ポトスライムの舟 (講談社文庫)

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  • 講談社 (2011年4月15日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (208ページ) / ISBN・EAN: 9784062769297

作品紹介・あらすじ

29歳、社会人8年目、年収163万円。
こんな生き方、働き方もある。
読むと心が軽くなる、“脱力系”お仕事小説。


Xで話題沸騰⇒300万インプレッション超え!

・発想が面白すぎる @888p_n_m888
・1年くらい休んで旅に出ようかな。笑
 内容紹介でこんなにも「なるほど」と考えさせられた作品は初めて。 @sayu_furuya


注目のあらすじはこちら!

29歳、工場勤務のナガセは、食い扶持のために、「時間を金で売る」虚しさをやり過ごす日々。ある日、自分の年収と世界一周旅行の費用が同じ一六三万円で、一年分の勤務時間を「世界一周という行為にも換金できる」と気付くが――。ユーモラスで抑制された文章が胸に迫り、働くことを肯定したくなる芥川賞受賞作。

みんなの感想まとめ

働くことの虚しさと小さな幸せを描いたこの作品は、29歳の主人公ナガセが年収163万円での生活を通して、人生の選択や価値観について考えさせられる物語です。彼女は「世界一周旅行」と同じ金額の年収を持つこと...

感想・レビュー・書評

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  • 「世界一周クルーズという目標」と「自分の年収」を等号で並べた時、人生はそこから逸脱する事なく小さな幸せと小さな不幸の抑揚の中で流されていく。安月給だが浪費もしない。老朽化した家や夫婦関係、それぞれにスッキリしない不安を抱えながら、それでも働くしかなく、課題は先延ばしになりながら生きていく。

    水だけで育つポトス。根を張らず、土台(会社・家庭・共同体)を持たず、非正規雇用で最低限の“水(収入)”さえあれば生命を保つ。それぞれがその葉のように川の中を舟となり流されていく。カヌーがシングルの方が気楽で安定するという発想は、誰かと生きる方が不安定になることの暗示だろうか。また、クルーズは未来への希望となるだろうか。

    ポトスとともに生きるそんな女性の話。

    意思なき航海で巡る定まりのコースが夢。
    マイホームを持つ夢の現代版。いや、少し古い。第140回芥川賞、2000年代の価値観。

    2004年の製造業派遣解禁後、2007年には、製造業務への派遣期間が最長1年から3年に延長。2006年には男女雇用機会均等法の改正により、性別を理由とした差別的扱いが全面的に禁止。パワハラという言葉がまだ深刻化されずに笑い話にもされながら普及していったアノ時期。

  • 久しぶりに本を読んだ。本を読む気力が回復してきた。
    でも、この本は気力充溢の話ではない。年収と世界一周ツアー163万が重なるところから物語が始まる。
    ナガセという主人公は、なんだろう。節約して倹約しても、人がいい。離婚調停中の友達を助け、そのお子さんのお世話までしてしまう。
    紫陽花の葉には毒がある。では、ポトスライムには?食べようという妄想をもつナガセが面白い。
    いつのまにかナガセという女性に惹かれ、応援してしまう。
    悪いことばかりじゃないよね、人生は。
    こう書いているうちに、自分の中で、この小説への愛おしさが増してきたので、3→4へアップ!

  • 10月最後の読了本。
    あらすじを読んだだけではどんな内容なのか想像がつかなかったけれど、実際に読んでみると考えさせられるところがたくさんありました。
    テーマはずばり「お金の価値の考え方」。

    “…ナガセは今日使ったお金について手帳に書き記し始めた。近鉄奈良-阪神三宮間の電車賃往復-八八〇円、ということから始まって、思わず買ってしまったミュージアムグッズ一〇五〇円や、神戸市立博物館に行く前に行ったカフェ一三五〇円や夕食に入った洋食屋一一五〇円などの代金を足すと、五四三〇円を使っていた。月給を月の営業日数で割ると六千円強なので、一日弱の労働を今日の会合に費やした計算になる。高いのか安いのかは判断できない。ぜいたくをしたという覚えはなく、むしろ使わないことを意識していたのだが。”

    この一文を読んで、ハッとしました。
    実は私も同じような考え方をしていた時期があったのです。

    物欲が収入を上回ってしまっていた頃、節約の一環として「この金額は何時間分の労働だろう」と考えながら買い物をしていました。
    物の値段と自分の労働を天秤にかけ、買う価値があるかを判断していたんですよね。

    でも、この考え方、私にとってはとてもストレスでした。
    益田ミリさんの『沢村さん家のわくわくお買い物』の帯にある「買い物って、未来へのちょっとした希望だ」という言葉が、どんどんすり減っていく感覚。
    人生を豊かにするための節約が、逆に未来への楽しみを失わせていた事に気づいたのです。

    そして不思議なことに――
    お金のことを考えれば考えるほど、使わないようにしようと思えば思うほど、なぜか使ってしまう。
    使った後の罪悪感も強くなっていく。
    まさにこの主人公のように、お金に対してせこくなっていく自分がいました。

    この作品は芥川賞受賞作。
    純文学は、読んでいる間は淡々としているのに、読み終わったあとにじわじわ心が動き出す――そんな読後感の強さがあるように思います。
    (私だけでしょうか?)

    『ポトスライムの舟』もまさにそんな一冊。
    読み終えたあとに、お金との付き合い方について深く考えさせられました。

    私なりの節約は…。
    お金のことを考えない。
    夢中になれるものを見つけて、そこに時間を費やす。
    すると、気づけばお金が自然と貯まっている――コレがストレスなくいつのまにかお金が溜まる方法な気がします。
    ……もちろん、夢中になるものが高額だったらどうしようもないのですが(笑)。

  • お仕事小説の津村さんだからこういう話こそ本流なのだろうけれど、今まで読んできた話とはトーンが違った。表題作は笑えるエピソードや明るい兆しの見える結末もあって良かったが『十二月の窓辺』は現実の苦々しい部分を思い起こさせる辛い読書に。

  • ⚫︎感想
    心の病気を患ったことのあるナガセが、職場で2枚並んだポスターを見るところから始まる。一枚は軽うつ病患者向けの「心の風邪に手をつなごう、みんなでつらさと向き合おう」もう一枚は世界一周のクルージング「世界を見よう、世界と話そう、語り合おう」という一見かけ離れたものなのだが、ナガセはどちらにも自分との関連性を見出す。クルージングに必要な163万円は、ナガセが働く工場での手取りとほぼ同額である。軽うつは過去を、クルージングには未来を見たのだと思う。パプアニューギニアではシングルカヌーに乗れ、それは波に逆らうんではなく、波に乗る力に長けていて、ひっくりかえしにくいとある。それがナガセのこれからの生き方なのではないかと思った。

    何か大事件が起こるわけではなく、あり得そうなことが起きる中で、1人の真面目な女性が生活していく様が肩肘張らずに読める。細々と生きていることに対する頼りなさを感じながらも、日常に起こる変化を受け入れる。先のことはわからない。

    離婚した友人を助けつつ、ラストは思いがけず163万円貯まっていることに幸せを感じ、気分が良くなる。

    ポトスライムの描写が何度かでてきて、この植物を食べようとしてみたり、株を増やしたり、その生きる力に良さを見出している。力強さというよりは、文体のせいなのか、つつましく、しなやかなナガセの生活を感じた。
    ナガセは日々の「流れに逆らうんではなく、に乗る力に長けていて、ひっくりかえしにくい」人なのだ。カヌー、バス、タクシー、自転車いろいろな乗り物が出てくるが、いつかはカヌーを選ぶ日が来てほしいし、来るだろうと思う。



    ⚫︎あらすじ(本概要より転載)

    芥川賞受賞作
    29歳、社会人8年目、手取り年収163万円。
    こんな生き方、働き方もある。新しい“脱力系”勤労小説

    29歳、工場勤務のナガセは、食い扶持のために、「時間を金で売る」虚しさをやり過ごす日々。ある日、自分の年収と世界一周旅行の費用が同じ一六三万円で、一年分の勤務時間を「世界一周という行為にも換金できる」と気付くが――。ユーモラスで抑制された文章が胸に迫り、働くことを肯定したくなる芥川賞受賞作。

  • 津村さんの初期作品、意外と初めて読んだ。やっぱり津村作品は良い。

    『ポトスライムの舟』
    働いて得たお金で世界一周するのを選択肢として持つこと。食べられない観葉植物を、お金をかけずに工夫して育てること。できる範囲で友達を助けること。
    結婚にこだわらず、手に届く範囲で楽しみを見出し、遊び心を持ってコツコツ働く。それでいいじゃないか、と少しも押し付けがましくなく言ってくるような一編で、すごく好きだった。
    出てくる人みんなが普通の人で、それぞれ悩みもありながら日々を過ごしているのもいい。

    『十二月の窓辺』
    パワハラの描写がしっかりあり、津村作品にしてはいろいろな事件が起こる、メッセージ性の強い作品。
    世界は狭く画一的なわけじゃない。この世には千差万別の痛みがあり、だからこそ今いる場所にこだわる必要はない、という結論は新鮮で、津村さんらしい。
    今仕事の人間関係が辛い人は読むのがしんどいかもしれないけれど、読み終わる頃にはきっと心に涼しい風が吹くだろう小説。

  • 「津村記久子さんの作品を集中して(といっても3冊)読んでみよう」の三冊目。

    「ポトスライムの舟」と「十二月の窓辺」が収録されています。

    「ポトスライムの舟」は前職をつらい思いをして辞めて、工場や友人ヨシカが経営するカフェで働いたり、パソコン教室で講師をしたりしている女性ナガセが主人公。たまたま職場に貼ってあった世界一周クルーズが、工場での年間手取りとほぼ同額であったことから、世界一周を目標にするところから始まります。と、こう書くとそこに焦点が合った小説かと思いきや全然違うのです。
    ナガセは奈良で母親と古い自宅で二人暮らしをしていますが、そこに友人りつ子が娘を連れて夫から逃げてきます。と、こう書くとなんだか波乱万丈な日常を思い描きがちですが、全然違うのです。
    じゃあ、何なんだ、と言われたら、もう「読んでみて」としか言いようがない。
    ナガセは過労で体調を崩すけれど、淡々と日常に戻る力をつけていくし、転がり込んできたりつ子も淡々と夫と別れ、娘と二人で暮らしていく道を見つけていく。その「淡々と」が非常に良いのです。ナガセ、母親、りつ子、りつ子の娘、ヨシカが連れだって奈良の観光地にあらためて出かけていくところなんか、すごく清々しくて良い場面なのに、「淡々」と描かれています。
    ナガセは友人の娘にも過度な愛情をかけることはないけれど、ちゃんと人と人のつながりを築いていて、ナガセの家を出て、新たな道を進み始めたりつ子の娘に、ポトスライムを持っていくし、苺の苗を買ってやろうと思うし。出てくるみんなが決して恵まれた環境ではない環境で淡々と日々の暮らしを送っていて、その「淡々」はストーリーではなく津村さんの文章への印象かもしれないけれど、良いお話でした。これも津村さんお得意のお仕事小説といえるかもしれません。

    次の「十二月の窓辺」は、お仕事小説そのものですが、真っ向からのパワハラ事案でなかなか読むのも辛いものがありました。主人公ツガワへのV係長(このお話ではどんな形であれ”ハラスメント”をしてくる人は全てアルファベットで示されていたように思います・・・)のパワハラは言葉によるものが主だったものでしたが、まぁびっくり。同時に、私はつくづく恵まれた職場環境で仕事ができているな、と思いました。新卒から働き出してウン十年。パワハラを受けたり、大声をあげられたり、汚い言葉で罵られたりしたことはありません。(ひとりパワハラ課長がいましたが、なぜか私のいる係はその課長に好かれており、被害を受けることはありませんでした。)働きやすいけど、やりがいがないから辞めたいだとか、職務内容に飽きたから異動して新しいことをしたいだとか、なんて贅沢をほざいていたんだろう、と大いに反省しました。この反省はこの話のラストのツガワの気持ちからすると、綿あめくらい軽いものですが、最後の最後で、ツガワは自分だけが「底の底」にいたわけではなかったと知ります。「通り魔事件」と「トガノタワー」がこんなふうに物語の本筋にからんでくるとは・・・。パワハラを受けた側がどんなふうに自己否定に陥ってしまうかというのが、ツガワの気持ちの描写でよくわかりました。傍からだったら、「V係長の方が、他のところではやってけないよ!」「ここを辞めても、どうせ次でもダメだなんてことは絶対ないよ!」「合うところは必ずあるよ!」と大声で叫んであげられるところですが、当事者の耳にはなかなか入りにくいことも想像に難くなかったです。ツガワには希望が見えた気がしますが、ナガトはどうなんでしょう。なんでまだパーカー姿だったのかな・・・

    とりあえずの「津村記久子さんの作品を集中して(といっても3冊)読んでみよう」の三冊終わり!
    また折を見て津村作品を読んでいきたいと思います。

  • 津村記久子さんの第140回(2009年)芥川賞受賞作品。新卒で就職した会社をパワハラに遭い1年で退社し、現在は工場に勤務する30歳間近の女性ナガセ。職場の壁に貼ってあった世界一周の宣伝ポスターで世界一周の費用と自分の手取り年収がいずれも163万円でほぼ等しくなると知ってからの彼女の日常生活が描かれている。地に足のついた生活を淡々と送る主人公は、感情面を描かれることがあまりなく、読者に委ねられているようなところがあると津村さんの作品の登場人物に触れるたびに思う。本書にはこのほか、『12月の窓辺』という表題作の前日譚の位置付けの中編も収録されている。こちらも強烈で理不尽なパワハラ上司が出てくるが、主人公ツガワは痛めつけられながらも冷静さを失わない(というか、凹んでも決して潰されはしない、という方が近いかもしれない)。
    淡々と毎日を送っていても、日々の生活の範囲内で起きた事象で学べることがあり、それを受けちょっと行動することで少しずつ状況や心持ちが変化していくのだろうなと感じた。

  • ポトスライムの舟、十二月の窓辺の2篇からなる本作。2篇は主人公も舞台も異なるが、上司からパワハラを受けている・受けていた主人公という共通項がある。

    現在進行系でパワハラを受けている女性が主人公の「十二月の窓辺」は、読むほどに自分が仕事が一番辛かったときの喉に何かが詰まるような思いや、冷や汗をかきながら必死に追いつこうとするも、誰も助けてくれない状況を如実に思い出し、とても辛くなった。
    過去にパワハラを受けていた女性が主人公の「ポトスライムの舟」は、工場や友人のカフェ、パソコン教室で働きながら、世界一周旅行のための貯金を始めるところから始まる。未来に希望を持とうとする姿がまぶしく見えたが、そんな主人公も過去の出来事が幾度となく頭をよぎり、完全に過去のこととして処理しきれていないところに共感した。

    世の中にはさまざまな理不尽があって、私たちはその原因を自分、そうでないなら他者、どちらか一方にあると思い込んでしまいがちだ。
    しかし本当はそのどちらにも原因はあって、自分のせいでもあるし、半分は他者のせいでもある。だから上手くいかないときは転職だとかで、自分が理不尽だと感じない場所を探してみるのがいいのだけれど、本当に辛いときはそうする気力すら湧かないよなぁとこれまた共感。

    本当は今の会社じゃなくても、正社員じゃなくても、何かしらのバイトで生きていくことはできるのに、追い詰められるとその選択肢さえ気軽に手に取れなくなってしまう。
    メンタルが元気なうちに、色々な選択肢や、自分を助ける知識を身に付けておきたい。

  • 第140回芥川賞受賞作
    なんだろう、題名はポトスだし、表紙は爽やかだし。
    苦しい中でも淡々とし、安定しているような主人公の日常で、(「今が一番の働き盛り」の入れ墨を入れたいなと思っている時点で、安定ではないのか。)こういう描写が連綿と続く本なのかなと、油断していた。

    「ポトスライムの舟」と「十二月の窓辺」という短編二話からなる不思議な構成。
    主人公は違うけれども、同一とも感じられる。

    人がしんどい毎日を生きるのに、空想上でも逃避する世界が必要だ。
    ここまでやったら、こうするぞーっていう。
    やる、やらないは別でも目標があるのは、毎日を頑張る糧になる。

    この本は、なんとはなしの日常(二話目はなんとはなしではないな)なんだけど、ちょっとしたことで、毎日がつながる。つながっていく。
    やはり寄る辺ない日常を生き抜く、働く人への応援歌なのかな。
    ユーモラスさもあって、最後解説を読むと分かる、あるカラクリによって、不思議な視点から読んでいたことに気づく。

    二話目の読後感がこれまたすごくて。
    しばらくたゆたってしまった。
    津村記久子さんは、はじめて読んだけれど、
    他の作品も読んでみたい。

    主人公の最後の思いに、結局やっぱりそこが大事になるんだなと思った。


    ネタバレがっつりありの、感想・考察を書きたくなってしまい、再読記録に書いてしまった。まだ読んでいない方は先ずは、何の前情報もなく読むのをおすすめします。

    再読記録を書いたら、この表紙の意味、爽やかさもなんだかわかった気がした。いい本だった。

  • 2編のお仕事小説。
    どちらの話も、悩みながら仕事を頑張っている姿が描かれている。キャリアウーマンではないところが、現実をリアルに切り取っていると感じた。
    1話目は薄給の中でも夢や目標を持って働き、2話目は仕事がうまくできないことを自覚しながら、いじめに耐えるようにして働く姿が描かれる。

    芥川賞受賞作の1話目「ポトスライムの船」は、生きるために働くのか、その人生にどんな意味があるのかという、多くの人が一度は考えるテーマ。
    主人公は働くこと自体は苦ではなさそうで皆勤だが、給料の重みや働く意味について、漠然としたものから次第に形をもって考えるようになる。

    2話目「十二月の窓辺」では、パワハラ上司に耐えて働く姿に、偉いなと思う反面、もっとその努力を認めてくれる人が近くにいればいいのにと感じた。
    働く環境はとても大切で、QOLは大きく変わってくる。

    一方で、社会では理不尽に耐える力も必要だとは思う。
    嫌だからとすぐに投げ出すのが良いとも限らない。
    ただ、パワハラに無理して耐えることが正義なわけではなく、自分を大切にすることも必要で、現代ではそのバランスがとても難しいと感じた。

  • 芥川賞受賞作である本作は、仕事の意義について考えさせられる作品でした。自分がやりやすくて、悩まずに仕事ができる環境というのは、中々見つけられないです。本作は、職場で悩む人にエールを送る作品だと思います。逃げないことですね。

  • 29歳工場勤務のナガセは、ある日職場に貼ってあったポスターで世界一周旅行と自分の工場勤務での年収がほぼ同じ163万円だと知る。それからナガセは貯金を始めるが……。

    裏表紙の内容紹介には、「働くことを肯定したくなる」との文がありましたが、希望もあるとはいえ辛さと苦しみの方が印象深いです。表題作の『ポトスライムの舟』はまだ主人公周囲の人間関係などが良いのですが、もう一作の『十二月の窓辺』は職場環境・パワハラといった問題が強烈なリアリティで書き込まれており、本を読んでいて息苦しくなったり手が震えたりしたのは久々でした。最後に一歩踏み出したとはいえ、読後も恐怖が残りました。

    何かに追い立てられるような、引き留められるような、窒息しそうな、どこにも行けないような、それでもどこかへ行ってしまいたいような。
    ずっとうっすら感じていた社会人としての「理解したくない自分」をしっかりと感じてしまうような、久々に痛みを伴うような読書体験でした。

    ***
    「働くこと」をテーマとした女性が主人公の芥川賞受賞作はこんなのも。
    →『コンビニ人間』(文春文庫)/村田沙耶香

  • 芥川賞受賞作『ポストライムの舟』とその前日譚とも言えそうな『十二月の窓辺』。
    やはり『ポストライムの舟』がかなりよく、『十二月の窓辺』はちょっと迷うところ。だけど『ポストライムの舟』は「こんな書き方あるかぁ!」と感嘆。なので迷いましたが、やっぱり★五つ。

    以下、解釈&ネタバレ。
    『ポストライムの舟』』の主人公・長瀬由紀子。このフルネームは最初の一文にだけ使われて、あとは「ナガセ」で統一される。ではなぜ、最初だけフルネームか?
    「脳内並行世界の確立にナガセが成功した」という個人的な感想を抱いている。本体は長瀬由紀子であり、ナガセは様々な長瀬由紀子のうちの一人。でも実際のナガセは前職、パワハラで辞職しており、なかなか辛い人生を送っている。彼女が薄給の中「そうか163万円で世界一周旅行にいけるのか」とケチケチ&土日も働く生活を始める。ナガセの周囲の、お金に困っていない友人・店の経営者の友人・旦那からモラハラを受けている友人、また会社の先輩の岡田さんの夫はどうも不倫しているらしい。そんななか、ついにナガセは体を壊してしまう。しかし復帰したら、なんと会社からボーナスが出て、163万円たまっていた! でもナガセはすぐには世界一周旅行にはいかない。恵奈という友人の娘に、イチゴの苗を買ってやろう、なんて考える。唐突に「また会おう。 何者にでもなくナガセは呟いた」、そして物語は終える。
    ナガセは脳内並行世界ですでに世界一周旅行に出かけた自分を見て、そしてそれは今の世界の自分でも、絶対にいつか行ける、行こうと思えば行けるんだ、ということを無意識に悟ったんじゃないかな? その心強さ。肯定感。
    一方の『十二月の窓辺』の主人公ツガワは女上司からパワハラ受けている真っ最中。会社の周りには暴漢が現れるらしい。そしてその暴漢がある人物であることが最後にわかるが、全体として暗い印象が否めない。この唐突な犯人暴きも、たぶんミステリーとして読んでしまうと「は?」となってしまうのではないか。たぶん「脳内並行世界」みたいに読むと、犯人は犯人であって犯人でないのかもしれない……ツガワ自身も「ヨーグルト菌の大量虐殺」を行っているし、表裏がわからなくなっている。

    『ポストライムの舟』はまた読みたくなる作品でした。

  • これも何かの因果なのかもしれない。
    つい最近、9年近く勤めていた会社を退職した私が次に読もうとしていたのが、ある意味、お仕事小説に当たる、この作品だったとは。

    このご時世に何か申し訳ないとか、我ながら、いい度胸してるなとは思わない。ただ、働いている間、違和感が絶えず私の心中に付き纏っており、なぜ?と思いながら仕事を続けることに、いい加減、うんざりして、心の中で叫び続けていたから。その上、周りの人達は、特に何の不満も無い様子を見ると、私は少しおかしいのか、なんて思ってしまう。

    それでも可能な限り、私の望むところを追い求めたいだけなのだが、つい弱音を吐きそうな、寂しさや不安を抱いているのも正直なところ。でも、諦めたくない。そんな心境の時に読んだ、この作品。

    二つの中篇が収録されていて、解説に書いてある通り、「十二月の窓辺」から「ポトスライムの舟」の順番で読むと、人生において、自分自身を形成していく感じが、より分かりやすい。

    両作品に共通しているのは、最初、自分のことだけで頭がいっぱいになっているのが、次第に、他の人達の気持ちを考えて、思いやる心が無意識に目覚めていること。「ナガセ」にしても、「ツガワ」にしても、結構辛い思いをしているのだが、それでも、なお、そうしたい気持ちが、自然と良い方向へと導いているような気がしました。

    また、津村さん独特のユーモラスな文体がまた、直接的にこうなんだと訴える感じではなく、ああ、こういう感じなのかなと、じわじわ来る感覚が、より真実性を持たせてくれる気もしました。

    私の中では、「十二月の窓辺」の中の

    「ここではないどこかは、当然こことは違い、そこには千差万別の痛みや、そのほかのことがある。」

    「世界は狭く画一的なわけではないと思った。」

    という、これらの言葉に励まされました。

    私もここではないどこかを目指す。

  • ナガセよかったよよかったんだが、次のが合わない パワハラな、読みたくないしその情報いらないから、事細かに書いてはいるけど ちょっと無理だ。○賞の冠で購入する失敗、いい加減学習しろよ自分

  • ひとつめのポトスライムの舟、かなり好きだった。

    自らが稼いだお金をどのように使うのか

    金銭的に余裕があれば、子どもを産んでいれば、あのとき結婚しなかったら。今では友人と思えない旧友、老いていく親、古びた実家。
    満ち足りた生活にはほど遠い気がするけれど、自分で選択をして行動を起こすことはできる。

  • 芥川賞受賞作『ポストライムの舟』と『十二月の窓辺』の2編を収録。
    両方とも仕事に悩み、もがき苦しむアラサーの女性が主人公である。

    『ポストライムの舟』は、上司のパワハラで会社を退職し工場のラインで働くナガセという女性の話。
    働いている母と実家で二人暮らしとはいえ、給料は手取13万3千円。すき間を埋めるように平日は工場勤務後友人のカフェでバイトし、休日は商工会議所でパソコンの講師をする毎日。

    パワハラでダメージを負った彼女は、自分が仕事を続けていける、という自信を失ってしまっている。かといって、結婚に逃げるというしたたかさも持ち合わせておらず、その不器用な生き方にいとおしさすら感じる。

    ある日工場に貼ってあったポスターを見て、自分の年収と世界一周旅行の費用が同じであることにがく然とした彼女は、カフェと商工会議所のバイトの収入だけで生活し、工場の給料を世界旅行代一六三万円として貯金していくことを決意する。
    この行為は一見極端にも思えるが、彼女が新たな第一歩を踏み出すためには必要なことだったのだろうと思う。

    『十二月の窓辺』は、『ポストライムの舟』の前日譚のような話。主人公のツガワは職場の人間関係になじめず、上司からパワハラを受け続ける毎日。読んでいて閉塞感に息がつまりそうになる。
    窓から見える別のオフィスを眺めながら、もしあそこに勤めていたら、と考えたことは私にもある。しかしそれは今現在よりよくなる保証はなく、かといって今の場所しか居場所がないわけでもない。

    「氷河期世代」と呼ばれる彼女たちの救いのない日常と、その中で生まれる少しの光をリアルに描いた作品。ラストで見られる彼女たちのささやかな前進を応援したい。

  • 29歳、工場勤務のナガセは、食い扶持のために、「時間を金で売る」虚しさをやり過ごす日々。ある日、自分の年収と世界一周旅行の費用が同じ一六三万円で、一年分の勤務時間を「世界一周という行為にも換金できる」と気付くが-。ユーモラスで抑制された文章が胸に迫り、働くことを肯定したくなる芥川賞受賞作。
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    お仕事小説?かな。仕事で悩んだら読んでみるといいなと思う。ハラスメント問題にも触れていて、小さな幸せを積み上げて、なんとか生きていくのだという話を淡々と連ねている感じがする。

  • 決して楽しく読める小説ではないけれども、ナガセのちょっとした気遣いとやさしさ、ツガワの最後に見せる思い切りにグッときました。

    佐多稲子のデビュー作を読んだ時に感じた無力感とガッツポーズをしたくなる気持ちをちょっと思い出しました。

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著者プロフィール

1978年大阪市生まれ。2005年「マンイーター」(のちに『君は永遠にそいつらより若い』に改題)で第21回太宰治賞。
2009年「ポトスライムの舟」で第140回芥川賞、2016年『この世にたやすい仕事はない』で芸術選奨新人賞、2023年『水車小屋のネネ』で谷崎潤一郎賞受賞、2024年「本屋大賞」第2位となった。
他著作に『ミュージック・ブレス・ユー!!』『ワーカーズ・ダイジェスト』『サキの忘れ物』『つまらない住宅地のすべての家』『現代生活独習ノート』『やりなおし世界文学』『ディス・イズ・ザ・デイ』などがある。

津村記久子の作品

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