚えはないと証言します。「被害者がゐない詐欺事件」といはれる所以であります。

    それでも島村氏は逮捕され、拘留されてしまひます。しかし本書の内容は、検察批判とかではなく、人が逮捕され拘留生活を送るとはどういふことか、その一点であります。しかも怒りや悔しさを抑へ、淡々と綴つてゐるのです。
    実に冷静で、客観的な視点であります。突然の逮捕劇にも、「なるほど、逮捕とはこんなものか、と他人事のように思っていた。」
    札幌まで同行せよ、との告知にも「なるほど、護送なのだな、と分かる。」
    手錠部分に掛けるカバーの名称を尋ねたり(名前はない、との返答だが)して余裕綽綽であります。
    空腹を覚えたら遠慮なく食事を要求するなど、堂堂としてゐるのでした。
    しかも各所にユーモアさへ湛へ、笑ひを誘ひます。独房へ入れられる前に検尿用の紙コップを渡されるのですが、「覚醒剤の検査であろう。まさか、親切にも、糖尿病の検査をしてくれるわけではあるまい。」
    並みの神経ならまいつてしまふところです。狭い独房も「船のキャビンよりましだ」とポジティブであります。全てにおいて前向きな考へ方なので、読んでゐて痛快にすらなつてくる。
    取調べに対しても、検事に対して同情的な記述さへあります。激しい自白強要もあつたやうですが、拷問はされてゐない模様であります。島村氏の社会的地位を考慮したのか。

    圧巻は、毎日三度三度の食事の内容を克明に記録してゐることです。
    著者本人も、自分は食べ物に興味がある方だと述べてゐますが、さすがに全食事のメニューを記録するとは、並ではありません。どうやら結構豪華なメニューです。デザートも毎回付いてゐて、札幌拘置所は特に食事が良いのだとか。逆に最悪なのが東京ださうです。毎回麦飯が付いてきて、美味いが量が多すぎる、献立が麺類の時も麦飯が付くので、量が多いだけでなく炭水化物の取りすぎである、などと論評してゐます。
    自分でも少々こりすぎと思つたか、「食べものに興味がない読者は、この節は読み飛ばしていただいて結構である。」

    結果的に島村氏は171日の拘留後に保釈され(保釈を告げられたのが夜だつたので、布団をもう敷いたから明日にしてほしいなどと言ふのがまた笑へる)、懲役3年・執行猶予4年の判決が下されます。結局検察の面子の犠牲になつたとの見方が今となつては強まつてゐます。一度起訴されたら、例へ事実がどうあれ、それを覆すのはまことに困難であることが改めて分かります。極端に言へば、君も僕も、いつかうなるか分からないのだぜ、といふ感じです。恐ろしい。
    なほ、裁判そのものに対する島村氏の意見や主張は、自身のホームページで展開されてゐるといふことです。

    では、おやすみなさい。

    http://genjigawakusin.blog10.fc2.com/blog-entry-126.html

  • 北大を舞台にしたこの事件そのものは、大学に関係した仕事をしている僕らには、当事大ニュースであった。著者=被告はなにしろ、国立極地研究所長を務め、岩波書店からも著書を出している地震と極地研究の第一人者なのである。そんな彼の留置所レポートなのである。この事件が、冤罪かどうかはともかく、塀の中の生活にはやっぱり興味津々なのであった。

  • 島村教授のポジティブさに助けられて、イメージとしては暗くなるだろう話なのに読みやすい。
    教授だけあって、知識人であることを感じられる文章。


    日本の司法現場は、恐ろしい。原則は推定無罪じゃなくて推定有罪だ。

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著者プロフィール

1941年東京生まれ。東京大学理学部卒。同大学院修了。
理学博士。東大助手、北海道大学助教授、北大教授、CCSS(人工地震の国際学会)会長、北大海底地震観測施設長、北大浦河地震観測所長、北大えりも地殻変動観測所長、北大地震火山研究観測センター長、国立極地研究所長を経て、武蔵野学院大学特任教授。ポーランド科学アカデミー外国人会員(終身)。
自ら開発した海底地震計の観測での航海は、地球ほぼ12周分になる。趣味は1930-1950年代のカメラ、アフリカの民族仮面の収集、中古車の修理、テニスなど。

「2016年 『富士山大爆発のすべて』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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