ぼくのメジャースプーン (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (520ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062763301

感想・レビュー・書評

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  • 最後まで主人公の名前が出てこない作品。その『ぼく』の視点の物語。小学4年の『ぼく』が、大切な友達のために、『ぼく』にしかできない『復讐』の答えを探し求めるストーリー。

    小学4年生という設定からか、とにかく読みやすい圧倒的な読みやすさを感じた作品でした。『どうして蠅やアブラムシを殺してもいいのに、蝶やとんぼは殺しちゃいけないの?』、「子どもたちは夜と遊ぶ」から引きずるこの命題が再び登場します。私自身も小さい頃同じようなことを考えたことがありましたが、いつかしら積極的に考えることはなくなり、でも未だに人に説明できるような答えを持ち合わせていないという難題です。『人の生命は地球よりも重い』福田元総理が40年以上も前に使った言葉として伝えられるこの言葉もそうですが、命の価値ってなんだろう、この作品の中盤での『ぼく』と先生のいつまでも続くかのような問いかけを読んでいて、かつての私自身が経験したある事を思い出しました。

    小学校低学年のある夏の日、蝉がカマキリにつかまっている場面に出くわしました。ジージーと鳴き叫び暴れる蝉、放すまいと抱え込むカマキリ。咄嗟にしゃがんでカマキリを掴んで蝉から引き離した当時の『ボク』。その後、蝉を近くの樹の幹に放ちました。そうしてしばらくした後、蝉は飛び立って『ボク』の頭上をクルクルと回った後、遠くへ飛んで行きました。圧倒的な時間の経過にも関わらず未だによく覚えている光景です。『ボク』が生まれて初めて命を意識した瞬間でした。当時は自分は『正義だ』『正しい事をした』、蝉は『ボク』にお礼を言って去っていったんだ、そんな風に思っていましたが、本当にそうなんだろうか、食物連鎖という言葉を知ったのはそのずっと後のことです。何かが生きるためには何かが死ななければならない。でもその何かが...と繋がっていく世界。命には優劣があるのだろうか、この作品を読んであの時のことが頭に浮かびました。この作品の『ぼく』が『ぼく』にしかできない『復讐』の答えを探し求めていく時間、自身もすっかり虜になって命題に対する自分自身の答えを考えてしまいました。

    人は生きていく中で、いろいろな命と触れ合わずには生きていけません。そして、様々な瞬間でそれらを比較し、優劣をつけることを求められます。それは計量するのと同じ、みんな自分の中にそれぞれの『メジャースプーン』を持ってさじ加減の具合を調整している。かつての『ボク』は蝉を逃がしましたが、万人がそうはしないでしょう。この作品で『ぼく』が持つそれは、『ぼく』のさじ加減を褒めるふみちゃんからもらったものでした。そんな小さな『ぼく』が出した精一杯の真っ直ぐな『ぼく』にしか出せない結論。今の私には全く思いもよらなかった何ら打算のない、ふみちゃんのことを心から思いやって導き出した強い決意、それがわかるからこそそれを落としてしまった『ぼく』にふみちゃんは再びメジャースプーンを届けようとする。

    彼らも、そして私も、さじ加減を模索する旅は続きます。日々無数の答えの中から正しいと思うものをこれからもずっと探していかなければなりません。色々な経験、体験を通して、自分のメジャースプーンとともに生きていく毎日。自分のメジャースプーンは自分にしか測れないから。

    小さい頃に結論を出さずに置き去りにしたことを通じて、今の自分自身を見つめなおす時間が持てました。かけがえのない作品に出会えました。

  • すごく良かった。特にこの物語は辻村さんあるあるのリンク集を感じさせられる物語だった。重要人物のふみちゃんは凍りのくじらで少し登場したあのふみちゃんだったり...
    小学生の男の子が言葉で相手を縛り付けることが出来る超能力を使ってあるひどい事件で心を閉ざし、喋ることの出来なくなってしまった幼なじみのふみちゃんを助ける話。ざっくり要約するとこんな感じですかね?
    すごくよかったです。主人公が小学生と言うこともあり、読みやすかったし、内容も最高だった。次は名前探しの放課後を読んでみたいです。

  • めちゃくちゃいい。
    めちゃくちゃ泣ける。
    こんな素敵な物語を作れるって素晴らしすぎる。

    主人公の僕は四年生ながら、落ち着いて見えると作中でもよく言われていたが、本当にとっても賢い。
    私も純粋な子どもの彼にすっかり騙され共に泣いた。
    考えを捻り出して市川を縛る方法を思いつけるのも、そういう物語を作れるのもすごいよ。

    あんなにも大事に思える友達がいるって素敵なことだ。
    あんなにも友達を大事に思えるって素敵なことだ。

    私の息子も自分の命を投げ打ってまで友達を守ろうとしていたら、母としてはあまりに辛すぎる。
    二人とも助かって本当に良かった。

    そして秋先生がめちゃくちゃ紳士で良い先生!
    二人の会話はすごく重たく考えさせられる。
    大人で、冷静で、残酷で、温かい。
    正解のない、けれどきちんと考えたくなる内容。

    サンタの件も泣けたー

    かがみの孤城、ツナグと並ぶ辻村作品トップ3!
    いや、オーダーメイドも良かったしなぁ、
    トップ4?!

  • やっぱり辻村さん、すごいなぁ。私の拙い言葉で感想を述べるのがもったいない作品。主人公と秋山先生の道徳的会話をじっくり読んだ。ぼくは小学4年生ですか。なんて立派な小学生なのだろう。どんな大人ななるのだろう。

    • ヒボさん
      あささん、こんばんは♪

      辻村さんの作品、積読もたくさんあるんですが、本書はまだ持っていないんです...

      あささんのレビュー読ませて頂いて...
      あささん、こんばんは♪

      辻村さんの作品、積読もたくさんあるんですが、本書はまだ持っていないんです...

      あささんのレビュー読ませて頂いて興味津々。

      きっとそのうち読みま~す(^-^)/

      暑い日が続いてますが、体調気をつけてくださいね☆
      2023/08/02
    • あささん
      ヒボさん、こんばんはー♪

      辻村作品、分厚い上下巻が多いですもんね。辻村ワールドすごろく順ですと「子どもたちは夜と遊ぶ」の方を先に読むのを推...
      ヒボさん、こんばんはー♪

      辻村作品、分厚い上下巻が多いですもんね。辻村ワールドすごろく順ですと「子どもたちは夜と遊ぶ」の方を先に読むのを推奨されているのですが、さくっと一冊のこちらから手にとってしまいました。上下巻ものは絶賛積読中です。(p`・_・´q)

      ありがとうございますー!お互い熱中症に気をつけて、夏を乗り切りましょうー(^o^)
      2023/08/05
  • 1本の映画を観ているようでした。
    面白かった、と言うよりは、最後まで考えさせられる内容です。
    大切なものを傷つけられた時、許せるのか、それとも罰を与えるならどの程度が適当なのか。
    特別な力があったとき、使った方がいいのか、使わない方がいいのか。

    特に、P250の"もし、子どもに『どうして蠅やアブラムシを殺してもいいのに、蝶やとんぼを殺しちゃいけないの』と聞かれたらどう答えるか"という問いかけは難問だと思いました。
    実際に聞かれたら、私はどう答えるんだろう…
    おそらく正解はないけれど、考えることは必要なんじゃないかなと思います。

    ※物語の前半に少し残酷な描写があるので、苦手な方はご注意下さい。

  • 最近は本は図書館で借りることが多いのですが
    この本はもともと皆さんのレヴューが高かったので購入。
    結果、アタリ!

    直前に「子供たちは夜と遊ぶ」を読むことをオススメします。
    秋山先生と月子と恭司が出てきますので。
    「子供たちは夜と遊ぶ」で語った言葉はそれだったのか、、
    フムフム、、とすると思います。

    この本のテーマは「命の重さ」かな。
    ハエにもトンボにもウサギにも人にも命はあって
    その重みは何で決まるのかという話。

    あとは最後に犯人に「ぼく」が伝える「言葉の重さ」。
    これをメジャースプーンでぼくが秋山先生と語らいながら
    計ってゆく。そして最後そんな言葉を伝えるとは!

    「ぼく」も秋山先生もふみちゃんもみんないい人で
    また読みたい、そして皆さんにお勧めしたい一冊。

  • 大好きな「凍りのくじら」にも少しだけ出てくるふみちゃん。なぜふみちゃんの声が出なくなってしまったのかが書かれた作品。
    という前情報のみで読みだした。

    前半は、うさぎ殺しの書き方がグロくてきつかった。ただ、あそこで市川のしたことがきちんと書かれていることで、読者は市川=悪という構図を頭に入れられる。
    グロいけど、ふみちゃんとぼくと同じように、私たちも予期せぬできごとに向き合わなければならない。

    一貫して、ぼくからふみちゃんへの愛が溢れている。小4だとか、子どもだとか関係ない。その想いはホンモノだし、とっても素敵。誰かのことを想って行動するってすごいことだ。とても考えさせられる作品だった。
    最後は泣きそうになったけど、電車だったから耐えた!

    辻村さん、素敵な作品をありがとうございます。

  • 犯罪を犯した人が罪を心の底から悔いて、反省するにはどの様な罰がいいのだろうか。恐らく、どんな罰を与えても被害者は納得はできない。なら、どうすれば・・・。
    大学教授の秋山先生と、「僕」が哲学的な問答を重ねながら物語は進む。先生の台詞にはこころに突き刺さる言葉がいっぱい。
    結末がまた良かった。救いのある物語のラストに顔がほころんだ。時間があったらまた読み返したい。そう思えた一冊だった。

  • 明確な答えが出せないテーマですごく考えさせられる。
    自分が親になったときに子供に対して理解できるように説明できるだろうか?

    平等に裁くために法が定められているが心情的には納得できないことは無数にある。
    少年法やら責任能力やら
    犯人の生い立ちが分かると見方が変わったり
    表面的な部分だけで捉えてしまわないように気を付けなければいけない。

    正解が無い問題かもしれないが、難しいからといって考えるのをやめてはいけないと感じた。

  • かなり前に読んだ本で、
    自分が初めて
    辻村さんの小説に触れた一冊。

    頭の中では
    読んでる間中ずっと
    the pillowsの
    「My girl」が流れてました。


    どんな言葉より
    どんな光より
    僕を救ってくれた女の子
    キミに会いたいな
    キミに触れたいな
    だけどたぶんもう
    別人みたいさ

    my girl
    come back to me…




    っていうやつ。



    若い作家だとは聞いてたけど
    丁寧に丁寧に心理描写を重ねた
    エモーショナルに胸を打つ構成に、
    駅のベンチであるにも関わらず
    込み上げてくるものを抑えられなかった。

    それくらい衝撃を受けた作品です。



    相手を縛る不思議な力を持った
    小学4年生の「ぼく」。

    「ぼく」の同級生で、
    分厚い眼鏡をかけ
    頭脳明晰でうさぎ好き、
    みんなから慕われるも
    凛とした一匹狼の
    ふみちゃん。


    ある日、
    学校のうさぎを
    バラバラにするという
    猟奇的事件が発生。
    誰よりもうさぎが好きで世話をしていた
    第一発見者のふみちゃんは、
    犯人の圧倒的な悪意に
    心を壊してしまう…。


    人は大事なものを
    失くしたり
    傷付けられた時、
    どう乗り越えていけばいいんだろう。

    既存のモラルなど通用しない
    圧倒的な悪の存在にどう立ち向かえばいいのか。


    たった一人の理解者である
    ふみちゃんを暗闇から救い出すために、
    ふみちゃんの宝物であるメジャースプーンを手に
    「ぼく」は犯人と
    戦うことを誓います。


    「ぼく」と同じ力を持つ秋先生とのやりとりや
    ぼくの葛藤が綴られた中盤は
    少しクドく感じられるけど、

    復讐というものの重さと
    それによって負うことになる責任を
    読む者に提示するためには、
    この長さは絶対に必要だったんだろうな。


    失ったものは取り戻せないけれど、
    やり直すことは出来る。

    誰かのために頑張ることは
    決して偽善なんかじゃなく、
    「好き」から始まる
    行動力だけが
    変わらない何かを
    変える
    唯一の力になるんだと自分は思います。


    果たして
    不思議な力を使う「ぼく」は
    圧倒的な「悪の王様」に
    罰を与えることができるのか。

    そして心が壊れてしまったふみちゃんに
    いつか光が射す日は来るのか。


    あまりに老成した
    「ぼく」のキャラ設定に若干の違和感は残るけど、

    間違いなく心に響いて、
    読む者の記憶に
    残り続けるであろう小説です。

    • まろんさん
      『凍りのくじら』に感動して以来、気になってる作家、辻村深月さん。

      読み始めると、かなり入り込んで、
      他のことが手につかなくなる印象の作家さ...
      『凍りのくじら』に感動して以来、気になってる作家、辻村深月さん。

      読み始めると、かなり入り込んで、
      他のことが手につかなくなる印象の作家さんなので
      上下巻の上だけ買ってあるものとか、何冊かストックしてあるのだけれど
      次に何を読もうか、かなり迷ってました。

      円軌道の外さんが、これだけ衝撃を受けた作品なら
      次はこれにしてみようかな(*^_^*)
      2012/06/08
    • 円軌道の外さん

      まろんさん、
      まったくその通りで
      自分もどっぷりのめり込んじゃうほうなので、
      いろんな意味で心に余裕ある時じゃないと
      辻村さんの...

      まろんさん、
      まったくその通りで
      自分もどっぷりのめり込んじゃうほうなので、
      いろんな意味で心に余裕ある時じゃないと
      辻村さんの作品は
      しんどいんスよね〜(笑)(^_^;)


      ただホンマに
      辻村さんの小説は
      心理描写を描くのが上手くて、
      一気読みしちゃう中毒性がありますよね。

      自分も「凍りのくじら」から入って
      この作品読んだんやけど、

      辻村さんの小説はどれも
      結構昔の作品ともリンクしていて
      登場人物も
      過去の作品の人たちがチラチラ出てくるみたいなんで、

      できれば伊坂さんの作品のように
      デビュー作から順番に読むのが
      一番楽しめる読み方なんかもなぁ〜って
      最近は感じてます(笑)

      2012/06/13
    • まろんさん
      おお、やっぱり他の作品とリンクしてたり、っていうのがあるんですね?!
      (↑そういうの大好きなので、かなりテンションがあがっている♪)

      デビ...
      おお、やっぱり他の作品とリンクしてたり、っていうのがあるんですね?!
      (↑そういうの大好きなので、かなりテンションがあがっている♪)

      デビュー作から順番にって、確かにそれが一番いいかも。。。
      図書館だと作品全部そろってないみたいだったので
      いったんネットでデビューからの流れを追ってみます!
      アドバイスありがとうございます(*^_^*)
      2012/06/13

著者プロフィール

1980年山梨県生まれ。2004年『冷たい校舎の時は止まる』で第31回メフィスト賞を受賞しデビュー。11年『ツナグ』で第32回吉川英治文学新人賞、12年『鍵のない夢を見る』で第147回直木三十五賞、18年『かがみの孤城』で第15回本屋大賞を受賞。『ふちなしのかがみ』『きのうの影ふみ』『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。』『本日は大安なり』『オーダーメイド殺人クラブ』『噛みあわない会話と、ある過去について』『傲慢と善良』『琥珀の夏』『闇祓』『レジェンドアニメ!』など著書多数。

「2023年 『この夏の星を見る』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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