- Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
- / ISBN・EAN: 9784062763349
作品紹介・あらすじ
風呂の撹拌棒を人にあげたがる女、鋸を上手に使う娘、北の湖を下の名前で呼ぶフランス人、そして空気の抜けるような相槌をうつ主人公…。自覚のない(少しだけの)変人たちがうろうろと、しかし優しく動き、語りあう不思議なユートピア。柔らかな題名とは裏腹の実験作でもある、第一回大江健三郎賞受賞作。
感想・レビュー・書評
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「猛スピードで母は」にハマり、超速で買った長嶋有さん二作品目。
相変わらずのこのゆるり感。
良いですねぇ…( ´ ▽ ` )
修飾し過ぎない、伸びやかで透明感のある文体。
自然体を地で行く、さわやか純文学という感じでしょうか。
村上春樹さんとかとは真逆を行くイメージです。
そして、まあ何というかエモいですよねぇ…
お風呂のかき混ぜ棒とか、なんかそんなもん昔あったなぁ…とか(笑)
登場人物の名前とかも…朝子とか夕子とか…何か具合が絶妙ですよね。
あと、個人的にはもう瑞枝さんにひたすらにメロメロにされました…( ̄▽ ̄)
天真爛漫さとミステリアスさ、そしてときおり見せる弱さという、このバランスがもう絶妙で絶妙で…
今まで読んだ小説の中でも一番ハマった女性かも(笑)
「私の子供をつくってくれる?」のくだりとか…もう東京ラブストーリーを彷彿とさせる勢いでしたね…
こんな女性だったら、もはや騙されても良いからお付き合いしてみたいなぁ…
あと、全体的にはちょっと長過ぎたかなという気もしました。
けっこうな読み疲れ感あり…
こういう系の小説は、さらりと短く美しくで終わった方が良いのかなと。
まぁでも、それにしても長嶋さんの描く女性は素敵ですねぇ…(´∀`)
さあ、さらなる出会いを求めて次の一冊を…( ̄▽ ̄)
<印象に残った言葉>
・そんなことしてどうするのって問いかけてくる世界から、はみ出したいんだよ(P70)
・じゃあ君、私の子供つくってくれる(P110、瑞枝)
・「弱っている人は、人前に出ない方がいいんだ」こないだ昼間にガメラも海底で一人で傷を治していたよ。(P110)
<内容(「BOOK」データベースより)>
風呂の攪拌(かくはん)棒を人にあげたがる女、鋸(のこぎり)を上手に使う娘、北の湖を下の名前で呼ぶフランス人、そして空気の抜けるような相槌をうつ主人公……。自覚のない(少しだけの)変人たちがうろうろと、しかし優しく動き、語りあう不思議なユートピア。柔らかな題名とは裏腹の実験作でもある、第1回大江健三郎賞受賞作。(講談社文庫)
第1回大江健三郎賞受賞作、ついに文庫化。フラココ屋というアンティーク屋の2階に居候暮らしを始めた「僕」。店長、常連さん、店長の孫たちなど彼を取り巻く人々と時間の流れを丹念に描く。連作短編集。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
大学時代、図書館に通って読み耽っていた、この「夕子ちゃんの近道」を、ずっとずっと読み返したいと思い続けて、旅先の本屋で見つけ、ついに叶った!
久しぶりに読んでみると、全く違う感覚が。
作品を通してほのかに感じる、奇妙な薄暗さ。
そして、最後の方で気づく。
主人公の素性が、最後まではっきりわからないのだ。
主人公が、どうしてフラココ屋の屋根裏にやってきたのか。彼は何者で、どこからやってきたのか?
ゆるりとつながっていく、近所の人たちとの日常。
皆付かず離れず、仲良くしているようで、お互いの深い部分は、なにも知らない。
夕子ちゃんの近道。
知ってるようで、知らなかったこと。
ほんとうのことは、なにも知らない。かも。
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とてつもなくここちよく、ぼくにとっては、とてつもなくスリリングな作品。だって、この作品を読んでいて、何度か電車を乗り過ごした、乗り過ごしそうになった。
でも、このここちよさは、きっちり、ていねいに物語ることを意識した、作者の力量だと思う。 -
アンティークショップを舞台とした連作短編集。
「透明で背景みたいなひと」と評される主人公は、最後まで、名前はおろか、生い立ちや年齢といったプロフィールの一切を明かされない。自分が何者かである必要がない、人生の中でぽっかり空いた「夏休み」のような時間をきりとった作品なのだとおもう。
ユーモアを交えた会話や描写、作品全体を包むゆるやかな空気感を楽しみつつ。それでもやはり、人は、ここにずっと留まり続けることはできないのだと感じた。此処から「ぼく」はどこに旅だっていくのだろう。 -
骨董屋フラココ屋を中心に、ちょっと変わった部分を持つ人々が行き交い、影響を受けあったりそうでもなかったりして過ごす日々の物語
深く関わるようで、そうでもなく、それぞれが好き勝手に生きて物事を決めて日々を生きている。実は帰る家があるのだけれど、フラココ屋に住み込みのバイトとしてやってきた主人公は若くもなく年寄りでもなく、作中で名前が出ることは無くセリフもモノローグのように「」が無い、なんだか印象が薄い。しかし、居なくなっても何も変わらない、ではなくフラココ屋近辺の人達にとっては「大事な人」として認められている。それが分かる終盤は良い。
全体的に薄味な印象で、人によっては「つまらない」となるかもしれないが…自分はこの「地続きの日常」感が好き。堀江敏幸作品が好きな人には合いそうだと思う。
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長嶋有作、記念すべき第一回大江健三郎賞受賞作。
賞っていうのは与える対象によって賞自体の性格が定められるような部分がありますけれども、
第一回の受賞が長嶋有のこの作品だとそのあと大変そうな気がします。まだ続いてるんでしょうか、大江健三郎賞。そこら辺無知なのですいません。
何故大江健三郎賞の受賞作がこの作品だとそのあと大変なのか。
解説で大江健三郎も語っております通り、この作品、というか近年どころか今までの長嶋有作品に特に顕著な部分として、
主人公の影の薄さがとても強く、それは日本で言われるところの「純文学」には全く見られそうにない特徴であるからです。
さらに大江健三郎は、そのことに対して解説で「新しさ」を感じたことを論評で言ってます。
賞を与える理由として「新しさ」を挙げるとなると、その賞の選考自体がどんどん尖鋭化するのは間違いない。
というわけで大江健三郎賞、思いきったなーと感じたわけです。
そのように他の文学作品にはあまり見られないほどこちらの作品は尖鋭的であるのですが、
なんだか印象としてはゲーム、殺人事件の起きないアドベンチャーゲームみたいな趣で面白かったです。
大きな事件は起きまくっているわけですが。それこそ殺人事件なんかより現実的な。 -
芥川賞を取られている方の作品なので文章は巧みなのかもしれないが、私にはなじまない作品であった。会話は、最初は「」が付いているものの、その返答には「」が付いていないという特殊な文章で、集中して読まないと分かりにくい構成になっている。また、情景描写に不足が多いと感じることが多く、状況がすんなりとイメージできないシーンが多々あった。特に大きな事件が起きるわけではなく(妊娠事件はあるが…)、ちょっと変わった日常を不思議な視点から見つめた作品である。作品の紹介に「実験作」と記載があるが、頷ける。
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こういうオムニバス形式は好きな形態だ。
古道具中野商店と同じ、というか、
裏・古道具中野商店、か。
いや、どちらが裏でどちらが表か、は、
ちょっと決められないかもしれない。
コインの裏表である。
しかし、今読むと、貴闘力は、何とも言えない。 -
骨董品屋、フラココ屋の2階に居候する主人公の周りで繰り広げられる日常が描かれる。それぞれが思い悩みながらも、今ある自分の人生を生きる、ゆったりとした時間が流れるフラココ屋の空気を感じられて心地よい。登場人物がみな個性的で温かく、特にタイトルになっている夕子ちゃんは次女らしい自由さと、一生懸命なのに抜けているところが可愛らしい。