源氏物語 巻十 (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社
3.98
  • (23)
  • (12)
  • (24)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 249
感想 : 23
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (416ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062758697

作品紹介・あらすじ

宇治の山荘を訪れた匂宮は、薫の君を装い浮舟と契ってしまう。当代一を競う二人の間で身も心も揺れ動く浮舟は、苦悩の果てに死を決意。入水するが助けられ、受戒、出家してしまう。消息を知った薫にも、決して会おうとはせず…。愛の大長編小説「源氏物語」、圧巻の完結篇。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 橘の小島の色のかはらじを
      この浮舟ぞゆくへ知られぬ

     薫が宇治に隠しておいた浮舟(八の宮の三女。大君、中の君の異母妹。)を匂宮が探し出し、拉致し、宇治川の向こう岸の小屋まで連れていった。その時、匂宮は浮舟を抱きかかえ、小舟に乗せた。小舟の中で浮舟は匂宮にひしとすがり、澄みきった有明の月が空に上り、川水の面をきらきらと照らしていた。その中で、匂宮が詠んだ歌への浮舟の返歌が上の歌である。
    宇治十帖の中で圧巻のこの「浮舟」の表題の謂れであり、ここでの主人公女君の“浮舟”というあだ名の謂れだ。
    薫と匂宮の間で浮舟のように漂い、何処へ行くとも分からない浮舟の心。とても美しいのに、継父常陸の守の元で肩身狭く生きてきた浮舟。思いがけず出会った異母姉“中の君”を通じて、薫に目をかけられ、いずれ京へ呼び寄せるという予定で大事に大事に匿って来られた。薫の愛は勿体ないほどで、母も喜んでくれ、恩ははかりしれなかった。ところが、そんな美しい姫なら自分のものにしなくては気がすまない匂宮は、こっそり宇治の隠れ家を調べて薫のふりをして、浮舟を横取りしてしまった。
    匂宮は許せない。だけど、そんなとんでもない真似をしても、美しさと品の良さと情熱で許されてしまうのが匂宮なのだ。
    薫にはかりしれない恩を感じでいるのに、匂宮の愛に溺れそうになる自分を浮舟は恥ずかしいと思う。そして、二条の院で匂宮の妻となっている姉の中の君にも顔向け出来ないと思う。
    薫、匂宮それぞれが京へ浮舟を迎える準備を進めていた。特に、匂宮の件を知らない薫は気の毒だ。
     悩み苦しんだ浮舟は宇治川に身を投げてしまった。浮舟が急に居なくなった宇治の家では嘆き悲しみ、その日のうちに遺体も無しで葬式をしてしまう(ここが分からない。どうしてもっととことん遺体を探さなかったのか)。このことを知った薫も匂宮も悲嘆にくれた。
     しかし、浮舟は生きていた。死にきれずに倒れていたところ、横川の僧都に助けられ、その妹尼君に大切に世話されたのだ。その庵にはその尼君の亡くなった娘の夫だった人が度々訪れ、そこで浮舟を見初めて自分のものにしたいと思うのだが、浮舟は頑として会わないばかりか、そんなことが煩わしくてさっさと出家してしまう。そして、人づてに薫にも浮舟が生きていることがばれ、会いに来るのだが、浮舟は尼となった自分の姿を今さら絶対に薫に見られたくなくて、手紙も「人違いでしょう」と返す。
    浮舟の清々しい生き方。川に身投げしたところで、現世の自分の人生は終わったとして、誰になんと言われようと男のほうへ靡かない。そんな浮舟の気持ちを皆が邪魔する。浮舟の保護者となった尼君でさえ、尼なのに自分のほうが色めきたち、中将や薫からの手紙に返事すら書かない浮舟に「勿体ないこと」と叱る。
    この巻の初めの「浮舟」では、薫の愛と匂宮の愛にはさまれている浮舟のことが羨ましかった。浮気っぽいと言われるが、それだけ情熱的なところが魅力の匂宮。恋愛上手ではないが、内に秘めた愛を貫き通す薫。
    「私は薫派やわ〜」と思っていたが、浮舟が亡くなったあとの変化にはがっかりした。四十九日すぎると女一の宮の女房小宰相になぐさめられたり、女一の宮の姿を垣間見て、自分は女二の宮ではなくあの美しい女一の宮と結婚したかったと思ったり、さらには妻の女二の宮に女一の宮と同じ格好をさせて密かに愉しんだり…引いてしまった。結局、薫は中の君に対しても浮舟の対しても亡くなった大君の身代わりとして思いを寄せていただけだったのだろう。大君に対しても数奇な運命とか出家への思いとか自分と似ているところがあると思って引き寄せられたのかもしれないが、この三姉妹は尊い身分にありながら出家願望を気取っていた薫に「出家はそんな甘いものではない」ということを見せつけた。
     宇治十帖は紫式部以外の人によって書かれた説もあるらしいが、私は解説で訳者の瀬戸内寂聴氏が言っているように、「道長の注文で源氏が亡くなったところまで書き上げて一旦終わらせ、何年か後にその後をゆっくり書いたのではないだろうか。そしてその時には紫式部は出家し、宇治に庵を構えていたのではないだろうか。」という説に賛成である。(原文を読んでないが)
     源氏が亡くなるまでの“本編”にも沢山の女性が登場し、源氏の愛に翻弄され、運命が好転したり、出家したり、物の怪になったりと女としての大変な姿も描かれているのだが、そんな女たちの涙もかき消してしまうくらいの源氏の神々しい光が“本編”を覆い、男女ともに幾人もの人を踏台にして一族の栄華を極め続けた“一代男”源氏の人生を“善”とする“男目線”の小説である。それに対して“スピンオフ”である“宇治十帖”は源氏そっくりの行いをしている孫の匂宮、女性に対する愛の表現は匂宮とは異なる源氏の息子(表向き)薫と浮舟の三角関係に焦点を当て、女性としての愛の喜びを本編より赤裸々に描くと同時に、「愛」と言いながら、究極的には「我が物にしたい」という欲だけの男の振る舞いを冷やかに見る“女目線”の小説である。
    紫式部は“本編”では道長を喜ばせる男目線の大作を書きながら、女目線でも書き分けられる、大物小説家だったと思う。
    源氏物語 全10巻読了。

  • 「浮舟(うきふね)」
     巻九の最後の「薫」の行動に驚かされて、ちょっと興奮した私が恥ずかしくなるくらい、当の本人は落ち着き払っていて、ここに来てようやく余裕が出て来たのかと思いきや、ここから更に衝撃的な展開へと次第に向かっていく、大変密度の濃い帖となっており、ここでの薫と「匂宮」のお互いに何かと張り合おうとする様に、現代的恋愛ドラマが帰ってきたような気配を見せておいて、実は・・・といった、その計算された巧妙な展開に、ページを繰る手が止まらず夢中で読み耽ったが、ただただ驚くばかりで、誰もが、その本音と建て前を使い分ける見苦しさの中、それに耐えられない者もいて、ここでのタイトルにも表れているように、

    『橘の小島の色はかはらじを
         この浮舟ぞゆくへ知られぬ』

    といった、とてもドラマティックな場面にも関わらず、このような不安を抱いていた彼女の精神状態は、次第に、ある方向へと傾いていく中で、右近と侍従の話にも出てくる、『色恋の方面のことで、思い悩まれるのは、決してよくない。人それぞれの御身分に応じて、何か困ったことが起こる』も、それを匂わすようでありながら、それは時に、死ぬよりも恥ずかしいこともあるのだという。

     最初は、そんな事ってあるのだろうかと思ったが、それは、後の彼女の葛藤に於ける世間知らずさも災いしたことにより、彼女の中では、『死ぬことよりも、人の笑いものになって落ちぶれ流離う』ことの方が、辛いのだと痛感しており、当時の自殺の概念は、親を残して先立つ者として、とても罪深いものとされていたにも関わらず、そう考えてしまったのは、今の時代に生きる私には、理解に苦しむ部分も確かにあったのだと思う。

     しかしである。だからといって、その事態の全てに、非があったのが彼女だけとはどうしても思えず、そこには、おそらく浮気の是非や、道徳的観念といった議論もあるのかもしれないが、それでも完璧な存在ではない人間同士が築き上げた、その過程と結果、そして未来への思いに対する直向きさが、仮に、そうした考えに辿り着いたとしても、それだって、おそらく適当に考えていた訳ではなく、限りなく真剣に何度も何度もじれったくなるくらい、繰り返し思い悩んでいた結果であるのならば、何故、罪深いとか情けないとか言う前に、もっと、その人自身の立場に立って、思ってあげられる人がいなかったのか。皆、他人の事、気遣っているようでいて、本音は自分が大事な人ばかりなのに、『この世は全て虚しいと悟る』ことだなんて、笑わせんじゃないよ。結局、全部彼女に、自分の都合の良い未来を押し付けてるだけではないか、と私は思い、その終盤の彼女の歌には、思わず目頭が熱くなってしまい・・・こんなのって無いよ。

    『のちにまたあひ見むことを思はなむ
           この世の夢に心まどはで』

    『鐘の音の絶ゆる響きに音をそへて
           わが世つきぬと君に伝へよ』

    「蜻蛉(かげろう)」
     ここでの男二人の前半と後半の矛盾した行動の様は、人間らしいといえばそうなのかもしれないが、それでも、矛盾さの質が違うというか・・・自分は他の男とはまた違うものを持ち続けるんだとか、そうしたポリシーや個性すら全く感じられない、この真っ黒な精神世界が当たり前にそこにある事の恐怖たるや、生々し過ぎて凄いよね。タイトルは、それに反発したかった紫式部の皮肉なのか? 少なくとも、彼はそんな世界に於いて異質な存在だと思っていたけど。

    「手習(てならい)」
     この帖が、また驚きの展開で、最初あの場面を読んだとき、思わず声が出そうになってしまい、よくこんな展開を考え付くなと、紫式部のその物語の構成の素晴らしさに感心しきりなのだが、また色々と悩みの種を増やそうとする状況で、「果たしてどう向き合うのか?」がテーマなのかなと感じられたことと、どんな時代に於いても、やはりいろんな人がいていいんだよということを、改めて教えてくれた、それがいちばん私は嬉しかったかな。辛さや切なさもあるけれど、とても好きな帖。

    終日吹いている風の音に
    『道理で涙もとまらない』わけだ。

    「夢浮橋(ゆめのうきはし)」
     最終帖。正直、私にとって結末は、とても意外であった。が、それはあくまで彼に対して、ひとつ思うところがあったからであり、それが違った事に気付いた時点で、これで良かったのだと、しみじみと感慨に浸ることが出来たような気がした。

     また、タイトルには、ある意味、色々な皮肉が込められているようにも思われ、特に彼にとっては、『浮(浮舟)』も『橋(橋姫=大君)』も・・・といった印象だろうし、それとは対照的に、○○にとっては、あの酷く辛かった現実は・・・といった印象に様変わりしたようにも思われて、その未来を想像してみると、ようやくここに来て、初めて清々しい風が通り抜けてゆく快晴の空といった(ちょっとの雲は残っている気もするが、それでも…ね)、後味の良さを実感させられたのであった。


     以上で、源氏物語は完結しましたが、「源氏のしおり」で瀬戸内寂聴さんが書かれていた、『紫式部は源氏の○までを道長の注文によって書かされ、それ以後は、自分の為に書いた』に同感の思いがし、それは、私が読み始めた当初、光源氏の、その常人離れした好色ぶりだけが物語の主旨であるかのように着目していたのが、実は違っていたことを、この巻でようやく実感したように(そこには、シニカルな笑い以上に、とてもシリアスな彼女自身の思いが宿っていたのではないか)、真の主役は源氏では無かったんだということを悟り、それは、千年以上も前の当時から紫式部が提唱していた、世の中は決して男性優位では無く、女性には女性それぞれの生き方が必ずあるはずだという、そうしたテーマを秘かに模索していたのではないかと、この巻を読み終えた時には確信し、そこには、とても堂々としながらも、軽やかに皮肉も交えながら、やはりほくそ笑んでいる紫式部の姿を(それとも、あっかんべーだろうか)私は抱き、世間では彼女の印象を面白可笑しく綴った文献もあるようですが、そこについては、とても真摯でチャーミングな方だなと感じました。

     それにしても、さすがに全十巻は長かったなー。所謂、日本の古典と呼ばれるものを読んだのも初めてでしたし、途中の冗長さに挫けそうになった時もありましたが、そこからまた、紫式部の素晴らしき人間臭さを醸し出した物語の面白さに、完読することが出来て、今はとても達成感と満足感でいっぱいです。


     そして、本書の面白さ、素晴らしさを教えてくれたMacomi55さん、ありがとうございます。

     「もちろん最後まで読まなくちゃ!」に、励まされて、ここまで来ることが出来ました。しかも、私の想像していた以上に、その物語に垣間見えた人間の奥深さといったら。小説家というのは、人を客観的に見ながら、自分の未来を重ね合わせることも出来るのだなと、感動いたしました。

    • たださん
      ありがとうございます。
      ありがとうございます。
      2023/11/19
    • Macomi55さん
      たださん
      お疲れ様でした!
      自分のことのように感無量です!
      鮮やかな平安絵巻の中に読者を巻き込み、最後には「男なんてあっかんべ~」と笑ってい...
      たださん
      お疲れ様でした!
      自分のことのように感無量です!
      鮮やかな平安絵巻の中に読者を巻き込み、最後には「男なんてあっかんべ~」と笑っている紫式部と瀬戸内寂聴さんの顔がたださんのレビューを読んで浮かびました(*^^*)
      2023/11/19
    • たださん
      まこみさん
      労いのお言葉、とても嬉しいです。ありがとうございます!!
      そう思って下さり、私の方こそ感無量です。

      巻八以降は、いったいどうな...
      まこみさん
      労いのお言葉、とても嬉しいです。ありがとうございます!!
      そう思って下さり、私の方こそ感無量です。

      巻八以降は、いったいどうなるのかと不安もありましたが、そんなモヤモヤを軽く吹き飛ばしてくれた、紫式部と寂聴さんの物語には、今も昔も変わらない点があったことに、人間への愛おしさを、より実感させていただきました。

      はい。私の完読後の紫式部のイメージは、そんな感じでして、最初は割と冷めたような印象が強かったのですが、次第に、シリアスな部分もコミカルな部分も垣間見えてきて、それらを自分事として伝えようとする中にも客観性があるといいますか、小説家として割り切っていながらも、実は、してやったり感を抱いていたのではないかという印象で、私にとっては間違いなく、「夢浮橋」を完成させた時点で、あっかんべ~する彼女が、浮かび上がってきましたよ(^^)v

      改めまして、素晴らしい作品を教えて下さり、ありがとうございます(*'▽'*)
      これは世界に誇れる古典というのも、分かるような気がいたしました。
      2023/11/19
  • 全巻4ヶ月かかりましたが読了です。
    最終巻という趣は無かったですね。紫式部様もいろいろご多忙だったのでしょう。
    宇治十帖が人気が高いとの事ですが、私的にはやはり光源氏と女性達のお話の方が好みでした。

    あまりに有名な源氏物語の探究は研究者にお任せして。
    この時代に、こんな長編を筆と和紙で描き続けた紫式部、手書きコピーしてくれただろう女官達。同世代のライバル清少納言、援助を惜しまなかった菅原道真。
    もう少し他の訳者の作品も楽しもうと思う。

  • 「浮船」「蜻蛉」「手習」「夢浮橋」の4帖を収録した最終巻。

    心が震えるほどに感動した。
    四季折々の日本の風景、人情の機微、人を愛すること、そして命のはかなさなど、人が生きるということに関するおよそあらゆるエッセンスを紫式部は描いている。
    それらが美しい言葉と和歌、音楽に乗せてつづられているところが本当にすばらしいと思う。

    −−−−−
    匂宮は、一目で心を奪われた女(浮船の君)のことが忘れられず宇治へ赴き、薫の君になりすまして浮船の部屋に忍び込むと、彼女を手に入れてしまう。
    薫に申しわけないと思いながらも、情熱的な匂宮のとりこになっていく浮船は、追いつめられた末に宇治川に身投げをしてしまった。
    『源氏物語』全体の中でもっともスリリングで面白いのは「若菜 下」であると思うが、「浮船」も同じくらいすばらしく、第2部である「宇治十帖」が本編に劣らず面白いと言われる理由はこの帖にあるのではないかと感じた。

    浮船が死んだと聞き、悲嘆にくれる薫と匂宮。
    ところが、49日を過ぎると2人とも浮船のことなどすっかり忘れたようにほかの女に心を移しはじめる。
    寂聴さんによれば、作者はこの2人の様子に「男の愛などせいぜいこの程度」という皮肉を込めたようであるという。
    だれからも見下げられた存在でしかなかった浮船は、紫の上よりも悲しい女性であるように僕には思えた。

    「手習」では、行方不明になった浮船が実は生きていて、横川の僧都に助けられ、出家する話が書かれている。
    そして、最終の「夢浮橋」で、薫は浮船の弟である小君に手紙を持たせて彼女のところへ行かせるが、浮船はつれなくするばかりで小君に会おうともしなかった。
    それを聞き、おもしろくない気持ちになった薫が「誰か男が囲っているのだろうか」と想像する場面を最後に、この大長編は幕を閉じた。
    意外にも唐突な、あっさりした最後に、かえって紫式部の手腕を感じずにはいられなかった。
    人の一生って、本当に夢のようにはかないものなのかもしれないな。
    −−−−−

    2年以上かかって、ようやく54帖すべてを読み終えることができた。
    僕はそんなにたくさんの本を読んでいるわけではないけれど、日本の歴史上、この『源氏物語』を超える小説はまだないんじゃないかなあと思う。

  • いよいよ最終巻。およそ3ヶ月かけて読んできた。薫と匂宮の双方への思いをどうしていいかわからず入水する浮舟。きっとどこかで生きているのだろうと思った。だれかの策略かとも思ったが、どうやらそうでもなさそうだ。どういうわけでか、いのちは助かり、記憶を失ったまましばらく生き続けていた。その後の出家。そして、薫にも知られることになり、さあ、これから話はどう展開するのかというところで、あっけない幕切れ。これだけ読んできてこのまま終わるとは。「明暗」のような未完というわけではないのだろう。「豊饒の海」最終巻「天人五衰」でも出家した女性と結局会えないまま終わるという、何ともすっきりしない思いをした覚えがある。さて、薫と匂宮。薫は光源氏の息子ではあるが、遺伝子的なつながりはない。匂宮は孫にあたるのか。ここはきちんとつながっている。女性への相手の仕方は匂宮が一枚上手と言ったところか。私は馬鹿正直な薫の方に共感が持てるかなあ。さあ、この長編恋愛小説を読み切れるのだろうかと思いながら読み始めたけれど、日々続きはどうなるのかと気になりながら読み進むことができた。社会的な背景に差はあれど、いつの世も男女の仲はおもしろい。胸がこがれるような「会いたい」という想いとか「嫉妬心」とか、そういうものは今も昔も変わらずに、人々の心の大きな部分を占めているということなのだろう。科学技術が進歩しようとも、人の脳はほとんど進化していないのだ。とあらためて思った。

  • さすがに長い年月にわたって多くの人にを読まれてきただけに、「源氏物語」はやっぱりおもしろい。巻六くらいから登場人物にも、流れにも馴染みおもしろくなった。数ある訳本のなかからこれを選んだのは、寂聴さんの小説も読んでいて身近だったから。各巻末の「源氏のしおり」があらすじと寂聴さんの感想があり楽しみだった。これをきっかけに他の訳本も読みたいし、源氏物語に登場する女性や男性について書かれたものも読みたい。

  • 先日、宇治川の流れの速さを見てびっくりしましたが、浮舟が身投げをしようとする山深い宇治の里、そこに流れる宇治川の流れが目に浮かぶように思います。宇治十帖の小説としての迫力には驚きです。浮舟が二人の男性の板ばさみになり、追い込まれてしまうということになるわけですが、その心の苦しさが迫真のリアリティです。浮舟の薄倖のか弱い美人ぶりの描き方が素晴らしいです。薫の君と匂宮の男性2人も魅力的な存在として書かれていますが、今の価値観からすると単なる女たらしであり、紫式部の価値観には違和感を感じます。私としては、どちらかというと人間の心を描く場面は冗長な印象を持つものの、四季の情景を描く文章力が秀逸だと思いました。特に秋風、名月、虫の音など、日本の美しさを表わすような情景表現は改めて感動します。

  • え!!!!!十巻も待たせたのに、こんな終わり方?!日本に誇る有名文学作品の終わりがこうだったとは。長い源氏物語の中で一番の衝撃がここにある。

    歴史の授業を聞いていると、平安時代はとっても昔で、文明が未発達というイメージがあった。しかし、源氏物語の登場人物に触れて、現代に住む私たちと心はほとんど変わらないということがよく分かった。

    源氏の栄華が語られる前半、そして宇治に舞台が移る後半。どちらも個性溢れる登場人物の心理が巧みに語られ、昼ドラさながらどんどん惹きこまれていく。特に宇治が舞台の後半は、頁をめくる手が止まらず、どこで休憩しようか迷った程だった。

    寂聴氏は「男はせいぜいこの程度よ、という紫式部の声が聞こえてくる」と解説で書いているが、私には「あるよね~、そういうこと」という女房達の声が聞こえてきた。

    そんな昔の物語を、こんなに生き生きとした文章で読むことができることに感謝しなければならない。他の訳本が進まなかった私にとって、寂聴氏の源氏物語は、抜きんでた名訳であった。話も面白いし、読みやすいし、是非色々な人に手にとって欲しい本である。

  • 初めて源氏物語を読み切ったあとで、源氏自身は狂言回しで主人公は物語に登場する数々の女君だったのだと知る。

    のめり込んで読んでいるうちに、あっけないほどの長編小説の終り方や、1000年前も今もまったく変わらない人間ドラマとキャラクターの書き方に今もなお多くの人が虜になる理由には納得である。

    優雅で華やかな源氏物語の世界に憧れるのと同時に、この長編小説が「出家物語」と言われるほどに苦しみ次々と出家していく女君たちの気持ちには共感させられてしまった。

  • 浮舟・蜻蛉・手習・夢浮橋の4帖が収録.物語としての終わりを明瞭に飾っていないが,未来永劫宮中での男女の関係性は何の発展もなく,常に男性に振り回される女性の有り様を,循環のようなメッセージとともに物語ったともとれる.宮中女性の自由度の低さ,今でいう硝子の天井,を常に感じ,もがく紫式部というキャリアウーマンの走りのような女性の存在そのものを強く印象づける.

全23件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

1922年、徳島県生まれ。東京女子大学卒業。63年『夏の終り』で女流文学賞、92年『花に問え』で谷崎純一郎賞、11年『風景』で泉鏡花賞を受賞。2006年、文化勲章を受章。2021年11月、逝去。

「2022年 『瀬戸内寂聴 初期自選エッセイ 美麗ケース入りセット』 で使われていた紹介文から引用しています。」

瀬戸内寂聴の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
ヘミングウェイ
村上 春樹
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×