しずかな日々 (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社
4.09
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本棚登録 : 1679
レビュー : 271
  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062766777

作品紹介・あらすじ

おじいさんの家で過ごした日々。それは、ぼくにとって唯一無二の帰る場所だ。ぼくは時おり、あの頃のことを丁寧に思い出す。ぼくはいつだって戻ることができる。あの、はじまりの夏に-。おとなになってゆく少年の姿をやさしくすこやかに描きあげ、野間児童文芸賞、坪田譲治文学賞をダブル受賞した感動作。

感想・レビュー・書評

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  • 少年の夏を描いた作品というと『夏の庭』が真っ先に浮かんでいたのだが、これもまた忘れられない一冊となるだろう。
    登場人物の誰かを死なせて劇的にしようとする作為がないあたりは、非常に良心的だし、淡々と描いているのに叙情豊かに感じるのは作者の筆力かな。
    何しろ遅読の私が、一日で読み終えたのだ。
    そうか、子どもはこうして大人になっていくんだなと、読後数日経過しているのに、いまだに深い感慨に浸っている。

    小学5年の主人公「枝田光輝」が語り手で話は進む。
    冷静に、静かにふりかえるその語り口が、まさにタイトルにふさわしい「しずかな日々」で、勉強も運動もからきしダメな自分を自嘲するでもない。
    ただ、その後の展開で、なぜそうなのかが少しずつ明らかにされる。
    説明らしきものはない。ただ、読み手に想定させるのだ。そうか、子どもはこうして人生を「降りて」いくのかと、涙もろい私などは何度も涙腺がゆるんでしまった。

    そして、小さな小さな希望が学校生活に生まれていく過程が、また心憎い。
    人に名前を呼ばれて話しかけられた時の新鮮な驚き。
    あだ名がついたときの驚きと喜び。遊びに誘われた時の気持ちの高揚。
    今日の楽しさが明日への希望に繋がっていく行程が、秀逸な描写で綴られていく。

    突然居候することになった祖父の家、祖父の存在。そして新しい友だち。
    そこを基盤に、あとはもう、どこにでもある夏休みの風景だ。
    花火だのラジオ体操だの草野球だの水泳大会だの、そして自転車で遠乗りしたことだの、宿題の制覇だの。
    だが、読み手は枝田少年と一緒になってどんどん心の翼を広げていく。決して幸せとは言いがたい現実でも、受け止めて成長していく少年を、いつの間にか応援してしまう。

    終盤になって祖父に、顔も知らない父親のことをようやく尋ねるという構成も素晴らしい。これを聞いたおかげで、自分の生をようやく肯定し、前を向いていけることだろう。
    その後の、大人になった主人公が少年時代をふりかえるラストは、もう小津作品の名画のように心に残る。
    未来につながる希望、これをこそ子どもは本能的に欲しているんだなと、それを自分はこれまでの人生で子どもたちに与えられたかなと、そんな反省も込めつつ、ひとりでも多くの人にこの一冊をおすすめ。

    (最後に、お祖父さんの作るおにぎりと漬物が、すごく美味しそうなのであります。)

  • 小学五年生の少年・えだいちが、
    おじいさんの家で過ごした、きらめきの夏休み。

    ”はじめて”がいっぱいだった小学生のころ。
    前の日にはできなかったことが、次の日にできるようになるうれしさ。
    毎日がワクワクの連続で、明日のことばかりを考えていた。

    ラジオ体操の朝の空気。
    照りつけるような日差し。
    ノースリーブのワンピースと麦わら帽子。
    ときおり、耳がびーんとしびれるほどのセミの合唱。
    アサガオ、ひまわり、プール、絵日記。
    やさしかったおばあちゃん。
    塩をかけて食べたスイカ。
    薬缶で麦茶を煮ている香ばしい匂い。
    そういえば、昔の麦茶は甘かった…。
    遊び疲れて畳の上でお昼寝。
    目が覚めるとお腹の上にタオルケットがかかっていた。

    通り過ぎてみてはじめて気づく人生の至福の時間…。
    よみがえってくる記憶は、音のないしずかな世界。

    ツクツクボウシの声が聞こえる。
    この季節に、この本を読むことができてよかったです。

    児童書ですが、
    これはかつて”えだいち”だった方々にぜひ…。

  • R1.5.6 読了。

     小学校5年生の夏休みから、おじいさんとの同居することになった。平屋ですべて和室で、雨戸の開ける音で起床する、親友が泊まりにきたり、庭木に水かけしたり、廊下の雑巾がけをする暮らし。昭和によくあった風景。夏に縁側でスカを食べながら種飛ばしとか、なつかしい。

    ・「3人で ― ぼくと押野は麦茶、おじいさんはお酒で ― 飲み物を飲み、漬物をつまむ。なんだかそれだけのことなんだけど、ぼくたちはその時間をとても有意義に感じた。なんにもしゃべらなくても、ただここでこうしているだけでよかった。濃密で、胸が少しだけきゅんとしてしまうような時間だった。それぞれが、自分だけの世界をたのしんで、でもそれは、ここにいる3人でなければ見つけられない世界だった。」

  • ずいぶんお行儀の良い男の子の、お行儀のよい小説だなあとおもいながら、わたしの好みではないなあと思いながら、読んでいた。おじいさんと友だちとの、決して劇的ではない、でもかけがえのない夏休みの日々。

    どうにもならないことをゆっくりと受け入れ、生きていく。主人公にとって人生の一大転機となった日々が、丁寧に穏やかに描かれていて、終盤ではいつのまにか少し泣いてしまった。

    スティーブンキングの「スタンドバイミー」を、懐かしく思い出した。あれも、いい映画だったよなあ。

    よい小説でした。


  • 母親と二人暮らしの小学五年生・光輝がクラス替えで出会ったクラスメイト押野と出会った春から夏休みの終わりまでが綴られている作品。
    少年の日常と成長が清らかに描かれている傑作でした。
    母親の転職をキッカケに、転校しないように母方の祖父の家に住むことになった光輝。
    そこでの生活は、庭の水やり、縁側の雑巾掛け、空き地での草野球、麦茶と漬物など、どこにでもよくあるちょっと昔の日本の風景。
    でもその中に少年の光輝が思うちょっとした不安は子供の頃の自分を思い起こさせるようで、淡々としながらも何か緊張感がある語り口で、飽きずに読めました。
    今の季節にぴったりで、とても懐かしい匂いのする作品です。
    「人生は劇的ではない。ぼくはこれからも生きていく」
    作品を締めくくるこの言葉。
    普通の生活の素晴らしさ、かけがえのなさ、そして大変さを感じました。

  • 野球に誘われた。子供の時に一人の時に、誰かに誘われると、ほっとするやら、嬉しいやらの思い出しはないですか?
    少年の夏休み、しずかな時間の流れをかんじます。何かを選択して、受け容れて、そんな時間がこの本にあります。
    ちょっと読んで、しずかな日々をどうですか?

  • 素晴らしい小説。児童向けだからと、こんないい本を読み逃している人がいたら大きな声で言ってやりたい。「子供時代の君が本の中で待ってるよ」
    このブログのおすすめで、多くのひとが推薦していたので読んでみたが、皆さんには感謝したい。「素敵な小説をありがとう」
    内容はあえて書きません。読んでみてください。

  • 初の椰月美智子作品です。
    ドツボでした。
    作品からにじみ出るやわらかい雰囲気とか、文章の感じとか、お話の流れとか、好きだー!!って思いながら読んでました。

    おじいさんの家で暮らし始めるところからが話のメインになると思うんですけど、そこに行くまでの話もとても好きです。
    押野のキャラがとてもいいし、三丁目の公園は優しくて、転校したくないって泣いてしまうところは、読んでいてじわっときました。
    おじいさんと暮らし始めてからの話も素敵でした。
    特に押野のロボット工場の話とか。こういう、些細だけど子供にとっては大きな出来事がきっかけで、僕らは成長してきたんだよなあって思うと、さびしいようなあたたかいような気持ちになりました。

    ラストもよかったとは思うんですけど、一気に大人になってしまったので、ちょっとさびしかったです。
    この作者の他の作品も読んでみたいと思いました。

  • 人見知りで、同い年の子にも自分からはなかなか話しかけたり、打ち解けて話ができないような、運動神経も大してよくない、光輝くんみたいな子どもだった。でも、光輝くんは五年生のときに、押野くんという自分を受け入れてくれる友達ができた。そして、三丁目の空き地にも通うようになって、学校と学年の違う友達も二人できる。暖かく見守ってくれるおじいさんも傍にいる。
    私もひと夏でいいから、こんな心底、安心できて、楽しく時間が過ぎてゆく夏の日々を過ごしたかったなあ。そうした思い出は、大人になって落ち込むことがあったときにも、きっと力を与えてくれるだろう。
    安心して一緒にいられる人たちとの、何気ない日々の時間こそが、子どもにとっての宝物だ。それは、振り返ってみると、穏やかでありながら、濃密な日々なのだろう。

  • 読み終わったあと、胸がきゅうんとして少し泣いた。
    もう戻れない、苦しいほど眩しくて暑くて無我夢中だったあの頃、小学生だった私はどこかでこのキラキラの終わりを予感してたようなきがする。
    あの頃には戻れないけど、このキラキラは確かに自分の中に息づいて、今の自分を形作っている。
    そんなことをふと思った。

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著者プロフィール

椰月美智子(やづきみちこ)
2002年『十二歳』で第42回講談社児童文学新人賞を受賞してデビュー。『しずかな日々』で第45回野間児童文芸賞、第23回坪田譲治文学賞をW受賞。『フリン』『るり姉』『消えてなくなっても』『伶也と』『14歳の水平線』『その青の、その先の、』などなど、家族小説、恋愛小説、短編集やエッセイと、数々の話題作を世に送り出した現在最も脂の乗った作家のひとり。
2018年9月、『緑のなかで』を刊行。

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