カソウスキの行方 (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社
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本棚登録 : 997
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  • Amazon.co.jp ・本 (192ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062770446

作品紹介・あらすじ

不倫バカップルのせいで、郊外の倉庫に左遷されたイリエ。28歳、独身、彼氏なし。やりきれない毎日から逃れるため、同僚の森川を好きになったと仮定してみる。でも本当は、恋愛がしたいわけじゃない。強がっているわけでもない。奇妙な「仮想好き」が迎える結末は-。芥川賞作家が贈る、恋愛"しない"小説。

感想・レビュー・書評

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  • 自分と社会との間の些細なズレ。そこにとても自覚的な人間はハジけないしハジけられない。作者の描くそういう「常識人」がたまらなく愛おしい。

  • 表題作のほかに短編が2篇。
    郊外の倉庫に左遷されてやりがいのない仕事をするために毎日出勤するのは辛い。ならば職場に好きな人がいると仮定してみるとか。
    知り合いの嫁の素敵ライフブログを、肯定的とは言えない目線でチェックするとか(逆にストレス溜まらないか)。
    恋人の不義理には不義理で対抗する(相手は気付いていない)とか。
    自分なりのやり方で、ままならない日々をやり過ごしていくというのは、だれしも多かれ少なかれやっているんじゃないかしら。そのやり方が、何かで発散して切り替えるのではないすごく内向きで自分だけのものというのが、なんだか共感を覚える。

    そしてそんな超プライベートな自分ルールの日常を退屈せずに読める文章も好きなのだけど、ちょいちょい引っかかる絶妙なワードもいい。
    兵馬俑の表紙のノート、需要はあるのか。ルーニーの増毛の話題って、すごいポイント突いてくるなあ。
    深刻にならない加減で、辛い時ならちょっと浮上できる気がするし、問題ない時でもなんかわかるよ、と思える話だ。

  • 日頃、心の中にフワッと浮かんでくる、言葉に表したことのないようなしょーもないこと。そういうのをこんな風に書けるのってすごいなぁ。

  • シニカルにいつも心の中で毒づいているイリエさんのOLライフ。
    OLライフなんて書くとイリエさんにキレられそうな気がします。イリエさんは圧倒的に女性が生きづらい会社社会を、敢えて恋愛に全フリしてやり過ごそうとします。
    恋愛依存度高くないのに、女子力高くないのに、高いフリをして、自分さえ誤魔化して、恋愛が生きがいのようなフリをして実施する仮想恋愛プラン『カソウスキ』。それはまるで、不条理な社会への怨嗟の様にも感じられます。そもそもが雑で乱暴なプランで、真面目に完遂する気があったのでしょうか?
    いや、なかったのでしょう。ずーっと心の中で毒づきながらも、結局は真面目に仕事をこなしています。

    真面目なことはそんなにいいことではない。真面目であればあるほど生きづらくなる一方だとイリエさんも言っています。『カソウスキ』で少しでも生きやすくなったのであれば、それは正解だったのでしょう。

  • 「カソウスキ」という動物がいるのかと思っていたら「仮想好き」のことだった。
    「私はこの人が好きだ」と仮定すること。
    生活の中にときめきを生じさせようとする努力。
    やったことはないけど、気持ちは分かるような気がした。
    そもそも恋って多少なりとも思い込まないと出来ないもの(のはず)だし。
    「この人はこういう人なのだ」と思い込むことと、「私はこの人が好きなのだ」と思い込むことはどちらも自分に言い聞かせる行為という点では同じこと。
    前者の方がより夢見る夢子さん的で、後者の方は終わりつつある恋を維持しようとしているかのうようだ。
    …ということは、後者の思い込みを同僚に適用するのは変わってますね。
    いや、それがこの小説の味わい深いところなんです。

    仮想とは言え、「好き」という感情を掲げているのに全く浮かれたところのない主人公、イリエ。
    恋愛ごっこというより興信所ごっこではないかと自分でつっこみを入れてしまう彼女の行動の数々に何故か心が和む。
    これが「好き」と仮定した途端に恋する乙女モードに変身するようなキャラだったらドン引きだったかもしれない。(意外と面白かったかもしれないけど)
    また「仮想好き」の相手の森川くんがじわじわといい人なのも良かった。
    例え仮想と言えども嫌な人を好きになりたくないもんね。
    でもイリエはもっともっと、感動するくらいいい人だった。福引のシーンでは優しさの本質を教えられたような気がした。

    森川くんでもいいし、他の人でもいいし、別に誰かを好きになることじゃなくてもいいのだけども、イリエの毎日にときめきがあってくれたらいいなぁと思う。
    とりあえず森川くんとのメールは続きそうな気がするラストにやはり私の心は和みました。

  • 「仮想好き」であっても「仮想敵」であっても、ターゲットに関心をもって観察することで、ただの「同僚」とか「30代独身男性」でしかなかった人物が、一人の人間としての輪郭を帯びてくる。そうなって初めてそれまで見えなかったその人の魅力に気づき、いいなと思えてくるようになる。表題作を初めとする3作品は、そんなふうにいつもの日常の他人との関わりの中にふとたち現れた「好意のきざし」を切り取ったものに感じた。「好き」とまではいかない、「あ、いいかも」という、恋愛ではなく好意という距離感にストレスを感じない絶妙な心地よさを感じる。表題作で主人公とカソウスキの相手が、正月休みに会社の食堂でテレビを見るという、なんてことのない場面だがとても心が惹かれた。他人に語ってもその場面がなぜ良いのか、その良さをなかなか伝えることができないが、そういう他人に説明できないようなものこそ小説の真の醍醐味と思う。

  • 『仮想好き』から『カソウスキ』。
    職場の同僚を好きになったというテイで日々の鬱憤を晴らそうとするイリエの物語は、なんとも窮屈でもの寂しく、なんとも愛おしいものだった。
    表題作をはじめ、中短編3つの物語が詰め込まれた本作は、恋愛に対してというより人間に対しても不器用なひとたちの、自分流に繋がりをつくりだそうと生きる姿が心に焼き付く小説でした。

    あとがきの”人をうらやまなくても、ねたまなくてもちゃんと生きていける。大丈夫、と思わせてくれる”は、まさに津村作品すべてにしっくりくる言葉だとわたしは思う。
    津村さん的恋愛小説、最高です。
    すごくしっくりきます。やっぱり沁みる。

  • 「仮想の好き」で「カソウスキ」。カタカナにするだけで、なにやら意味不明な、新しい概念のようになります。そして、物語の内容もおなじように、分かりやすいはずの関係が、一般的な枠組みを越えて、地味に、新たに、広がって行く過程が心地よい作品です。わざわざ人に言うまでもないけれども、モヤっとすることや、人間関係上の心の機微みたいな描写が相変わらずリアルで、自分とはタイプの違う人間であっても、まるで主人公の内側に入り込んだような気持ちになれました。

    津村記久子作品は、いつも本当に普通の人たちの、普通の生活を描いています。カッコつけたりもせず、露悪的でもなく、説教くさくもなく、嘘くさくもなく、悟りにいたることもなく、あくまでも中庸で、こんなに地味にじわじわと面白く、謎に心あたたまるのが、毎度のことながら素晴らしいです。

  • サイコーでした。
    私も職場でカソウすることにします。

    表題作のあとの Everyday I write a book と花婿のハンブラビ法典 
    どちらもよかった。
    主人公たちに、好感がもてる。

  • 誰にでも起こりそうだし、自分にもこんな感情になったりすることあるなーと思いながら読んでた。
    津村さんの小説に出てくる主人公達の感情ダダ漏れというか、ノリツッコミ?みたいな感じの文章を目で追いながらクスッとしてしまうんだよなぁ〜

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著者プロフィール

1978年大阪市生まれ。2005年「マンイーター」(のちに『君は永遠にそいつらより若い』に改題)で第21回太宰治賞。2009年「ポトスライムの舟」で第140回芥川賞、2016年『この世にたやすい仕事はない』で芸術選奨新人賞、2019年『ディス・イズ・ザ・デイ』でサッカー本大賞など。他著作に『ミュージック・ブレス・ユー!!』『ワーカーズ・ダイジェスト』『サキの忘れ物』『つまらない住宅地のすべての家』『現代生活独習ノート』『やりなおし世界文学』『水車小屋のネネ』などがある。

「2023年 『うどん陣営の受難』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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