欲情 (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社
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本棚登録 : 37
感想 : 4
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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062770910

作品紹介・あらすじ

「自由な性にこそ男女の平等がある」と考える信夫は、妻の真奈美、女友達の早紀と、情熱とセックスを共有する喜びを夢想していた。だが、旅先のポルトガルで真奈美は漁師と運命的に惹かれ合い、夫の元を去る。性に貪欲に生き始めた真奈美と、残された信夫と早紀。人生と快楽に翻弄される男女を描く恋愛小説。

感想・レビュー・書評

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  • 坂東眞砂子作品初読了。と、思ったがあとがき?(附記)に共作で、初版のときと作者名が違うとある。

    読み終わってすぐ感想を書かなかったので、再読する羽目になってしまった。最初の感想は「よくわからない話」だったと思う。話に入れなかった。

    ひとつの事柄について、関わった人がそれぞれ違った見方をし、解釈をし、それが思い出になる過程も違えば、回顧する時の想いも違ってくる。

    信夫と真奈美の結婚が破城する。信夫が早紀と関係を持った。それを知ったとき、真奈美の結婚は破城した。真奈美がポルトガルで他の男に走ったのが信夫にとって真奈美との終わりだった。一年近い時差がある。この違いを信夫が知るのは、離婚してから20年ばかりの年月を経た後だ。

    幸福とは何だろう。一瞬でもそれを味わったら、それで終わりだろうか。もう二度と味わえないものだろうか。この話の主要登場人物は、それぞれ一度だけ、至福の時を過ごしている。幸福を性行為に伴う快楽と勘違いしてないだろうか。確かにそれは幸せの一つではあるだろうけど。

    信夫は男も女も同じように自由であるべきだと考え、口にもしていた。だから、その時の感情に従って早紀と関係を持ち、それがこの上なく美しかったので、真奈美もこの幸せを分かち合い喜ぶと思い込んでいた。同様に、真奈美がポルトガルで漁師に走ったとき、真奈美が自分を解放したことに満足しなければならないと自分を納得させた。去られることで自分が衝撃を受けるとは考えてなかったらしい。それに、田舎の祭りで、科学的説明のできない超自然現象を目の当たりにして、理解不能で頭を抱えてしまう。「んな、バカな!」とは片付けられない。

    一方、早紀にとっても、信夫とのひとときは一生の思い出になるほど美しいものだった。以前、仕事関係で知り合った男性と情事に至ったが快感を夢見たのは自分だけで、相手は早紀をバカにしながら行為に及んでいた。後にセックス・パーティにも参加してみたが、自分を素直に解放でき、至福を分かち合える相手には巡り会わなかった。信夫とでさえ、一度のみで、だんだん疎遠になった。彼女は幸せを探してさまよう。彼女は死に際して覚る。あの時とは違う幸福感に包まれながら、どうしてあの時の絶頂が再現できないのか。

    結局のところ、何事に対しても自由に生きたのは、哲学的な理論をこねくり回している信夫より、信夫の熱弁を理解不能で、彼をバカではないかと疑っていた真奈美の方だろう。行き当たりばったりみ見えて、自分がしたいと思うことの実現には体当たりだ。信夫との結婚も、それまでの奴隷のように働く生活を切り上げるためのものだった。信夫と早紀のことを知る前から夫には何の期待もなく、生活のためだけだったが、ポルトガルで知り合ったスティリオとは美しいセックスができた。この体験に魅せられて異国に残ったが、至福のときはたった一瞬で、子どもがいなかったら、さっさとこの男の下も去っていたのではないか。自分の自由が制限されることに限界を感じると、自由に向かってまっしぐら。自分の産んだ子を置いて婚家から逃げ出すことも、離婚した夫に助けを求めることに何の躊躇もない。気が合って、話が弾めばどんな男も利用する。

    美しいひととき、完璧な歓びは瞬間的なのかもしれない。早紀が言う。「どんなに真似ても、偽物でしかなかった」。歓喜も思い出となり、思い出して懐かしく思うものなのかもしれない。

  • 2012/1/3

  • 挫折

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著者プロフィール

高知県生まれ。奈良女子大学卒業後、イタリアで建築と美術を学ぶ。ライター、童話作家を経て、1996年『桜雨』で島清恋愛文学賞、同年『山妣』で直木賞、2002年『曼荼羅道』で柴田連三郎賞を受賞。著書に『死国』『狗神』『蟲』『桃色浄土』『傀儡』『ブギウギ』など多数。

「2013年 『ブギウギ 敗戦後』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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