新装増補版 自動車絶望工場 (講談社文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062770392

感想・レビュー・書評

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  • まずは、あの鎌田さんが、こうやってルポを書いているのか、と驚いた。
    実際に「キカンコー」として、ベルトコンベアの部品のヒトツと化して働く。
    そこには、人格とか尊厳とか意欲とかを一切排除した世界。

    私も例外にもれず、労働し、その対価として、給料をもらって、そのお金で生活している。
    「正職員」こといわれる人たちは、毎年約束された昇給や賞与が与えられるが、1年契約の私は、10年以上昇給は無い。
    不満が多いのは事実だが、仕事そのものにやりがいを感じているし、必要とされているのがわかるから、辞めようとは思わない。
    多分、このまま、切られるまで(願わくばイコール「定年」まで)働くと思う。

    「自分より大変な人が居る」
    そんな感想を持った自分が恥ずかしい。

    この初版が出た1973年から40年経った。
    そして、現代、「キカンコー」の下に「ハケン」といわれる層が存在する。
    トヨタの莫大な収益は、彼らの労働力によって、成り立っている。
    貧富の差は拡大する。
    日本という国はどこに向かうのだろう。

  • ルポの名著といわれているもの。書名は知っていたけど、こんな昔の本だったのかという印象。そして、だいぶ昔な感じかなと思いながら読んでみると、驚くほどそんな感じがしなかった。もちろん、いまのトヨタの工場がどうなってるか知らないし、ここに書かれているよりは労働環境はよくなっているだろうけど、でも何というか……まさに絶望を誘うような状況があるだろう。そのことは書中の「補章の補章・キカンコーとハケン」でも示唆されているし、ハケンというものができてより大変になっていることが示唆されている。
    読みつつ思ったのは「勤勉」ということの価値。1970年代ですら勤勉は不器用クソ真面目の言い換えのようなとらえ方があっただろうけど、それでも勤勉な人が多くいたし、そのことが社会を発展させていたことだろう。対して21世紀のいま、勤勉であることは使用者・被使用者を問わず価値でなないのではないだろうか。それがなおさら仕事をつらいものにさせているのではないか。

  • 蔵書整理で手放すので、再び出会い読む日もあるか

  • 期間工の過酷な労働環境が実際に半年潜入した著者により、忠実に描かれています。この本が書かれた昭和から平成、令和に移り、環境は良くなるどころか期間工のさらに下の階層として違法労働させられる外国人留学生、派遣などの不正規雇用が現れさらに事態は悪化。上層部と現場が完全に分断され、上層部ばかりが儲けている。技術を得て転職の踏み台に出来ればいいですが、単純作業にはそれもない。ロボットの代用として安く使われる…などなど、放置されている問題が山積みであることを改めて認識しました。

  • 【本の内容】
    働く喜びって、何だろう。

    自動車工場で働きはじめた34歳のぼくを待っていたのは、人間性を奪うほど苛酷で絶望的な仕事だった。

    考える暇もなく眠る毎日、悲鳴をあげる身体、辞めていく同僚たち。

    読みやすい日記形式で「働くこと」の意味を問うルポルタージュの歴史的名作に、最新の情勢を加筆。

    [ 目次 ]
    第1章 季節工8818639番―一九七二年九月
    第2章 新記録を可能にしているもの―一九七二年一〇月
    第3章 “脱落者”たち―一九七二年一一月
    第4章 増産・労災・不満―一九七二年一二月
    第5章 ついに昼夜二交替―一九七三年一月
    第6章 期間満了!―一九七三年二月
    第7章 もう一度豊田へ―一九七三年四~五月
    補章 トヨタ式合理化の歴史
    補章の補章 キカンコーとハケン

    [ POP ]
    1970年代前半に、著者がトヨタ自動車の工場で季節工として働いた体験をつづったルポ。

    花形産業の発展が、過酷な効率追求に支えられていた実態を明らかにした。

    同僚がこぼす愚痴や、トイレの落書き、好調な経営状況を伝える社内報――淡々とした日記の形の文章が、迫力を加える。

    工場で一人一人の作業は、細分化、単純化されていた。

    <機械と同じ正確な動作を、八時間継続しなければならない。

    機械は疲れないが、人間は疲れる>。

    増産が労働者を追い立てる。

    <人間がコンベアを使っているのではなく、コンベアが人間を機械の代わりに駆使しているのだ>。

    刊行後も経済環境が大きく変動する中、本書は途切れず版を重ねた。

    格差社会論の高まりや、元派遣社員による秋葉原無差別殺傷事件を受け、2008年6月は版元への注文が前月までの8倍近くに増え、「今も昔も変わらないワーキングプアの実態」の帯が巻かれた。

    今秋には、最新の実態を加筆した新装版が出る。

    文庫版あとがきで著者が望んだ<この記録そのものが否定される時代>は、遠のくばかりだ。

    [ おすすめ度 ]

    ☆☆☆☆☆☆☆ おすすめ度
    ☆☆☆☆☆☆☆ 文章
    ☆☆☆☆☆☆☆ ストーリー
    ☆☆☆☆☆☆☆ メッセージ性
    ☆☆☆☆☆☆☆ 冒険性
    ☆☆☆☆☆☆☆ 読後の個人的な満足度
    共感度(空振り三振・一部・参った!)
    読書の速度(時間がかかった・普通・一気に読んだ)

    [ 関連図書 ]


    [ 参考となる書評 ]

  •  デトロイトに行く用があったのと、最近のブラック企業報道を目にして、ブラック企業告発のたぶん最初の本になる本書を手に取った。過酷すぎるベルトコンベア労働の実態。疎外された労働。
    でも、たぶん工場労働は本質的に疎外された労働、だと思う。従って労働組合が大問題だということがわかる。当時も今も、告発された過酷な状況を作り出しているのは労働組合の責任が大きい。資本とはそういうものだ、ということ。

  • 本書には筆者の鎌田慧氏の潜入取材からくる圧倒的な説得力がある。
    私の家の車はトヨタなのだが、身近な車が過酷な労働環境の下、想像力や自主性を奪われた本工や見習工、期間工に作られていて、そんな車に乗って思い出を作ったりなどしているのかと、ゾッとした。(2013年現在は40年前と労働環境、労働条件は変わってると思うけど)
    当時、20代だった彼らは今でもトヨタで働いているのか?働いているならある程度の役職に付いているのか?彼らが当時をどう思い今何を感じているのか気になった。
    改善してほしい点
    文字が小さいから読んでてすぐ疲れる。大きくしてほしい。

  •  1970年代にライターが実際にトヨタの期間工として働いた経験を日記風にまとめたルポが2011年に増補版として再出版。

     40年前のトヨタの工場のベルトコンベアのあまりに効率性を高めあまりに人間性を貶める姿に戦慄を覚える。町や自衛隊とも関係を強めて強い組織となり、人々を低賃金、低保証で働かせている姿は悪夢と言っていい。
     その中で希望を失っていく人々を作者は彼らと共に働くことで克明に描いていく。

     そして、増補版では最近のトヨタの派遣労働について語られている。大変な境遇の期間工のさらに下に派遣という身分ができているのだから驚きだ。
     格差社会は今に始まったことではなかった。この本はその貴重な証拠である。

  • この本に関しては評価するとかそういう次元ではないので評価しません。

    ただ、ここで描かれたルポに関しては一読の価値があると思います。
    40年前に書かれた本ですが、現在も似たような環境が続いているそうです。
    社会について考える契機になる本だなと感じました。

    こういうルポみたいなものを書ける人生もありかなと思いました。

  • 自動車工場を取り巻く環境は、依然厳しいものなのだろうか。
    某自動車メーカーの工場が近くにあるが、絶えず作業員の募集を行っている。それだけ離職者が多いのだろう。作業が過酷なのかもしれない。
    事実、私の知人も勤めてすぐ辞めた。また、私も一時期、期間工を考えたことがある。仕事がないときに。他人事では無いと感じる。

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著者プロフィール

鎌田 慧(かまた さとし)
1938年青森県生まれ。ルポライター。
県立弘前高校卒業後に東京で機械工見習い、印刷工として働いたあと、早稲田大学文学部露文科で学ぶ。30歳からフリーのルポライターとして、労働、公害、原発、沖縄、教育、冤罪などの社会問題を幅広く取材。「『さよなら原発』一千万署名市民の会」「戦争をさせない1000人委員会」「狭山事件の再審を求める市民の会」などの呼びかけ人として市民運動も続けている。
著書は『自動車絶望工場―ある季節工の日記』『去るも地獄 残るも地獄―三池炭鉱労働者の二十年』『日本の原発地帯』『六ケ所村の記録』(1991年度毎日出版文化賞)『ドキュメント 屠場』『大杉榮―自由への疾走』『狭山事件 石川一雄―四一年目の真実』『戦争はさせない―デモと言論の力』ほか多数。

「2016年 『ドキュメント 水平をもとめて』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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