竜が最後に帰る場所 (講談社文庫)

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  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062776509

作品紹介・あらすじ

読み終わった後、目の前の風景が別のものに見える―高揚感に包まれた至福の読書体験をお約束します。稀有な表現者による幻想短編集。

感想・レビュー・書評

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  • 日常と異界の境界にふらりと入り込んでしまった人たちの物語。
    5編の短編に物語上の繋がりはないけれど、全ての物語の根源が、人が人ならざるものへと還ってゆくことへと繋がっているように感じ入る。
    それは退行という意味でもなくて、全く別のものへと変化するという意味でもない。
    ただ還ってゆくのだ。

    著者の恒川さんはこの作品群の並びについて、「(前略)人間の生活に絶望してどんどん遠くに逃げていくような並びにもなっているかと思います。(中略)それが『竜が最後に帰る場所』だと、“解放”というキーワードにあたるのかもしれません。最後には人間という枠する外して解放してしまうという。(後略)」と解説されている。
    著者がそういうのだから、この短編集は人間からの“解放”へと向かう物語なのだろう。
    でもわたしには、解放された先に待っているものは自由とかじゃなくて、結局最後には、すべての絶望のもとである人間へと還っていく物語だと思えたのだ。宿命、欲や業のようなものから逃れられないのが人間なのだと。まるっきり逆のイメージを持ったのは何でだろうね。しばらく考えていた。「帰る」物語を、わたしが「還る」物語として受け取ってしまった、その違いなのだろうけど(なんてこった……)。
    人間の想いや執着心って、身体が消滅されれば途端に解放されるというものではなくて、再び出会う(向き合う)ときまで眠っているのではないだろうか……という気持ちが、このところ強いもので仕方がない(開き直り 笑)

    長い眠りからふと目覚める。
    何か大切な夢を見ていたはずなのに思い出せない。そのもどかしさや焦燥感を抱えながら、人ならざるものは人へとまた還ってゆく。
    全ては誰かの見た夢なのかもしれない。
    たとえそれが竜だとしても、なにも不思議に思うことはない。
    だって、竜も還っていくのだから。

  • いやぁ~、ひさびさの恒川さんだったけど
    やっぱこの人の作品にハズレなし。

    文章が上手いから淀みなくスラスラ読めるし、
    情景描写もしっかりしてるから
    読むと必ず絵が浮かび上がるし、
    よくある設定であっても
    必ず予想の斜め上をゆく展開を用意して
    オリジナリティを毎回感じさせてくれるし、
    なんで世間一般でイマイチこの人がブレイクしないのか
    ちょっと不思議なくらい(笑)
    過小評価な作家の一人だと思う(‥;)
    (同じテイストの作家で言えば、朱川湊人さんもそう)

    本作はデビューから
    ホラー、伝奇もの、ファンタジー、SF、妖怪ものなど
    「不思議」でちょっとコワい世界を描いてきた恒川さん自らが
    「もっとも自分らしい物語の揃った特別な自信作」と言い切るのも頷ける出来映えです。


    真偽のほどは分からない、
    恨んだ相手を殺すことのできる「精霊を封じ込めた小瓶」の話に幻惑される男を描いた
    『風を放つ』、

    母の恋人による壮絶なDVによって幼少期の心に深い傷を負った「私」の壮大な復讐劇がコワい!
    「アンブレイカブル」やバットマンの「ダークナイト」、
    「オールド・ボーイ」「コピーキャット」「メメント」など
    様々な映画を下敷きにし、
    正義とは何かを読む者に問う構成もお見事!
    『迷走のオルネラ』、

    現(うつつ)と幻の境をさ迷う
    夜行(やぎょう)の一団。
    好奇心から参加してしまった男の苦悩を描き、
    背後の闇の中で脱落者を待ち受ける異形の群れの描写に震えた!
    『夜行の冬』、

    この世界に存在する様々なモノに化けた「擬装集合体」なるもの。
    この「擬装集合体」を見破って「拡散」させ、
    本来の姿を露わにする特殊な力を持った男。
    この独創的で素晴らしい設定だけで軽くご飯三杯は食べれるくらいだけど(笑)、
    さらに驚愕のストーリー展開が待ち受ける
    『鸚鵡(おうむ)幻想曲』、

    ある想像上の生き物の誕生から旅立ちまでを描いた幻想小説。
    生きることを謳歌し生まれた意味を知り、「キュハリラ」と鳴く美しいキュワワに恋するゴロンドの純粋さに涙…
    『ゴロンド』、

    など現実社会、異世界、人間のいない世界と全五編に様々な舞台を用意し、
    惚れ惚れするほど完成度の高い珠玉の短編集となっております。

    特に印象的だったのは
    『迷走のオルネラ』の
    「君はどう思う?」が口癖で 
    本を愛す議論好きなコジマアヤカの魅力的なキャラ設定!
    そして真剣に読んでみたくなるほど架空の漫画「月猫」の世界観が
    いい。
    あとは恒川さんの本領発揮と言える『夜行の冬』のパラレルワールドの怖さとラストの後味の悪さ(笑)、
    異世界へジャンプするために夜行するという設定の秀逸さ。
    そしてラストを飾る『ゴロンド』はゴロンドが可愛すぎて悶絶したし(笑)、
    個人的にもっとも好きな一編でした。


    タモリの「世にも奇妙な物語」や
    異世界ファンタジーが好きな人、
    パラレルワールドの存在を信じてる人、
    (僕はもちろん信じてます!笑)

    UMAや心霊番組をついつい観ちゃう人、
    面白い短編集を探してる人にオススメしまーす。

  • 『秋の牢獄』に続き、恒川作品四作品目。タイトルに惹かれて購入。どの短篇も良かったが——特に「夜行の冬」「鸚鵡幻想曲」がお気に入り。前者はホラー版『夜ピク』とでも言いましょうか。歩く度に世界が変わり、もし自分だったらと——いろいろ考えさせられます。後者は発想がぶっ飛んでて、まさかあんなことになるとは——○○シーンは想像しただけで鳥肌モノでした…。解説を読み「…嗚呼、なるほどなぁ」と。まだそれほど数を読んではいないが、どの作品も本当に独特な世界観でこの著者にしか描きえない作品なんだと感心しました(^^) 星四つ半。

  • 不思議な世界観の短編集。
    面白く読みやすい長さなので、時間が過ぎるのを忘れて読み耽って1日読了。
    「夜市」でお気に入り作家に仲間入りしたこの作家は期待を裏切らない。次が楽しみだ。

  • 「風を放つ」
    この作者にしては珍しく(?)妙に現実的なお話。

    「迷走のオルネラ」
    これもファンタジーというよりはリアルな怖さ。自らのトラウマをこういう形で昇華させる方法もあるのか。復讐も兼ねていて効率的ですね。

    「夜行の冬」
    これが一番、いつもの恒川作品ぽかった。いつもの、というか私の思う(好きな)恒川光太郎のイメージですけども。ちょっと民俗学的な匂いのする不思議現象。ただ、終わり方が少しあっけなかったかな。もう少し続きを読みたかった。

    「鸚鵡幻想曲」
    これはなんとも奇想天外。何が起こるのか、どこへ向かっているのか、展開が全く予想できない面白さがありました。「偽装集合体」という発想も奇抜だけれど、それがメインのテーマではなく、それを「解放」する側が主人公でもなく、ある意味被害者のほうがどんどん変遷していく意外性が面白い。ラストが一応ハッピーエンド(?)なのもいいですね。

    「ゴロンド」
    本タイトルの「竜が最後に帰る場所」は、この作品のサブタイトルみたいなものでしょうか。そこに思い当たれば、物語の主人公の正体は最初から明らか。とくに大事件が起こることもなく、一匹の竜の誕生、成長、そして旅立ちを描いているだけなのだけれど、童話のような印象でした。

  •  5編収録の短編集。

     今まで読んできた恒川さんの作品と比べると、少し幻想色や異界の雰囲気は薄目かなあ、という印象を持ちました。と言っても奇想あふれる短編もありそのあたりはさすが恒川さんと言うべきかなあ、と思います。

     もっとも気に入った短編は『ゴロンド』。本のタイトルでもある竜の一生を描いた短編です。
     童話のような設定と語り口、そして主人公のゴロンドを始め出てくる竜たちの可愛さに癒される話でした。

     ほかの短編では『迷走のオルネラ』はラストが印象的。冷ややかな怖さがラストに残る短編です。系譜としては『秋の牢獄』に収録されている「幻は夜に成長する」と似ていると思います

     『鸚鵡幻想曲』はいきなりの展開に唖然としました(笑)
     解説によると行き当たりばったりで書かれた作品だそうで、そう考えるとある意味納得でもありますが。こんな不思議な物語を成立させるのはおそらく恒川さんくらいしかいないのだろうと思います。色彩豊かな映像がすっと頭の中に浮かんでくるのも恒川さんらしいです。

     全編何かしらのメッセージが込められていそうな、いなさそうな不思議な読み心地の作品ばかりです。読み終えた時の感覚は、カフカの短編集を読んだ時と少し似ている印象を個人的に持ちました。腑に落ちないけどなぜ腑に落ちないのか分からない……そういう感覚です。

  • 初めて恒川光太郎さんの作品を読んだ。
    表紙がとても綺麗で、読んでみたくなって手に取った。
    短編集と言う事もあるが、文章や描写がとても綺麗で読みやすく、自分のように初めて読む人も読みやすいと思う。
    初めて読んだが、この作者さんは色の描写がとても上手だと思う。
    他の著作も読んでみたいと思わせる作品だった


    迷走のオルネラ
    最初はとても胸糞悪いと思いながら読んでいたが、主人公の少年(まぁ後々大人になる訳だが)が、よく頑張ってやってくれたので、スカッとした
    最後の解放って言うのは何なんだろう、ナルミと言うアイドルは誰なんだろう、宗岡と何らかの関わりがあるのではと思わずにはいられない、ここまで読むと。

    夜行の冬
    季節も相まって、雪国住まいの私は、とてもリアルに感じることが出来た
    冬の夜と言うのは、本当にとても静かで静かで…積もった雪に何でも吸い込まれていくような、そういう錯覚に陥る…
    そんな雰囲気の話
    過去と未来を取り替え続ける、と言う発想が良いと思った

    鸚鵡幻想曲
    何かの物体が、他の何かが集まって出来ているとかいう、そんな発想はなかった
    そしてそれを解放する青年と、実は集合体だった青年の話
    そっちかよ!!!!みたいな衝撃の展開で、思わず声が出てしまった
    そして、解放させられてしまった青年のその後、そして解放する青年のその後。
    私は解放させられてしまった青年の後日談が読めてよかった
    この短編が一番好き

    ゴロンド
    ゴロンドが初めて陸に上がった時の描写が、とっても綺麗だった。
    ゴロンドと仲間たちがとても可愛らしく、暖かい気持ちになった。
    おたまじゃくしの話だと思って読んでいたが、もっと壮大なスケールの話だった。

  • 日本で幻想(ファンタジー)をまともに描ける稀有な作家、恒川光太郎の5話で構成される短編集。《狐に摘ままれた》ような語りのプロローグ『風を放つ』から、徐々に作者の持ち味を活かし、読む者を異界へ誘う構成は毎度ながら実に見事。
    誰しも一度は夢想する正義と悪をくじく力への憧れは《闇が有っての光》なのか?『迷走のオルネラ』、SFのパラレルワールドを見事に幻想譚へと変換した『夜業の冬』、予期せぬ展開に翻弄される《愉しさ》を満喫できる『鸚鵡(オウム)幻想曲』、クライマックスを飾るにふさわしい、大きなスケールで語られる、優しい読了感のある傑作は、表題作でもある『ゴロンド』で締めくくられる。
    デビュー作『夜市』から5作目の本書をして、恒川が紡ぎ続けてきたテーマが「再生」にある事を前面に強く打ち出した作品でもある。最新作は異界の題材にした時代劇小説の『金色機械』と。文庫になるまでじっと我慢だ。

  • 日常と異界の間。するする読めてそのうちにとっぷり日が暮れるような。ハッと暗くなった外に気づいても自分がいるところが現実なのか一瞬わからなくなるような。読書の醍醐味ね。普段あまり異界ものを読まないのもあり非常に楽しめました。

  • 『夜市』でファンになり、いくつか読んできている恒川光太郎。『神家没落』とか、好きな話もあるんだけど、『夜市』を超えるものがまだ出てこない。

    少し不思議な話をあつめたような短編集で、『風を放つ』は電話でしか話したことのない女性とのなんだか村上春樹のような感じの話。『鸚鵡幻想曲』『ゴロンド』はなんだか壮大なファンタジー短編。

    好きだったのは、不気味なガイドについて歩くと別の人生にたどりつく『夜行の冬』。すごく変なんだけど妙に読ませる『迷走のオルネラ』も意外と好きだった。

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著者プロフィール

1973年東京都生まれ。2005年、「夜市」で日本ホラー小説大賞を受賞してデビュー。直木賞候補となる。さらに『雷の季節の終わりに』『草祭』『金色の獣、彼方に向かう』(後に『異神千夜』に改題)は山本周五郎賞候補、『秋の牢獄』『金色機械』は吉川英治文学新人賞候補、『滅びの園』は山田風太郎賞候補となる。14年『金色機械』で日本推理作家協会賞を受賞。その他の作品に、『南の子供が夜いくところ』『月夜の島渡り』『スタープレイヤー』『ヘブンメイカー』『無貌の神』『白昼夢の森の少女』『真夜中のたずねびと』『化物園』など。

「2022年 『箱庭の巡礼者たち』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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