新装版 海と毒薬 (講談社文庫)

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  • 講談社
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感想 : 207
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  • Amazon.co.jp ・本 (232ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062769259

感想・レビュー・書評

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  • ラストは突然終わる感じ。

    戦時中の大きな流れや心が破滅に向かう抗えない状態をタイトルの海に例えた感じなのかな。

    アメリカ捕虜を人体実験に参加した勝呂は
    現在もその罪の狭間で揺れている状態。
    けど、本人も今またやれと言われたらアレをやってしまうだろうと。

    人体実験といえばナチスドイツのイメージだったから
    日本人のこれは信じられなかった。
    まさか生きたまま…あんなことこんなこと…

    本当に罪と断絶できるのかなー。
    もうその時の環境に置かれないと、誰も何も答えは出せないよ。


    その場にいたら、私もねー…
    なんで参加したの?断れなかったの?
    っていうのは今だから感じれる正常な感情。

    続編の『悲しみの歌』も読もうかな。




    • yhyby940さん
      ひる子さん、ご返信ありがとうございます。ウインドリバー、観ます。楽しみにしています。余韻がズッシリくる作品は好きなので。
      ひる子さん、ご返信ありがとうございます。ウインドリバー、観ます。楽しみにしています。余韻がズッシリくる作品は好きなので。
      2022/10/11
    • ひる子さん
      アメリカの闇でアメリカンヒストリーXもオススメです。古い作品なのでもうご覧になられてるかなと思いますがー^_^
      個人的にとても好きな作品です...
      アメリカの闇でアメリカンヒストリーXもオススメです。古い作品なのでもうご覧になられてるかなと思いますがー^_^
      個人的にとても好きな作品です。
      2022/10/11
    • yhyby940さん
      ありがとうございます。観てないです。観てみます。楽しみが増えました
      ありがとうございます。観てないです。観てみます。楽しみが増えました
      2022/10/11
  • 太平洋戦争中の、捕虜の生体解剖というテーマ設定に惹かれて手に取りました。戦争の残酷な面を明らかにする作品かと思っていたのですが、それよりも「人間の良心」の在り方について語られる作品でした。

    解説の夏川草介氏も書いていましたが、「キリスト教という生活規範」がない日本において、確固たる良心/善悪の判断基準がない日本人のモラルのあり様を問う作品です。

    例えば、生体解剖に誘われた外科医勝呂(すぐろ)が、それに参加するべきか、断るべきか懊悩する場面では、悩みつつも彼は結果的に参加してしまうのですが、ここでは「参加してしまった」ことが問題なのではなく、「明確な決断もつかないまま、なんとなく」参加したことが致命的なのである。

    一方で、何となく「難解だ」という印象がある点については、「生体解剖という『絶対的な悪』に対してすら、明確な判断基準を持ちえない日本人」という構図があって初めて成立する作品であることが原因と解説では分析されています。「戦争中に捕らえた兵隊を生体解剖する」という行為がどれほどの悪であるのかが分からなくなっている(=戦争による様々な「死」のなかに埋没している)と指摘されています。

    医療小説や戦争小説としてまとめて紹介してよい本かどうか迷う作品ですが、倫理問題(良心の在り方)を考える作品としては、解説部分も含めて読んで欲しいと思います。

  • 誰しもが環境や境遇によって、避けられない運命に出会ってしまうことがある。
    決断までの期間が短いほど周りの力に流されてしまうことが多いような気がする

    勝呂は本能ではどうしたらいいのか迷う中でも、人道的にやってはいけないことだし、参加した先に自分の人生が壊れてしまうような予感を持っていた。

    勝呂は時が経っても、その時のことを後悔しつつ、でもどんな選択が正しかったのか悩み続けているように感じた


  • 同じ立場なら同じことをする…のかなあ。

    勝呂は、決断力がないままに流れ流され
    実行する(立ち会う)羽目になってしまったけれど
    戸田はもっと根が深いような。

    個人的には、戸田の方が人間臭さがあって好き。
    勝呂は医者としての呵責に苛まれているけど
    戸田はそれを欲して苦しんでいる、のが
    切なくて、悲しくなった。

  •  戦時中、九州帝国大学医学部にて実際に行われた米兵への生体解剖実験を題材にした本書。しかし、内容としてはそこは重要でなく、描かれているのは「良心」についての物語(なので、事件についてはかなりの部分でフィクションとのこと)。

     戦争で死ぬもの、病気で死ぬものを絶えず目にする生活のなかで、勝呂はそれでも自分の患者をなんとか死なせまいとしていた。世の中をうまく嘘と誇張で渡ってきた同期生の戸田には、みんな死んでいく時代、なにをしたって無駄だと笑われてもそれは変わらなかった。
     ある日勝呂と戸田は呼び出しを受け、米兵捕虜の生体解剖に参加するよう申し入れられる。どうせ殺される捕虜なのだから、医学の発展のために生体解剖をされるのはむしろ生かすことだと考える戸田とは違い、勝呂はそんなことをして良いものなのか最後まで思い悩む。

     絶対的な善悪を司る"神"がいない日本人にとって、良心とはなにかを問うていると解説には書かれていたが、私は日本人は八百万の神によって、常に自分以外の神の眼がある状態で良心を保っているのではないかと思う。
     しかし、"神の不在"の描かれ方という意味で、本作はとても理解しやすく描かれている。

  • なぜ人は罪をおかすのか?
    どのように悪徳を悪徳と認識するのか?
    罪悪感はどこから来るのか?

    日本は絶対的な宗教の浸透もなく、倫理観が非常に曖昧なのかな?
    本編が語っている内容は理解できたが、作者がその背後に書きたい心理が何なのかはまだ読み解けなかった。

    小心の【普通】の青年が恐るべき罪に手を染める背景には、時代背景はもちろんだが、自分自身の無力感や、思考の放棄、堕落を律するものが無くなる、崩れることなのかとおもった。

  • 内容は理解できた
    ただ、その奥深くの心理、作者の訴えはまだ全然読み取れなかった
    読了した今、また最初に戻って読みたい

  • ひどく憂鬱になった。読み進めるごとに、本から重苦しい雰囲気が伝わってきた。

    登場人物たちは、皆"死"が間近に存在する時代に生きていて、"生"について諦めのような気持ちを抱いている。

    次から次にやってくる患者。治療に必要な薬剤の十分な確保が難しい環境。どうせ、助かっても、爆弾で死んでしまうかもしれない。だったら、"救う"ことに意味はあるのだろうか・・・?

    命が消えていくことが日常茶飯事の出来事となり、"死"に鈍感になっていくことで、人は平和な時には行わないような、悲しいほど残酷な行動をとってしまうのかもしれない。

    でも、もし、主人公と同じ立場になったとき、自分の心を支えていたものが無くなってしまったとき、果たして断ったり、抗議をしたりすることは出来るだろうか?踏み越えてはいけない一線を前にして、踏みとどまることは出来るだろうか?

    置かれている時代や環境に、人は簡単に左右されてしまう。どんな人の中にも、暗い一面がある。もちろん、私にもきっとある。そのことを否定するのではなく、受け止めて、忘れずに生きていけよ。そんな風に言われている気がした。

  • 何故かこれも家に二冊あったので、読み返しています。

  • 運命とは黒い海であり、自分を破片のように押し流すもの。そして人間の意志や良心を麻痺させてしまうような状況を毒薬と名づけたのだろう

著者プロフィール

1923年東京に生まれる。母・郁は音楽家。12歳でカトリックの洗礼を受ける。慶應義塾大学仏文科卒。50~53年戦後最初のフランスへの留学生となる。55年「白い人」で芥川賞を、58年『海と毒薬』で毎日出版文化賞を、66年『沈黙』で谷崎潤一郎賞受賞。『沈黙』は、海外翻訳も多数。79年『キリストの誕生』で読売文学賞を、80年『侍』で野間文芸賞を受賞。著書多数。


「2016年 『『沈黙』をめぐる短篇集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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