この胸に深々と突き刺さる矢を抜け 下 (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社
3.53
  • (47)
  • (92)
  • (111)
  • (19)
  • (10)
本棚登録 : 922
感想 : 84
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062771160

作品紹介・あらすじ

カワバタは胃ガンであった。手術の直後から、数年前に死んだ息子が自分をどこかに導こうとする囁きが聞こえ出す。格差社会、DV、売春-思索はどこまでも広がり、深まり、それが死の準備などではなく、新たな生の発見へとつながってゆく。発表されるや各メディアから嵐のような絶賛を浴びた、衝撃の書。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • すごい小説だった。
    自分とは何か、何のために生きているのか、世の中の真実はどこにあるのか、何を信じればいいのか。
    もっとも繰り返し問われるのは経済格差の問題。
    小説の最後に、「胸に深々と突き刺さる矢」の正体が分かる。
    でも、もしそうなら、私はその矢を抜くことはできないと思った。
    その矢にとらわれることなく、「自分」という存在をあるがままに受け入れるのは難しい。
    人は誰でも、過去にとらわれたり未来を想い描いたりするからだ。
    そうでないと生きてはいけないと思う。

    小説を通して、世界の真実を問うているのか、一人の人間の真実を問うているのか、運命の何たるかを問うているのか、愛の何たるかを問うているのかわからなくなってくるけど、多分すべてを読者に問いかけているのだろう。
    内容盛りだくさんで非常に考えさせられるし、ストーリー展開自体も面白くて最後まで引き込まれる小説でした。

  • 久々に上下巻にも及ぶ大作を読んだ。
    でも「長い」というイメージはない。

    この本は作者にとっての「哲学」なんだと思った。

    編集者という職業柄をうまく使い、
    時事問題・歴史問題・政治問題を絡ませながら
    最後に「必然」とは何かという哲学に導いている。

    主人公のカワバタをこういった哲学の道に引きずり込んだのは
    生後3ヵ月でこの世を去ったユキヒコの死に他ならない。

    その後の彼にとって過去や未来は存在しないにも等しいし、
    結婚関係についても妻に愛人がいるとしっても取り乱すこともなく
    第三者的立場から物事を見ているような感じ方だ。

    【ココメモポイント】
    ・神が宇宙知性であり僕たち一人一人はその微小な部分だとするならば、巨人は
     一体何を思惟しているのであろうか?また巨人は一体何を知りたくて思惟しているのであろうか?
     P.47

    ・二度と会うことのない人は、僕たちにとって「もうこの世にいない」との同じだ。
     P.102

    ・子育てなんて一時的なものです。妻というのは、一緒に年老いていく相手です。
     だが、彼女はそういう対象ではまったくないですね。
     P.150

    ・体験や経験が人生の本体だとすれば、人間はなぜそういう本体の内容はどんどん忘れ、
     折々で頭の中に詰め込んだ瑣末な知識はしっかりと憶えていられるのだろうか。
     P.171

    ・他人のことを幸福だと思うので「あなたは客観的事実として幸福なのですから、
     そのこと納得し決して不平不満を述べないようにしてください」と
     押し付けてるのと同じだ。その本人の幸福とは何一つ関わりなんてないんだよ。
     P.264

    ・僕たちは今の中にしか生きられない。歴史の中に僕たちはもうどこにもいないのだ。
     過去の中にもこれからの過去の中にも僕たちはどこにもいない。
     今、この瞬間の中にしかいない。この瞬間だけが僕たちなのだ。
     時間に欺かれてはならない。時間に身を委ねたり、時間を基軸として計画を練ったりしてはならない。
     そういう過ちを犯した瞬間、僕たちは未然のものとなり、永遠に自らの必然から遠ざけられてしまう。
     P.317

  • 上巻と同じように理屈の捏ね回しは続きつつも、物語も動き出してなかなかに面白い。ただ、突然逃亡犯を捕まえる展開になったり、政治家がスピリチュアルなことを言い出したり、意外な人の結びつきが合ったり、少し強引な雰囲気もあった。小説だからある程度は仕方ないけれど。
    良くも悪くも濃厚でてんこ盛りな一種のカオスを恐れない実験的な小説だったと思う。

  • これぞ白石一文というくらい、人生への考察に満ちた濃厚な小説だった。

    過去も未来もない、あるのは現在だけだということ。
    必然に従って生きるということ。

    でも必然というのは誰がどうやって決めるのだろう。「必然だから仕方ない」という逃げ道になってしまわないだろうか。人生を大切に生きているようでいてどこか割り切った感じを主人公に覚えた。

    それにしてもここまで主人公たちに「思考」させる小説も珍しい。引用の多さには少々辟易とさせられた。
    それでもこの小説をクオリティを保っていられるのは白石一文のなせる業だと思う。

  • 共感する。

  • 【あらすじ】
    カワバタは胃ガンであった。手術の直後から、数年前に死んだ息子が自分をどこかに導こうとする囁きが聞こえ出す。格差社会、DV、売春―思索はどこまでも広がり、深まり、それが死の準備などではなく、新たな生の発見へとつながってゆく。発表されるや各メディアから嵐のような絶賛を浴びた、衝撃の書。

    【感想】

  • 面白かったけど、最後はちょっとばたばたで残念。

  • 中村一文が書く人の一生についての話。今個人的にこの小説みたいなことばっかり考えて生きてるので、すごく身につまされる話だった。どこかのコミュニティに属していると、他人の利権争いや、他人の打算ありきで話をもちかけてこられて、すごくやりづらい。でも主人公が言っていた「必然」を意識する生き方は面白いので、俺も見習おうと思った。白石一文の書く主人公は皆、社会的に成功していて、お金にも困っていないけど、ひどく生きづらそうだ。この人の小説を読み終わったら、皆一様に生きづらさは抱えているんだなあと少し安心する。

  • 真理の追求の果てに心の解放が見えてくる。
    難しい引用による読みにくさも有り、一枚一枚の話の積み重ねが、まるで修行のようだったが、この小説の中には、心に残しておきたい一節が沢山あった。誰でもがきっと一生のうちで響く時がくる気がする。自分も、余命がわかった時にもう一度読み返したい。そんな小説だった。とても良かった。

  • 上巻から少し間が空いてしまい登場人物について混乱してしまったので、ところどころ読み返しながらの下巻読了。
    引用部分は難しい内容もあったけど、女性観を除けば概ね、主人公の主義主張には理解ができた。

    大切な人を失った後は、死ぬことが怖くなくなる。本当にその通りだ。
    死後の世界との境目なんてあるのだろうか?

  • 上巻は時間を掛けて、下巻は一気に読んだ。若くして癌を患って再発の可能性がある中で生きる雑誌編集長の主人公。彼の「生きる」という行為に対する根源的な問いかけに心を揺さぶられる。必然の今を生きることこそが「矢を抜く」ことになるのか。まだ自分の中で消化しきれていない。再読したい。

  • 非常にたくさんのテーマが盛り込まれてるけど、考えていることのすべてをまとめてもらっているかんじ。

    まさに、揺さぶられる。
    久々の衝撃。

    ここから自分の考えを構築していくのが楽しいだろう、きっと。

  • この人の書く作品はなんだか薄暗いんですよね
    今回は、この人の書きたい事を全部書いたんじゃないかな?って作品でした

  • 本当にいつも最後がいい。
    息するのも忘れるくらい
    一文字一文字を追い、
    まるでそこにいるかのような、
    想像力を研ぎ澄ましてくれる描写。
    自分を取り巻く不平等な世界、策略渦巻く社内人事、見せかけだけの夫婦関係、死。なぜ人は生きる。頭の良い川端は「必然」という考え方で全てをみようとしていた。運命なんかじゃないと。これまで読んだ作品の中で1番白石さんの世界観が強く盛り込まれていただけに、やや偏っているところもあり、気持ちが離れるところもあった。けれど、何より美しいラストで全てチャラ。救われた。再読したい良本。

  • 最後の方でミスリードさせて落とす展開は良かったし、救いのあるラストで良かったなという感じ。読み方を深めて再読したいと思わせる内容。満足。

  • 物語の基軸となっている排出権絡みのスクープは、事件そのものの中身ではなく、これに関わる政治家との議論が要になっていく。政治というものをどう考えるか。より大きな理想を追い、小さな悪を受け入れるか。正面から考えれば偽善だらけの現状を変えることができるのか。

    人の生き方そのものに問題提起する作品。言葉の端々にマッチョな思考回路が垣間見えるけれど、言わんとすることはとてもよく理解できる。一気読みだった。

  • 必然……については考えてみたい。
    娯楽小説ではないってことを知らずに読んだので…
    今はその時期じゃなかったという感じです。

  • 絶賛を浴びたとの評価が気になって読んでみた。
    確かに面白いが、途中で飽きてしまう。
    小説は著者の思想が出るものだとは思うが、それは登場人物を通して伝わるものだと思っていた。この小説は登場人物を通してではなく、著者がダイレクトに考えを述べている点が多く、登場人物は関係なくなっている。特に下巻の前半部分はその傾向が強く読むのがかなり辛い。
    前評価を知っており何か他の小説と違うのだろうと先入観をもっていたので読了できたが、何も知らずに読んだらイライラして途中で辞めてしまった、と思う。
    書いている考えの内容がどうかではなく、伝え方が評価できない。

  • 意図的にミスリードして、肩透かしを食らわせる
    ストーリーテリングが面白いけど
    引用が多すぎて、理屈が理屈としてゴツゴツしすぎ?

    小説としてはどうなんだろう?

  • 解説:片山恭一
    不安◆ミッチェル◆EVA◆もの言う巨人◆障害者白書◆繁殖生物◆ショウダは煙草を吸わなかった◆詩集◆ジュンナの智恵◆小さないのち◆手紙◆痴漢の顛末◆白いワンピース◆「必然?何それ」◆プランピー・ナッツ◆異変◆役員人事◆クルーグマン◆クレパス◆新村光治◆さよならUSA◆偽善者◆率直な反射◆千枚通し◆本当のかあちゃん◆サルと人間◆この胸に突き刺さる矢◆真相◆丘の頂にて

  • 先の読めない展開が読んでいる間ずっと楽しめた。引用も多くて社会やら人間やらについて考えさせられる仕掛けにもなっている。ただ個人的は突き刺さる矢はなかったかな。

  • (上巻に記載)

  • 当たりまえの事と思う事が
    実は矛盾だらけで
    その事を分かっていながら
    意識を持っていない…。
    それが一般人だろう。

    でも、それらを
    今一度見つめ直すような…
    そんな作品なのかな。

    下巻は、物語が動き出した。
    ストーリーも悪くないと思う。

    とにかく衝撃だった。
    この作者の作品
    もっと読んでみよう(^^)/

  • 結局最後までトーンは変わらず。
    これをどう評価するかは読むときの心理状態に大きく左右されるだろうな。
    少なくとも今の自分とは明らかにスタンスが違う点が多かったものの、かといって一刀両断に斬り捨てるほど否定するものでもなく…
    まあ、一つの考え方を知ることができたという印象かな。

  • 2014.6.10(火)¥350。
    2014.6.29(日)。

  • 粕屋図書館あり

  • 上巻よりも下巻の方が面白かったかも。
    相変わらずの引用はちょっと難しい部分やくどい部分もあり、頭に入ってこないところもありましたが、カワバタがどのように救われていくのか追っていくのが面白かったです。
    まさかDVから助けだしたユリエと一緒になっていくとは思いませんでした。
    白石さんお得意のスピリチュアルな要素も双子に絡めて展開されていましたが、思わず納得しそうな感じでした。

  • 唐突な引用や不意に変わる展開が効果的で面白く、ストーリー運びの上手さと相まって最後まで一気に読ませられました。
    ただ主人公の論理には非常に魅力的な部分もあれど、その偏狭さに段々頭痛がしてきます。すべての人の心に矢が突き刺さっているという前提のようで、彼の目を通すと非常に暗いサングラスをかけて世の中を見ている気分になります。他者に対する評価が大変厳しく、彼らに対する想像力や寛容性は殆どありませんが、ご自分には意外に点が甘く、持論には辻褄が合わない箇所も多々あります。結局自分の信条に固執するあまり多様性には狭量のようです。
    恐らく議論を広げるため確信犯的に書いているのだろうけどそれにしても今一つ感じの悪い主人公だ、、、と思わせられるところは日本のミシェル・ウエルベック?巧いです。
    これほどシニカルな人がどうやったら救われるのだろう、本人もあまり興味がないようだが果たして救われるのか?という興味を持ってラストに向かいましたが、彼の選択は他のと何が違ったのか、今一つ説得力に欠けます。あれが必然性なのでしょうか。ストーリーはともかく、思想的にこれだけの大風呂敷を広げてしまった後では結論が弱い感が否めません。
    しかし、著者の今までの本もみなそうでしたが、共感はしないが読み進めてしまう、考えてしまう、という本で、きっとまた次作も手に取ってしまうことでしょう。

  • 主人公川端はやり手の雑誌の編集長。大物代議士の不正追求、不倫、不治の病、グラビアアイドルとの奇妙な出会いを経て、少しずつ人生の歯車が狂いはじめる。待ち受ける真実は・・。生、死、愛という究極のテーマに果敢に挑む恋愛小説。この作品の特徴は二つ。一つは、求道的な禅問答を繰り返すことで、愛への真理を追求していること。そして、モーパッサン始め過去の偉人たちの言葉を引用することでより、結論に正当性を与えること。小説というよりは、哲学新書。新たなる小説の境地を描いた作品。唯一無二の周五郎賞作品です。

  • 上巻はよかった
    下巻はちょっとくどくて読み飛ばしてしまった
    主人公の考え方もちょっと偏っている気がするけど、こうゆう人もいるいる!という感じ(多分自分の考え方と少し違うだけ?)
    うーん、残念

全84件中 1 - 30件を表示

著者プロフィール

1958年、福岡県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。文藝春秋に勤務していた2000年、『一瞬の光』を刊行。各紙誌で絶賛され、鮮烈なデビューを飾る。09年『この胸に深々と突き刺さる矢を抜け』で山本周五郎賞を、翌10年には『ほかならぬ人へ』で直木賞を受賞。巧みなストーリーテリングと生きる意味を真摯に問いかける思索的な作風で、現代日本文学シーンにおいて唯一無二の存在感を放っている。『不自由な心』『すぐそばの彼方』『私という運命について』など著作多数。

「2023年 『松雪先生は空を飛んだ 下』 で使われていた紹介文から引用しています。」

白石一文の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
三浦 しをん
村上 春樹
宮部みゆき
村上 春樹
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×