花競べ 向嶋なずな屋繁盛記 (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062770965

作品紹介・あらすじ

花競べ-最も優れた名花名木に与えられる称号・玄妙を目指し、江戸中の花師が育種の技を競い合う三年に一度の"祭"。恩ある人に懇願されて出品した「なずな屋」の新次は、そこでかつて共に修業した理世と再会する。江戸市井の春夏秋冬をいきいきと描く傑作「職人小説」。小説現代長編新人賞奨励賞受賞作。

感想・レビュー・書評

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  • 向島なずな屋は、花師として品種改良や庭造りの確かな技を持つ新次と、おりんの夫婦が営む苗物屋。
    花木の良さはもちろん、手習の師匠をしていたおりんが書き添えるお手入れ指南の添え書きが評判だ。

    江戸一番の花師を選ぶ“花競べ”、新次の師匠の娘で優れた花師でもあった理世との再会、預かった少年との心の通い合い…と、さまざまな物語が語られる連作短編集。


    朝井まかてさんの、これがデビュー作とのこと。
    うーん、デビュー作とは思えない。
    花師という仕事を通して描く江戸の風俗は、火事と喧嘩ではない、花々に彩られたガーデニングブーム。
    ムラサキシキブやソメイヨシノの名付けにまつわる物語も興味深い。

    親の勧める縁談を拒み自立しようとしたおりん、名家の娘ながら花師として成長しようとする理世など、個性的で自立しようとする女性の姿も、デビュー時から大切な視点だったんだなぁ、と。


    新次と理世が、一夜限りと決めていたにしても、あっさり契りを結んでしまうエピソードが、ちと意外。
    最近はそうでもないけれど、少し昔は時代小説とハリウッド映画には、必ず色っぽいシーンを入れなきゃいけない決まりでもあるのかと思っていた。
    その時代のデビュー作品なのかな。

  • 苗物屋の新次・おりん夫婦の物語。304ページと中編だが、内容はたっぷり。序盤は悪役に嫌がらせをされ、中盤は理世との逢瀬、終盤は花魁吉野と染井吉野の話。もっと引っ張っても良さそうだが、まさかデビュー作とは。さすがは朝井まかて氏です。

  • 江戸に、花師という職があったのは知らなかった。
    なずな屋の主である新次は無口だが腕のある花師、その女房のおりんは手習いの師匠をしていたこともあり「お手入れ指南」(花の育て方メモ)を付けるようになり、なずな屋は小さいながらも人気の苗物屋だ。

    紫式部や染井吉野など、樹木の名付けを物語の中に取り込んでいるのが面白かった。
    自然のままの木の美しさや生命力、人の手を加え作り出された新種や奇種、植物を通して大切なことが伝わってくる。

    霧島屋とのごたごたについては、少し読んでいてすっきりしない部分も感じたが、全体的に読みやすく、温かく、生き生きとしていて楽しく読めました。

  • 「恋歌」で直木賞を受賞した朝井まかてのデビュー作。
    デビュー作にしては達者で、さすが。

    「なずな屋」を営む若夫婦、新次とおりんが主人公。
    男前すぎて若い頃に女の子がぞろぞろ付いて来るほどだったため、女性に警戒心がある新次。
    おりんは家を出て子供に手習いを教えていて、しごくさっぱりした気性なのが新鮮だったらしい。

    感じのいい若夫婦に、新次の幼馴染夫婦や、新しいお得意さんの大店のご隠居と孫息子、新次が独り立ちする前に勤めていた大きな育種屋、夫婦が預かることになった男の子「雀」(本当はしゅんきち)などが絡んできます。

    苗や種を育て、時には新種を作り出す花師という仕事が、江戸では盛んだったのですね。
    「花競べ」とは、最も優れた名花名木に与えられる称号・玄妙を目指して、江戸中の花師が育種の技を競い合う三年に一度の祭。
    花や樹木を扱うすがすがしさが伝わるような筆致で、ムラサキシキブ、桜のソメイヨシノなどの命名をめぐるエピソードもあって楽しく読めます。

    新次は仕事先で、かっての勤め先のお嬢さんで、共に修行した理世と再会します。
    女ながら才能があり、今は家を継いでいる理世。
    身分違いだからと気持ちをはっきりさせずに店を出たままだった新次は‥?
    女性作家にしては、妻のおりんのほうをほったらかしなのがやや意外な展開。
    おりんの気持ちを追ったらさらに生々しくなるのを避けたのかも。
    気持ちにけりをつけるという展開とはいえ、理世のことが妙に浮き上がって見えるような。
    何もいわずに戻った新次を、おりんは黙って受け入れたようですけどね。
    子供のいない二人が預かって育てた雀こと、しゅん吉の未来が開けるので、話としてはまとまった読後感に。

  • 直木賞とった「恋歌」を読みたかったのだけど、予約数がすごかったのでまずはデビュー作を読んでみた。
    これが処女作ってこと?すごーい。
    普通にこなれててすごくおもしろいんだけど。

    町人文化が花ひらいた江戸でのお仕事市井小説。
    主人公はイケメン花師です。
    イケメンて印象さほどしないんだけどイケメン設定。

    草木を育み花を咲かせるという仕事がとても素敵で、自然の理との調和をとりながらも美しく強い花を咲かせようとする真摯な心意気が伝わってきます。
    女房のおりん、預り子の雀、留吉&お袖一家、上総屋六兵衛と辰之助、登場人物もいきいきとしてて皆の絆が深まっていく感じがいい。

    修行先の御嬢さん理世とのアレはちょっとむむむぅという感じがしましたが、その後の台詞にしびれたので良しとしよう。
    雀のお母さんの話と、辰之助と花魁吉野の恋はよかったなぁ。

  • 人情溢れる素敵な関係性。時代小説はあまり読まないのですが、さくさく読めた。淡々と進みながら、言葉にできないらやりきれなさも胸を打った。時間は一方向。継いで継いで残されたものの美しさに感謝したい。

  • これでデビュー作?朝井まかて、恐るべし。
    確かに少々のぎこちなさはあるものの、一つ一つの短編風な章の完成度が高く、文章が読みやすいからか、ページを繰る手のリズム感も良い。

    それでいて、良くある普通の市井人情時代小説とはちょっと違う味付け、主人公が植木職人とその妻っていうのもひねった設定だし、彼らの子供の生い立ちや、主人公が修行した大店のお嬢との関係もまたヒネってあって、意外な有名人物が登場するかと思いきや。

    吉原炎上からの急展開に唖然。堰を切ったようにあれやこれやの出来事がドンと押し寄せて来て油断できない。ミステリーの謎解きとはまた違った「へー、そうなんや。えっ、こう繋がってくるんや」っていう出来事同士の繋がり方は、実に見事。

    草花への愛情、自然への憧憬。色んなことが積み重なって…この本を読んだことで、来春のサクラ花見は、今までと違った目線と思いで楽しめると思う。

    一つだけ苦言。好みは分かれるかも知れないけど、タイトルは原題「実さえ、花さえ」のままの方が、この小説に似合っているんじゃないだろうか。

  • 色とりどりのお花。風情のあるお庭。花魁の艶やかさ。等々。
    次々と綺麗な世界観が溢れてきます。

    丹精込めて作り上げたお庭が一瞬で壊されてしまったのはショックでした。

  • 202108/これがデビュー作と知ってレベルの高さにびっくり。実に面白かった。苗物屋という設定と、そこから織りなすエピソードも、とても好み。新次・おりんの夫婦は勿論、預かっている子・雀、留吉一家、六兵衛・辰之助、花魁吉野などなど、登場人物達も本当にそこにいるかのような魅力的な描写で物語に没頭できた。草木花のこと、お仕事の工夫、陰謀・謎、恋や人情など盛り沢山だけど、とっちらかることなく綺麗におさまり見事。ただ一点、理世との一夜は残念…。

  • ぎゅっと、ぎゅっと、詰まった一冊。短編集になっているのが、もったいない。
    桜の描写も美しくて。
    来年の桜は、この話を思い出して切ない気持ちで見上げることになりそうです。
    辰之助の人生を、別冊でじっくり読んでみたいなぁ。

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著者プロフィール

作家

「2023年 『朝星夜星』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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