魔王 (講談社文庫)

著者 :
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本棚登録 : 22672
レビュー : 1974
  • Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062761420

感想・レビュー・書評

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  • 読みながら、これってホラーかと思うくらい怖かった。だって、現実に同じことがいま起きている。

    人は結局のところ群れをつくる動物だから、ボスになる人物を求める。ボスに何もかも預けて、楽をしたいから、だから、考えることを、思考を停止してしまったら、その瞬間に私たちはボスの言うままに動くしかない。

    そんなのは絶対に嫌だ。

    私は私であって、私以外の何者でもない。だから、安藤兄のように考えて、考えて、自分の答えを出したいんだ。

    誰かが言ったから、そこから外れるのが嫌だからとか、浮いてしまうから……。いいわけだけをたくさん抱え込んでぱんぱんに膨らんでいく世論。醜いよね。

    同じ結末を、考えもせず、抗いもせず、受け入れる人間たちと同じように受けなければならないのならば、せめて、私も考えることで抵抗したい。

    安藤弟のいう洪水にあらがう一本の木になってさ。

  • ある特別な力を手に入れた主人公がその能力を利用して世界を変えようとする物語、というと、思い浮かべるのは「他人の心を読む能力」だとか「誰かを自分の意志のままに操る能力」だとか、「未来を予見する能力」だとか「ノートに名前を書くだけでその人物を殺害できる能力」だとか、そういうのが多いんじゃないだろうか。
    しかしこの小説の主人公に与えられた能力は、「自分の思念を相手に喋らせることができる」という、それだけのものである。

    主人公は自分自身の肉体に相当な負担を強いるらしいこの能力に侵されながらも、一人の政治家に近づいて、その口からある言葉を話させようとする。
    「そんなことで世界は変えられるのか」、「無理だ」、「俺がどうこうできるものじゃない」、「なら、どうして進むのか」、自問自答しながら主人公は、ぼろぼろになった体を引きずって「力」を使おうとする。まるで、「力」を持ってしまったがために生まれた、已むに已まれぬ衝動に突き動かされるように。

    この「力」とは、もしかして小説家にとっての、「小説を書く」という行為そのものの寓意でもあるのかもしれない。
    「こんなことでは世界は変えられない」と分かっていても、それでも小説を書かずにはいられない。
    ぼろぼろになって、息も絶え絶えになっても、それでもこの「力」を使うしか自分にはない。
    主人公が「力」を使うとき、集中力を高め、相手の姿を視界にとらえ、相手の中に自分を潜り込ませ、その姿に自分を重ねるイメージをする、という過程が必ず描かれている。それはきっと小説を書く時に小説家が行うことと同じなのではないだろうか。そうして小説家は、自分が生み出した作中の人物に自らの思念を喋らせる。まるで言霊みたいに。

    シューベルトの「魔王」以上に、宮沢賢治の詩二編が頻繁に、印象的に引用されていた。
    生前には無名だった宮沢賢治は、岩手で自然の力と向かい合う生活を送っていた。
    しかし死後に多くの作品が発見された宮沢賢治は、今でも言葉だけの存在になってそこに居る。
    「安藤兄弟」二人の人格を束ねたのが、恐らく作中で使われる「宮沢賢治」という存在なのだろう。「呼吸」で、兄を失った弟が移住する先が「岩手」である、というのも思惟的に思える。

    というのは個人的な、恐らく屈曲しすぎた解釈なんだろうけど、幾つもの隠喩が隠されていることには間違いない。

    世界を変えるにはどうすればいいのか?
    きっと、ペンは剣よりも強し、だと思う。
    小説って面白い。言葉ってすごい。

  • 好きなセリフ

    ・「今まで議論で負けたことがない」とか、「どんな相手でも論破できる」とか自慢げに話している奴を見ると、馬鹿じゃないかって思うんだよね。相手を言い負かして幸せになるのは、自分だけだってことに気づいてないんだよ。理屈で相手をぺしゃんこにして、無理やり負けを認めさせたところで、そいつの考えは変わらないよ。場の雰囲気が悪くなるだけだ。
    ・テレビとパソコンの前に座り、そこに流れてくる情報や娯楽を次々と眺めているだけだ。死ぬまでの間、そうやってただ、漫然と生きている。食事も入浴も、仕事も恋愛も、すべて、こなすだけだ。無自覚に、無為に時間を費し、そのくせ、人生は短い、と嘆く。もっと言えば、まともに生活することもままならない人間が多すぎる。彼らは無料の娯楽で、毎日を過ごす。テレビとインターネットだ。豊富な情報と、単調な生活から生まれてくるのは、短絡的な発想や憎悪だけだ。
    ・人は、命令を与えられれば、それがどんなに心苦しいことであっても、最終的には実行する。命令された仕事だから、と自分を納得させるのかもしれない。
    ・集団は、罪の意識を軽くする。
    ・民主主義は善か?民主主義は何人殺したんだ?資本主義はどれだけの人間の人生を損なった?
    ・もし万が一、おまえの考えが、そこらのインターネットで得た知識や評論家の物言いの焼き増しだったら、俺は、おまえに幻滅する。おまえは、おまえが誰かのパクリではないことを証明しろ。
    ・私を信用するな。よく、考えろ。そして、選択しろ。おまえ達のやっていることは検索で、思索ではない。
    ・まわりの雰囲気とか、世間体を気にして、やりたいことができない自分はちょっと嫌だ。何のための人生なんだ、って思うよ。

    犬養好きだな。彼の台詞を読んでると、耳が痛い。教会音楽を聴きながら読むと雰囲気が出て、作品に没入出来た。

  • じわじわと周りの人々が一人の人物に操られていく。
    ・・・怖い。小説、物語の中での出来事だとわかってはいるのだけど、現実的に起こりうる(もしくは既に起こっている?)と考えざるをえない。
    物語の途中、シューベルトの「魔王」の話が出てくる。自分だけが恐怖が迫っているのが見えているのに周りの人々にはそれが見えない。筆者は自分の思想等は描いていないと述べている。最終的に決めるのは自分自身だとしつつも、その意思を、その決断を、自分の責任をもってするべきだと本書を読んで強く感じた。
    小説からこのような印象を受けたのは初めてだ。

  • 2014.05 なんとなく読み返した。
    一度読んでるはずなのに新鮮。

    伏線と印象深い言葉、宮沢賢治の詩や
    ニーチェが時々アクセントになりつつ

    他の作品にもリンクしてる。

    かなり重曹的に面白い。何度読んでも味わいが深い。

    モダンタイムスが何十年後かの世界
    魔王の登場人物が老人になり亡くなった後、別の角度から回想される。

    勇気はあるか、という台詞がモダンタイムス

    覚悟はあるか、が魔王。

    でも犬のそばに近づき
    何も達成できなくても、いいじゃないかと安らかなのがホっとする。
    主人公がその時間軸で成したこと、なし得なかったことは
    もっと大きな視点で個人を越えた俯瞰をしたなら
    それは繋がっていくし、その時点では見えなかった伏線もあり
    朽ちて行く誰かは、いつかのふとした何かの、誰かの、礎になるかもしれない

  • 今の時代状況は、この小説に書かれた社会と比べて「もっと先に進んで後戻りできなく」なってしまっているのだろうか。このところの自民党政治の先祖返りぶりを見て、そんなことを考えた。ちょっと前までは橋下徹みたいな政治家が社会を変えるのかと思っていたが、安倍晋三政権は「カリスマ」じゃなく、補佐官など「チーム」としての政治のしたたかさを感じる。もう「魔王」さえ存在できない時代の窮屈さを感じる。

  • 20130903おもしろい、さすが。学生時代にあまりおもしろくないという誰かの感想を真に受けて今まで読まなかったけど、読んで良かった!ただ終わり方が、好きになれない。伊坂はだいたいハッピーエンドなのに、ひどい。続編?のモダンタイムズは前に読んだけど、もう一度読もう。

  • 個人的に非常に面白く、印象に残る話だった。
    続編?のモダンタイムスも是非読みたい。
    知らず知らずの間に煽動されてゆく形の捕らえきれない民衆の怖さみたいなものをすごく感じた。
    きっとこの話を読んだ沢山の人もそういったことを感じているのだと思うけれど、世の中って変わらないな…という一抹の寂しさみたいなものをまた再確認するような気持ちにもなった。
    なんといったらいいのかわからないけれど、複雑な気持ちが残る話だったなぁ…。

  • 兄の視点で書かれた「魔王」と、弟の妻の視点で書かれた「呼吸」の連作。主テーマではないけれど憲法改正という言葉が何度も出てくる。2004-2005年に書かれた作品ながら、今の時代を描いているよう。伊坂作品は出版された順に読むといいと言われて順番に読んでいるけれど、ここにきてなるほどと納得した。前の作品を読んでいるかどうかで、訪れる感覚が違うとおもう。

  • 言葉が響く本。
    手放せない本。

著者プロフィール

伊坂 幸太郎(いさか こうたろう)
1971年千葉県生まれの作家。東北大学法学部卒業後、SEとして働きながら文学賞応募し、2000年『オーデュボンの祈り』で新潮ミステリー倶楽部賞受賞、デビュー作となる。その後作家専業となり、宮城県仙台市に在住しながら執筆を続けている。2004年『アヒルと鴨のコインロッカー』で第25回吉川英治文学新人賞、同年『死神の精度』で第57回日本推理作家協会賞短編部門、2006年平成17年度宮城県芸術選奨文芸部門、2008年『ゴールデンスランバー』で第5回本屋大賞、第21回山本周五郎賞をそれぞれ受賞。同作で直木賞の選考対象となることを辞退したことも話題になった。上記受賞作のほか、『重力ピエロ』、『バイバイ、ブラックバード』、『アイネクライネナハトムジーク』など話題となる作品は多い。代表作も殆どが映画化されている。最新作に『フーガはユーガ』。

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