新装版 とらんぷ譚 (1) 幻想博物館 (講談社文庫)

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  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062762519

感想・レビュー・書評

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  • 冒頭の「火星植物園」に痺れてハマった中井英夫の幻想譚。精神病院を訪れた「私」に医師が語り始めた。その内容は…。肌が粟立つこの魅力は半端ありません。中井英夫の真骨頂は短編にあり短編集のベストはこれで、中でも冒頭の一作です。

  • 初めて読んだ、中井英夫の作品。どれもこれも魅力的な作品ばかり。文章も勿論素敵。挿絵も綺麗で、より世界に浸れます。
    チッペンデールの寝台と、薔薇の夜を旅するときがお気に入り。
    解説が、大好きな澁澤龍彦なのも、よかった。

    幻想の中に生きる為には、やっぱり正常なままでは駄目なのだろうか。

  • 幻想文学の金字塔、中井英夫の、とらんぷ譚Ⅰである!

    澁澤龍彦の解説と、建石修志の挿絵見たさに新装版を捜したが、現在ほとんど市場に出回っておらず、手に入れるのが大変だった。

    実は自分はかつて同著者の代表作『虚無への供物』を読もうとして、途中で挫折した記憶があるのだが、『幻想博物館』から入れば良かったと今更ながら後悔している。

    ・・・・・・それはさておいて感想を書き残したい。短編として各作品は仕上がっているのに、一冊を通してみるともう一つの話が展開されている、連続短編ならぬ連作小説の斬新さもさることながら、一話の完成度も高く、味わい深い作品たちばかりだった。わけが分からなくなる話、というよりは、やはりそれは、あたかも自分が流薔園に赴く一人で、幻想博物館に展示させられた奇異なスぺクタルを眺めて楽しんだことを述懐しているような、妙にリアリティを帯びた『リアル』な話。だからこそ、最後の『邪眼』には物凄い衝撃と充実、感動を受けた。本当に、特に後半の話からは、時間を忘れて幻想を彷徨していたように感じる。

    特に好きな話を5つ、私が挙げるとするなら、『地下街』、『チッペンデールの寝台、もしくはロココふうな友情について』、『蘇るオルフェウス』、『薔薇の夜を旅するとき』、『邪眼』だ! たまらん、最高!

  • 読みながら久しぶりに鳥肌が立つ作品に出会えた。

    おぞましさと妖艶さが同居していて、
    現実なのか空想なのか分からないまま引き込まれてしまう短編集。

    皆川博子のような耽美な雰囲気の作品もあれば、
    ブラッドベリのようなブラックユーモア炸裂の作品もあり、好きな人にはたまらない世界観。

    父が息子に当てた手記から徐々に事件の真相が明らかになる『聖父子』、
    どんでん返しがピリリと効いた『大望ある乗客』、
    ラストの『邪眼』に全身が総毛立った。

    しばらくこの余韻から抜け出せそうにない…

  • 十三の、断片であり、長編のパーツでもある短編群。
    不吉で、煌びやかで、滑稽で。
    とにかく「不潔」という言葉からもっとも遠い、ノーブルな手品のよう。

  • この新装版が発売になったときは講談社がついに中井英夫の絶版になってた、とらんぷ譚シリーズをリニューアル再版してくれたよ!と大興奮でした。もう数十年前ですが、虚無への供物ではまった頃にはすでに他の中井英夫の文庫は古本屋で探すしかなくて、シリーズ4冊のうち3冊まではそろえたものの、どうしてもこれだけ手に入らなくて悲しかったものでした。澁澤さんの解説も素晴らしいですが、内容ももちろん絶品です。講談社さんありがとう(笑)

    火星植物園/聖父子/大望ある乗客/影の舞踏会/黒闇天女/地下街/チッペンデールの寝台/セザーレの悪夢/蘇るオルフェウス/公園にて/牧神の春/薔薇の夜を旅するとき/邪眼/※解説:澁澤龍彦

  • 薔薇の匂い。ずっと、薔薇の匂い。1つ1つ読み終える度に、薔薇の色が変わる、頭の中で。この小説を読んで、薔薇の「闇と光」が分かった気がするのです。

  • 『虚無への供物』と並ぶ、中井英夫の代表作。
    『とらんぷ譚』シリーズの第1巻。
    日本幻想文学の最高峰短編集。

  • 「火星植物園」「大望ある乗客」「影の舞踏会」「薔薇の夜を旅するとき」「邪眼」がとくに良い。


    以下引用。

      外側から薔薇を眺めるなどという大それた興味を、男はもう抱いてはいなかった。暗黒の腐土の中に生きながら埋められ、薔薇の根の恣な愛撫と刑罰とをこもごもに味わうならばともかく、僭越にも養い親のようなふるまいをみせることが許されようか。地上の薔薇愛好家と称する人びとがするように、庭土に植えたその樹に薬剤を撒いたり油虫をつぶしたり、あるいは日当たりと水はけに気を配ったりというたぐいの奉仕をする身分ではとうていない。まして自分で交配した種子を砂地にまき、クリリウムの何パーセントの処理土が発根に適切かなどと呟く園芸家、さらには書斎いちめんに文献をひろげ、ガリカやシアニジンの昔からの系統を探り、もしくは実験室で顕微鏡を覗いて、ペラルゴニジンとジアニジン系の色素の微妙な差異を定着させようとする学者などの仕事は、思っても身ぶるいの出るほど奇怪な作業とはいえないだろうか。
     将来、それらのいっさいは、精巧を極めたアンドロイドが、銀いろの鋼鉄の腕を光らせながら無表情に行えばよいことで、人間はみな時を定めて薔薇の飼料となるべく栄養を与えられ、やがて成長ののち全裸に剥かれて土中に降ろされることだけが、男の願望であり成人の儀式でもあった。地下深くに息をつめて、巨大な薔薇の根の尖端がしなやかに巻きついてくるのを待つほどの倖せがあろうか。うずくまり、眼を瞑って、その触手のかすかなそよぎが次第にきつく厳しく裸体をいましめてゆく、栄光の一瞬。これほどの高貴な方が、この醜い、下賎な奴隷に手ずから触れて下さるのだ。最後の最後まで意識は鮮明に保たれ、すでに半ば融けかけながらも、いまのいま肥料として吸いあげられてゆく至福の刻。
     根圧と蒸散作用の働くまま、導管と篩管の緑いろのエレベーターを自在に上下し、薔薇の内部を旅するとき、外側からだけ眺めてその美を讃えていた愚昧がはっきりする。細胞の一部に変じながらも、運よく緑の茎を最上階まで昇りつめて、花弁の構成分子となるよう命じられたとするなら、それはちょうど高層ビルの屋上に立って淡い色の天蓋を、空いちめんに張りめぐらされた光の薄膜を、それもオレンジや黄の暈に包まれた美しさを仰ぎ見るようなものだろう。ここは花の内部なのだ。柔らかな日光が照り翳りするたび心はときめき、眩しさと晴れがましさとのなかで、花の内部に住む楽しさを満喫できるに違いない。そのためにも早く、役立たずな肉体は地下に横たえ、暗い根の執拗なまで淫らな愛撫に身をまかせていたかった。

      TANTUS AMOR RADICORUM
      (なべての 愛を 根に!)     ――「薔薇の夜を旅するとき」(p.189~191)

  • 再読。52枚のトランプと2枚のジョーカーに模せられた幻想的な連作短編集です。さらに各スーツごとにひとつながりの大きな物語にもなっているというこだわり方で、質の高さといい構想の妙と言い、日本文学が生んだ短編集の白眉と言えると思います。

    「幻想博物館」は第1集にあたりますが、個々の作品の質の高さは随一で、どれひとつとっても反世界的な情念とセンスオブワンダーに満ちていて、捨て曲ならぬ捨て作品はひとつもないという驚くべき質の高さになっています。

    個人的に特に好きなのは「火星植物園」「大望ある乗客」「黒闇天女」「蘇るオルフェウス」の4作品です。三島由紀夫が自害した日にかかれたと言う「蘇るオルフェウス」などはそのまま長編にしても通じそうなほどの密度の濃さです。

著者プロフィール

中井英夫(なかい ひでお)
1922~1993年。小説家。また短歌雑誌の編集者として寺山修司、塚本邦雄らを見出した。代表作は日本推理小説の三大奇書の一つとも称される『虚無への供物』、ほかに『とらんぷ譚』『黒衣の短歌史』など。

「2020年 『秘文字』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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