マウス (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社
3.56
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本棚登録 : 588
レビュー : 78
  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062769129

作品紹介・あらすじ

私は内気な女子です-無言でそう訴えながら新しい教室へ入っていく。早く同じような風貌の「大人しい」友だちを見つけなくては。小学五年の律は目立たないことで居場所を守ってきた。しかしクラス替えで一緒になったのは友人もいず協調性もない「浮いた」存在の塚本瀬里奈。彼女が臆病な律を変えていく。

感想・レビュー・書評

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  • 芥川賞を受賞した傑作『コンビニ人間』の原型が間違いなくこの本にはあります。

    この作品は村田沙耶香さんの処女作『授乳』に続く長編2作目です。
    そして、この『マウス』は『コンビニ人間』や『消滅世界』、処女作の『授乳』に比べればかなり『普通』のお話です。
    もちろんあの『クレイジー沙耶香』にしては『普通』ということですので、一般の目からみたらかなり「変わっている」お話であることは間違いありません(笑)。

    このお話は、二人の少女、律と瀬里奈が主人公です。二人が小学校5年生になったところから物語は始まります。
    主人公の一人、律は、いわゆるスクールカーストで言えば下から2番目くらいと言えば分かりやすいでしょうか。内気で真面目、そしてできるだけ目立たないように学校生活を過ごしている女の子です。律は、学校では目立たないようにしながらも、常に他人の目を気にして「良い子」でいようとします。
    律の性格は家庭でも変わりません。母親から良く思われようと、母をねぎらい、母が疲れていると思えば「お母さん、疲れているみたいだから、夕飯は私が作るね」と言って母親を涙ぐませるような女の子です。

    もう一方の主人公、瀬里奈は同じようにスクールカーストで言えば、最下層のさらに下の不可触民ということになるでしょうか。
    瀬里奈は、他人とコミュニケーションがとれず、誰とも口をききません。そして授業中に突然泣き出したり、教室から勝手に出て行ってしまったりします。はっきり言って問題児です。

    律はそんな自分勝手な行動ばかりする瀬里奈を許せません。
    ある時、教室を出て行ってしまった瀬里奈を律はこっそりと追いかけます。瀬里奈は人気のない女子トイレに入ってゆきます。律も瀬里奈を追いかけて女子トイレに入ってみると、そこには瀬里奈の姿はありませんでした。個室はどこも空っぽです。
    律は、もしかしたら瀬里奈がどこか遠い世界に行ってしまったのではないかと不安になり、最後に女子トイレの掃除用具入れの扉を開けてみました。すると、瀬里奈がモップなどを洗うための洗面台に腰をかけて座っているではありませんか。
    律が声をかけても、瀬里奈は律を無視します。そんな自分の中に閉じこもっている瀬里奈を見て律は心底うんざりしてしまいます。
    律は瀬里奈に外の明るく楽しい世界を知らないからそんな性格になってしまうのだと非難し、たまたま持っていた『くるみ割り人形』の本を瀬里奈に読ませようとします。
    瀬里奈はそれも拒絶し、律を突き飛ばして掃除用具入れの中に再度閉じこもってしまいます。律は、そんな彼女に構わず『くるみ割り人形』を瀬里奈に聞こえるように朗読し始めるのです。
    すると、信じられないようなことが起こります。
    掃除用具入れから出てきた瀬里奈は『くるみ割り人形』のヒロイン・マリーになりきっていたのです。その口調から立ち振る舞いまで今までの瀬里奈とは別人です。それを見て怖くなった律は、本を瀬里奈に渡し、瀬里奈をおいて逃げ出します。
    次の日から瀬里奈は人が変わったように明るく、朗らかな性格になっていました。そう、瀬里奈は次の日もマリーのままだったのです。
    そんな律と瀬里奈の二人はこれからどうなってしまうのでしょうか。

    この小説に登場する二人の少女は、私たち誰もが抱えている矛盾を象徴しているキャラクターです。
    あくまでも『社会的な普通』を追求する律。
    律は小学校の時の性格を残したまま大学生になり、学業以外の時間はファミレスでのアルバイトにほとんどの時間を費やします。
    自分という個性を捨て、ウェイトレス用の『制服』を着て『ファミレスのウェイトレス』という役柄に入り込んだ時に律が感じる満足感と万能感。
    これは、まさに『コンビニ人間』の主人公・古倉恵子が感じているものと同じなのだろうと思います。『自分』という個性を無くし、社会の歯車の一つになることで『自分』の存在意義を感じることができるのです。

    一方、自我を守る為『くるみ割り人形』に依存する瀬里奈。
    瀬里奈は、毎日学校に行く前に必ず『くるみ割り人形』を読み、外出する際も文庫本の『くるみ割り人形』を携帯します。
    瀬里奈はヒロインのマリーになりきることでしか普通の人と同じような生活をすることができなくなってしまったのです。この瀬里奈の生き方についてもある意味『コンビニ人間』の古倉恵子と同じです。完全に仮面を被り、自分を殺して生きていくのです。ですから古倉恵子と同じように、マリーを演じる必要のないときは、瀬里奈は自宅にこもって何もしないのです。

    大学生になった二人の生活を描きながら、二人の奇妙な友情が紡ぎ出されます。
    律と瀬里奈の性格の対比や二人のそれぞれの人生の変貌を見ていくと非常に興味深く、この二人の生き方は非常に極端ですが、ある意味において、現代に生きる私たちの姿をそのまま表していると言うこともできるのではないでしょうか。

    誰もが『律』のように他人の目を気にして、建前で生きている部分がありますし、また誰もが『瀬里奈』のように、誰かを模倣したり、完全に自分でない誰かを演じたりしていることがあると思います。

    いったい『自分』とは何でしょうか。そして、本当の『自分』とはどこにあるのでしょうか。
    そんな素朴な疑問がわき上がります。

    自分とはなにか、自分らしく生きるとは。

    自分の内面を鋭くえぐり出してくれるこの小説。
    この本もまさに村田沙耶香さんが追い求める「社会の中での自分」というテーマを体現した傑作の一つだと思います。

    • goya626さん
      うーん、惹かれるけど、読むのが怖いです。
      うーん、惹かれるけど、読むのが怖いです。
      2019/10/12
    • kazzu008さん
      goya626さん、こんにちは。
      コメントありがとうございます!
      村田沙耶香さんの小説は、独特の世界観があって非常に興味深いですよね。
      ...
      goya626さん、こんにちは。
      コメントありがとうございます!
      村田沙耶香さんの小説は、独特の世界観があって非常に興味深いですよね。
      この「マウス」はかなり『普通』の方です。
      僕が一番読んで怖かった村田沙耶香さんの小説は『消滅世界』です。僕の価値観がぶっ壊される音がガラガラと音を立てて頭の中で鳴り響きました(笑)。
      2019/10/13
  • すごく良かった。コンビニ人間を読んですごく気に入って他の作品も読んでみたくなって読んだんだけど個人的にはコンビニ人間よりも全然良かった。瀬里奈と律の関係も物凄くよかったし、小学生の頃のあるある的な狭い世界で息苦しく生きてる感じがものすごくはまった。
    2人の関係も微笑ましくて、出逢いって不思議だし大事だなと思った。
    あとくるみ割り人形ってどんな話かわからないんだけど読んでみたいと思った。

  • 小学校五年生、内気な女子と同じクラスで心を閉ざす女の子が友だちになったことで物語が動き出す。クラス内ヒエラルキー的な女子のやりとりは辛辣だが、大人になっても「オンナ」の本能から一歩外れた自然体で生きようとするふたりの交流が魅力的で清涼感さえ覚える。

  • 最近、「スクールカースト」という言葉がクローズアップされてきている。最近自分が読んだ本の中でも青山七恵さんの『魔法使いクラブ』や羽海野チカさんの『3月のライオン』など、その雰囲気をとらえているものをちらほらと見かける。私の小学生や中学生の頃はもうだいぶ遠いが、そういった雰囲気は確かにあったと思う。でも、それについては書かれていたのだろうか。最近になって書かれ始めたのだろうか。それとも書かれていたけれど気づいていなかったのだろうか。

    『マウス』は『クルミわりとネズミの王さま』が物語のキーとして使われていることもあってか、どこか童話のような雰囲気を感じる。瀬里奈の変わりっぷりは、映像にするとCGでも使わないと表現できないような、どこかファンタジックなところがある。最初の書かれ方から、こうなると思わなかったので、やや意表をつかれたという感じ。

    そういうファンタジックな雰囲気を感じてからは逆にどこか安心して読んだという感じだった。

  • 読み始めの印象と、読み終えたときの印象が、いい意味で違ってよかった。

    きっとわたしも律寄りだと思う。
    だからだろうか。律に共感。
    そして瀬里奈みたいな存在がいたら、
    おそらく自分を解き放ってくれただろうに。

    解き放つという意味では、瀬里奈の役割は、今のわたしにとっては主人なのかもしれないが。

    • 円軌道の外さん

      コメントありがとうございました!


      いやぁ〜
      いい夫婦関係が見てとれるし、
      うやましいなぁ〜(*^o^*)


      信頼...

      コメントありがとうございました!


      いやぁ〜
      いい夫婦関係が見てとれるし、
      うやましいなぁ〜(*^o^*)


      信頼できるということと
      自分を解き放ってくれる相手って
      また少し違う気がするし、

      そういう出会いのためにも
      人との縁は
      一つ一つ大事にしていきたいって思います♪


      2012/06/28
  • 村田沙耶香の「嫌い」の使い方が好き。

  • 表紙もかわいらしく始まりは小学校5年生の新学期から。内気で周りと合わせることが精一杯の女の子が無難に過ごそうとする日々から始まります。
    あ~、そんな感じのお話か。だったら、途中でやめるかも……。などと思いながら読んでいくと、少し違う。クラスメートが変わっていくのだけれど、変わり方が異様とも言える。

    なんと言っても、ふたりの関係性、距離感がいいです

  • 初の村田作品。
    小学校時代の女子のヒエラルキーや、教室の感じ、うまいなー。あのころのヒリヒリ感が蘇る。

    瀬里奈と律の関係性が好きだった。
    瀬里奈を一番理解している律、律を家族のように大切に考えている瀬里奈。お互いに唯一無二の存在。

    律の好きなデザイナー、マルジェラぽいなー。
    「私の矢印って、外に向かってないの……身体の内側に向かってるの、常に」
    瀬里奈の五感に刺激を受けたくない感じ、すごくわかる。

  • 2019/3/16購入

  • "他人"を気にする子と"自分"を気にする子のお話。お手本が無いと在りたい私が分からない瀬里奈と私は近しいところがある。自分が好きな人って成りたいと思える人ばかりで、だんだんその人の考え方や振る舞い、言動を真似てくるから。自分らしさがたまに分からなくなる。多分、他の人もそんな経験があると思うから、共感できると思う。

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著者プロフィール

村田沙耶香(むらた さやか)
1979年、千葉県印西市生まれ。二松學舍大学附属柏高等学校、玉川大学文学部芸術学科芸術文化コース卒業。
2003年『授乳』で第46回群像新人文学賞優秀賞を受賞しデビュー作となる。2009年『ギンイロノウタ』で第22回三島由紀夫賞候補及び、第31回野間文芸新人賞受賞。2010年『星が吸う水』で第23回三島由紀夫賞候補。2012年『タダイマトビラ』で第25回三島由紀夫賞候補。2013年、しろいろの街の、その骨の体温の』で第26回三島由紀夫賞受賞。2014年『殺人出産』で第14回センス・オブ・ジェンダー賞少子化対策特別賞受賞。2016年『コンビニ人間』で第155回芥川龍之介賞受賞。
2018年8月末、『地球星人』を刊行。

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