レモンタルト (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社
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本棚登録 : 1251
感想 : 84
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  • Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062773737

作品紹介・あらすじ

姉は若くして逝った。弟の私は、姉の夫だった義兄と、遺された一軒家でふたり暮らしをしている。会社では無理難題を持ちかける役員のもとで秘密の業務にあたり、私生活でも奇妙な事件ばかり。日増しに募る義兄への思いと、亡き姉への思慕。もどかしい恋の行方と日常にひそむ不思議を、軽やかに紡ぐ連作集。

感想・レビュー・書評

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  • 「レモンタルト」という言葉に官能を感じたのはこれが初めてである。

    私と義兄。それ以下にも以上にもならない関係野中で、穏やかに、激しく燃える「私」の恋心が細やかで淡々とした文章で綴られていく。

    解説にもあったように、この小説の中には人名の表現が避けられ、代わりに「私」との関係性やイニシャルが使われている。
    これにより、単に「私」がある男に恋をしているのではなく、その相手が姉の夫、「義兄」であることがありありと映し出される。姉の弟である以上絶対崩れない、それでいて脆弱で官能的な関係性。

    「姉の海」という表現が、わたしにとっては1番甘やかで印象的だった。「私」の中にも、「義兄」の中にも、常に「姉」という存在がいるのだ。だからこそ、2人の関係性は強く続いているのだろうし、「私」にとってはそれが恨めしくも心地良くもあるのだろう。

    大好きな作品、江國香織『きらきらひかる』の読了にもあったような、夢幻的な、切ない後味がたまらない。これからもたまに読み返そうと思う。

  • おしゃれな文体だな…。
    装丁が女性向けっぽかったので読んでみたら別の意味で女性向けだった。

    男性同士の恋愛は「許されない恋」「人に言えない恋」という背徳的な要素がより感情にブーストをかけ、だからこそ人気のあるテーマだが、
    昨今の空気からしてそういうエッセンスが薄れつつある気がする。
    段々と異性同士の恋愛と同じような扱いになっていくのだろうかな。

    愛人として一生を終えた母が死に、母を囲っていた父も死に、姉も死に、残ったのは自分と姉の夫(義兄)だけ。
    会社では諸事情により役員の便利屋として秘密裏に行動しているため、他の社員からは何も仕事をしていないと誤解され蔑まれ、それを釈明することもできない。
    そうした環境に依る主人公の精神的な脆さが随所に現れていて良かった。

    最初は不思議な出来事から始まり、叶わない恋へと主軸が移り、悲しくも穏やかな話か?と思いきや主人公の不幸な境遇が明らかになるにつれ物語のテイストがどんどん息苦しくなっていく。
    登場人物を出来るだけイニシャルで表記する(必要なタイミングでは本名が明かされるが、それ以降もイニシャルは継続する)のが、主人公が周囲の世界から一歩引いた形で存在せざるを得ないことのあらわれのような気がして切なかった。

    文体がなんか全体的におしゃれだったな。
    他の作品も読んでみたい。
    普段使わないような言葉が頻出するので語彙が増えそう。

  • 帯に惹かれて買った。
    読む前に少し読了済の人の感想を覗いたら可愛い表紙とタイトルに惹かれて買ったらBLだったという声が多かった。
    私は表紙と少しの前情報から優しく切ないほんわかBL…みたいなのを予想していた。
    読んでみたら思ってたのと違った。
    いい意味で。
    なるほど表紙詐欺…。
    BL小説という印象はあまり受けなかった。
    言葉の端々からもしかしてこれってこういうことなのか…?とか想像させられて長野まゆみさんの世界観にハマってしまった。
    最初は主人公が厄介ごとに巻き込まれて颯爽と現れた義兄がそれを解決、みたいな話かーと思ったのに読み進めると少しずつ明かされる過去のエピソードや、士の不安定な情緒にどんどん息が詰まっていって救いを求めるように最後まで読んでしまった。
    ラストシーンがとても美しくてうっとりした。
    1番綺麗なシーンで物語が終わり、呆然としたままいつまでも余韻から抜け出せなかった。
    もしかしたら伊豆で何かが大きく変わるかもしれないけど、それよりこのドライブが長く続いてほしいと願う士は義兄との関係に変化は求めていなくてずっとこのままの関係でいたいと思っているのかもしれないな。

    士の目線ですすむ文は上品な語り口だけど実際に発する言葉はもっと砕けているところにギャップを感じて良かった。
    義兄に一途なわりに良い男を見つけるとなんとなく品定めしてる感じがあってグッときた。
    登場人物の名前がイニシャルだったりするのも仕事でもプライベートでも秘密を持っている士を著しているみたいで素敵だと思った。

    本にはびっしり答えが書いてあるものだと思っていたけど、この本は自分で想像して完成させる余地がたくさんある物語だと思った。

  • 「もうずっと前から義兄のことが好きだった」この1文にたどり着くまでの、静かな静かな盛り上げ方が もう ほんと 長野まゆみ。

  • 読んだ後の余韻がすごい。はっきりと明言せず、考えさせる形式。でも、義兄が好きってところははっきりわかって良かった。主人公がめっちゃモテるけど肝心な本命とはうまくいかない。義兄が主人公を受け入れるでも拒否るわけでもなくなんとももどかしい。最後の考察で義兄は永遠に手に入らないものの象徴であり、今は亡き姉の思い出に主人公は一生勝てない勝てないというのを見てとても切なく感じた。姉と義兄の思い出の1つとしてレモンタルトがある。主人公がレモンタルトを食べながら義兄への感情を抑えるシーンがグッときた。

  • 叙情的で、あまり今までに読んでこなかった作風。
    主人公が職業柄というか、それ以上にさまざまなトラブルに巻き込まれていく中、いつもタイミングよく義兄が現れて助けてくれる。
    義兄はどういう生活をすれば、こんなにタイミングよく現れられるんだろう。

  • 《もうずっと前から義兄のことが好きだった》

    匂い系小説で調べると必ずと言っていいほど名を轟かせる本作。

    物語の表面上はミステリーだが、その裏で主人公が義兄への感情を押し殺し叶わない恋に身を焦がす様子が歯痒い。
    タイトルであるレモンタルトとの由縁も主人公と義兄が一定以上の距離に縮まることはないと宣言しているようで切なかった。

    訳ありな出自故社内に敵が多くトラブル体質の主人公と毎度見計らったかのような最高のタイミングで登場する推理したがりな義兄。

    解説に"主人公がトラブルに巻き込まれる元凶には義兄へ寄せる想いがあり義兄は探偵であり真犯人なのだ"とあり、心の中でスタンディングオベーションした。恋泥棒の義兄。憎い男め。


    義兄を"ほかのだれのものでもない姉の海"と表現する主人公がこの先も囁かに心地良く泳げることを願う。

  • はじまりがとてもすてきだった。

    ただ、個人的にはもうちょっと甘い小説が好きなので,主人公に対して社会がつらくて泣いた

    ドライブが楽しいものだと嬉しい。

    最初の傘がなんだったのかわからなかった。
    何度か読んだらわかるかもしれないけど、主人公がセクハラに遭うのを見たくないので考察を探してみます。

  • 「レモンタルト」というタイトル、表紙や文章全体がおしゃれな小説だった。
    事前情報確認せずに読んだため、BLだったのは驚いたが心理描写が丁寧で良かった。

  • これは好きな小説だ…と、悶絶しながら本を閉じた。BL・MLとあらかじめ分かって読むよりも、出会い頭の事故みたいに不意の隙を突かれたほうが衝撃が大きいと思う。つまり、予想していたよりも官能的で驚いた…(笑)
    亡くなった姉の夫である義兄に思慕を募らせる弟。恐らく理解した上でその思いを泳がせている義兄。
    二人の関係は健全だが、義兄への思いをこじらせて男たちを無自覚に惹きつけてしまう弟に助け船を出してやる義兄。
    故人との思い出が二人を繋ぎもし留めもする、茶番の中に匂い立つエロさと切なさがあった。

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著者プロフィール

長野まゆみ(ながの・まゆみ)東京都生まれ。一九八八年「少年アリス」で第25回文藝賞を受賞しデビュー。二〇一五年『冥途あり』で第四三回泉鏡花文学賞、第六八回野間文芸賞を受賞。『野ばら』『天体議会』『新世界』『テレヴィジョン・シティ』『超少年』『野川』『デカルコマニア』『チマチマ記』『45°ここだけの話』『兄と弟、あるいは書物と燃える石』『フランダースの帽子』『銀河の通信所』『カムパネルラ版 銀河鉄道の夜』「左近の桜」シリーズなど著書多数。


「2022年 『ゴッホの犬と耳とひまわり』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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