虚夢 (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社
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レビュー : 157
  • Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062769716

作品紹介・あらすじ

「本当に“あの男”の姿をみつけたいのだろうか」
「心神喪失」の通り魔犯に娘を殺された夫婦。4年後、街ですれ違った男は“あの男”だった。
謎解きだけでは終わらせない! 注目の作家

通り魔事件によって娘の命は奪われた。だが犯人は「心神喪失」状態であったとされ、罪に問われることはなかった。心に大きな傷を負った男は妻とも別れてしまう。そして事件から4年、元妻から突然、「あの男」を街で見たと告げられる。娘を殺めた男に近づこうとするが……。人の心の脆さと強さに踏み込んだ感動作。

感想・レビュー・書評

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  • 少年犯罪や犯罪被害者について書き続けている薬丸岳さん。
    本作は、精神障害を理由に無罪となった無差別殺人事件と、その被害者の物語。相変わらず、テーマが重すぎる!心して読みました。
    精神障害者が事件を起こしたとき、人権に配慮してあまり報道されない。そのため無残に娘を目の前で殺され、自身も心身に深い傷を負った女性は、誰にも救われることなく、人生を一転させる。幸せな家庭は崩壊。夫も、何もかも失う。
    そこへ加害者が治療(?)というか更生(?)を終えて出てくる。身近で普通に生活している。それを見た女性はパニックに陥る…。というようなストーリーだが、実は誰にも考えつかないような計画が、何年もかけて着々と進められていた。
    精神障碍者の犯罪行為をどう捉えれば良いのか、「許さない」とか「許す」とか単純なことではなく、シンプルでありながら多面的・多角的に描いてあってすごいと思った。同じ精神障害でも、世間の同情を集めるような場合もあれば、世間から奇異な目でしか見られない場合もあるし、発症するきっかけみたいなものも人それぞれ。どうしても事件報道というのは画一的なイメージを視聴者に植え付けるから、そこが問題であって、大事なのは一人一人の症例や病気、一つ一つの事件を事実関係をちゃんと知ることだ。
    被害者の女性は、ただただ事件と犯人を恨むだけでなく、どうすれば良いのか、どうすべきなのか考え続けた。自分一人の責任の範囲で。
    大勢を死傷させてしまった犯人の「成育歴」みたいなものを詳しく書いていないのも、意図されたことなのかなと思った。そういう事件があると世間はすぐ、親の育て方に問題があるとか、病気が遺伝するとか、不確かな情報が出回って差別を助長する。でもあくまでも「統合失調症」はごくありふれた病気で、当たり前だけどその病気の人がみんな人を攻撃するなんてことはない。正しく報道されれば、犯罪被害や偏見も減らせるのではないか…。そんなのきれいごとかな。「ペンの力」という可能性も示唆した、とても深い内容でした。

  • 舞台は北海道。
    ある雪の日。
    三上佐和子と娘の留美は通り魔事件に巻き込まれるのだが、刑法三十九条「心神喪失者の行為は、これを罰しない。心神耗弱者の行為は、その刑を減軽する」が犯人を保護することとなった。
    この事件を機に三上夫妻は離婚する。
    事件から4年後、三上のもとに元妻佐和子から「犯人を見た」との連絡があり…

    薬丸岳さんの本は4冊目になります。
    初めて読んだのが3か月前のこと。
    何で、今まで読んでこなかったんだろうと、改めて思っています。
    精神を病んだ加害者と刑法三十九条。
    とても重く、難しいテーマを描いたこの本は、ずっしりと心に響きます。
    重いテーマだけに、読み進めるのがしんどいと感じることもあるのに、読み進めないわけにはいかない。
    一気に読み切りました。

  • 刑法39条に焦点を当て、統合失調症により多くの人を殺害した犯人を裁くことができない司法の問題点と、被害者家族の行き場のない怒りを描いた作品だった。
    最愛の娘を犯人に殺され、家族を壊された主人公。事件をきっかけに精神に異常をきたした元妻。犯人と出会い、自分の心を埋めていく風俗嬢。どの登場人物も心に深い闇を持っており、闇から抜け出すためにもがいている。
    ラストに近づくにつれ判明する驚きの事実と、心の傷から立ち直ろうともがく登場人物達に心奪われ、一気読みすること請け合いな作品である。

  • 刑法39条。「心神喪失者の行為は、罰しない。」

    現実世界でもしばしば問題に上がるこの法律は、小説世界でもまた数多の問題を引き起こし、そしていくつかの傑作を生み出す元となっている。
    この作品もまたそのひとつだ。

    被害者、加害者、そしてそれを取り巻く人々。
    人生を狂わし、狂わされ、果てしない絶望と狂気の中に放り込まれた人たちのさまざまな視点から物語は描かれていく。
    多視点であるにもかかわらず、混乱なく読めるのは構成が見事だからだ。

    著者はこの刑法39条を真っ向から否定することはない。
    さまざまな人たちの視点で物語を描いているのは、多角的にこの条文を見つめていくための、いわば問題提起のための手法なのだと思う。

    被害者とその遺族が最大の被害者であることは疑いようもない。だが、刑法39条によって守られ裁かれなかった者もまた苦しみの連鎖から逃れることはできないのだと――そういう観点から考えても、やはりこの条文は悪法なのだと、そんな風に僕は捉えた。

    キャラクターがちょっと紋切り型なのと、中盤で中だるみするところが気になるけれど、ミステリとしても最後にあっと驚くような意外な真実が隠されていて楽しめる。ぜひたくさんの人たちに読んでもらいたい物語だ。

  • 刑法39条を題材にした社会派ミステリー。加害者と被害者とその家族、世の偏見などが丹念に綴られている。精神鑑定への問い...。重厚過ぎる内容だが、一気読みできるストーリー展開。中盤から後半にかけての種明かしは衝撃的だ。これからも世に問いかける作品を生み出し続けて欲しい。
    「おれは、ほんとうに弱い人間だぞ....」「誰だってそんなに強くない。だけどおまえは生きている。大丈夫だ。人間として最低限の強さは持っている」

  • 薬丸岳氏の第三作目、慟哭の社会派ミステリー。

    男女12人も死傷するという最悪の連続通り魔事件が北海道で発生した。
    ミステリー作家の三上孝一は、この事件で幼い娘を失い、愛する妻も重傷を負う。

    しかし、加害者の青年は、心神喪失状態であったことから、刑法39条の規定により、罪に問われることはなかった。

    それから4年、突然、別れた元妻から、『あの男』を街で見かけたとの連絡が...

    多数の伏線が張り巡らされ、さすが薬丸氏の作品かと。
    最後まで、どんでん返しが続き、息つく暇がありません。

    それにしても、人の心の中と言うのは、不思議で分からないことだらけですね。

    【追記】
    丁度、本作を読了した本日(5/28)、神奈川県川崎市で男女19人が死傷すると言う、痛ましい通り魔事件の報道がありました。
    詳細は分かりませんが、被害に遭われた方々の1日も早い回復と、亡くなられた方々のご冥福をお祈りいたします。

  • 先の気になる展開で気付けば一気読みしてました。

  • 一気読み。怒りのやり場のない犯罪の被害者の葛藤の物語り。犯人が抱える病についての説明は詳しくは書かれておらず、実社会だとしたらもっといろいろと複雑だろうけれど、フィクションの読み物として主人公とその元妻の心情が伝わる
    「ゆき」について少しずつわかって来る感じが
    良い

  • 心神喪失の通り魔に幼い娘を殺された夫婦。
    それが原因で妻も徐々に壊れてしまう

    罪に問われなず、3年後には社会に戻ってきた犯人
    彼に思いを寄せる若い女性

    社会の問題に切り込んだ作品
    あまりにも救われない

  • 日本の法律で納得できない事の一つにメスを入れた作品として読んだ。その時殺そうと意思があったとか、責任能力があったか、などが焦点となるが、結果的に人を殺した事実が重要でないのが、現在の日本の法律と思う。被害者側に立った法律ではない。

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著者プロフィール

1969年兵庫県生まれ。2005年に『天使のナイフ』で第51回江戸川乱歩賞を受賞しデビュー。2016年に『Aではない君と』で第37回吉川英治文学新人賞を、2017年に短編「黄昏」で第70回日本推理作家協会賞〈短編部門〉を受賞。『友罪』『Aではない君と』『悪党』『死命』など作品が次々と映像化され、韓国で『誓約』が20万部を超えるヒットを飛ばす。他の著作に『刑事のまなざし』『その鏡は嘘をつく』『刑事の約束』『刑事の怒り』と続く「刑事・夏目信人」シリーズ、『神の子』『ガーディアン』『蒼色の大地』などがある。

「2020年 『告解』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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