魔王 (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社
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本棚登録 : 22664
レビュー : 1974
  • Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062761420

作品紹介・あらすじ

会社員の安藤は弟の潤也と二人で暮らしていた。自分が念じれば、それを相手が必ず口に出すことに偶然気がついた安藤は、その能力を携えて、一人の男に近づいていった。五年後の潤也の姿を描いた「呼吸」とともに綴られる、何気ない日常生活に流されることの危うさ。新たなる小説の可能性を追求した物語。

感想・レビュー・書評

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  • 世の中の流れに立ち向かおうとした兄弟の物語。

    伊坂さんがあとがきで「ファシズムや憲法、国民投票などが出てきますが、それらはテーマではなく、そういったことに関する特定のメッセージも含んでいません。」と書いている。

    ならば、この作品のテーマなんだろう?

    「とにかく時代は変りつつある」『時代は変る』ボブ・ディラン
    「時代は少しも変わらないと思う。一種の、あほらしい感じである」『苦悩の年鑑』太宰治
    巻頭にあったこのふたつの文がとても心に残った。
    これがこの小説のテーマのひとつかもしれない。
    この先時代は変わるのか、変わらないのか…

    この作品から感じた不穏な流れ、世の中の怖さ、その雰囲気は嫌いじゃなかった。
    流されるな、「考えろ」とずっと投げかけてくれた。大事な事だと思う。
    「政治家が賢いのと馬鹿なのでは、どっちが怖いんだろう」
    この質問は凄い。考えろ、考えろ!

    ただ、お兄さんのしたかった事、潤也くんがしようとしている事、犬養という人、そして、帯に書かれている「魔王とは何者なのか?」、どれもはっきりしなかったなぁ。
    モヤッとした終わり…

    何より、ファシズムとは何か、ファシズムの何がいけないのか、統一とは悪い事なのかがメインなので私にはちょっとハマれなかった。

    この作品に私の大好きなあの人が!何を調査しにきたの?

  • わたしは兄と同じような考え。
    集団や流されることに危機感を感じる。
    でも、集団に馴染むとこは馴染むようにとも思うけど。
    大事な部分、芯はちゃんと持っていたい。
    自分で考えて考えて選択できる自分でいたい。

  • 読みながら、これってホラーかと思うくらい怖かった。だって、現実に同じことがいま起きている。

    人は結局のところ群れをつくる動物だから、ボスになる人物を求める。ボスに何もかも預けて、楽をしたいから、だから、考えることを、思考を停止してしまったら、その瞬間に私たちはボスの言うままに動くしかない。

    そんなのは絶対に嫌だ。

    私は私であって、私以外の何者でもない。だから、安藤兄のように考えて、考えて、自分の答えを出したいんだ。

    誰かが言ったから、そこから外れるのが嫌だからとか、浮いてしまうから……。いいわけだけをたくさん抱え込んでぱんぱんに膨らんでいく世論。醜いよね。

    同じ結末を、考えもせず、抗いもせず、受け入れる人間たちと同じように受けなければならないのならば、せめて、私も考えることで抵抗したい。

    安藤弟のいう洪水にあらがう一本の木になってさ。

  • 政治的なアレコレはこの本の大筋のテーマではないのだろうけど、それにしてもタイムリーというか、それとも日本が変わりばえしないのか、しかし確実に世界は「強い」リーダーを求め始めていて、少しずつだがきっと時代は変わっているのだろうな、とぼんやり考えさせられた。この移ろいが骨身に沁みない私は、集団の中の無個性な個々のひとつで、いやしかし本流に身を置いていたとしても集団であるには変わりなく、やっぱりその暴力性からどうすれば抜け出せるのかは分からないけど、潤也が言うように洪水に流されないで立ち尽くす一本の木にはせめてなりたいなと思う。でもやっぱり少なくとも、スカートを直す勇気は金では買えないんじゃないかなあ。

  • ある特別な力を手に入れた主人公がその能力を利用して世界を変えようとする物語、というと、思い浮かべるのは「他人の心を読む能力」だとか「誰かを自分の意志のままに操る能力」だとか、「未来を予見する能力」だとか「ノートに名前を書くだけでその人物を殺害できる能力」だとか、そういうのが多いんじゃないだろうか。
    しかしこの小説の主人公に与えられた能力は、「自分の思念を相手に喋らせることができる」という、それだけのものである。

    主人公は自分自身の肉体に相当な負担を強いるらしいこの能力に侵されながらも、一人の政治家に近づいて、その口からある言葉を話させようとする。
    「そんなことで世界は変えられるのか」、「無理だ」、「俺がどうこうできるものじゃない」、「なら、どうして進むのか」、自問自答しながら主人公は、ぼろぼろになった体を引きずって「力」を使おうとする。まるで、「力」を持ってしまったがために生まれた、已むに已まれぬ衝動に突き動かされるように。

    この「力」とは、もしかして小説家にとっての、「小説を書く」という行為そのものの寓意でもあるのかもしれない。
    「こんなことでは世界は変えられない」と分かっていても、それでも小説を書かずにはいられない。
    ぼろぼろになって、息も絶え絶えになっても、それでもこの「力」を使うしか自分にはない。
    主人公が「力」を使うとき、集中力を高め、相手の姿を視界にとらえ、相手の中に自分を潜り込ませ、その姿に自分を重ねるイメージをする、という過程が必ず描かれている。それはきっと小説を書く時に小説家が行うことと同じなのではないだろうか。そうして小説家は、自分が生み出した作中の人物に自らの思念を喋らせる。まるで言霊みたいに。

    シューベルトの「魔王」以上に、宮沢賢治の詩二編が頻繁に、印象的に引用されていた。
    生前には無名だった宮沢賢治は、岩手で自然の力と向かい合う生活を送っていた。
    しかし死後に多くの作品が発見された宮沢賢治は、今でも言葉だけの存在になってそこに居る。
    「安藤兄弟」二人の人格を束ねたのが、恐らく作中で使われる「宮沢賢治」という存在なのだろう。「呼吸」で、兄を失った弟が移住する先が「岩手」である、というのも思惟的に思える。

    というのは個人的な、恐らく屈曲しすぎた解釈なんだろうけど、幾つもの隠喩が隠されていることには間違いない。

    世界を変えるにはどうすればいいのか?
    きっと、ペンは剣よりも強し、だと思う。
    小説って面白い。言葉ってすごい。

  • 15年くらい前に書かれたようですが、なぜか今の社会の感じに響くものがあって、思いがけず引き込まれて読みました。考えろ考えろというフレーズが頭に焼き付いて、自分で考えるということをしているかどうか、それこそ考えてしまう。自分が持っている情報は正しい情報なのかどうか。メディアは面白いものしか伝えない。真実はひとつというけれど、その真実は誰にとっての真実なのか。テレビも新聞もネットも、伝える人が伝えたいように手を入れて伝えているような印象を受ける今日このごろ。考えろ考えろ。
    『魔王』も『呼吸』も面白かった。『モダンタイムス』も近々読みたいです。

    • hiromida2さん
      はじめまして。Sannijaさん(^.^)伊坂幸太郎さんって 本当にいいですよね 他にも色々読みたい本が多過ぎて…実は 「魔王」も遅まきなが...
      はじめまして。Sannijaさん(^.^)伊坂幸太郎さんって 本当にいいですよね 他にも色々読みたい本が多過ぎて…実は 「魔王」も遅まきながら 今から読む予定なんです レビューみて余計楽しみになりました ワクワク ありがとうございます(^ ^)
      2019/08/14
  • タイトルの『魔王』はシューベルトの楽曲「魔王」から来ているらしい。

    「魔王」は、父親が息子を脇にかかえながら、馬を疾走させ森を駆け抜ける、というストーリーのある曲だ。
    魔王が息子についておいでと囁くのだが、「魔王がぼくをさらおうとしている」と父親に訴えかけても、気のせいだと宥められてしまう。
    ……そんな楽曲。

    「魔王」の不穏なピアノ音が、小説『魔王』のバックグラウンドで鳴っているような気がして、なんとも不穏で不気味だった。

    お話自体は重いというわけではないが、群衆(民衆)の思いが一つの潮流となって、予期せぬ場所に向かいかけたら止められないみたいな(イギリスのEU離脱、アメリカのトランプ政権樹立のような)事象を書いていて、エンタメ作品というのでもない。

    政治の大きな流れをいち早く予感し、自分なりの方法で向かっていく、超能力(と自覚はされていないが)を持ったある兄弟のお話。

  • 最後に千葉さんが出てきたところで嬉しくなったが、それは 魔王 とは関係のない話。他の作品とのつながりがあるのも伊坂さんの作品の良いところ。ただ、政治や思想の話が絡むので本筋の話は少し苦手。

    • Dyq Dollarさん
      本当ですか!気付けなかった…
      ありがとうございます笑
      本当ですか!気付けなかった…
      ありがとうございます笑
      2016/01/16
  • 二人の兄弟が主人公として描かれ、兄のエピソードが表題の『魔王』。弟のエピソードが『呼吸』という2部構成で語られるお話。始めは政治物?次は思想物?、心霊ホラー物?えっ、SF?と思える程に、お話のポイントがパズルのピースのように散りばめられているパターンは後の名作『ゴールデンスランバー』の良い意味での“習作”ともいえる趣があります。人が生きる社会において、多くの人の思想を冷静に見つめて自分を失うことの無い生き方という『社会を生きて行く為の指標』と考えさせられるラストは兄の存在が胸に熱い物を感じさせてくれます。

  • 今の日本の閉塞状況を どう打ち破るのか?

    ということを 目標に 物語を つくろうとする。
    青春の息吹みたいなものを感じた。
    伊坂幸太郎の意気込みをかいたい。

    安藤は 不思議な能力に 気がつく。
    自分の思っていることを ヒトに言わせる能力だ。
    安藤は それを 腹話術 と呼ぶ。

    言わせることができるのは
    ワンセンテンス・・・。
    それだけでは 世界を変えることができない。

    しかし 世界を変えたいと思う 志 がある。
    そして いつも 唱えるのだ
    『もっと考えろ』と・・・

    無関心に ヒトの心が奪われている時に
    考えようとする 意思は 尊い。
    その尊さの中で
    自らの命を ちぢめていく。

    ファシズム の台頭を おそれる。
    そして 降ってわいたような 宮沢賢治 ブーム。

    未来を語り 希望を語る 犬養。
    政権を任せて うまくいかなければ 首をはねろ
    という。

    そこに ファシズムの匂いを見つける 安藤。
    ムッソリーニ と結び付ける。

    ヒトビトは 微妙に変化する。
    その微妙さが みょうに リアルである。

    戦争に行って 人を殺す理由は・・・
    殺されないためではなく 命令されたから・・・
    という 兵隊の言葉は 刺激的だ。
    あらゆる言葉が 生き始める。

    いきていたらこんなことがある
    と達観する・・・
    日本人と結婚した アンダーソン。
    それは 安藤さん と名前が似ている。

    伊坂幸太郎の ごろ合わせは・・・
    さまざまなところにちりばめられる。

    考察が 絞殺になる。
    パソコンの変換 間違いを楽しんでいるように・・・
    ほんとに 面白かった。

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著者プロフィール

伊坂 幸太郎(いさか こうたろう)
1971年千葉県生まれの作家。東北大学法学部卒業後、SEとして働きながら文学賞応募し、2000年『オーデュボンの祈り』で新潮ミステリー倶楽部賞受賞、デビュー作となる。その後作家専業となり、宮城県仙台市に在住しながら執筆を続けている。2004年『アヒルと鴨のコインロッカー』で第25回吉川英治文学新人賞、同年『死神の精度』で第57回日本推理作家協会賞短編部門、2006年平成17年度宮城県芸術選奨文芸部門、2008年『ゴールデンスランバー』で第5回本屋大賞、第21回山本周五郎賞をそれぞれ受賞。同作で直木賞の選考対象となることを辞退したことも話題になった。上記受賞作のほか、『重力ピエロ』、『バイバイ、ブラックバード』、『アイネクライネナハトムジーク』など話題となる作品は多い。代表作も殆どが映画化されている。最新作に『フーガはユーガ』。

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