スロウハイツの神様(下) (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社
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本棚登録 : 9210
レビュー : 1058
  • Amazon.co.jp ・本 (488ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062765572

感想・レビュー・書評

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  • 「ラストスパートがハンパない」

    <マイ五ツ星>
    記憶力:★★★★★

    <あらすじ>-栞&ウラ表紙より
    人気作家チヨダ・コーキの猟奇的なファンによる、小説を模倣した大量殺人事件。
    これを境に筆を折り、闇の底にいた彼を、少女からの128通の手紙が救う。
    事件から10年、アパート「スロウハイツ」では、オーナーである脚本家の赤羽環とコーキ、そして友人たちがそれぞれの夢を持って共同生活を送っていた。だが、新たな住人となる謎の少女の出現で、彼らの時間は思わぬ方向へ動き出す……。

    <お気に入り>
    …彼が「大丈夫です」と大袈裟なガッツポーズを組んだ。痩せた腕でやっても、笑い出しそうなほどかっこ悪い。だけど、それは、自分たちに拍子抜けするほどの安心感と存在感を与えてくれる、この上なくかっこいい仕種だった。
    「大丈夫。みんなでやれば、絶対に終わります」
     これが、うちの手塚治虫なんだよな。

    <寸評>
    なんとあたたかい物語を書くのだろう。

    著者・辻村深月さんの作品は、巧妙に張り巡らされた伏線や他作品とのリンクなどのミステリ要素が楽しめるのはもちろんであるが、読んだ後は、いつも包み込まれるような愛を感じる。
    “上手さ”だけでない“心”がある。

    文庫5作目となる『スロウハイツの神様』は、前4作とは異なり、登場人物が死傷するような事件はない。脚本家として成功を収めつつある環をオーナーに、児童漫画家を目指す狩野、映画監督志望の正義、画家の卵のスーなど、それぞれの夢を持ったクリエーターたちが、共に生活する「スロウハイツ」を舞台に、憧れであるカリスマ作家チヨダ・コーキを間近に見る幸福と刺激の中で、時に苦悩し、時に衝突し、時に協力し、それぞれの成長を遂げてゆく、若者たちの物語である。

    まさに現代の“トキワ荘”で、六者六様(?)の、創作への思い、熱意が交錯する。
    読者はそれぞれ“お気に入り”に出会い、時に自分を重ねて期待し、失望し、熱くなり、悲しみを共有する。
    そして、根底では常に愛がスロウハイツをまるごと包んでいたことを知ったとき、読者はあふれる涙を抑えられないだろう。

    今回も、定番となったお得意の“他作とのリンク”も健在で(ただし本作が初読みでも何ら問題はない)、また謎解きの好きなミステリーファンの要求にも堪え得る“伏線→回収”も見事である。
    だが、それだけではない。ミステリーファンならずとも、あたたかい物語が好きな方にも満足いただける作品である。

    物語はあくまで淡々と進む。大きな事件というものは無く、「スロウハイツ」の名のままに。だが、その中にはたくさんの宝石が隠されている。ものすごいラストスパートとともに読み終えた時、きっとそれら一つ一つが、まばゆい、そして優しい光でキラキラと輝いているはずである。

    • koshoujiさん
      「疾走」へのコメントありがとうございます。
      どこにご返事しようか迷いましたが、こちらに返答させていただきます。
      ウェッチさんはさすがにご...
      「疾走」へのコメントありがとうございます。
      どこにご返事しようか迷いましたが、こちらに返答させていただきます。
      ウェッチさんはさすがにご職業柄でしょうか、非常にしっかりしたレビューをお書きになっておられるので、いろいろと楽しく読ませていただきました。
      SNSで綴ってきた書評を移転中とのことですが、移転するだけでもかなりの労力を消費しますよね。

      「疾走」は、途中まで地獄絵図を観ているかの如き、凄まじい描写に圧倒されますが、あの最後のシーンに辿り着くと、涙がとめどなくあふれ出る本当に感動する物語でした。
      途中読むのがつらくなる時もありますが。
      同様に辻村深月のこの作品も、伏線回収の見事さと十章以降で明かされる真実に感動の涙が心を打ち、幸せな気持ちになれる作品でした。
      辻村深月って凄い作家だなあと。
      私のベスト本です。
      彼女の作品は全て読みましたが、今は最新作「鍵のない夢を見る」を読み終え、ファンとしては少し不安を感じました。
      独断と偏見で言えば、結婚、出産、子育てで、現在は作家活動に多少無理、或いはスランプが来ているように思えます。少し休んで、長篇を練ってもらったほうがいい作品ができるのではないかと。

      とりとめがなくなりましたが、今後も数々のレビュー楽しみにしております。
      2012/06/30
  • そうか、天使ちゃんをちゃんと見つけていたんだ。
    読んでいてどこかほっとした。
    途中からあれ?と思ったのは勘が当たっていた。

    莉々亜の話も分かりやすくてやっぱり、という感じ。
    これは読者を騙すことに重きをおいていないのかなという気がする。すごく環に反発していたのは、環が天使ちゃんと気づいていたからなのか?

    途中からコーキの環への愛が語られ、ああ、環の片思いじゃなかったんだと嬉しくもなり、でもそれって恋人としてというよりは人間愛だよな、これからどうかなるのかな。

    きっと、コーキは言わないのだろう。
    天使ちゃんを見つけていたこと。ずっと見守っていたこと。
    辻村深月の物語はとても優しい。

  • とってもとっても良かった!!
    上巻は正直読むスピードも遅くて、もったりな感じだったけど、下巻が神がかっていた!下巻のための上巻でした。
    諦めずに下巻読んで本当に良かった。
    環とコーちゃんの関係がとても良い。再会できてよかった。
    鼓動の話を倒れてしまった環の代わりに書き上げるスロウハイツのメンバーとか素敵。
    一転二転の伏線回収も面白い。
    こういうの弱い。

    珍しく、あとが気になって夜寝る前にもずっと読んでた。

  • なんて素敵な読後感だろう。
    爽やか~。
    こうちゃんの回想のとこで、もう、わぁ~っ!!ってなった。わぁ~!!!!って。
    やっぱり、嘘つけない人なんだね。
    あぁ~、良かった!

  • 初めての辻村作品。夢を目指している若者のお話に一見思えるが、私には『愛』をテーマにした、愛に溢れた物語に感じた。それぞれの登場人物が、それぞれなりの様々な愛情を分けたり与えたり受けたりしながら仲間と住んでいるお話。その愛を偽善ととることは、とても荒んでいるように思う。それは主観的な正義を振りかざす政治家のようにダサいことだと思う。
    一つ分からなかった所があって、正義がなぜ幹永舞の正体を分かったかのか?Can ableのところ。。。他の方のレビューに、辻村さんは登場人物の『名前』に伏線をはったりすると書いてあり。。。あっ!なるほど!やられた!もう一回読もう!と思いました(笑)
    そしてこの本のメインストーリーである『コウちゃん』の復活までのお話。伏線の回収も全てしてくれますが、
    ここがね、もうね、たまらないんですよ。胸が苦しくなるくらいに。愛に溢れていて。カフェで号泣です。
    もちろん環も正義もスーもエンヤも狩野も黒木も拝島もリリア(こいつは自己愛)も、愛に溢れる人物だけど、コウちゃんは別格。そう。『トキワ荘』に一人だけいた手塚治みたいな感じ。
    最後はね、それぞれがそれぞれらしく終わります。うん、面白かった!オススメです!

    • koshoujiさん
      初めまして。
      私も号泣でした。
      未だに何度読み返しても十章と最終章は涙があふれ出てきます。
      辻村さんには、初期のこの頃のような、読者を...
      初めまして。
      私も号泣でした。
      未だに何度読み返しても十章と最終章は涙があふれ出てきます。
      辻村さんには、初期のこの頃のような、読者を思い切り感動させる白辻村路線の作品をもっと書いてほしいのですが・・・・・・。
      2015/07/08
  • (読み続けるのを)どうしようかな
    と 思いつつ 20ページほど読み進めた頃
    から
    おっ これは…
    と なってきた

    そして 80ページを過ぎた当たりからは
    それはそれは 楽しく
    文字通り 時間の観念を忘れて
    ページを繰るのも忘れてしまうるぐらいの
    読む楽しみを満喫させてもらった

    不器用は素敵だね
    うまく自分のことを表現できないことは
    こんなにも素敵なんだよ

    こんなこと
    小説でしか表現できないことかもしれない
    と 感じてしまいました

  • 辻村深月『スロウハイツの神様』を読了。辻村深月の作品はこれが初めてだった。

    正直、ここまで感動させられるとは思っていなかった。危なく涙がこぼれそうになってしまった。

    オレはドラマとか映画みたいな、映像化作品には比較的感情移入しやすいのだが、活字で泣きそうになるというのは初めてだったから自分でも驚いた。かなりいい作品である。

    メインの登場人物はスロウハイツの住人たち。小説家に脚本家、漫画家の卵に映画監督の卵、画家の卵等々。一人ひとりの物語がすごくいい。中には壮絶で生々しいものもあるが、それもまた感動できる。

    文庫は上下巻構成だが、上巻の本当に何気ない台詞すらも伏線になっていたりして、それらが下巻で解き明かされていく感じが堪らない。こういうところに少しミステリらしさを感じた。

    『スロウハイツの神様』は青春ミステリも悪くないと思わされた作品。それどころか、心が洗われるようですごくよかった。

  • とても感動した。物語から、解説まで。泣きじゃくる類のものではなかったけれど、それは感動の度を下げる目安ではない。この作品をとても好きだと言う人が沢山いることがとても納得できた。

    加々美莉々亜の正体と思惑。鼓動チカラの正体と利用価値。ダークウェルの原作者の正体とその成り立ちの情けなさ(笑)スーの自身の依存癖はの共存の道筋。正義のデビュー作で断ち切ったことで守ったもの。狩野の夜の校舎の屋上で見上げた空、浮かんだ月、包み込むような雲の柔らかいうつくしさ。環のこれまで、そこにあった書くことへの一番核になったもの、それが連れて行ってくれるこれからの彼女の片鱗。そして千代田公輝のありったけの祈り。

    物を作るのは苦しい。作らない苦しさよりましなだけで。自分の中をかき回し、あらゆる考えを飲み込んで、託された世界を、物語を、命のぬくもりを、ただ必死に触れられる何かへつないでいく。
    作家は神様じゃない、物語を託された奴隷のようなもだと思う。自分でその地面を選んだ。縛り付ける鎖は自分の真実だけだ。
    いろんな作家がいるけれど、人格破綻者もそれはそれはいるだろうけれど、そんなの当り前だ、世界を愛しているのに、愛されていることを知っているのに、自分以外ではいられない。愛の下敷きのない作品はない。私はそう思って生きてきて、この物語に出会えてよかった。

  • 辻村深月はやってしまった。

    拍手。


    すばらしいです。



    ありがとう。本当にありがとう。

    僕はとても、大好きでした。

    彼女がなかの人物たちに与えた答えも、それに至る描写も、明かせない過去も。

    大好きでした。

    涙が出ます。

    正直、大枠は読めるかもしれない。
    でもそれがわかったからと言ってなんだろう。
    テレビも、ケーキも、そしてあの空も。

    すべてに意味がある。

    世界は自然に、成り行きでできているのではない。
    誰かが強い意志を持って為したことが現象を生み、その折り重なったものが世界をつくる。

    本当に本当にありがとう。
    私はこの作品があるから、いつまでも、上を見て生きていけます。

    • koshoujiさん
      初めまして。
      私もこの作品を読み終えた後には、辻村さんに
      ”ありがとう”
      と言いたくなりました。
      それほど、泣かせられ、感動させられ...
      初めまして。
      私もこの作品を読み終えた後には、辻村さんに
      ”ありがとう”
      と言いたくなりました。
      それほど、泣かせられ、感動させられました。
      環とコーキのそれまでの真実が明かされる章。
      涙が止まりませんでした。
      本当に素晴らしい作品ですよね。
      何度、読み返しても涙が溢れてきます。
      同じ感情を持たれた方がいて、とてもうれしいです。
      2014/06/01
    • Zakiさん
      〉koshoujiさん
      いまさらすぎて大変もうしわけない。。。
      同じ感想を持った方がいて、僕も嬉しいです
      〉koshoujiさん
      いまさらすぎて大変もうしわけない。。。
      同じ感想を持った方がいて、僕も嬉しいです
      2018/08/24
  • すいません、と謝りたくなるほどに良かった!

    オビの「カンドウ」なんて、ちゃんと漢字にしてください、感動、と。

    上巻から、どんな風に収束していくんだろう?
    って思っていたけど、いやいや収束というより展開に次ぐ展開!
    分かっていても、引き込まれました。
    上巻でレビューした、環の痛さとコーキの無垢さがこれでもか!というほど、私の心を満たしてくれて、しあわせです。良かったわ。

    物書きにとっての責任に潰されかけていたコーキが、また物書きであることで救い、救われる場面がとってもいい。

    私の言葉が、誰かにとっての何かになると信じることは、おこがましいと感じるけれど。
    誰かにとっての何かになったときの、例えようのない嬉しさはよく分かる。

    環の大切さ、環を囲むスロウハイツの人々の大切さがじんわりと伝わってきた。

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著者プロフィール

辻村深月(つじむら みづき)
1980年山梨県生まれ。千葉大学教育学部卒業後、2004年『冷たい校舎の時は止まる』で第31回メフィスト賞を受賞しデビュー。2011年『ツナグ』で第32回吉川英治文学新人賞、2012年『鍵のない夢を見る』で第147回直木三十五賞、2017年『かがみの孤城』で「ダ・ヴィンチ ブックオブザイヤー」1位、王様のブランチBOOK大賞、啓文堂書店文芸書大賞などをそれぞれ受賞。本屋大賞ノミネート作も数多く、2018年に『かがみの孤城』で第6回ブクログ大賞、第15回本屋大賞などを受賞し、2019年6月からコミック化される。他の代表作に『子どもたちは夜と遊ぶ』『凍りのくじら』『ぼくのメジャースプーン』『スロウハイツの神様』『名前探しの放課後』『ハケンアニメ!』『朝が来る』など。新作の度に期待を大きく上回る作品を刊行し続け、幅広い読者からの熱い支持を得ている。2020年、河瀬直美監督により『朝が来る』が映画化される。

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