還らざる日々 上 (講談社文庫 こ 51-12)

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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062761161

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  • 低調

  •  「蒼穹のかなたへ」「日輪の果て」に続く、ダメ男<ハリー・バーネット>シリーズの3作目。
     50年前に所属していた空軍、その同窓会に行ったハリーは、同窓生の失踪や殺人に遭遇する。容疑者になってしまったハリーは、かつての相棒、バリーとともに自らの潔白のために動き始める。


     ハリーも、69歳になりました。
     だから、派手なアクションも冴え渡る推理もありません。ただ、1作目2作目と名前だけ出ていたかつての共同経営者~負債をハリーに押し付けて逃げ、ハリーのその後のダメ人生を決定づけたといえる~バリー・チップチェイスとのやりとりがエッジがきいてて面白い。
     なんというか、いわゆる腐れ縁なんですね。
     ハリーはたいてい冷ややかに接しているし、バリーはそんなのに気づいていない厚顔さでいるのだけど、端々に相手を許し寛容しているニュアンスがある。「仕方ないな」「ばかだな」と思い、言葉にしていても優しさがある。
     結局、ハリーを動かしているのは優しさなのだ。
     
     昔、「男は優しくなければ生きている資格がない」というコピーがついた映画があった。
     どうしようもないダメ男であるハリーが、行動を起こす所以はつまりのところ優しさなのだ。
     もっとも1作目では「善意の怖さ」に翻弄され、2作目では過去の愛によって奔走するはめになるのだが。
     優しさが常にいい方向を示すことはない。けれど、ハリーはその指針に逆らうことはしない。きっとそれがハリーが自分自身を認められる、許せることだからなのだろう。

     今回はハリーたちが50年前に参加した空軍のプログラムに謎があり、彼らはそれを追っていく。ハリー自身が容疑者になったからというのが行動理由だったのだろうけれど、結局は同じように巻き込まれたバリーを見捨てられない、というところが真なように感じる。
     
     ハリーの望みは少ない。
     容疑者でなくなって無事にカナダへ、妻のもとへ帰ること。
     そのシンプルさが、ハリーの強さのなのだと思う。
     タフで優しい。そうか、これはゴダード流のハードボイルドなのかもしれない。

     たいてい、人は多くを望みすぎる。
     望みを持ちすぎて、本当に大事なものを見失う。ハリーの行動は、それを問いかけてくるように思う。本当にそれは必要なのか、それを手にしてどうするのか、と。
     1作目2作目からするとすっかりダメ男じゃなくなったハリーだが、老骨に鞭打つさまは文字通り気骨に満ちている。
     だからこそ本を閉じたとき、こちらをじっと見詰める目と問いかけを覚える。
     「貴方は、きちんと生きているのか?」と。
     
     やっぱり、ゴダードは面白い。

  • 感想は下巻で

  • 感想は下巻に

  • “骨のあるダメ男”ハリー・バーネットシリーズ第三作。軽快なリズムで展開するこのシリーズは、いつもの重厚なゴダード節からは程遠いが、味わいのある作品に仕上がっている。
    濡れ衣を着せられた主人公コンビによるロード・ムービー的なストーリーなのだが、このコンビが中年を通り越して老年になろうかという年齢設定のため、その辺の違和感は拭えない。手掛かりを求めてあちこち動き回るが、地図がないため地理的なイメージが全くわかず、あだ名と本名を使い分ける多くの同窓キャラもややこしく思えた。
    上巻読了時は正直言って退屈さを感じていたが、下巻に入ってからは作品の雰囲気が合ってきたのか、ゴダードの側面を見るような感覚で面白く読めた。特徴を活かしたキャラの書き分けが出来ており、ストーリーの骨格がしっかりしているので、軽快であってもブレることがないのだ。重層的なイメージから敬遠していた人にも充分楽しめるシリーズであると思う。

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