救急精神病棟 (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (480ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062765633

作品紹介・あらすじ

緊急治療を要する精神病患者に24時間取り組む病院の真実! 日本初、救急の精神病患者を専門に受け入れ治療する千葉県精神科医療センターを3年間にわたり密着取材。「精神科救急」と呼ばれる医療の現場をあますところなく精密に活写した。24時間態勢で最前線に立つ医師、看護師たちの闘いと苦悩と喜び、新薬の登場、そして精神科医療の大変革を描く渾身のノンフィクション。

感想・レビュー・書評

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  • 非常によく調べてあるように読み取れる。変に気負った書き方をしてないのもいい。そして「患者が一番怖がっている」という言葉は確かにその通りだと思う。

  • 混迷状態から回復した人の振り返りが泣けた

  • 20年近く前の精神科を赤裸々に綴るノンフィクション。個人が特定されないよう加工はしてあるものの、これはかなりリアル。制度改正に伴い、精神に障害を有する人の地域移行支援は遅々たる歩みながらも進みつつある。制度ではなく他者の、地域の理解が進まない限り、いつまで経っても「キチガイ」のレッテル、スティグマは拭いされないのだろう。

  •  日本初の精神科救急医療機関となった「千葉県精神科救急センター(現・千葉県精神科医療センター)」に取材したノンフィクション。仕事の資料として読んだのだが、面白くて一気読み。

     野村進は優れたノンフィクション作家であり、その取材作法を明かした『調べる技術・書く技術』は、取材記事を書く者のバイブルといってもよい名著だ。本書は、その野村が3年越しの密着取材を行って書いたものだけに、内容が非常に濃い。

     精神科救急という過酷な現場で働く医師・看護師たちの息遣いが、ヴィヴィッドに伝わってくる。そして、背後にある日本の精神科医療の歴史や問題点にまで迫る奥深さを具えている。

     野村は近年、石井光太のノンフィクションに厳しい批判を投げかけてきたことでも知られる。“石井のノンフィクションには作り話が含まれているのではないか”という主旨の批判だが、その当否は私には判断しかねる。
     ただ、本書を読んで、背景には両者のノンフィクション作法の根本的な相違があるのだと感じた。

     石井光太のノンフィクションには、センセーショナリズムすれすれの危うさがつねにある。人目を引くドギツイ場面をことさら強調して描く「癖」があるのだ。
     対照的に、野村進はそういう危うさから遠い。本書もしかり。精神科救急という、いくらでもドギツイ場面を連ねられそうな舞台を選びながら、筆致はむしろ静謐で落ち着いているのだ。

  • 精神病院の救急というセンターの取材したもの

    このようなセンターで働いている医療関係者や看護士さん達には本当に頭が下がる 患者さんから暴力を受け植物人間になった本人人もいるとか
    隔離暴力病棟はトイレのバーまで危険なものになってしまって取り付けてないとか

    映画「カッコウの…」を見て 精神科について知らないことも多いと思ったが、ロボトミー手術こそなされていないが、本人にとって必要だと思われれば現在でも 電気治療という施術もなされている
    何が大事か というのは、患者本人にとってその治療が必要かどうかだと

  • 2016.5.2

  • 2000年10月から2003年8月まで、著者は「千葉県精神科医療センター」で密着取材を行った。
    救急といえば怪我や病気で瀕死の人を治療するものだとばかり思っていましたが、見た目ではわからない命の瀬戸際で戦っている人が、私が思っているよりもはるかに多くいることがこの本でわかりました。

    精神病というと人里離れた場所にある精神病院の鍵のかかった個室に押し込め、そんな人間などいなかったかのようにしてしまう従来の対応から、今は、どう地域に戻して治療していくかを試行錯誤している状況のようです。
    10年以上前の本ですが、多分今も劇的な状況の変化はないと思います。

    精神病と一口で言っても、症状は様々です。妄想、幻聴、自分を責める人、周囲に対して攻撃する人。
    外に表れる症状は様々でも、心の中は恐怖でいっぱいなのだそうです。
    「やさしさもふれあいもない、競争と弱肉強食原理の支配する荒涼とした世界、その中の孤独で無力な自己」

    この本はノンフィクションです。
    でも、患者の名前は仮名ですし、患者が特定できないようにエピソードなども変えてあるそうです。
    そのくらい神経を使って書かれたこの作品は、しかし決して情緒的なものではありません。
    淡々と事実を(多少の変更はあるにせよ)書いているのに、対象を突き放してはいない文章に人としての温かみを感じるのです。

    現代の生命倫理学を語る上で必須の言葉は「オートノミー」=「自律性」
    「自分自身について考える能力であり、人生の自分自身による計画を設計し、修正し、追求する能力」と定義されています。

    千葉県精神科医療センター院長の計見医師は精神病に対して「開かれた医療」であるべきだという。
    “開放化の「共に、外へ」という指向は、まちがいなく正しい。精神病患者が各々の地域で、差別や偏見を受けずに暮らせるようになることにこそ、精神医療の不変の目標があるからだ。”

    精神科と心療内科の違い。
    心の問題と脳の機能。

    患者の抱える心の苦しみ。
    それは、人間だからこそ持ち得る苦しみなのだから、見てみぬふりでなかったことにすることは出来ない。

  •  分厚くて文字が詰まっていて一見読みにくそうですが、スピード感あふれるクリアな文体と内容なので、意外とスムーズに読み進められました。
     精神科救急で働く人々、運ばれてきた人たちの様子、日本の精神科医療の歴史と背景など。
     真面目な優等生タイプの学生やサラリーマンが暴れ出す事例も描かれています。
     これは他人事ではない。
     私も中学から高校時代、対人関係の重圧と無理な短眠術の挑戦によっておかしくなり、対応に失敗してこじらせたのである。
      http://d.hatena.ne.jp/nazegaku/20150924/p1

  • 救急の精神病院?そんなの有るのか?
    と言う興味と疑問から手に取った一冊。

    精神病院を扱ったものは、高校時代に「ルポ・精神病棟」という文庫本(たしか朝日新聞社だったと思う)を読んで以来である。この本には、当時の劣悪な精神病院の実態が描かれていて、少なからず衝撃を受けたんだが、この「救急精神病棟」はどうだろうか。

    日本で始めて救急の精神病患者を専門に受け入れる病院を3年にわたって取材した本書だが、様々な問題を提起しており、なかなかに興味深く読めた。
    ここに入院している患者たち、その治療にあたる医師や看護師の姿を通して、現代の精神病医療に関する問題点を投げかけてくる。
    医療に携わる医師の問題、精神医療行政の問題、そして普段は精神病患者(病院)と縁のない我々の意識の問題・・・。

    本書に書かれている事の受け止め方は、人それぞれで違うだろうし、自分自身も「昔からの」考えに変化は無いけれど、こういう取り組みもあるのだなと理解はできる記述は好感がもてた。
    やたらと作者の考えを押し付けてくるルポやノンフィクションもあるが、抑制のきいた本書の書き方は良いと思う。

    映画「カッコーの巣の上で」は好きな映画なんだけど、その映画についても少しだけ触れられていた。ロボトミー手術など、日本の精神医療の過去の闇についても、もう少し記述されていると、もっと良かったかもしれない。

    ☆4個

  • 読了しました。

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著者プロフィール

野村/進
1956年、東京都生まれ。上智大学外国語学部英語学科中退。78~80年、フィリピン、アテネオ・デ・マニラ大学に留学。帰国後、『フィリピン新人民軍従軍記』で、ノンフィクションライターとしてデビュー。97年、『コリアン世界の旅』で大宅壮一ノンフィクション賞と講談社ノンフィクション賞をダブル受賞。99年、『アジア新しい物語』でアジア太平洋賞を受賞。現在、拓殖大学国際学部教授もつとめる。主著に『救急精神病棟』『日本領サイパン島の一万日』『千年、働いてきました――老舗大国企業ニッポン』。近著は『千年企業の大逆転』

「2015年 『解放老人 認知症の豊かな体験世界』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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