おまえさん(下) (講談社文庫)

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著者 : 宮部みゆき
  • 講談社 (2011年9月22日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (616ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062770736

作品紹介

父親が殺され、瓶屋を仕切ることになった一人娘の史乃。気丈に振る舞う彼女を信之輔は気にかけていた。一方、新兵衛の奉公先だった生薬問屋の当主から明かされた二十年前の因縁と隠された罪。正は負に通じ、負はころりと正に変わる。平四郎の甥っ子・弓之助は絡まった人間関係を解きほぐすことができるのか。『ぼんくら』『日暮らし』に続くシリーズ第3作。

おまえさん(下) (講談社文庫)の感想・レビュー・書評

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  • 南辻橋のたもとで、斬り殺された身元不明の亡骸が見つかる。
    それから間もなく、かゆみ止めの新薬「王疹膏」を売り出していた瓶屋の主人、新兵衛が斬り殺される。新兵衛亡きあとには、美しい後妻の佐多枝と、前妻との間の美しい一人娘・史乃が残された。
    本所深川の同心・平四郎は、調べに乗り出す。斬り口の類似から、この二つの事件の関連を調べるうちに、過去の因縁にたどりつく。

    ぼんくら、日暮らしに続くシリーズ3作目。
    美形の甥っ子・弓之助、若き同心・信之輔、岡っ引きの政五郎、記憶力抜群のおでこ、お菜屋のお徳…。
    なじみの面々に、新しく登場する玄徳医師や十徳長屋の丸助、信之輔の大叔父・源右衛門、弓之助の兄の淳之助らがからんで、ますますにぎやかに。
    キャラが立っていて、ストーリーも面白いのは面白いのです。
    が、前半で伸びに伸びた枝葉を、後半はちまちまとチョキチョキする感じで、だいぶ失速してしまいました。
    おでこのお母さん、おきえの話や、富札で大当たりして人生が変わった仙太郎の話、弓之助のお家騒動、お六と彦一の話(←前の話覚えてないし…)は、どれも本筋がわからなくなってしまうくらいの長さで、もういっそのこと、「おまえさん」は1冊にして、その他の話を短編集として別冊にしたらよかったのでは、と思いました。
    多少つながりはあるとはいえ、事件としてはほぼ別だし。色んな伏線を回収しているうちに、弓之助の冴えに冴えた推理の位置づけも曖昧になってしまってたのが残念です。

    目立たないけれどよかったのは、平四郎の奥方。ご慧眼でした。
    “「罪というものは、どんなに辛くても悲しくても一度きれいにしておかないと、雪のように自然に溶けてなくなることはないのだと、父は申しておりました。」”
    そして、不細工、不細工、不細工としつこいほどに表現されて(金壺眼だとか表現の仕方は色々ですが)、ちょっと可哀想になる信之輔でしたが、苦難のときを乗り越えて、同心として大きく成長し顔つきも変わり。
    彼の今後の活躍が楽しみになり、どうか素敵な出会いもありますようにと思うのでした。(にしても、彼の恋心は、平四郎が煽りに煽ったんじゃないのー、可哀想に。)

  • 今年の「読み初め」にしようと思って我慢していた、とっておきの一冊。元日と二日にわたって読みふけって、たっぷりと堪能した。こういう全幅の信頼感を持って読んでいける作家さんはちょっと他に思いつかない。素晴らしかったです。

    時代小説は苦手で、宮部さんの作品も現代物が好きだ。でも、本作に連なるシリーズは楽しんで読んできた。いつも感じるのは、登場人物がみんな生きていて、ほんの端役に至るまで人間としての奥行きがあることだ。のっぴきならない「その人らしさ」が立ち上ってくるようだ。特に、善人とは言えない人たちの描写に力がある。「人間」というものを抉りだしていくその筆致は、現代物ではしばしば胸に痛すぎる気がしてしまうが、こういう時代物ではワンクッションある感じがして、ほっとする。

    善人といえば、本シリーズおなじみのお徳さんがその代表だろうが、本作では丸助さんという、これまた絵に描いたような「いい人」が登場していて、しみじみ温かい気持ちにさせてくれる。こういう人たちが、宮部作品では実は主役なんじゃないかといつも思う。こういう人間を書きたいから小説を書いているんじゃないかなあと勝手に思ったりしている。

    考えてみると宮部さんの書かれるものではいつもそうかもしれないが、本作では特に、印象的で語りたくなる人物が目白押しだ。老番頭の善吉さん、本宮源右衛門、弓之助の兄淳三郎、玄徳医師、夜鷹のお仲…、まだまだいるが、どの人をとっても主人公となる物語が作れそうだ。いやまったく素晴らしいです。

  • 「ぼんくら」「日暮らし」に続くシリーズ三作目。ぼんくら同心・平四郎や煮売り屋のお徳、政五郎親分など大人たちの相変わらずぶりと、あれ?と言った感じに書かれる弓之助やおでこさんの成長談がとても楽しいです。宮部さんって!!!!と、いくらでも!!をつけたくなるくらい面白い!&上手い!のお話でした。

    これまでのお馴染みのメンバーに加えて、人目をひくくらいにぶさいくな若手同心・信之輔や、死体の検分を好むご隠居・源右衛門、そして、事件に関わる瓶屋や大黒屋の面々など、新キャラの人々がほんの端役に至るまで、その心理の動きを丁寧に追われ、気持ちの奥底に持っている屈託、歪み、嫉妬などを焙りだされる。しかもしかも!そんな暗いものを提示しているというのに、結局は人間の温かさや優しさをたっぷり感じさせてくれる宮部さんには、もう脱帽、というしかないです。

    一行、一行がよく練られていて、速読のヘキがある私(これ、すっごくイヤなんだよね、自分ではなんとか改めたいと思っているんだけど)が速読できなかった、という嬉しさ。
    だって、台詞の一言や、(そもそも、台詞にカギカッコを使うか否かも含めて)地の文の中の一単語、にいたるまでじっくり味わって読まないとその人物の気持ちが本当には読者に伝わらない、というのがはっきりわかるから、これは何がなんでもゆっくり読まないと、と思わせられるんだものね。

    分厚い上下二巻の物語で、事件の背景の複雑さを解明しながらも、一番のテーマは、人を恋うる気持ちなんだなぁ、と。

    色々な恋が描かれ、それぞれの切なさ、どうにもならなさ、に悲しくなったり、幼い恋にふふっと気持ちが和むと同時に、でもまたやるせなくなったり。う~~ん、上手く言えない!!

    “おつむりと顔のいい”弓之助の、一見ちゃらんぽらんな兄・淳三郎がとても好きだった。
    彼の人たらしぶりにはもう、ホント、参っちゃってね。
    まだこのシリーズは続くんだろうから、淳三郎のその後が読みたくてたまらない。

    宮部さん、また、お願いしますよぉ~~~!(*^_^*)

  • 3シリーズの中で1番面白かった。
    シリーズごとに味のある新しい登場人物がが次々と出てくるのも、お話を飽きさせずにさせている。

    さすが宮部さんというべきか、この2冊の本の中に様々な人が出て来て、それぞれに深い物語がある。決してその物語同士が絡み合っているわけではなく、全くの別のお話。
    でも、その深いところにある因縁は同じだったり、その出来事を通してある登場人物が人間として成長して行ったり…そして最終的に3人の人殺しの犯人追求に至ります。

    決して難しいわけではないが、とても複雑に構成されたお話。
    読み応えがあります。

    私が1番好きなお話は、おでこの母親、おきえのストーリーでしょうか。
    ただ、冷たい母親ではなかった。辛い決断をすることもあるけれど、それを背負って行く覚悟がある女性の強さ、そして母としてのなくすはずのない子を思う優しさ。胸が温かくなるというよりは、心が引き締まる思いがした。

    このお話をはじめ、宮部さんのお話には色々な生き方をしている女性が登場する。
    夫に死なれ、お菜やを営むおせっかいのお徳、子供を捨てて女として生きて行くおきえ、2人の夫に死なれるさたえ、夜鷹のお継とお仲、失恋する娘、好いた人を亡くす娘…
    どんな境遇にあってもいづれも、心の根っこは温かい。
    自分もそうでありたい、と思った。

  • みっちり書き込まれた充実の時代小説。
    第三弾ともなると、元気ないつものメンバーだけでなく、関わり合う多くの庶民達もいきいきしてきますねえ。
    二十年前の因縁まで含めた複雑な人間関係を解きほぐしていくと‥

    瓶屋(かめや)の主人が殺された事件のあらましがわかってきたと、同心の平四郎は関係者を集める。
    話をするのは、平四郎ではなく、甥の弓之助。
    ほんの子どもだが大したおつむりの持ち主なので、笑わずに聞いてみてくれと。

    女ながら差配をつとめるおとしも呼び出され、納得いかない表情。
    気丈でいささか出しゃばりだが、それなりの理屈もある。
    瓶屋の後妻の佐多枝が印象的。
    夫を亡くして程なく隣家に再嫁し、病がちで離れに暮らしているといういかにも頼りなげな女性だったが。実は意外に芯がありそうなのだ。

    瓶屋新兵衛亡き後は、一人娘の史乃(ふみの)が若いながら店を仕切っていた。
    父の再婚で、父との間に溝が出来たらしい‥
    再婚のいきさつを誤解したままだったせいもあったのだ。

    弓乃助の名推理や、おでこの記憶力で主に話が進んでしまうのでは物足りなかっただろうけど、そんなことはなく、大人達もそれぞれに活躍。
    少年には理解出来ないだろう男女の機微も描かれて、読み応えたっぷり。

    十徳長屋に住む丸助という老人もいい味出してます。
    そこへ弓乃助の兄で、河合屋の三男・淳三郎が登場。
    弓乃助ほどの美貌ではないがむしろこれぐらいの方が誰にでも好かれるだろうという外見。明るい性格で、絵に描いたような遊び人だが、女にはもてまくり、どこにでも溶け込む。
    平四郎は、これは探索に役立つとさっそく頼むことに。
    今後の登場も楽しみです。

    若き同心の間島慎之輔の物語ともなっていて、真面目一方の堅物だが、まだあまりにも青すぎて、知らず知らず私情で動いてしまった。
    そういう思いも経て、同心の顔になっていく。
    良い終わり方でした。

  • いやぁ~~面白かった!!!
    下巻に入ってから更に引き込まれた感アリ。
    今回は、政五郎の思考動向もたくさん出てきたが、
    気になってたおでこの問題も解決し、なんだかホッとした。
    そして何と言っても心を打ち抜いたキャラは淳三郎だった!!!
    以前、弓之助の口からこの三男坊の風来坊風なことは語られていた。
    弟からも咎められる三男ってどれだけ遊び人なんだろうと思っていたけれど、ところがところが。血は争えないもので、何とも魅力的ないい奴なんだな、これが。
    そんな淳三郎と丸助のやりとりが、とてつもなく良かった。
    信之輔の想いは、とことん挫かれたが、最後にはいい顔になれたし。

    宮部さんの時代小説には、本当に惹かれる人物が多々出てくる。
    それらがみんな、形は違えどとんでもなく傷ついて萎れていたりするが、
    その傷ついた心を、また違う人物が見事にそれとは知らぬ形で癒してくれたりする。
    その瞬間「おおおお!!!」となって、私はたまらない。
    男はどこまでも莫迦で。
    女はどこまでも嫉妬やきで。
    あぁ、めんどくさい。でも、どこか憎めない。
    宮部さんの時代ものは本当に面白く、そんな人間味に始終あふれているなぁと思う。大好きだ。

  • 男はどこまでも莫迦で。
    女はどこまでも嫉妬やきだ。
    どっちも底なしだ。
    俺はもう勘弁してもらうよ。

    長い1200頁以上にも及ぶ本格時代推理モノの今回は、本格的な恋のあれこれの話だった。

    人間の心は底なしである。

    宮部の小説はいつも長いが、描いていることはいつもその一点だ。

    雑誌での連載は09年に終わり、後は終章を描くだけになっていたのに、今まで延びてしまい、「申し訳ないから……」と単行本と文庫同時発売になったいきさつは、推測するほかはないが、宮部が恋の落し処に未だ迷っているという証左なのだ、と私は思ったね。同じ年齢(とし)の私が思うのだから、間違いは無いと思うよ。

    白髪の多い薄い鬢を指で掻いて、源右衛門は初めて恥じ入ったようにうつむく。
    「やはり、わからん」
    むしろ学問を続けるほどに、わからないことが増してゆくようだった。
    「それでも、儂は学問をしてよかった。人というものの混沌が、その混沌を解こうとして生み出した学問が、儂にわからぬことの数々を教えてくれた」

  • 読了後、思わず「うへぇ!」と言ってしまう。満足度は半端じゃない。このボリュームの中で流し読みする事無く、最後まで引き込まれっぱなし。面白い。

  • このシリーズは本当に登場人物の人物造形が魅力的。新たに登場した弓之助の兄、淳三郎がまたとてもいい。軽い、女あしらいが上手い、顔もいい、一見馬鹿に見えるけどそうではない。読者としても彼の魅力はよく分かるし、普段は大人びている弓之助がいちいち彼に突っかかるのも微笑ましい。
    そして間島信之輔が思い悩むシーンが多かった今作だが、彼の苦しみもよく分かる。この下巻は普段より恋愛に焦点が当たっていたようだが、お徳の「幸せ者のそばには必ず気の毒な者がいる。それは仕方ないことなんだから、それに一生囚われたままでいる方が不幸だ」という台詞が胸に染みた。
    ただ、ミステリーとしては前作『日暮らし』の時も感じたことだが、あまりにも弓之助の推測頼り過ぎるのでは。彼にも間違うことがそろそろないと割に合わないと思ってしまった。
    とりあえず弓之助ロスになってしまっているので、次回作に期待したい。いつか出るのかな、、

  • 「ぼんくら」「日暮らし」と続いて、この「おまえさん」。傑作ですね。読み進めながら、まだ終わってほしくない、この物語がずっと続いてほしい。と思いながらの読了です。
    どの場面もすばらしかったですが、特に残っているのが丸助・弓之助・淳三郎の三人でお重をつつきながら語り合う場面でした。
    続編が読める日を待ちわびています。

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