転生 (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社
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本棚登録 : 97
レビュー : 13
  • Amazon.co.jp ・本 (480ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062767750

作品紹介・あらすじ

謎の死を遂げたパンチェンラマ十世が、突然蘇った。卑しい男の魂が転生してしまったのか、この活仏は意地汚くて女好き。動くミイラと化したラマは、当局の目を避け、小僧のロプサンを連れてインドへの道を急ぐが…。核の脅威が迫るチベット高原でラマはある行動に出る。

感想・レビュー・書評

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  • パンチェンラマ十世のミイラが蘇るという荒唐無稽な物語の中にチベットの現状を描き込んだスラップスティック・コメディ。
    ダライラマやチベット仏教をを扱った本は何冊か読んだけれど、本作を読んで全然わかっていなかったと感じた。たとえば、作中にある〈素のままのチベット人は、今でも勇猛果敢で残酷で、その上狡猾な、厳しい気候に鍛え上げられたとてつもなく強い民族だ。チベット人の苛烈さを封じ込めていた仏法を、共産党はそれとは知らずに破壊してきた。その結果が、今日見たあの騒ぎだ。どれほど弾圧しようと工作しようと、面従腹背で、いつでも敵の寝首をかこうと待ちかまえているのがチベットの民だ〉とか〈時代が違います、猊下。今どき、フリーチベット、ダライラマ万歳を唱えるのは、一部の活動家だけです。普通の人々の心を占めているものは、政治でも信仰でもありません。今日の糧です〉とか読むと今までの〈チベット=弱者、虐げられるだけの存在〉という自分の認識がいかにうすっぺらく、現実味のない考えだったかがわかった。この作品のチベットには血が通っていると感じた。蘇ったパンチェンラマ十世も〈意地汚くモモを食べ、女の尻をなで回し、ペンキで塗られた目をぎらぎらさせて中国共産党と毛沢東への恨みを語り、放射能汚染によって死にかけている移牧民のために激怒〉する、非常に人間的な存在として描かれている。かと思えば物語後半では当局の無謀な計画を防ぐ冷静な奮闘をする聖人らしさをみせる。これは、人間は煩悩があるもの、それにとらわれないことが重要なのだという大乗仏教の真髄ではないかと感じた。
    それと、篠田節子の他の著作でも感じることだけれど、著者は超常現象を扱った作品を書きながら本当の意味でそういったことを信じていないのではないか。世の中には何か現代の科学では説明できない不思議なことが数多くあるけれど、それは輪廻転生やあの世や霊魂や神なんかではなくもっと別のものなんだという考えで描いている。それは本作中のパンチェンラマ十世のミイラが、十世から転生したといわれる十一世ゲンドゥン・チュキ・ニマ経由ではなく、十世のパーソナリティをそなえて蘇ったことでもわかる。魂というものがあるかどうかはわからないけれど、もしあったとして、それは別の肉体に転生するものなんかではなく、肉体固有のものなんだという考えがあるからこういう描き方になっているのだと思う。蘇ったパンチェンラマ十世は言う〈私は私だ。生まれたときからずっと私だ。他の人間であってたまるか〉のはそういったことを一行であらわすすばらしい表現だ。
    ごちゃごちゃ理屈を書いたけれど、本作の魅力は単純に面白くて笑えるところ。何も考えずに読むよろし。

  • チベットの状況やラマのことは全く知らなかったので、その状況を知るにはよい本だったが、ストーリーとしてはイマイチ。もっとも、普通に書けば重くなりすぎてしまうかもしれないので、コメディタッチでちょうどいいのかもしれないが。しかし、解説で夢枕獏も書いているが、作者は大丈夫なのか。

  • いろんな意味ではらはらした。不敬なような、崇敬しているような、皮肉なような。非現実だけど、こういうのもいいんじゃないかと思った。

  • 篠田節子の本は時折貪るように読んでしまう。今回も死んだ魂がミイラに転生する、というなかなか有りえない設定なのだが、リアリティのある筆力ですっかり引きこまれてしまった。

    本作については後半若干失速した感があり、エンターテイメント感はあり面白いのだが、もう少し盛り上がりと言うか、テーマがテーマなので何か訴え掛けるなにかがあれば良かったと思ってしまった。

  • 著者曰く、スラップステック。でも、チベットに対する中国の酷い態度はしっかり実名で書かれてるし。

  • 面白かった!!
    笑って、ドキドキして、怒って、ホッとして、考えさせられて、ちょっぴり涙した!!
    手塚治虫さんが生きてたら描くのではないかという題材。パンチェンラマ10世のミイラが生き返るというとんでもない話なのだが、現実におきている中国のチベット侵略を批判している。

    こんな救世主が現れなくてならないほど、どうしょうもない危機的状況なのかも今の地球。

    中国の横暴、日本のテレビ局の情けなさ、放射能問題、食品の安全。
    今、しのださんが考えているであろう様々な問題がちりばめられていた。軽い小説の形をした重い内容のおはなしでした。

  • 弥勒と地続きな感じの話かと勝手に思った
    私が悪うございました。

  • 実に深刻なチベット弾圧の状況を描いているけど、荒唐無稽で可笑しい。うまい。ただ内容的には作者がチベットを描きたいってのが先行してて人物や設定はそのおまけって印象も否定できないかな。

  • チベットとパンチェンラマに対する興味が沸いた。
    原子力に対する警告もその通りだと感じた。

    物語の途方も無い展開に、はらはらどきどきしながら読んだ。
    最後の収束のさせ方は、それで何がいいたかったのか少し見失ったかもしれない。

    3度読んだら、おもしろみが涌くかも。

    参考資料のURL一覧を作りかけ
    http://researchmap.jp/joig169z1-45644/#_45644

    すぐに出てこない資料を捜索中。

  • 面白かった。さすが篠田作品。
    チベットの政治情勢を盛り込みながら
    蘇った高僧のミイラと付き添う少年の冒険活劇に仕立てあげている。
    中国の現在の姿も浮き彫りにされる。
    面白くてためになる小説というのは、いいなあ。

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著者プロフィール

1955年、東京都生まれ。90年『絹の変容』で小説すばる新人賞を受賞しデビュー。97年『ゴサインタン‐神の座‐』で山本周五郎賞、『女たちのジハード』で直木賞、2009年『仮想儀礼』で柴田錬三郎賞、11年『スターバト・マーテル』で芸術選奨文部科学大臣賞、15年『インドクリスタル』で中央公論文芸賞を受賞。ほかの著書に『夏の災厄』『美神解体』『静かな黄昏の国』『純愛小説』『長女たち』『冬の光』『竜と流木』など多数。

「2018年 『インドクリスタル 下』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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