カタブツ (講談社文庫)

著者 :
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感想 : 18
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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062760959

感想・レビュー・書評

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  • ツボを突かれまくりました。
    短編集とはいえ
    一冊の本から4箇所も引用したくなった本は久し振りです。

    誠実な人々。
    裏を返せば”堅物”と呼ばれてしまう人々の
    恋愛や犯罪や隠し事などを描く、
    どちらかといえばありふれた設定のヒューマンミステリーなんですが
    登場人物が考えたり言ったりする言葉に何度もリアルに応じてしまいました。
    一言で表すなら”底なしの浅瀬”でしょうか。
    難しい書き方もしていませんし
    取り上げ方も大袈裟ではないので
    さらりと読み過ごすこともできそうな所々に
    重要なメッセージが散りばめられているような。

    読書好きな方にはぜひオススメしたいです。
    心理学がお好きな方にも読み応えは充分にあると思います。

  • 面白かった^ ^人ってこういうこだわりとか、弱さとか、図々しさとかあるよなあ、って納得できる。

  •  最初はとっつきにくい印象のお話です。
     私が今まで読んできた著者の作品とは異なり、ファンタジーではなく、現代ものだからかもしれない。

     しかし、読み進むと端的な描写ながらじわじわと見えてくるのは、タイトルの通り、普段は小説に登場しないような「カタブツ」で普通の人たちの姿が。
     1編読みおえるころには術中にはまり、一気にラストまで読み切りました。イイネ。

  • 一応「ミステリー」のカテゴリーには入れられているけれども、私にとってはこれは、発達障害を抱える人達の物語のように思えてならない。
    「誠実すぎるひとたち」と評されているが、たぶん、一般的に想定されている「誠実さ」とはちょっとずれているのだ。
    融通が利かないとか、杓子定規、自分の規範に固執する、という感じ。
    決して間違っているとか、悪であるというわけでもないのに、なぜか窮地へ自分を追い込んでしまう。
    もちろん、発達障害をテーマにした小説ではないからそれに関する記述はないのだが、「バクの見た夢」の二人の、妙に理詰めな考え方とか、「袋のカンガルー」の双子のあり方とか、「駅で待つ人」の倫理観とか、「とっさの場合」の強迫神経症とか、「無言電話の向こう側」の幹人の性格設定など、どれをとっても、私には非常に馴染み深い思考回路なのである。
    主人公の思考をたどっていると、ときどき「どうして作者は、この思考形態を知っているんだろう」と驚いてしまう。
    「マリッジブルー マリングレー」の主人公が、「なんでもない会話ができなくなる」シーンは、まるで自分のことのようで、どきどきしてしまった。私もあんなふうに、変に考えこんで言葉が出なくなってしまうことがよくあるから。
    ラストがミステリーっぽくて(しかもリドルストーリー的でもある)面白かった。

  • 物語の展開的には「もうひと掘り!」と物足りなさを感じたけど、人物像の書き方かな?表現かな?とても好きです。沢村さんの他の作品も読んでみたいと思いました。

  • バクの見た夢
    不倫カップルの、行く先

    無言電話の向こう側
    一番とゆうか、これ以外は ちょっと
    残念。

  • ミステリベースの短編集。
    カタブツという話があるわけではなく、各話の主人公の頑なさを象徴している。

    『バクのみた夢』
    不倫カップルがこの不適切な関係を終わらせるためにはどちらかが死ぬしかない、と決意するところから始まる。
    妙に生真面目な二人の出会いから暴走する愛の結末まで。
    一歩引いた視点だなあ、と思って読んでいたら、最後になんともうまいオチがつけられていた。
    物語としては一番好き。


    『袋のカンガルー』
    面倒見の良すぎる主人公が、失恋のたびに家に転がり込んでくる亜子に振り回される話。
    主人公の成長物語か、と思わされたけど、これまた最後にひっくりかえった。
    亜子は明らかにボーダーな女で、共依存の二人を見ているとイライラするから話としては気に入らない。
    けど亜子と主人公の関係が徐々に明かされ、最後にタイトルの話と繋がる、これまたうまい。
    でも後味は非常に悪い…。


    『駅で待つ人』
    意外なオチが用意された、男の一人語り。
    待ち合わせ相手を待つ人を眺める人が好き、という感性にとても共感。
    物語のプロットよりも、本文で語られる内容がとても好きだった。


    『とっさの場合』
    強迫神経症気味の母親が主人公。
    「絶体絶命の状況に陥った息子を目の前にして何も出来ない」自分の夢を見、妄想する。
    この話はいくつも仕掛けが施されていて、
    オチのつけ方が秀逸。
    「いざというとき助けられないからといって、愛情が足りないわけじゃない」というテーマがどう使われるのか、その意外性がよかった。


    『マリッジブルー、マリングレー』
    婚約者の実家へ挨拶に行くため福井に来た主人公。
    初めて来る土地のはずなのに、車窓から眺める日本海に奇妙な既視感を覚える。
    3年前、主人公は交通事故に遭い、事故直前の数日間の記憶をなくしていた。
    既視感と空白の記憶に関係があるのではないかと疑心暗鬼になる主人公のお話。
    これが一番ミステリっぽかった。
    最後の一行のびっくりもあり。


    『無言電話の向こう側』
    意固地なほど公明正大で誠実な友人の秘密を知った主人公。
    最初からオチが見えすぎているし、登場人物たちにもイマイチ共感できなかった話。
    それにちょっと説教がましいところが鼻についた。
    ただこれが一番評判が良いようで、たぶん私の感性がひねているのだろう。


    最後のお話だけあまり好きではなかったものの、他はどれもよかった。
    見事などんでん返し。
    どんでん返しマニアにはたまらないかも。
    想像よりもかなり面白くて嬉しい驚き。
    沢村さんはファンタジーよりミステリ路線の方が好きかも。
    『黄金の王白銀の王』、『瞳の中の大河』の中の、ファンタジーにしては重すぎる、遊びが足りない部分が、こちらではほどよいストレスとして効いている。

    派手さはないけど、とても丁寧なお話。
    これはおすすめです。

  • どうしようもなく、真面目で、不器用で、完璧でない、優しい人たち。
    そんな人たちが静かに織り成す、「情」を巡る物語でした。
    何通りもある愛の形、とも言えるかもしれません。
    私はやっぱり、この人の人物描写が好きです!
    他の本も、ぜひ読んでみたい。

  • 登場人物がみんな、誠実でしたね。
    1作目の「バクのみた夢」は、まさかこの結末になるとは思わなかったですね。
    恐ろしかったのは、「マリッジブルー、マリングレー」。
    全体的に少し物足りないと感じたのは、私だけでしょうか。

  • 家庭がありながら運命的な出逢いをしてしまった二人、人の世話ばかり焼いてしまう癖を恋人に咎められる青年、息子が事故に遭遇しても足がすくんで助けられない夢にうなされる母親、隣室の女性がストーカーに殺されたのに何もしなかったと非難される男。誠実な人々の窮地を描いて共感を呼ぶミステリー集。


    実のところ、全体的に好みではない。

    「こだわり」を持ち、誠実ですらある人々が登場するミステリ仕立ての短編で、どこかゾクりとする読後感。
    ・・・といえば、決して嫌いな種類の小説ではないのだが、
    なぜだろう。
    もう一押しが欲しいな、と物足りなさが残るのだ。

    唯一、巻末に収録されている
    『無言電話の向こう側』は、読み進めるうちに予測できるうえ、思った通りに近いラストながらも、えらく暖かい気持ちにさせられた。好きな物語でした。


    《2010年1月21日 読了》

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著者プロフィール

1963年広島県生まれ。鳥取大学農学部卒業。91年に日本ファンタジーノベル大賞に応募した『リフレイン』が最終候補となり、作家デビュー。98年、『ヤンのいた島』で第10回日本ファンタジーノベル大賞優秀賞を受賞。骨太な人間ドラマで魅せるファンタジーや、日常のひだを的確に切り取るミステリーなど、様々な世界を展開している。その他の著作に『瞳の中の大河』『黄金の王 白銀の王』『あやまち』『タソガレ』『ディーセント・ワーク・ガーディアン』『猫が足りない』「ソナンと空人」シリーズなど多数。

「2023年 『旅する通り雨』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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