虚像の砦 (講談社文庫)

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  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (520ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062759250

作品紹介・あらすじ

中東で日本人が誘拐された。その情報をいち早く得た、民放PTBディレクター・風見は、他局に先んじて放送しようと動き出すが、予想外の抵抗を受ける。一方、バラエティ番組の敏腕プロデューサー・黒岩は、次第に視聴率に縛られ、自分を見失っていった。二人の苦悩と葛藤を通して、巨大メディアの内実を暴く。

感想・レビュー・書評

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  • 『虚像の砦』真山 仁氏

    0.本書より
    「報道とは、道に報いるとかく。」
    「報道にひとが関わる以上、ある程度の主観が入る  
     は当然である。
     ただし、大切なのは、様々な角度から事件が取り  
     あげられることが必要である。」
    「報道とは、闇に光をあてること。
     闇をそのまま捨ておかないこと。」

    1.虚像の砦の舞台
    舞台は、民放キー局です。
    本年度は5年に一度の免許申請の時期です。
    向こう5年間の財務の安全を総務省に開示、説明が必要となります。

    主人公は、報道部門の中堅と、バラエティ部門の中堅の2名です。
    報道の彼は、時同じく起きた、海外渡航禁止区域での邦人誘拐事件に当たります。
    バラエティの彼は、視聴率が下落する24時間テレビのテコ入れに当たります。

    免許の承認は、総務省、国です。

    報道、バラエティそして国が、それぞれの思惑で対峙しあいます。


    2.読み終えて
    記者であった真山さんの想いが垣間見えると感じるのは、わたしだけでしょうか?
    真山さんを読みつづける読者ファンは、きっと真山さんの姿勢に惚れているのかもしれません。

  • 中東で日本人3人が誘拐された実際の事件を背景にして、テレビという巨大メディアの実態を暴く情報小説。
    過去にスクープ報道で汚点を残したが、時の政権に批判的な姿勢を貫くテレビ局が舞台。
    主人公となるのは情報番組のディレクターとバラエティのプロデューサー。
    再三語られるのは、
    「情報とは、情に報いることだ。しかし、報道とは、道に報いて初めてそう呼ぶことができる。ジャーナリストは、真実を追い求めるだけでなく、人としてのあるべき道に報いることが出来なければ、その責任は全うできない」。
    誘拐事件を自作自演あるいは自己責任に世論を誘導するためにテレビ局を利用する政治家。テレビ局に絶大な力を持つ大手広告会社。政治権力に阿り、テレビ局内での地位を固めんとする役員。免許更新というテレビ局の生殺与奪権を握る官僚。
    二重三重の陰謀が繰り広げられるテレビ局。
    そんな中にあって、
    「俺たちの絵は、あんたらの嘘の道具じゃないんだ。テレビは映像さえあれば、それでいいんじゃない。映像が正しく使われるように、何で徹底的に取材しないんだ」と、真の報道を貫かんと、事件の真実を求めて現地に飛ぶディレクター。
    一方で、視聴率に縛られ自分を見失ってゆくバラエティのプロデュサー。
    一般に「公平中立条項」として、放送事業者は、「政治的に公平であることが義務付けられている放送法第3条の2①の2項がテーマともなり、『ハゲタカ』シリーズの著者ならではの、骨太で重厚な小説となっている。

    一人のジャーナリストが語る言葉が、印象に残る。
    「ジャーナリズムの使命とは、為政者が独裁者への道を歩み始めたと感じた時に、たとえ強引と言われても身を挺してでも阻止することだ」

  • テレビ業界の報道とお笑いを取り上げた情報小説で、メディアがどういった要素で編集されているかを改めて知ることができる。
    初期の石田衣良と同様、取材力のある作者のフィクションは、言葉を選ばずに済む分、ノンフィクションよりもメッセージ性が強く明快だと思う。

  • 連休休みに、久々に小説を読みました。
    これが予想以上にハマって、
    500ページあまりの本をあっという間に読んでしまいました。

    作者は「ハゲタカ」でお馴染みの真山仁さん。
    「ハゲタカ」では、企業再生の現場を生々しく描いていましたが、
    今回の舞台は“メディア(TV局)”。
    特別、金融に特別興味がない人は、
    こっちの方が、話をリアルに想像できて楽しいかもしれません。
    もちろん、ダーティな部分をしっかり描いているところは、
    「ハゲタカ」と変わりません。

    僕は綿密に取材して作られた作品が好きなので、
    もしやもしかすると、「山崎豊子の後継者となるのでは!?」と、
    勝手気ままに想像しているのですが、、、

    とにかく、まだ読んでいない「マグマ」も
    近いうちに読んでみようと思います。
    今後の真山さんの作品にも目が話せません!

  • 緊迫感あふれる展開。
    面白かったです。

  • 真山仁さんらしくノンフィクションに近いフィクション。邦人が中東でテロ組織に拉致され政府が決断を迫られる。
    テロ組織に屈しないという当たり前の世論と、人命を助けたいという人間の本能に気づきハッとする風見の思いは心を撃たれた。
    知らず知らずにテレビの「世論』に流されている自分自身にちょっと待てよと思わせてくれる話でした。

  • テレビ局と政治家・役人の関係が非常に上手く書かれていた。現実に起きた題材をベースにフィクション化している点も非常に現実的であった。
    前記した3者の関係性が中々興味深く表現されていた。

  • 何回読んだか分からない本。
    風見さんと黒岩さん、戦う舞台は違えど熱い思いを持った2人の葛藤が好き。
    ラストは毎回ニヤっとしてしまう。

  • リアル。

  • いやー。
    いやー、これはまたすごい小説を書いたなあ。
    読後、そんな感覚でいっぱいでした。
    頭の中が「いやー」で埋まってしまうほど。

    『<a href=http://mediamarker.net/u/ikedas/?asin=4062753537>ハゲタカ</a>』を書いた真山仁氏が、今度はTVを題材に書いた本作。
    『<a href=http://mediamarker.net/u/ikedas/?asin=4062753537>ハゲタカ</a>』を読んだ方に説明は不要でしょう。
    圧倒的な状況描写力と、とんでもなくexcitingなstory-telling。
    その、娯楽小説として卓越した、読者を作品に引き込む力は健在です。
    それどころか、さらにその力が増したんじゃないかとすら思いました。
    ぐいぐい引き込まれて、時間が経つのが本当にあっという間でした。

    前作を読んで、この作家さんは金融系の小説を書く人なんだと勝手に感じていました。
    そんな認識を持っている人も、たぶん少なくないんじゃないかなと思います。
    しかし、本書を読めば、その認識が引っ繰り返る事は間違いないでしょう。
    真山氏は、生粋の文章書きなんだなと思い知らされると思います。
    その空気感は、『<a href=http://mediamarker.net/u/ikedas/?asin=4167659034>クライマーズ・ハイ</a>』の横山秀夫氏と同じものです。
    ビリビリと肌を刺すかのような臨場感。
    これは、紛う方無き"documentary"です。

    本作は、大きく三つの視点を切り替えながら進んでいきます。
    「報道」「お笑い」そして「総務省」。
    現実に起こった事件とシンクロさせながら、PTBというTV局の内部を描き出します。
    取り上げられる主な事件は、<a href=http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9D%82%E6%9C%AC%E5%A0%A4%E5%BC%81%E8%AD%B7%E5%A3%AB%E4%B8%80%E5%AE%B6%E6%AE%BA%E5%AE%B3%E4%BA%8B%E4%BB%B6>坂本堤弁護士一家殺害事件</a>と<a href=http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A4%E3%83%A9%E3%82%AF%E6%97%A5%E6%9C%AC%E4%BA%BA%E4%BA%BA%E8%B3%AA%E4%BA%8B%E4%BB%B6>イラク日本人人質事件</a>。
    前者は背景として、後者は物語の中心として、舞台となるPTBを包みます。
    そして、それらの内部で行われていた「かもしれない」物語を、真山氏の想像力が紡ぎ出します。

    終盤、登場人物の一人である織田馨の台詞に非常に共感しました。<blockquote>私個人は、報道に人が関わる以上、客観報道などあり得ないと思っています。ですから、ある程度の主観が入るのは当然です。大切なのは、様々な角度で事件が取り上げられているかどうかだと思います。</blockquote>本当にその通りだと思います。
    いまのTVが個人的につまらないと思うのは、総てが画一的に過ぎるからです。
    報道だけではなく、あらゆる番組作りに局としての個性が感じられない。
    はっきり言って、同じ題材で横に並べれば、NHKに勝てる民放は無いと思うのです。
    だからこそ、それぞれ独自の色を出して、独特の番組を作らないといけないはず。
    そういう風にして、かつての民放は伝説の番組を作ってきたはずなのです。

    そしてもうひとつ、黒岩宗一郎が語る台詞です。<blockquote>「なあ宗佑。私はテレビというメディアを否定するつもりはない。テレビとは、大衆に理屈抜きの娯楽と笑いと感動を与えられる力を持っている。だが同時にテレビには、見た人すべてを囲い込んでしまう危ない魔力もある。音や画像処理で見る人を釘付けにし、映像のすべてを信じ込ませる力を持っている。これは危険だぞ。報道の体たらくも目にも余るが、それ以上に怖いのがおまえさんたちだ」
    「私たち、ですか・・・・・・?」
    「そうだ。バラエティと呼ばれとる番組で、やっていることは何かね。自分より弱い人を血祭りに上げて笑い飛ばす。一番ゲスな笑いだ。しかも視聴者には、今日が幸せだったらいいじゃないかという諦めを刷り込み続けている」</blockquote>これも本当にその通りだな、と思います。
    そしてその傾向は、TVという枠を超えて浸食を続けている気がします。

    ネット上では、相も変わらず既存メディアへのbashingが渦巻いてます。
    これも、結局のところは画一化に過ぎないのですよね。
    それぞれ個人が、それぞれの価値観に基づいた判断が出来なければ、ネットの長所は消失します。
    TVにはTVにしか出来ないことがあるし、新聞には新聞にしか出来ないことがある。
    総ての物事には役割があって、それは媒体が変わったとしても本質は変わることはない、と思います。
    そのことを、netizenたちが心底から理解できれば、あっという間に世界は変わる。
    Netizenの総てが理解出来なくとも、2〜3割程度が理解出来ただけでずいぶん違ってくるでしょう。
    本書の随所から、そんな未来が透けて見えてきた気がしました。

    基本的に、あらゆる表現は"Entertainment"だと思います。
    そして"Entertainment"は、発し手と受け手が同調したときに最高の面白さを発揮します。
    本書は、その事を素晴らしい物語に載せて、伝えてくれた傑作だと思います。

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著者プロフィール

1962年、大阪府生まれ。同志社大学法学部政治学科卒業。新聞記者、フリーライターを経て、2004年、企業買収の壮絶な舞台裏を描いた『ハゲタカ』でデビュー。映像化された「ハゲタカ」シリーズをはじめ、 『売国』『雨に泣いてる』『コラプティオ』「当確師」シリーズ『標的』『シンドローム』『トリガー』『神域』『ロッキード』『墜落』『タングル』など話題作を発表し続けている。

「2023年 『それでも、陽は昇る』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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