- 講談社 (2009年10月1日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (442ページ) / ISBN・EAN: 9784062764865
感想・レビュー・書評
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バイオレンス小説の巨匠が、幼少期からの自らの人生を振り返った長編自伝小説。
私はほかの勝目作品は読んだこともないし興味もないが、小谷野敦と福田和也がそれぞれこの小説を絶賛していたと知り、手を伸ばしてみた。
なるほど、たしかにものすごい迫力の作品で、一気に読んでしまった。
少・青年期のエピソードもそれぞれ面白いが、なんといっても圧巻は、作家を目指してからデビューするまでが中心となる後半である。
勝目梓は、かつて純文学作家を目指していた。しかも、芥川賞の候補にものぼるなど、世に出るまであと一歩のところまで行っていた。しかし、悩みに悩んだすえ、自分に純文学は向かないことを悟り、暴力とセックス満載の通俗エンタメ小説に舵を切る。
純文学からエンタメに転向して成功した作家は、ほかにも山ほどいる。北方謙三、宇能鴻一郎、五味康祐などなど。しかし、転向に至るまでの内面の葛藤を、これほど赤裸々に明かした作家はいなかった。
デビュー前の勝目は名高い同人誌『文芸首都』に所属し、そこで若き日の中上健次と出会う。また、別の場で芥川賞受賞以前の森敦と出会い、彼を文学上の「師」と思い定めて薫陶を受ける。だが、この2人との出会いによって、むしろ勝目は純文学との訣別を決意したのだった。
《彼を文学的な迷路の奥深くに誘い込んだのが仮に中上健次だとすると、そこからの訣別を決意させてくれたのは森敦だったと言える。そろって文学の権化さながらだったこの二人に出会って、彼は目指す先に自分の出る幕などないことを、はっきりと思い知ったのだった》
北方謙三は純文学を書いていたころ、それまでに書いたボツ原稿の山をタテに積んでみた。山の高さは北方の背丈を越えていた。それを見た瞬間、彼は純文学を断念し、エンタメへの転向を決意したという(※)。
※後注/……という話をインタビュー記事で読んだ記憶があってうろ覚えで書いたのだが、最近北方が書いた別のエッセイを読んだら、事実は少し違っていた。エンタメ作家としてデビューを果たしたあと、雜誌の企画でかつてのボツ原稿を積み上げてみたら、背丈より高かったのだという。
また、久世光彦は東大生時代に小説家を目指していたが、やはり東大生だった大江健三郎に才能の差を見せつけられ、文学の道をあきらめてテレビ界に身を投じたという(もっとも、久世はテレビ界で一家を成したのちに小説家としても活躍したが)。
そのように転向をめぐるさまざまなドラマがあるなかで、勝目のそれもまた非常に印象深い。
《思えば二年半にわたった彼の熱心な“森敦詣で”は、結果的には、文学からの彼自身の決定的な敗走の道程に他ならなかった、と言える。その間の彼は、一歩前進しては二歩後退するといったような悩ましい停滞をつづけながら、己の天分に少しずつ見切りをつけていったのだった》
森敦は無名時代からすでに「多くの文学的信奉者たちに囲まれて」おり、彼ら「信徒」たちが日々“森敦詣で”に訪れていたというのだから、すごいものだ。
本書は、森敦と中上健次の素顔が垣間見られる点でも価値ある一冊といえる。
また、勝目はこれまでに2度の離婚を経験しているが、そこに至るまでの修羅場も赤裸々に描かれている。
作家は自信作ほどそっけないタイトルをつけるものだそうだが、『小説家』というシンプルこのうえないタイトルにも、勝目の自信のほどが表れている。
自らをさらけ出し、血を流すようにして書かれた渾身作。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
南アフリカ、ケープタウンなどを舞台とした作品です。
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勝目梓の作品
