秘匿捜査 警視庁公安部スパイハンターの真実 (講談社文庫)

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  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (416ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062770033

感想・レビュー・書評

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  • スパイハンターの息詰まるシーンには迫力があり、登場人物の人格を際立たせている。
    泥臭く、不格好で人間臭い魅力的なスパイハンターたち。
    ドキュメンタリーとして、筆者の緻密な取材には敬服する。真実に勝るドラマはない。ニュースの裏側を垣間見た気がした。

  • ロシアのスパイに籠絡される自衛隊幹部と、秘匿追尾を続ける警視庁公安部。自衛官の息子の病気に非情になれないスパイハンターたちの葛藤。公安警察の「ウラ作業班」の実態です。日本の国家のあり方を考えていただければ嬉しいです。

  • ロシアの情報機関のボガチョンコフ大佐にスパイに仕立てられていくエリート自衛官の森島…二人を一年間にも渡り追尾する警視庁公安部…この日本で実際に起きたスパイ事件を描いたノンフィクション。

    余りにも我々の日常とかけ離れた諜報活動と公安組織の活動が描かれており、スパイ小説を読んでいるかのような錯覚に陥る。しかし、こうした公安の活動は必要なのだろうか。海外の情報機関に取り込まれる前に止める事が出来るのではないかと思った。

  • 日本で2000年に実際におきたスパイ事件。

    ロシア情報機関の工作員にしたてあげられていく海自幹部自衛官・森島。
    ボガチョンコフと森島を秘匿追尾する、警視庁公安部。

    読み進めていくうちに苦しくなる。

    森島の子供が病気でなければ、妻のいうことに耳を貸していれば、敬虔なクリスチャンじゃなければ、変な宗教にハマならければ、森島は優秀な自衛官で退官まで勤めたことだろう。
    色んな、もしもあの時・・・が頭をよぎる。

    中国はハニートラップで有名だが、ロシアの情報機関は人間のちょっとした隙をつく。そこからじわじわと穴を広げ、最終的に広げた大きな穴に土足で踏み込む。そして捕まるのは日本人。こんなに理不尽なことがあるか。

    確かに森島は弱い。
    なんでそんなことを!!と思う部分も多々ある。そういう人間を吟味して工作員に仕立て上げていくのだろう。

    日本のスパイハンターはロシアや他国が恐れるほど優秀であるにもかかわらず、転勤で全く関係のない所轄に異動になる。
    せっかく磨いたスキルも鈍くなる。警察組織はここをすぐに改善すべきではないか。

    とりとめもなく感想を書いたが、この日本で実際に東京だけでなく地方でもスパイ活動が毎日行われ、それを追尾する公安の人間がいるということ、彼らは決して褒められることはなく日々活動しているのだということを忘れてはならない。

  • 「スパイ天国」日本、「日本のスパイハンターは、国際インテリジェンスという概念に乏しい国家を基盤として闘わねばならないという大きなハンデキャップを背負っている。与えられた権限も予算もあまりにも小さなものだ。しかし磨きに磨かれた技術は世界のどんなカウンターエスピオナージ機関をも凌駕し、諜報大国ロシアの機関員を恐れさせる存在となっている。他国から学び、それを上回る競争力を身につけてしまったのは、世界一と言われる日本の技術力と似ている。しかし日本のスパイハンターは5年ルールで異動したり、昇進すれば翌日からは積み上げた技術が全く活かされない別の仕事が待っている。情報収集能力を奪われた日本では現場のスパイハンターがいくら優秀でも大きな勝利はない。

    ロシアの英雄リヒャルト・ゾルゲ、毎年5月9日が近づくと多磨霊園には東京在住武官やGRU機関員そしてゾルゲ学校(在日ロシア人学校)の生徒たちが訪問する。日本軍は南進するとの情報をもとにロシアは極東軍をヨーロッパに振り向けた。ドイツが降伏した翌日の5月9日は勝利を記念する祝日となっている。ロシアでは連邦法で「諜報活動において非公然の方法、手段を取ることができる」と定められておりエージェントは守られている。スパイの現場を押さえても在日ロシア大使館はこんなコメントを発表するのだ。「武官の行為に問題はないと考えている。本人は任期満了により帰国した」と。スパイハンター達は事件を「成功」させてもいつも突然の無力感に襲われる。捜査の打ち上げと称して美酒に酔うことはない。自慢話をすることもない。捜査が終了しても、静かに日常の活動に戻るだけなのだ。

    本書では海上自衛隊員がリクルートされたボガチョンコフ事件を中心にすえながらスパイとハンターそして狙われるエージェント候補者の姿を追っていく。冒頭に紹介された事件では公安畑のキャリア警察官僚で内閣情報調査室長である大森義夫が「内調職員は積極的に外部の人間と食事などをともにして、情報を取るべし」と指示したため1994年に中途採用で入った水谷がカウンターエスピオナージの訓練も受けることなく無謀な冒険に突入していった。キャリアを無視した組織への水谷の不満はGRU工作員にとって教科書通りのリクルート対象者となり、少額のお礼に始まりいつのまにか受け取ることに抵抗感がなくなって金は生活費の一部となって水谷は絡め取られていった。スパイ天国を象徴するエピソードだ。

    ボガチョンコフ(ボガ)と海自の森島との出会いは偶然だったのか仕組まれたものかは明らかではない。しかし二人で食事をしたところから森島は徐々に取り込まれていく。1999年9月は北方領土問題が解決に向けた兆しが見え始めていたころだ。陸自の調査学校でカウンターエスピオナージの訓練を受けた情報畑の森島であったがボガの人柄にほだされていた。いっぽうのボガは冷徹に森島をリクルートする価値があるかを見極めていた。防衛大の修士論文「旧ソ連海軍戦略研究」のためにロシアで発行された論文を欲しがる森島に対しお互いに資料を交換しようと持ちかけるボガ、結果として森島は焦らされ続けた上に自分でも入手できた資料以外はほとんど手に入れられていない。最初は公開資料を渡し、食事をおごってもらうだけの関係だったが、その時から連絡する際にはコードネームを名乗るように言われている。協力者としての運営は森島が意識しない間に始まっていた。この後毎月のように二人は会合を重ねた。森島には死期の迫った難病の息子がおり、金銭的な負担もあった。息子の死という不幸もボガにとっては森島を籠絡するための材料でしかない。通夜には森島を呼び出し香典を渡し、森島を気遣うふりをしながら接触の頻度を上げ、論文締切の迫る森島の足元を見るように見返りの資料の要求レベルを上げ始めた。

    ボガの犯したミスは些細なものだった。森島との最初の食事の日、麻布警察署のミニパトが路駐しているのがロシア大使館の外交官ナンバーだと気づき報告していたのだ。スパイハンターはボガが日本人といるところを発見し2週間後には森島の身元が割れていた。翌2000年3月に森島の息子が亡くなった日にもスパイハンターは病院に潜入している。「通夜と葬式は見なくていい。ボガが現れるかもしれないが構わん。現場には近づくな。いいか、これは命令だ!」捜査に個人の感情が介入するのは禁物だ。逮捕までの一年間で行確員の姿が消えたのはこの2日間だけだった。

    6月森島はついに「秘」指定文書をボガに渡す。この頃には森島は完全にボガの支配下に置かれていた。一方でこの日の接触に使われたレストランでは客もウエイターもスパイハンターが入り込み二人の金銭のやり取りを確認していた。現場を押さえるチャンスは一度きり。森島が秘文書を渡す現場を抑えられればスパイハンターの勝ちだ。

    この年スパイハンター達にとっては一つ屈辱的な事件があった。SVRロシア対外諜報庁の大物スパイスミルノフに対する強制追尾が鈴木宗男の横槍で中止させられたのだ。9月には平和条約締結と北方領土返還に向けた森ープーチン会談が予定されていた。スミルノフは過去にジャーナリストに偽装して諜報活動をしていたことがわかっており外務省内でも議論があったが、外交ビザの発給について審査書類には「PNG(好ましからざる人物)であっても日露友好のために受け入れる。これは官邸の意向でもある」との添付資料がつけてあったと事務官が述べている。さらにスミルノフは日本の情報機関と連絡を取りたいと外務大臣プリマコフの命令で、諜報ではなく公然たる「情報外交」を申し出てきた。しかし、残念ながら日本にはカウンターパートとなる情報機関がない。警察は法執行機関であり内調は海外に実働部隊を持たない。ギブアンドテイクの情報外交が成り立たない状況で過去に身分を偽った情報機関員を受け入れてしまえば日本は正真正銘の「スパイ天国」というレッテルを国際社会から貼られることになる。(この事件後外務省はボガの息子に何の疑問もなくビザを発給している)

    9月4日日露首脳会談で北方領土の解決は事実上見送られ、このことが影響したのか次の接触がXデーと決まった。9月7日だ。尾行を感じ取る森島は点検を繰り返す。ボガと二人が合流し向かった店内は14人のスパイハンターで埋め尽くされた。勝負は1度秘文書がテーブルの上に有る時だけだ。そしてついに茶封筒が渡された瞬間を押さえた。森島が逮捕され、残されたボガは外交官の身分証を差し出した。逮捕はされないがスパイとしては敗北以外の何者でもない。実はこの時渡されたものはボガの妻へのお土産の折り紙の折り方で、捜査員は直前に買われたこの本が対象でないことはわかっていた。森島が自白しなければスパイハンター達もまた大きな傷を追うところだった。

    「日本はインテリジェンスの取引ができる相手ではない。秘密を守れるインテリジェンス機関が存在しない限り、ギブアンドテイクの関係なんてできるわけがない。内閣情報調査室は、ほとんどが警察からの出向者で、組織への忠誠なんてないだろう。彼らが警察に戻ったら、我々が提供したインテリジェンスはどうなってしまうんだ?」

    本書には名前のない登場人物が二人いる。一人は判決公判の日に森島にインタビューをした報道記者でおそらく若き日の竹内氏だ。これが本書のきっかけになったのだろうか。もう一人はスミルノフと接触を繰り返す行確対象の外務省職員だ。日本のインテリジェンスの第一人者佐藤優氏だろう。

  • 日本のスパイハンター、すばらしい!こんな世界があったとは・・・
    びっくりする内容が多く興味深く読んだ。
    ただ、ロシア系の名前が覚えづらく何回も戻って確認したがこれはしょうがない。
    それにしても、よく訓練された公安マン達。持って生まれた感覚なのだろうか。こんな雰囲気の本、もっと読んでみたい。

  • ノンフィクションということもあってリアリティが小説と比べものにならない。
    この事件は個人的にもすごい関心があったので、文庫版が出ると同時に購入して読んでみたけど、期待以上でした。
    公安に対する著者のスタンスもニュートラルさが感じられて好感が持てたし。
    最近読んだ本の中でも随一でした。インテリジェンス系を特に読んだことのない人にこそ、おすすめ。

  • 読み進みながら、本当にこんなことが本となって出版されて良いのか?と考えてしまうくらい、スパイに関するシステムやそこで働く人間模様が鮮やかに描き出されている。
    どうしたらそうした描写ができるほど取材が可能なのか、ぜひ知りたいが、ともかくこの著者の作品は今後も追っていくつもり。

  • 【150冊目】ほー。スパイ事件での鈴木宗男の存在感の大きさに驚いた。危機意識の無い国かぁ……

  • ○TBSの記者である竹内氏の作品。
    ○著者の取材に基づく「公安警察」特に、ロシア専門チームの奮闘ぶりを描いた作品。
    ○取材が丁寧で、書きぶりも臨場感あふれるもの。日本の身近でこれほどまでに複雑なスパイ行為とスパイハンターの活躍が起きていることに驚いた。
    ○ぜひ、ノンフィクションの次回作を期待したい。

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著者プロフィール

1969年生まれ。神奈川県茅ヶ崎市出身。
慶應義塾大学法学部卒業後、1991年にTBS入社。社会部、ニューヨーク特派員、政治部などを経て、ニュース番組「Nスタ」キャスターなどを務めながら、国際諜報戦や外交問題に関する取材を続けている。公安警察や検察を取材したノンフィクション作品として、2009年『ドキュメント秘匿捜査 警視庁公安部スパイハンターの344日』、2010年『時効捜査 警察庁長官狙撃事件の深層』(ともに講談社)がある。2014年には諜報ミステリー『背乗り 警視庁公安部外事二課』で初の小説を発表。

「2017年 『警視庁公安部外事二課 ソトニ イリーガル 非公然工作員』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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