ガール (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062762434

作品紹介・あらすじ

わたし、まだオッケーかな。ガールでいることを、そろそろやめたほうがいいのかな。滝川由紀子、32歳。仕事も順調、おしゃれも楽しい。でも、ふとした時に、ブルーになっちゃう(表題作)。ほか、働く女子の気持ちをありえないほど描き込み、話題騒然となった短編集。あなたと彼女のことが、よくわかります。

感想・レビュー・書評

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  • 癖の強い40代の男性と一緒に仕事をしていた時、全然うまくやれなくて、その当時60代だった女性の上司に相談したら「ダメよ、男の人は立てなくっちゃ」と、言われたのだ。
    つまり、彼女の中では、男の人を立てなかったわたしが悪いということだ。
    このことで、しばらくもやもやしていた。
    酒量、同僚とする愚痴の量がどんどん増えていった。
    でも、未だに思う。この時、周りがみんなわたしの愚痴を聞いていてよかった。
    同じような出来事が頻発し、関係機関からも総スカンを食らった彼女はそのポジションを引退せざるを得なくなった。また、癖の強い40代の男性にされていたことは、モラハラかつパワハラであると、周囲からの進言で理解したのである。
    そんな過去の出来事を思い出した。
    あの時、あんな環境じゃなかったら、もう少し仕事続けられてたよなぁ…であるとか、でも一方で、おかしいことをおかしいって一緒に言いながら支え合った仲間と未だに繋がってるのは、あの環境だったからだよなぁ、とも思わされる。

    人が生きていく限り、男だろうが女だろうが、働く。
    わたしはできるだけ、男女問わずフラットに働きたい。でもそれって結構難しい。いくらこっちがフラットに振る舞ったところで、相手はこっちを下に見てくることがあるからだ。
    そんな時、舐められているな、とすぐに分かる。そこで怯まずに立ち向かいたいところだけれど、わたしにはそこで、ぐ、とこらえる力がない。
    だから、この作品の中に出てくるガール達には、ものすごい勇気を貰ったのだ。
    わたしは今それなりに働きやすくさせてもらっているけれど、それは年齢故の周りの配慮なのだろう。まだまだ20代の彼ら彼女らに、気を遣わせてしまっている。だからわたしの役割は、いつもくだらないことで笑いあって話しやすい空気を作ったり、こちらから仕事の負担感を確認してみたり、心身を気にかけたり、そんなようなことをすることだ、と思っている。

    作品の中のガールたちは、本当にみんなかっこいい!
    年上の男性部下に毅然と立ち向かったり、
    マンション買えるほど稼いで、(P127)「今、自分のファースト・プライオリティがはっきりとわかった。自分を偽らないことだ。これに優先するものは何もない」と、自分の信念を持っていたり、
    ガールでいることに誇りを持って、(P176)「きっとみんな焦っているし、人生の半分はブルーだよ。既婚でも、独身でも、子供がいてもいなくても」と、様々な生き方を尊重できたり、
    シングルマザーなのに子どもを盾にせず働いていたり。

    この作品が定義する「ガール」。
    わたしは紛れもなく、そこを抜け出せていない。
    童顔と自由を利用して、いつまでも20代の仮面を被って生きている。
    新卒から大手企業で働く友人は、このまま結婚の機会がないのならば、マンションを買おうかと本気で悩んでいる。
    バリバリ働いていた友人も、いつもの間にか子育てに奔走している。

    最後の章「ひと回り」では、今の自分の立ち位置に気付かされる。
    P293「容子自身の気持ちを言えば、結婚で生活を変えたくなかったからだ。仕事も自由も恋愛も、ひとつとして失いたくなかった。34になった今は、ここまで来て妥協したくないのと、そろそろ結婚しないと一生独身かもしれないという不安とが半々だ。その決断が下せないから、日常に流されている」
    P302「要するに、モラトリアムだ」

    ほんとそう。誰かといるより一人でいた方がずっと楽。だけど結婚は面倒。でも一生独身!と言えるほど強くはない。歳を重ねればそれだけパートナー探しも難航する。だとするならば今しかないんじゃないか、いや、でも…
    こんなことを言っている間にどんどん歳をとっていく。

    この作品、初出が2006年で著者は男性だ。
    作品が出版された頃と今とでは、働いている女性の環境は異なっていたと思う。今となっては普通のこととなっている、女性が社会で働くということ。けれど、出版当時の平成18年(こう書くとすっごく前に感じる令和3年なう)は、女性が働くということに対して、もっと軽んじられていたのではないだろうか。この作品に背中を押してもらった女性はすごく多かっただろうし、背中を押された強さも、今とはまた違っていたのかもしれない。
    また、この圧倒的なまでの女性目線とその描写は、どこで手に入れたんだろう!というくらいのもので、解説の言葉を借りるならば「ファッション描写が秀逸」なのである。確かに、「男性作家の女子ファッション描写というのは、何というか、絶妙に外れていたのだ。はっきり言ってダサい」。
    主人公をイメージしながら読んでいく際に、ファッションというのはその主人公の輪郭をつくってくれる。例えば、ショートボブの女の子が、ミニスカートなのかワイドパンツなのかで、その輪郭は大きく変わってくる。
    あと、P279「ただ同性にはわかる。この手の女は、結構計算している。だいいち媚びたような上目遣いが気に食わない」。
    というこの、男ウケすると思っている女子のあざとさ。女性に嫌われがちな、あざとい女子の分析もまた秀逸である。
    お見事!

    結局わたしは40歳になってもガールなおばさんでいたいし、80歳になってもガールなおばあちゃんでいたいのである。
    そして、笑う時に手とか机とか隣にいる人をバンバン叩いちゃうから、これからは口元に手をあててクスクスって笑おうかなと思いました。

  • 30代の働く女性が主役の短編集
    面白く、サクサク読めた

    仕事は 男も大変だけど、女性はもっと大変と思う
    男は自立出来てればいいし…なんとでもなるけど
    女性は仕事、体調管理、恋愛がらみ、家事とか考えると…本当に頭が下がる

    昔 クリーニング工場で主任してた事があるが…パートさん達は朝から家族を送り出し…蒸し風呂な職場で働き…家に帰れば家族の世話…呑む…前日より一回り大きくなり職場に帰ってくる…
    ホントに頭が下がる

    自分にはそれが出来ないと思う

    いや…無理だね…

    でも そんな俺…嫌いじゃない(開き直り)

    4月から娘も社会人
    無理しなくて良いから
    頑張ってほしいと、この本を手にとりました

    ※んで結局何が言いたいかって言うと
    【風呂入ってると、隣の家の三姉妹が風呂で中島美嘉なグラマラススカイめちゃくちゃ歌ってるし…ヒドイ時はベルサイユの薔薇歌ってて 薔薇は♪薔薇は♪って結構うるさいよ!!】って事!!

    • こっとんさん
      おはようございまーす♪
      『名著と同じく名曲は古びない』
      まさしく!なるほどです!
      ※んで、結局何が言いたいかっていうと、ベルゴさんのレビュー...
      おはようございまーす♪
      『名著と同じく名曲は古びない』
      まさしく!なるほどです!
      ※んで、結局何が言いたいかっていうと、ベルゴさんのレビューの締めのコメントがいつも楽しみだってこと!
      私も梅やこぶしが好き〜(ベルゴさんの『なぜか「仕事が速い」人の習慣』のレビューより)
      2023/03/21
    • ベルゴさん
      家の娘
      平沢進は【神】と言ってますよ(笑)

      娘の好み
      岡村靖幸、及川光博、玉置浩二なんですけど
      全員【ベイベー♪言いがち】なんすよね…
      家の娘
      平沢進は【神】と言ってますよ(笑)

      娘の好み
      岡村靖幸、及川光博、玉置浩二なんですけど
      全員【ベイベー♪言いがち】なんすよね…
      2023/03/21
    • workmaさん
      ベルゴさん

      おお!( ・∀・)平沢進さんつながり!なんかうれしいです(*^▽^*)
      岡村靖幸・及川光博・玉置浩二…ベイベー♪御三家で...
      ベルゴさん

      おお!( ・∀・)平沢進さんつながり!なんかうれしいです(*^▽^*)
      岡村靖幸・及川光博・玉置浩二…ベイベー♪御三家ですな…!令和には あんまり いなさそう…だけど、コアなファンには たまらん魅力がありますな~( *´艸`)
      2023/03/21
  • 「バリバリ働くアラフォー女性」が次々と登場する短編集。スカッと爽快なストーリーは読んでいて気持ちが良かったです。
    都心の高層マンションの話は、自分にとって新鮮で面白かったです。
    印象に残った台詞は、「女は生きにくいと思った。どんな道を選んでも、ちがう道があったのではと思えてくる。」

  • 著者の伊良部シリーズ以外の作品を
    初めて読みましたが、面白かった!

    人の微妙な感情の動きと表現が上手く、
    ストーリーの流れが良いですね。

  • 「女は三界に家無し」という古い言葉がある
    幼い時は親に従い、嫁しては夫に従い、老いては子に従い、どこにも自分の意のままになる落ち着ける場所がないということだ

    女性の社会進出で女性の地位が向上しても、やはりいろんな束縛や偏見やに苦しめられるのは女性なのか
    ◯◯適齢期なんて、そもそも女性にしか使われないのでは
    結婚適齢期、出産適齢期・・・何といろんな縛りの中で女性は生きていかざるをえないのか

    しかし、ここに登場する女性たち、とても逞しく力強く
    強かに生きている
    男性に言いなりになんてなっていない
    やっちゃえ、やっちゃえ!と拍手喝采したくなった
    楽しい!おもしろい!

    『ガール』の中にこんな一節がある

    「きっとみんな焦っているし、人生の半分はブルーだよ
    既婚でも、独身でも、子供がいてもいなくても」

    「女は生きにくいと思った。どんな道を選んでも、ちがう道があったのではと思えてくる」

    『ワーキング・マザー』の中にはこんな一節も
    「女同士は合わせ鏡だ。自分が彼女だったかもしれないし、彼女が自分だったかもしれない。そう思えば、やさしくなれる」

    要は、無いものねだり、『隣の芝生は青い』
    自分が選んだ道を最善と信じて、生きていくしかないのかもしれない

    この本を読まれた男性諸氏が
    「女性は大変だね」の言葉だけで、片付けては欲しくない気がする
    男性にも責任の一端はあるような・・・

    『ヒロくん』に出てきた武田聖子の夫博樹のような、
    この前に読んだ「家族のヒミツ」の『虫歯とピアニスト』に出てきた孝明のような男性がもっともっともっと増えてくれればいいのになあと思う

    それにしても奥田英朗さん、どうしてこんなに女性心理が分かるんですか?
    面白すぎなんですけど・・・

  • 30歳代の女性が働く難しさをコミカルに表現していて、男性として、何故か寂寥感(物悲しさ)を味わった。20歳代はガールとして君臨するが、30歳代に入るとガールの世代交代が起き、新しいガールが君臨する。この役割の転換が何だか物悲しく思えた。毎日、職場の中で女性同士で繰り広げられる見えない情報戦、ぶん殴り合い、マウント、仕事・男性の横取り。この絶妙な駆け引きが繰り広げられていることを知り、ちょっとこ・わ・い。しかし全ての話しが後味最高で終了したので楽しめた。登場人物が「男前」であり、男性としても好感が持てた。

  • 働く女性達の本音を描いた5つの短編集

    ・ヒロくん
    ・マンション
    ・ガール
    ・ワーキング・マザー
    ・ひと回り

    どの物語も思い当たる節があったり、身近な誰かを思い浮かべたり、過去の自分と照らし合わせてみたり・・・
    それぞれに展開が上手く面白い作品だった。

    2009年=平成21年に発刊された作品だが、令和5年になっても、このお年頃の働く女性達の内情は、殆ど変わってないように思う。
    もしかしたら、今の方が個の様々な事情に対する認知度が上がった分、複雑化しているような気がする。

    男女のライフサイクルにおける決定的な違いは、出産だろう。最近では、メイクする男子も、スカートを履く男子も見かける様になったが、出産だけは遺伝子レベルで備わった機能であり、男女の垣根を越えられない。
    この出産こそが、いつの時代にも女性の生き方に大きく影響するのは揺るぎない事実だろう。
    そして多くの女性達は、出産適齢期やリミットが頭を掠めながら社会生活を営むのだから、産む産まないは別としても、女は強くなるのだと思う。

    本作は作者が男性というのにも驚いた。
    きっと観察力・洞察力に秀でた作家さんなのだろう。女心の機微をよく捉えた作品だ。

    ただ、もっと中性的な目線で楽しんでいる女性も意外に多いということを男性陣には知って貰いたいと思う。主人公達のキャラを敢えて分かりやすく傾けている為か、正直ややイタイ感じが否めない・・・笑
    強くしなやかな女性になる一歩手前だと理解されるといいんだけどなぁ・・・(誰に?)
    とぼやきたくなった。
    あっ、これって老婆心かしら?

    その一方で、男性社会の中で対等に生きる逞しさを身に付けて奮闘する女性達には、心からエールを送りたいと思った。

    全ての短編は、希望や救いが感じられるオチになっている。この作者の絶妙な心配りに感謝しつつとりあえず明日からまた頑張りますか〜!っと
    爽快感に浸れるので、週末に読むことをオススメしたい作品。

  • いずれも妙齢の女性の、感情の機微というか、揺れ動く気持ちをテーマにした短編集。

    理不尽なことに対する純粋な怒り、それがすごく素直に共感できた。

    それにしても読後の爽快感が素晴らしい。そしてこれを男性の作家が描いているということもとても素晴らしい。痛快ではないか。
    もちろんこれは男から見た感想だから、実際女性たちがこの本を読んでどう思うか、というのはわからない、だけど。

    価値観が違いすぎて、議論する気にもならない、というくだりが、とても心に染みたのだ。

    気の合わない人間はどこにでもいるが、きっと同じパーセントだけ、価値観の合う男女を配してくれているのだ。

    そう信じたい。

    • yuukichimaruさん
      この本を仕事仲間20代から60代までの女性、13名のグループで読んだ後、感想を伝えあったことがあります。それぞれの世代で共感できる部分は違う...
      この本を仕事仲間20代から60代までの女性、13名のグループで読んだ後、感想を伝えあったことがあります。それぞれの世代で共感できる部分は違うんです。
      女性同士共有できる部分とそれでもやはりできない部分て言うのがあるよねって、意外に互いのプライベートにも触れつつ話した思い出が。
      同じ奥田さんの『マドンナ』もその後でみんなで一緒に読んだことがありました。
      あれから時が過ぎ、以前とは違う価値観で読めるかなぁってちょっと思いました。
      2021/06/18
    • いし いるかさん
      なるほど、それはとても興味深いですね(^^)
      性差による感じ方は当然あるのでしょうけれど、あえて男性作家がこの視点で書いた、というところにと...
      なるほど、それはとても興味深いですね(^^)
      性差による感じ方は当然あるのでしょうけれど、あえて男性作家がこの視点で書いた、というところにとても面白さを感じました
      2021/06/18
    • yuukichimaruさん
      そうですね。後はお仕事をしている人、家庭で育児に奮闘している人、介護をしている人。「それぞれの立場でいろんな価値観があるよね。それを男性作家...
      そうですね。後はお仕事をしている人、家庭で育児に奮闘している人、介護をしている人。「それぞれの立場でいろんな価値観があるよね。それを男性作家が書いてくれていると言う意味はすごく大きいですね。」と。
      もっと多様な価値観を持たないとなーと先輩方の話を聞いて思った思い出も。
      2021/06/18
  • なぜ、どのストーリーも面白いのか。
    妙齢の女性の心情と現実を、これでもかとばかりの繊細なタッチで表してくれる部分は、異性からしてみてもうなずけちゃう。
    一見面倒くさそうな女性同士のコミュニケーションも、明るく強く描かれているため、なんの抵抗もなく読み切ることができた。中でも「ひと回り」はコントっぽくて好きになった。

  • 短編5話どれも良かった。
    男の私が読んでも純粋に面白かった。
    働く30代女性は、リアルにこんな感じなのだろうなぁと勝手に想像を膨らませつつ、やっぱり女性はかっこいいし、すごいなぁとリスペクト。
    そしてこんな女性目線の物語を男なのに書けてしまう奥田英朗にもリスペクトです。

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著者プロフィール

おくだ・ひでお
1959年岐阜県生まれ。プランナー、コピーライターなどを経て1997年『ウランバーナの森』でデビュー。2002年『邪魔』で大藪春彦賞受賞。2004年『空中ブランコ』で直木賞、2007年『家日和』で柴田錬三郎賞、2009年『オリンピックの身代金』で吉川英治文学賞を受賞。著書に『最悪』、『イン・ザ・プール』、『マドンナ』、『ガール』、『サウスバウンド』、『無理』、『噂の女』、『我が家のヒミツ』、『ナオミとカナコ』、『向田理髪店』など。映像化作品も多数あり、コミカルな短篇から社会派長編までさまざまな作風で人気を博している。近著に『罪の轍』。

「2021年 『邪魔(下) 新装版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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