この胸に深々と突き刺さる矢を抜け 下 (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社
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本棚登録 : 922
感想 : 84
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  • Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062771160

作品紹介・あらすじ

カワバタは胃ガンであった。手術の直後から、数年前に死んだ息子が自分をどこかに導こうとする囁きが聞こえ出す。格差社会、DV、売春-思索はどこまでも広がり、深まり、それが死の準備などではなく、新たな生の発見へとつながってゆく。発表されるや各メディアから嵐のような絶賛を浴びた、衝撃の書。

感想・レビュー・書評

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  • すごい小説だった。
    自分とは何か、何のために生きているのか、世の中の真実はどこにあるのか、何を信じればいいのか。
    もっとも繰り返し問われるのは経済格差の問題。
    小説の最後に、「胸に深々と突き刺さる矢」の正体が分かる。
    でも、もしそうなら、私はその矢を抜くことはできないと思った。
    その矢にとらわれることなく、「自分」という存在をあるがままに受け入れるのは難しい。
    人は誰でも、過去にとらわれたり未来を想い描いたりするからだ。
    そうでないと生きてはいけないと思う。

    小説を通して、世界の真実を問うているのか、一人の人間の真実を問うているのか、運命の何たるかを問うているのか、愛の何たるかを問うているのかわからなくなってくるけど、多分すべてを読者に問いかけているのだろう。
    内容盛りだくさんで非常に考えさせられるし、ストーリー展開自体も面白くて最後まで引き込まれる小説でした。

  • 久々に上下巻にも及ぶ大作を読んだ。
    でも「長い」というイメージはない。

    この本は作者にとっての「哲学」なんだと思った。

    編集者という職業柄をうまく使い、
    時事問題・歴史問題・政治問題を絡ませながら
    最後に「必然」とは何かという哲学に導いている。

    主人公のカワバタをこういった哲学の道に引きずり込んだのは
    生後3ヵ月でこの世を去ったユキヒコの死に他ならない。

    その後の彼にとって過去や未来は存在しないにも等しいし、
    結婚関係についても妻に愛人がいるとしっても取り乱すこともなく
    第三者的立場から物事を見ているような感じ方だ。

    【ココメモポイント】
    ・神が宇宙知性であり僕たち一人一人はその微小な部分だとするならば、巨人は
     一体何を思惟しているのであろうか?また巨人は一体何を知りたくて思惟しているのであろうか?
     P.47

    ・二度と会うことのない人は、僕たちにとって「もうこの世にいない」との同じだ。
     P.102

    ・子育てなんて一時的なものです。妻というのは、一緒に年老いていく相手です。
     だが、彼女はそういう対象ではまったくないですね。
     P.150

    ・体験や経験が人生の本体だとすれば、人間はなぜそういう本体の内容はどんどん忘れ、
     折々で頭の中に詰め込んだ瑣末な知識はしっかりと憶えていられるのだろうか。
     P.171

    ・他人のことを幸福だと思うので「あなたは客観的事実として幸福なのですから、
     そのこと納得し決して不平不満を述べないようにしてください」と
     押し付けてるのと同じだ。その本人の幸福とは何一つ関わりなんてないんだよ。
     P.264

    ・僕たちは今の中にしか生きられない。歴史の中に僕たちはもうどこにもいないのだ。
     過去の中にもこれからの過去の中にも僕たちはどこにもいない。
     今、この瞬間の中にしかいない。この瞬間だけが僕たちなのだ。
     時間に欺かれてはならない。時間に身を委ねたり、時間を基軸として計画を練ったりしてはならない。
     そういう過ちを犯した瞬間、僕たちは未然のものとなり、永遠に自らの必然から遠ざけられてしまう。
     P.317

  • 上巻と同じように理屈の捏ね回しは続きつつも、物語も動き出してなかなかに面白い。ただ、突然逃亡犯を捕まえる展開になったり、政治家がスピリチュアルなことを言い出したり、意外な人の結びつきが合ったり、少し強引な雰囲気もあった。小説だからある程度は仕方ないけれど。
    良くも悪くも濃厚でてんこ盛りな一種のカオスを恐れない実験的な小説だったと思う。

  • これぞ白石一文というくらい、人生への考察に満ちた濃厚な小説だった。

    過去も未来もない、あるのは現在だけだということ。
    必然に従って生きるということ。

    でも必然というのは誰がどうやって決めるのだろう。「必然だから仕方ない」という逃げ道になってしまわないだろうか。人生を大切に生きているようでいてどこか割り切った感じを主人公に覚えた。

    それにしてもここまで主人公たちに「思考」させる小説も珍しい。引用の多さには少々辟易とさせられた。
    それでもこの小説をクオリティを保っていられるのは白石一文のなせる業だと思う。

  • 共感する。

  • 【あらすじ】
    カワバタは胃ガンであった。手術の直後から、数年前に死んだ息子が自分をどこかに導こうとする囁きが聞こえ出す。格差社会、DV、売春―思索はどこまでも広がり、深まり、それが死の準備などではなく、新たな生の発見へとつながってゆく。発表されるや各メディアから嵐のような絶賛を浴びた、衝撃の書。

    【感想】

  • 面白かったけど、最後はちょっとばたばたで残念。

  • 中村一文が書く人の一生についての話。今個人的にこの小説みたいなことばっかり考えて生きてるので、すごく身につまされる話だった。どこかのコミュニティに属していると、他人の利権争いや、他人の打算ありきで話をもちかけてこられて、すごくやりづらい。でも主人公が言っていた「必然」を意識する生き方は面白いので、俺も見習おうと思った。白石一文の書く主人公は皆、社会的に成功していて、お金にも困っていないけど、ひどく生きづらそうだ。この人の小説を読み終わったら、皆一様に生きづらさは抱えているんだなあと少し安心する。

  • 真理の追求の果てに心の解放が見えてくる。
    難しい引用による読みにくさも有り、一枚一枚の話の積み重ねが、まるで修行のようだったが、この小説の中には、心に残しておきたい一節が沢山あった。誰でもがきっと一生のうちで響く時がくる気がする。自分も、余命がわかった時にもう一度読み返したい。そんな小説だった。とても良かった。

  • 上巻から少し間が空いてしまい登場人物について混乱してしまったので、ところどころ読み返しながらの下巻読了。
    引用部分は難しい内容もあったけど、女性観を除けば概ね、主人公の主義主張には理解ができた。

    大切な人を失った後は、死ぬことが怖くなくなる。本当にその通りだ。
    死後の世界との境目なんてあるのだろうか?

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著者プロフィール

1958年、福岡県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。文藝春秋に勤務していた2000年、『一瞬の光』を刊行。各紙誌で絶賛され、鮮烈なデビューを飾る。09年『この胸に深々と突き刺さる矢を抜け』で山本周五郎賞を、翌10年には『ほかならぬ人へ』で直木賞を受賞。巧みなストーリーテリングと生きる意味を真摯に問いかける思索的な作風で、現代日本文学シーンにおいて唯一無二の存在感を放っている。『不自由な心』『すぐそばの彼方』『私という運命について』など著作多数。

「2023年 『松雪先生は空を飛んだ 下』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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