久生十蘭「従軍日記」 (講談社文庫)

  • 講談社 (2012年8月10日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (532ページ) / ISBN・EAN: 9784062770170

作品紹介・あらすじ

変幻自在の文体と技巧で「小説の魔術師」の異名を取り、今なお“ジュウラニアン”と呼ばれる熱狂的なファンを持つ直木賞作家・久生十蘭(ひさおじゅうらん)。彼が海軍報道班員として南方に派遣された昭和十八年の日記が、没後五十年目に発見された。己の心情を吐露することを拒み続けた作家の素顔が見える従軍記。<解説・橋本治> (講談社文庫)


没後50年目にして初めて明かされた「小説の魔術師」の素顔

変幻自在の文体と技巧で「小説の魔術師」の異名を取り、今なお“ジュウラニアン”と呼ばれる熱狂的なファンを持つ直木賞作家・久生十蘭(ひさおじゅうらん)。彼が海軍報道班員として南方に派遣された昭和十八年の日記が、没後五十年目に発見された。己の心情を吐露することを拒み続けた作家の素顔が見える従軍記。<解説・橋本治>

みんなの感想まとめ

戦争という極限の状況下における作家の素顔を垣間見ることができる日記は、昭和18年に南方へ派遣された海軍報道班員としての体験を綴っています。前半のジャワでの生活は「飲む打つ買う」とのんびりした様子がうか...

感想・レビュー・書評

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  • 一気に読んだ。大変面白かった。
    母子像・鈴木主水と続けて読み、三冊目にして☆5

    これは太平洋戦争時にプロパガンダの一環として採用された多くの従軍作家のひとりとして南洋に行った際の日記である。
    2月24日に出発。9月9日までの約半年余りフィリピン・インドネシア・ニューギニアと転々としていく。
    まずはあきれるのが最初の数か月の放蕩ぶり
    酒・麻雀・女に明け暮れる。夜中まで麻雀し、明け方惰眠をして、適当な時間に起きては朝からビールを飲む。
    その生活の繰り返し。お金がなくなり、人から借りることもしばしば。本人もこのような生活をしていてはいけない、と自覚あるものの、誘われるとまた堕落沼にずぶずぶ。国民が食べるものも食べず、ぐっと耐えているというときに、このていたらくはなんだ!?従軍としての報酬をもらっているにもかかわらずだ。

    しかし後半は一転して前線に出かけ、軍と行動を共にし、頻繁な攻撃を受け、死を覚悟し、防空壕で息をひそめる日々を過ごす。
    その緊迫感はさすが作家。描写冴え、読者にもひしと伝わる。時折目にする穏やかで美しい田舎の風景と、飛来する敵機からの非情な攻撃におびえる日々がうまく対比されている。今日もなんとか生きている、と感じ、移動のたびにまずは防空壕の場所を確認する。
    やがて、不眠や発熱、下痢など体調不良にも見舞われるようになるが、くじけず従軍作家の役目を淡々と果たさんと行動していく。

    この作品は没後50年目にして初めて公開された日記ということだが、小説の魔術師と呼ばれた彼を垣間見ることができ、大変興味深くよむことができた。
    意外にも神仏に祈ったり、ふるさと函館を思い出したり、細かくお金の管理をしたり、周囲の人に気を使ったりする。彼の息遣い、行動が素直に伝わり、身近に感じることができた。

    ジュウラニアンと呼ばれるコアなファンにはたまらない作品かもしれない。

  • 前半の能天気な内容から後半の前線の緊張感まで、これが戦争かと想像力をかき立てられる内容だった。内地の奥様を気遣いつつ現地で売春婦を買う、前線に行けることになり自分の命の安全を案じつつギラギラするような高揚感など、矛盾する気持ちがより人間らしく感じ、並行して読んでいる「パラドックス思考」を意識させる。

  • 昭和18年に南方へ海軍報道班員として派遣された際の日記。

    前半部にあたるジャワでの日記の内容は「飲む打つ買う」が多く、戦地へ赴いているという緊張感がほとんど感じられないくらいのんびりとした生活だったようだ。
    本人もその点に関して焦燥感があったらしく、そのことも包み隠さず書かれている。

    一転、後半部の前線へ赴いてからの日記は空襲が日常となり、常に緊張せざるを得ない日々だったことが書かれている。
    死と隣合わせの日々を過ごした久生十蘭の心情を知ることができる点ももちろんだが、その中にごくたまに書かれている読書記録も興味深かった。

  • 発表を意識せず綴られたというインドネシアへ海軍報道班員として派遣されたさいの日記。怠惰な生活を送るだけの前半のジャワ島は、退屈だが、後半の毎日空襲にさらされるニューギニア等の前線での記録はがぜん面白くなる。前半部分も日本人施政長官?の俗物ぶりが克明に記録されているのが貴重である。久生十蘭の戦時中の生活と心情に触れられるので、彼の愛読者なら見逃せないであろう。

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著者プロフィール

1902(明治35)年〜1957(昭和32)年、小説家、演出家。
北海道函館区出身。
1920年、函館新聞社に勤務。1922年に演劇集団「素劇会」に参加。
1923年に石川正雄、竹内清、高橋掬太郎らと同人グループ「生社」を結成。詩、小説、戯曲などを発表した。
1928年に上京し、岸田國士に師事。『悲劇喜劇』の編集に従事する。
1929年から1933年までフランスに遊学、レンズ工学や演劇を学ぶ。1936年より久生十蘭名義および様々な筆名を使って作品を発表。同年には明治大学文芸科講師を務める。1937年、岸田が結成した文学座に参加。
1939年『キャラコさん』で第1回新青年読者賞受賞、1952年『鈴木主水』で第26回直木賞受賞。
1957年、食道癌のため逝去。

「2024年 『久生十蘭 玲瓏無惨傑作小説集 アヴオグルの夢』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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