ぼくが探偵だった夏 (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062775922

作品紹介・あらすじ

浅見光彦がまだ小学生だった頃、浅見家では、夏は軽井沢の別荘で過ごすのが恒例だった。夏の友達の峰男に紹介された喫茶店の少女は、なんと夏休み前に光彦の席の隣に座った転校生の衣理だった。気まずく口も利かなかった二人だが、最近、妖精の道で行方不明になった女の人がいるという噂で盛り上がり、確かめに行くことに。怪しげな「緑の館」では男が庭に大きな穴を掘っていた。ホタルを口実に夜、ふたたび訪れた光彦たちは、何かを埋めている男女を目撃する。それは消えた女の人なのか? 若い竹村刑事に事情を話した三人は、恐ろしさを振り払い、謎を追うのだった。その夏、浅見光彦は名探偵の第一歩を記すことになる。

感想・レビュー・書評

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  • この作品は、先日読了した有栖川有栖『虹果て村の秘密』と同じく〈かつて子どもだったあなたと少年少女のために〉講談社ミステリーランドの一冊として書き下ろされたもの。
    当初「ミステリーランド」シリーズは箱入り・クロス装のハードカバーで、箱に開いた穴から表紙の一部が見られるとデザインも凝っていた。
    そして何より紙質、そして文字フォント、大きさ?みたいなものがとても心地良かった。ページを捲るたびに「あぁ……気持ちいい」となる 笑。わたしが子どもの頃にあったら絶対に家の本棚に欲しかったシリーズだ。
    とはいえ、お値段がそれなりだったので、大人であったわたしはもっぱら図書館で借りていた(何だかおかしいけれど……)
    それが、こうして文庫本になっていることを知ったのだが、手軽に読めるようになった嬉しさ反面、あのどっしりとしたハードカバーだからこその装丁や紙質に「なんかすごい秘密を読んでるぞ」感を失ってしまったことで、悲しさが胸に渦を巻く。

    さて、『ぼくが探偵だった夏』は、あの有名な名探偵「浅見光彦」の子ども時代のお話である。

    夏を軽井沢で過ごす浅見家。小学五年生の光彦は、軽井沢の友だち峰男、軽井沢から東京の光彦のクラスに転校してきた衣里(軽井沢のおじいちゃんの元へ帰省中)と三人で、女の人が行方不明になった“妖精の森”に出かける。
    そこで光彦は、昼間堀った穴に、夜、お棺のような箱を埋める怪しい三人組を見てしまう。
    あの箱には死体が?それとも……
    光彦のそんな思いを、二十歳の刑事竹村がちゃんと聴取してくれ、ルポライターの内田康夫も事件に興味を持つ。
    あの箱には何が入っているのか……というストーリー。

    事件の解決に光彦が活躍する、というよりも、他人が気にしないことでも自分がおかしいと思うことに対して、決してうやむやにせず突き詰めて考え抜く、その「光彦らしさ」に重点が置かれていたように思う。
    そしてそれは、その「他人とは違うこと」をちゃんと受け入れてくれる大人が周囲に存在したことで、小学五年生の光彦が名探偵「浅見光彦」という未来へ繋がっていくことができたのだろう。
    光彦の父、(当時)大蔵省局長だった秀一は、光彦に語りかける。
    「……一つのことに興味を持つと、その本質を見極めるまで、のめり込む。それはたいへんな才能と言うべきだろうね。それだけではない。光彦にはもう一つ、人とちがう才能がある」
    「才能というより、特別な感性と言うべきかな。人が気づかないようなことが、見えたり気になったりする。……」
    それに対して、友だちからは変わってると言われると光彦は答え、それって変な人っていう意味なのかと秀一に尋ねる。
    秀一はそれは違うときっぱり答える。
    「……世の中の人の多くは、ほかのみんなと同じでないと不安を感じるが、それはまちがっている。人と異なっているということは、それだけでも、とても大切な才能なんだよ。……」
    少し気が楽になった光彦。この才能が潰されずに成長できた、この家族環境は素敵だなあと思った。

    そして秀一を通して、事件解決現場に直接光彦を関わらせずとも、少年を一歩大人へと成長させた夏を描くことのできる内田康夫さんのおおらかで温かい眼差しを感じることもできた。

    実はわたしは「浅見光彦」には、サスペンスドラマでしかお目にかかったことがない。それはそれでとても面白かったのだけれど、この作品を読み終えて一番に思ったことは、やっぱり何十冊も続く三十三歳の光彦の活躍を読んでみたい!だった。

    この『ぼくが探偵だった夏』には、光彦の家族六人が勢揃いしている。それは三十三歳の光彦が存在する未来では、もう叶うことがないそうだ。
    そして未来でも活躍する長野県警の竹村さん。彼がまだ二十歳の初々しさで登場する。さらには、推理作家の内田康夫が、浅見家かかりつけの内田医院のドラ息子で、ルポライターとして光彦をフォローする。さらにさらに、ファンには嬉しいだろう同級生の浅野夏子、野沢光子、未来では「ばあや」であろう村山さんまで登場する楽しい作品となっている。

  • 小学生の光彦少年は、恒例の軽井沢の別荘での夏休みを満喫していた。軽井沢での友達の峰男に紹介された喫茶店の娘は、なんと夏休み前に光彦の隣の席にきた、転校生の衣理だった。
    最初は気まずかった2人だが、妖精の道で行方不明になった女性がいるという噂を聞き、確かめに行くことに。暗く不気味な妖精の森を奥にある「緑の館」で男が庭に大きな穴を掘っているのを見て、3人は逃げ帰る。
    その夜、ホタルを口実にふたたび館を覗き見た光彦は、何かを埋めている男女を目撃した。
    埋められたのは死体?
    長野県警の新人刑事、竹村刑事に事情を話した光彦は、事件に巻き込まれていく。

    冷静で半分大人な光彦少年のトムソーヤのような冒険譚。
    早朝にカブトムシを追いながら、怪しげな噂の現場に自転車で乗りつける。
    氷メロン、アイスココア、あー!夏休み!
    優秀な兄と比べられつつ、自分は何者になるんだろうと言うぼんやりとした不安と、普段は周りに居ないような大人たちとの会話に、光彦少年の夢は広がっていく。

  • 本書は,かの有名な名探偵・浅見光彦の解決した最初の事件。
    ルポライターとして全国をかけ回るずっと前の,小学5年生・浅見少年の物語である。

    と,知ったような口を利いてみたが,実は内田康夫作品を読むのはこれが初めてである。

    少年のひと夏の思い出,仲間との絆,そして成長。

    私はこの作品を一つの青春ミステリとして読んだが,内田康夫ファンの方々にとっては,本書はなじみ深い登場人物との邂逅の場として,親しみを込めて読まれたことと思う。

    少年の出会った夏の思い出は,内田氏の言葉によって語り継がれ,こうして読者の心のなかで永遠に生き続ける。

  • 何の予備知識も無しに取りあえず買って読み始めたら、どうも「少年少女向け」みたいな感じだぞ...と、いきなり面食らう(^ ^;

    たぶん私は一冊も読んだことないが、浅見光彦シリーズの「スピンオフ」みたいな作品で、どうやら本当に「少年少女向け」に描かれたものらしい、ということが後書きで分かる(^ ^;

    読んだことない私でも名前は知ってる、あの浅見光彦氏が子どもだった頃に「初めて探偵らしいこと」をした時のお話。軽井沢の別荘地を舞台に、子どもたちのちょっとした冒険心が、大きな事件につながって...という筋立てで、おそらくシリーズの関係者がそこここにカメオ出演している...っぽい(^ ^; 何せ読んだことないので自信ないですが(^ ^;

    少年少女向けということで、あまり血腥い殺人現場とか、ややこしいトリックとかは出て来ない。なので大人が読むとネタバレしますが...(^ ^; まぁ気楽に読めたので良しとします(^ ^

    それにしても、初めて読む浅見光彦本が、スピンオフの少年時代とは...(^ ^; ロックバンド「KISS」の最初に聞いた曲が「Beth」だった、から始まる、相変わらずの引きの...弱さというか、引きの「ひねくれ方」よ(^ ^;

  • 記録

  • 「ぼくが探偵だった夏」
    光彦、小5。


    アウトデラックスで強いクセを放った中村俊介も記憶に新しい浅見光彦シリーズ。本書は、光彦小5の話。子供らしくスリルに興味を見出し、好奇心丸出しで冒険気分で森に繰り出す光彦。女の子とつんつんどんどんな光彦、でも、気持ちは素直な光彦である。そんな光彦の最初の事件簿。


    読みどころはたくさんある。まずは、浅見家全員集合となっているところだろう。シリーズファンならば当たり前かもしれないが、お手伝いさんまで含めたメンツが揃っているものがあるとは知らなかった。ルポライター兼小説家志望のぼんくら息子の内田氏、若き頃の信濃のコロンボ・竹村岩男も登場する点もポイント。若き光彦に影響を与えたのは間違いないな、と読めば分かる。


    子供らしい光彦も良い。兄に比べられたり、父とちょっと距離があったり、母の頑固さに辟易したりする。また、衣理との初めての出会いも初々しく子供らしい。「ぼっちゃん」音読事件こそ、光彦の初の事件簿ではないだろうか。そんな衣理と距離が縮まっていくのも、良い夏の思い出となるのだ。そもそも、軽井沢の山の友達である峰男は、衣理を可愛い女の子として光彦を紹介するのだ。この頃から、光彦のなんか良い感じで可愛い女子と巡り合う運命が始まっていたわけだ。


    ちなみに、衣理と気まずくなった(というか光彦が一方的に勘違いしただけ)事件には、光彦の面白設定が関わっている。それは空想癖だ。時々頭の中が空っぽになってしまうのだ。この空想癖は、青年になっていく中で、果たして無くなっていったのか。大変気になる。シリーズを読み始めたい人にはオススメである。

  • 元は少年少女向き叢書「講談社ミステリーランド」の一冊。浅見光彦少年(小学5年生),避暑のために毎年訪れる軽井沢にて友人たちと小さな冒険。女性が森で行方不明になったが後に東京で発見されたという噂話,男たちが庭に大きな穴を掘っているのを見てしまう,その男たちに後を追われるといった一連の事件の顛末。後に浅見探偵の記録者となる内田先生(作者の分身)も駆け出しのルポライターとして登場。他にもすでに発表されている浅見光彦シリーズ(時代的にはこの物語よりも後)の登場人物の名前が多数。(とは言え,私自身はあまり読んでいないのですが)
    (乃木坂文庫版,表紙は大園桃子さん)

  • 面白かった。
    主人公の名前が分かった途端、閉じようかと思ったが思いとどまり、読み続けた。
    中盤で内田康夫が出てきたときも閉じようかと、、、、思いとどまり読了。
    面白かった。

  • 浅見光彦が子供だったときの冒険

  • 小学生の浅見光彦が出会う、最初の事件。
    子ども向けのものでもあるので、文脈や言葉選びはとても優しく、内容もソフト。
    ただ、大人が読んでも面白い。物足りなさがないわけではないが、シンプルで丁寧な読み物。
    シリーズの一つとして読めば、なおよい。
    3-

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著者プロフィール

1934年東京都北区生まれ。1980年に自費出版した『死者の木霊』で衝撃的デビュー。主人公の信濃のコロンボこと竹村警部が活躍する作品に加え、1982年に刊行された『後鳥羽伝説殺人事件』で初登場した浅見光彦を主人公にしたミステリー作品は大ベストセラーに。映像化作品も多数。2018年逝去。

「2022年 『箸墓幻想』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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