新装版 海と毒薬 (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社
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レビュー : 52
  • Amazon.co.jp ・本 (232ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062769259

作品紹介・あらすじ

生きたままの人間を解剖する-戦争末期、九州大学附属病院で実際に起こった米軍舗虜に対する残虐行為に参加したのは、医学部助手の小心な青年だった。彼に人間としての良心はなかったのか?神を持たない日本人にとっての"罪の意識""倫理"とはなにかを根源的に問いかける不朽の長編。

感想・レビュー・書評

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  • 戸田という人物が印象的。他人の目に触れない限り何をしてもいい。他人を傷つけることに良心の呵責を感じることがなく、重要なのは自己の保身。一方で勝呂は、解剖実験に心を痛めるが、同僚や上司に逆らうことができず、流されるままに結局手術に参加してしまう。どちらも、特に後者は日本人にありがちな態度だと思う。主任教授(橋本?)はその後自殺。本書では描かれていないその後、例えば解剖実験が明るみに出て裁判が行われたとき、戸田の心情はどのようなものだったのだろう?自己の行く末を嘆くばかりだったか。何か別の気持ちが去来したか。

  • 人が持つべき倫理や感情を持ってない(というか選択肢として持たないでいることを感覚的に知ってそちらが性に合っていた)人たちに共感した。

  • 信仰がない、すなわち外部に価値観を置いていない日本人からの「畏れ」の欠落をえがいた本。なるほどと感じる主張であったが小説としてやや説明的に感じた。題材の刺激的さで印象にのこそうとしているイメージを受ける。

  • 静かで不気味な小説。

    淡々としたトーンで描かれる、戦争の日常という異常な日々。神の存在、罪の意識、背徳感、倫理を揺さぶる戦争の中で人々は何を元に生き判断するのか。

    世界中で起きている異常な日々、そこで価値となる思想は何か、それを丁寧に紐解く作業こそ、国際理解、人間理解だと思います。

  • これやばそう

  • 生体解剖事件に係わった医師たちを中心に、日本人と罪悪感を描いた不朽の名作……
    なのだけれども、事件とは関係のない部分での、一般人の罪悪感描写が実はスゴい。

    「だってみんなやってるもーん」のひと言で殺人も虐待も行う自覚なき一般人。
    自分がされたことは覚えていて、自分がしたことは忘却もしくは正当化する。

    事件の影を負う勝呂や、罪悪の在処を求める戸田より、むしろ、この一般人の無意識と無自覚が恐ろしかった。
    ひょっとしたら、私も、あなたも、そんな一般人の一人なのかも……

  • 自分には良心があると思う。けれどそれは、ひどく不確かで不安定なものだ。自分だったら「その時」どうしただろうか。違う時代の、まるで遠い世界の話のようで、これは私たちの問題なのだと、夏川草介さんの解説を読んでやっと理解できた。だから、こんなにも気持ちが重たくなるのだ。

  • 戦時中の病院での人々の精神が様々視点から書かれていた。

    人の心の暗い部分が、その時代の影の中で更に増幅されていたのでは。

    その深く重く暗い心の描き方に感服です。。。

  • 大嫌いな本

  • 解ってて読んだ本なんだけど、日本人である誇りを根底から揺るがすような事件だなぁと。
    救われることが一切ないんだけど、まだ麻酔にかかったままだったことだけが、苦しむ姿を笑いながらじゃないことだけが。
    戦時中と言う特殊な時代背景があったとしても、救いがない。
    だからこそ、戦争がダメってことが言えるのかも知れない。
    内容は、言われてるように、良心だったりするのだけど、それだけが心に残るってことはない状況のお話でした。

  • 聞いたことはあったが読んだことはなかった作品。

    生体解剖を通じ,解説にあるように,基準としての神をもたない日本人の,良心とはなにか,考えさせられる作品。

  •  戦時中、九州帝国大学医学部にて実際に行われた米兵への生体解剖実験を題材にした本書。しかし、内容としてはそこは重要でなく、描かれているのは「良心」についての物語(なので、事件についてはかなりの部分でフィクションとのこと)。

     戦争で死ぬもの、病気で死ぬものを絶えず目にする生活のなかで、勝呂はそれでも自分の患者をなんとか死なせまいとしていた。世の中をうまく嘘と誇張で渡ってきた同期生の戸田には、みんな死んでいく時代、なにをしたって無駄だと笑われてもそれは変わらなかった。
     ある日勝呂と戸田は呼び出しを受け、米兵捕虜の生体解剖に参加するよう申し入れられる。どうせ殺される捕虜なのだから、医学の発展のために生体解剖をされるのはむしろ生かすことだと考える戸田とは違い、勝呂はそんなことをして良いものなのか最後まで思い悩む。

     絶対的な善悪を司る"神"がいない日本人にとって、良心とはなにかを問うていると解説には書かれていたが、私は日本人は八百万の神によって、常に自分以外の神の眼がある状態で良心を保っているのではないかと思う。
     しかし、"神の不在"の描かれ方という意味で、本作はとても理解しやすく描かれている。

  • 何故かこれも家に二冊あったので、読み返しています。

  • 主人公である医者の勝呂はある生体実験に誘われた。その実験は人間の解剖実験だった。勝呂はその誘いを断れずとうとうその実験に参加してしまった。真面目で親切な勝呂に良心 はなかったのだろうか…

  • 「執着はすべて迷いやからな」

    『白い人・黄色い人』
    『高瀬舟』『白い巨塔』『夜と霧の隅で』

  • 太平洋戦争末期、九州の病院で米軍捕虜に対し行われた生体実験。
    後に関わった人物が裁かれるが、当時・過去を振り返ることで「罪の受け止め方」を問う。
    人間としての良心の呵責、社会的な罰への嫌悪、私はどちらが強いだろうかと考えさせられた。

  • 気持ちよく読める作品ではないかもしれないけど
    人間臭い汚い部分にも共感しながら読める作品。
    文学的に掘り下げて考察するのも面白そう。

  • 「神を持たない日本人の良心」
    これがこの本の一つのテーマにあることは間違いない。
    神を持つ外国人とは違い、神を持たない日本人は「自分の内なる良心」の下で行動する。
    それゆえ、自己の内面において良心との葛藤が繰り広げられる。
    醜悪だと思うことしても、それに苦しまない自分には良心がないと自分を攻める人間は果たして良心が無いといえるのか。
    神を持たない日本人、いわば、善悪の判断基準を個々の内部に抱える日本人の心模様が見事に描かれている作品だと思う。

  • 史実をもとにしているし内容は重かったが、問いかけは心にぐさりとくるものがある。我々日本人は時として周囲に流されがちだがそれは明確な善悪の区順がないからだと思った。そのことをわかりやすく「神を持つ外国人」と「神を持たない日本人」の対比によってあらわしているあたりはさすがだと思う。夏草草介の解説もよかった。

  • 旅行先の牧場パスタを待つ間、偶然出逢った本。パスタそっちのけで読んだ記憶が

  • 西川美和さんの「名作はいつもアイマイ」がきっかけで、ほぼ三十数年ぶりに再読。
    書かれている内容はほぼ記憶通り。

    日本人の、主人公の、考えの根拠、良心のありどころ、信仰のありどころ、判断基準のありどころの不確かさ、を描き出す、遠藤周作さんの生涯の主題が、描き出された代表作だと思っていた。

    しかし、今回読んだ際、医師が捕虜を生体実験し、殺害した、という題材に、若いころ感じた違和感をほぼ感じなかったことに、その自分の変化に少し違和感を感じた。

    福岡で捕虜となった米兵。ボタン一つで、当時日本が守ることができなかった上空から、非戦闘員である人々を、火だるまにして殺戮することを意図してやってきて、実際に殺戮に参加した米兵を、人体実験で殺して一体何が悪いのか、そこのところがよく分からなかった。
    正直、主人公である人体実験に関わった病院関係者はなんら悩む必要はないのではないか、と感じてしまった。

    この新装版の解説を「神様のカルテ」で著名な夏川草介さんが書いている。
    「かつて本書が社会に与えた衝撃の本態は、『生体解剖という『絶対的な悪』に対してすら、明確な判断基準を持ちえない日本人』という構図があって初めて成り立つものであった。だが、読者がその絶対悪を認識できない時、本書はその威力を一挙に失うことになる。
    戦争ではたくさんの人間が理不尽に殺されていく。本書においても少なからず空襲の場面が描かれる。その空襲による殺戮と生体解剖による殺害とをー本来まったく異質であるはずのこの二つの行為をー戦争という一点において単純化し、平板化して解釈してしまえば、(中略)残虐な戦争の一風景に埋没してしまうことになる。
    言い換えれば、かつて遠藤氏が、良心(神)を持たない日本人を描くことで衝撃を与えた本書は、読み手の多くが良心(神)を持たなくなった時、まるでありふれた戦時の一風景を描くような平易な印象すら与えてしまうのである。
    (中略)
    ここに、かつて遠藤氏が警鐘を鳴らした『良心(神)を持たない日本人』の行き着く『精神的悲惨』を見る思いがするのである。」

    中高生の頃感じたような気がする衝撃を、今感じなくなっていること。
    これについて、もう少し考える必要があるような気もした。

    しかし。
    空襲と人体実験が「本来まったく異質であるはず」という指摘は、やはり独善的で、良心(神)を持たないのは、日本人も、そうでない人も変わりないが、良心(神)を持たないことに不気味さを感じる、ということであれば、それが本書の切り口なのかもしれない。
    この感想を書いているうちに、そんな気がしてきた。

    本書においては、遠藤周作さんは、日本人の特質を描くのではなく、人間全般を描いているのかもしれない。

  • 九州大学付属病院で実際に起きた米軍捕虜生体解剖事件。もっと酷い描写があるのかなと思ってのでそこまで酷くはなかったが、重い。自分の周りの空気もヒヤリとしてきたわ。ナオコーラさん、『文豪お墓まいり記』で入院中にこの本読んだっぽいけど、こんな内容だと知ってたら確かに読まないわ、と納得。 医者、信じられなくなるよ。

  • この本は太平洋戦争末期に日本陸軍と九州大学が起こした、捕虜の生体解剖という悲惨な事件をモチーフにしたものである。この事件は、戦争中という異常な状態が引き起こした事件と言えるのかもしれない。

    しかし、作者はこの事件が起きた理由を、日本人の罰は恐れるけれども罪は恐れないという習性に求めている。「赤信号みんなで渡れば怖くない」という言葉があるように、日本人は個人の意識よりも全体の「空気」を優先することがある。個人の罪の意識よりも、他人の眼や周囲からの罰を恐れるのだ。

    主人公の勝呂は、上司に捕虜の生体解剖実験への協力を求められる。
    実験への参加を表明した同僚の戸田をはじめとした周りの「空気」と自分の良心の間で揺れ動き、勝呂は葛藤する。苦悩する勝呂の姿や心情が丁寧に描写してあり、思わず読むのをやめて目を背けたくさえなった。

    この本は読み終えたら、ぜひ冒頭のシーンを読み返してほしい。
    冒頭のシーンは戦後が舞台である。ガソリンスタンドの主人と勝呂の戦後の生活の違いや、勝呂がポツリと漏らす言葉に多々考えさせられるだろう。

    周りに流されて思わずやってしまい、あとで良心の呵責を感じたということは誰しも経験があることと思う。そんな経験を苦みとともに思い出させると同時に、今後の自分の行動が問われているような気がする、そんな一冊。

  • 戦争中の人体実験に興味があったので読んだが、その場面はあまりなかった。
    一気に読んだが、まあまあ。

  • 本編後の、医師である夏川草介さんの解説がとても面白かった。「日本人の良心」についての思考。というか、自分ひとりではそこまでの分析にたどり着けなかった。もう一度、また読みたい。

  • 2018/04/06

    昔から読むべき本だと思っていてようやく手に取ることができました。
    宗教に頼って道徳を守るではない私たちにとって、「神」のかわりに律してくれるのは自分の良心になると思います。「お天道様が見ている」という言葉を子供の頃に言われたことがありますが、あれも過去から未来へ向かってどの自分にも胸を張っていられるかということだと思っています。
    良心を振り払った個人が集まることでブレーキが効かなくなった集団というものはかくも恐ろしい方向に進むことがあるのだな。
    人間は、特に集団は、間違いを犯しやすい。
    軍隊に入っていなくても、国をあげてこういったことをしてしまったのは、戦争だったからなのか、それとも人間は通常時でも誰かにいいと言われれば非道なこともやってしまうのか。弱いものを好きにしてしまうのか。
    この本は折に触れて思い出しそうです。

  • 大戦時に日本の大学病院で実際に行われた、米軍捕虜への生体実験事件をモデルにした作品。戦争中は様々な価値観が変わってしまうという通説があるが、果たして人間の"良心"もその対象になり得るかということをテーマとしている。

    一人の男性が引っ越してきた土地で陰鬱そうな医者 勝呂と出会うパートを前半とし、以降は勝呂の医学生時代のパートとなるが、その間にも他の登場人物の過去、心情が綴られており、これらがまた素晴らしい。虚栄、エゴ、優越感といった人間の負の側面がこれでとかと詰め込まれており、それらがどれも、読者の自分に身に覚えがあるかのようなリアリティで迫ってくる。

    作中での生体実験が完了した日に物語も終わるため、医学生であった勝呂がその後の日々をどのような思いで過ごしてきたのか、どのような人生を経て、医師として再出発をしたのかは綴られておらず、陰鬱さと余韻を感じさせる名作と言いたい。

  • 良心を問う。

  • 「(成程、お前はなにもしなかったとさ。おばはんが死ぬ時も、こんどもなにもしなかった。だがお前はいつも、そこにいたのじゃ。そこにいてなにもしなかったのじゃ)」179ページ

  • 1958年の作品、戦争末期に九州大学付属病院で実際に起こったアメリカ兵捕虜に対する生体解剖事件をモチーフとした小説、数ある遠藤作品の中でも代表作の一つとして数えられる本です。

    解剖時の様子や関わった人たちの心の描写が、とてもリアルで思わず目を背けたくなりました。極限状態であった背景はあるにしても、残虐な行為に対する思いはどうであったのか、それらを含めて人間の良心とは何か等、根源的に考えさせる力を持っていると思いました。

    まなもく、発表60年を迎える作品でが色褪せていませんでした。閉塞感が強い現代にあって、人の生き方はどうであるべきか。歴史の事実を押さえた上で、ぜひ多くの人と考えたいものです。

    お勧めの一冊です。

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著者プロフィール

遠藤 周作(えんどう しゅうさく)
1923年3月27日 - 1996年9月29日
東京生まれ。父親の仕事で、幼少時代を満洲で過ごす。帰国後にカトリックの洗礼を受けた。1941年上智大学予科に入学したが、中退。慶應義塾大学文学部仏文科入学・卒業後、カトリック文学を学ぶためにフランスへの留学。帰国後の1954年『アデンまで』を発表し小説デビュー。1955年『白い人』で芥川賞を受賞し「第三の新人」として脚光を浴びた。
1958年『海と毒薬』で第5回新潮社文学賞及び第12回毎日出版文化賞、1966年『沈黙』で第2回谷崎潤一郎賞、1979年『キリストの誕生』で第30回読売文学賞評論・伝記賞、1980年『侍』で第33回野間文芸賞などそれぞれ受賞。1995年に文化勲章を受章している。
上記受賞作のほか、1993年刊行『深い河』もキリスト教と日本人をテーマにした代表作と見なされており、映画化された。60年代以降「狐狸庵山人」(こりあんさんじん)を名乗り、様々なエッセイを記した。数々の作品が欧米で翻訳され高い評価を受けており、存命中ノーベル文学賞候補だったこともよく知られている。

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