真贋 (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (264ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062770057

作品紹介・あらすじ

「小説や詩を読むことで心が豊かになると妄信的に信じている人がいたら、ちょっと危いと思います。世の中の『当たり前』ほど、あてにならないものはありません」-今こそ「考えること」に真剣に向き合ってみませんか。突き詰めた思考の果てにうまれた、氏の軽妙かつ深遠な語りにどうぞ耳を傾けてください。

感想・レビュー・書評

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  • 初めての吉本隆明。全面的な同意はできなかったが、なるほどと思う論も多かった。
    「読書にも利と毒がある」という指摘には、ハッとさせられた。私自身、読書は盲目的に良いものと考えており、毒について考えたことがなかったように思う。
    全体的に読みやすかった。もっと難解なイメージだったが、この本だからかな。

  • 吉本隆明氏の著書をはじめて読みましたが、これまで読まずぎらいだったとおもいました。
    けっこう醒めていて、乾いた感情かとおもいますが、分かりやすい内容でした。
    ものごとには両面があり、必然がある。
    人の多少の努力や考えなどは、大勢を変えることなく、ゆきつくところまでいってしまう。

    気になったのは以下です。

    ・いじめるほうもいじめられるほうも両方とも問題児だ、ということだ。
    ・いつも明るいところばかりを見ていたら、暗いところにあるものが見えなくなってしまいます。そもそも、暗いところにこそ、真実が隠されているのではなにでしょうか。
    ・いくら科学技術が発達しても、人間の魂、精神が発達するわけではありません。むしろ、人間の精神というものは悪くなっていくものだという考え方もある。
    ・天然自然を主体に考えたら、いいことも、悪いこともあるのが当然であって、悪いことを言わないというのは、それだけで、もうだめな証拠だということです。釈迦、キリスト、孔子、老子たちがいいことしか言わないのは、世の中に悪いことがたくさん現れてきたためというのです。
    ・現に、日本の現代を例にとっても、少しもいい時代になっていないことを実感します。
    ・本を読んだことによって毒がまわったかもしれないと考えるようになりました。
    ・何かに熱中するということは、そのことの毒も必ず受けるということです。
    ・人間自身もそうですが、すべてのものは善と悪を併せ持っています。
    ・毒が回っている人の特徴は、何でもやりすぎるということです
    ・いい生き方:自分が持って生まれた運命や宿命というのがあるとすれば、それに素直に生きていくことではないかと。
    ・蓮如:「白骨の御文章」 朝に紅顔を誇っている身も夕には白骨と化す
    ・親鸞:修業なんかしても浄土に行けない。浄土は実体ではないから、行くも行かないもない。ある意味で仏教にとどめを刺した人です。

    ・「いいもの」は好き嫌いで判断できない何かを持っている
    ・期限をみれば本質がわかる

    ・僕は噂話や消息通の話など一切信用せず、自分の目や感覚で人やものをみるようにしてきました。良し悪しというのは、バランスのようなもので、全否定も、全肯定もなかなかできない者だと考えています。
    ・一般の人間関係においても、いい関係かどうかを判断する基準というものを持っています。それは、お互いが言いにくいことをきちんと言えるかどうかです。
    ・親鸞だけが、死ぬことは不定だと言い切って死ぬ時のことをあまり考えない方がいい、どういう風に死ぬかはわからないのだから考えても無駄であるという意味のことを言っています。

    ・誰も教えてなんかくれないよ、自分で考えて、自分でやらないとやっていけない。
    ・理想の自分と現実の自分が違うことがほとんどです。
    ・自分がなりたい仕事と、他人から見た向き不向きが違うことはよくあることです。そういうときには両方やって、両方の修練をすればいいと僕は思います。

    ■結論:すべてが逆な方向へ進んでいる
    ・いまの日本は、道徳的にもよくないから、品格とか愛国心とか武士道精神といったもの復活させようという考えがブームになっているようです。しかし、僕はそういくことは無駄である、初めから無駄なんだと考えています。
    ・こういうのがいいんだ とわかっていても、そうはできないし、そのとおりにはならないのが現在の大きな問題なのです。やる人がいないし、耳を貸す人もいません。もしいても、それは少数だけで、根本的にはならないでしょうか。
    ・一つはっきり言えるのは、いいことをいいと言ったところで無駄だということ、何はともあれ、いまは考えなければならない時代です。考えなければどうしようもないところまで人間がきてしまったということは確かなのです。
    ・いま、行き着くところまできたらこそ、人間とは何かということをもっと根源的に考えてみる必要があるのではないかと思うのです。

    目次

    まえがき
    1 善悪二元論の限界
    2 批評眼について
    3 本物と贋物
    4 生き方は顔に出る
    5 才能とコンプレックス
    6 今の見方、未来の見方
    あとがき

    ISBN:9784062770057
    出版社:講談社
    判型:文庫
    ページ数:260ページ
    定価:620円(本体)
    発行年月日:2012年03月21日第3刷

  • 共同幻想論などとは異なり読みやすいが、さらりと書いた文章でも意味を理解するには、かなりの筋肉(読書量)が必要かと思う。3割くらい解釈できたかなぁ。

  • この人、真面目なんだな。

  • 衝撃が走った。

    人を見る目というのは、たかだか30数年生きたくらいで
    成熟するわけがないのだ。
    人の一面だけをみて、判断するのは勘違いも甚だしい。
    人をみる判断基準は、真似をしようと思う。

    どんなにたくさんの人とあっても、
    どんなにたくさんの本を読んでも、
    完璧な人間には成り得ない。
    そして、いつでも完璧な人間は人間じゃないんだ。

    と。

    そんな事を感じた。


    「常に考え続ける」

    「問題の本質はなんなのか、常に考え続ける」

    そこが重要。


    「本物と贋物」◆人の器の大小 の内容には、
    一番の衝撃が走った。
    常々感じていることが、正確な言葉で綴られていた。

    日本人であること。
    人間であること。

    たぶん、考え続けても、正解はない。
    ただ、考え続けることで、自分なりの正解が見つかるんだと思う。

    死が訪れるその時まで、考え続けよう。

    そんなことを感じた本。

  • 北海道文学館の展示鑑賞後、何か一冊と思い、書店で平積みされてたのを購入。
    文学であってもどんな職業であっても毒と利があり、どういう毒が自分に回っているか自覚的にならねばいけないということは職業人生の中盤にさしかかり始め、本を読むことを趣味とする私には深く刺さった。
    一方で人格形成を思春期までの母子関係に還元するなどやや??と思うこともある。
    内容丸のみの読み方よりも、自分の価値観や時代性を踏まえ考えながら読むことに適した一冊。

  • 著者は自分の言いたいことをこの本で言い切ったのだろうか。そんなことはないだろうなと思った。
    平易な文体だし、語りかけるような口調で終始話が進むから読みやすいのは読みやすい。そして、人間の性格形成は、幼少期までの母親もしくはその代わりとなるような人との関わり方に決定されるという考え方が、もうこれでもかと何回も出てくる。翻って見て自身は良い育ち方ができたのかどうかは恐らく死ぬまでわからないのだけれど、この本で言うような物事は、そして人物は、善と悪だけに限らないし、ある面で善くともある面で毒がまわってるという考え方を、できる限りしていきたいし、最後の最後までとことん追い込むみたいな真似はしないでいられるような、言ってみれば潔い人間になりたいと、そういう読後感。

  • 何が本物で何が贋物か、それを考えるヒントを紹介してくれる。繰り返しアナウンスしているのは、物事を極端に考える、善悪二元論的な発想で考えるのを辞めること。複雑なものは複雑なまま理解すべきである。

  • 吉本隆明氏、よしもとばななさんのお父さんですか。インテリなお父さんですね。「真贋(しんがん)」、2011.7発行。難しかった~!

  • 本書が刊行されてから12年余り。日本の状況は、吉本氏が最低と評してから留まるところを知らず落ち続けているようにみえる。おそらく吉本氏の言う、本質を考えなかった結果なんだろうと思う。現政権がここまで民意を無視してやりたい放題なのも、私達が考えなかった結果に違いなく、私達が育て上げた政権なのだろう。ではどうすればいいのか?やはり考え続けることでしか解決法は見つからないのだ。
    思考停止状態から脱するには、或いは底の底まで行く必要があるのかもしれない。
    失わないと気づけないところまできてしまった。

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著者プロフィール

1924年、東京・月島生まれ。詩人、文芸批評家、思想家。東京工業大学工学部電気化学科卒業後、工場に勤務しながら詩作や評論活動をつづける。日本の戦後思想に大きな影響を与え「戦後思想界の巨人」と呼ばれる。著書多数。2012年3月16日逝去。

「2023年 『吉本隆明全集33 1999-2001』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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