首都感染 (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (592ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062777049

作品紹介・あらすじ

中国で強毒性新型インフルエンザが出現! ウイルスが世界に、そして日本へと向かった。底なしの恐怖を描く近未来パンデミック長編。

感想・レビュー・書評

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  • 1.著者;高嶋氏は、大学・大学院で機械工学を学び、通産省で核融合研究した技術屋。「イントゥルーダー」でサントリーミステリー大賞を受賞し、作家デビュー。東日本大震災の6年前に「TSUNAMI 津波」を発刊し、2010年には「首都感染」を発表。今回の新型コロナウイルス感染症拡大を予言した内容が話題となった。本書の解説には、「高嶋さんの作品は、日本を繰返し襲う天災を忘れさせない為の警告の書」とある。
    2.本書;中国で発生した毒性インフルエンザによるパンデミック(感染症の世界的な大流行)を描いた小説。2010年に出版されたフィクション。「感染症の拡がり~国の対応」まで今のコロナ感染と酷似。主人公の瀬戸崎医師と総理大臣(父)が連携し、空前絶後の東京封鎖作戦で日本を救う。「人類の敵は、肉眼で見る事が出来ず、意思も持たない、ただひたすら自己増殖を続けるウィルス」。対策の効果で世界を震撼させたパンデミックが終息と結ぶ。4章構成;第一章(対策)~第四章(拡大)。
    3.個別感想(印象に残った記述を3点に絞り込み、感想を付記);
    (1)『第二章;感染』より、「人間のやる事だからさ。情に流され、怠慢に満ちている。だがどんなに注意しても、どこかでミスは起きる。針先程のミスも数秒後には鉛筆になり、バットになり、人が通れる位の穴になる。最初のミスを責めたり詰るのではなく、ミスを共有し検討してよりミスのない方向に導く。謙虚になれという事さ」
    ●感想⇒「人間のやる事だから、どんなに注意しても、どこかでミスは起きる」は、理解出来ます。ミスは影響が小さいうちに、対策しなければなりません。失うものが大きいからです。経済的損失は言わずもがな、信用という財産を失います。ミスを未然に防ぐ方法の検討、原因分析と対策(チェックのリスト活用、組織体制の見直し等)の徹底に尽きます。話が反れますが、最近のニュ-スで大企業の不祥事が頻発しています。ミスではなく、嘘のデータ報告だけに、罪深いと思います。品質を蔑ろにした会社ぐるみでの法令違反(うその報告)は、H社・M社・・と、枚挙に暇がありません。日本の真骨頂、品質第一は何処へ。経済重視の弊害でしょうか。事実の前には謙虚になる事が求められます。
    (2)『第三章;封鎖』より、「“・・・情報の公開と正しい説明、それが封鎖の成功に繋がります、”東日本大震災の原子力事故では初期対応がでたらめだった。その為、国民が以後の政府の言葉を信じなくなった」「東日本大震災、それに続く原発事故はすべて後手に回った。政府の対応のまずさが被害を拡大し、復旧、復興を妨げ遅らせた」
    ●感想⇒原発事故の問題点の振返り。事故調査委員会の指摘です。①政府と東電は複合災害を想定せず対策も講じず(15.7メートルの津波リスクが判明したのに無視) ②東電現場は原子炉を冷却する為の、非常用復水器の作動経験なし ③❝首相官邸×原子力安全・保安院×東電❞間で情報共有が出来ていなかった・・・等。これを読めば、「原子力事故の初期対応がでたらめ、続く原発事故はすべて後手に回った」事は自明の理です。東電は、津波対策には巨額の費用が必要なので、投資を見送ったのでしょう。企業人であれば分からなくもありませんが、人命尊重こそが安全文化の頂点です。経営者が保身に走り、中長期の視点でものを考えずに、当座の問題に終始した結果でしょう。代表的企業の経営の杜撰さに怒りを覚えます。また、口頭指摘だけで、対策工事を求めなかった監督官庁には呆れます。第二章の文章「非常時のリーダーシップの欠如、判断の誤りは国民の不幸を倍増し国を滅ぼす」は至言です。
    (3)『第四章;拡大』より、「僕の知らなかった医者や看護師の姿を知りました。僕は頭はあまりよくありませんが、最先端医療だけが医者の仕事ではない事を知りました。患者に寄添い、共に治ろうと努力する事も医療だと。僕なりの、患者の助けになる医者になるように努力します」「医者は患者の身体を救うと共に心も救う事が出来る。神聖でやり甲斐のある仕事だ」
    ●感想⇒世の中には様々な仕事があり、職業に貴賤はありません。人々を幸せにする為にあるのです。ここで言う、医者は人命を預かるだけに重要です。だからこそ「患者の身体を救うと共に心も救う医者」になり、患者はもとよりその家族にも接してほしいものです。蛇足ですが、教師には、❝読み書きソロバン❞だけでなく、人生の道標を教える師を期待します。私は永年モノづくりに携わってきました。製品が❝世の為人の為❞になると信じ、仕事にやりがいを見出しました。プロと言われるように、多くの人や書物に学び、頑張ったつもりです。仕事にはもちろん生きる為のお金を稼ぐ意味もありますが、それ以上に、自分なりのやりがいを持ち、刻苦勉励骨身を惜しまない人生を送りたいものです。
    4.まとめ;本書を読んでの最初の感想は、本当に2010年の本かという驚きでした。コロナ終息の今こそ読んでおきたい本です。「インフルエンザウィルスは非常に頻繁に変異を続けている」「手洗い、うがい、マスクをする事を徹底」等、コロナで言われてきた事そのものです。常識の対策と言うかもしれませんが、私のような素人には新鮮です。コロナはようやく沈静化しましたが、医療関係者の昼夜を問わない対応に敬意を払うと共に、多くの犠牲者に哀悼の意を表します。高嶋氏は言っています、「歴史と科学を調べれば災害は起きるものだと分かります。これから首都直下型地震も南海トラフ地震も必ず起きます」と。これを、悲観的に捉えず、有形無形の準備を心掛ける為の警鐘と考えたいものです。(以上)

  • 読み疲れた^^;
    まさにコロナと対峙している最中、また先日ワクチンを接種してきたばかりだから、もう十分です…って感じだった。

    水際対策における初期段階、閣僚が感染症やその対策について無知なのと無理解なのにイラッとした。
    また予告なく突然都市封鎖されたら帰宅困難になるので、そのあたりの一般市民の混乱の描写をもう少し入れてほしかった。
    2、3週間も帰宅困難になったら、どこで過ごせばいいのか、費用、自宅に残された子どものことなど、気掛かりなことはいっぱいある。高嶋先生の見解を知りたい。
    あと気になったのは、主人公のWHOに所属している元妻の電話でのセリフ。
    日本が感染症の封じ込めに成功していることを、「どんな魔法を使ったの?」と言う場面が数回ある。
    〈魔法〉って(-_-;)……ジョークなのは分かるけど笑えない、イラッとしてしまった。この方のセリフがいつも引っかかる。別の男性と再婚をしてしまうのも何だかなぁー。

    現政治家に読んでもらって、それぞれ感想を伺いたくなる。
    特にこの本に出てきた政治家(首相、各大臣、都知事など)に。

    解説は成毛眞さん
    「自然災害など、被害の想定は数ではなく言葉で綴られたシミュレーションが有効。高嶋さんの小説は、サバイバルマニュアルであり、ノンフィクションといっても良いのかもしれない。未来の記録・ノンフィクションとして読んでいる」と。

    なるほど〜。成毛さんも予言者みたい…。

  • まずは作者の徹底的な取材に基づいた専門知識に圧倒されました。

    あとがきにも有りましたが、「賢者は歴史に学び、愚者は経験に学ぶ」。
    パニックを起こさないための理解の必要性をつくづく思い知りました。
    他の作品も読んでみようと思います。

  • 「予言の書」
    そうとしか思えない。
    10年の前に描かれている作品が今の新型コロナ禍をそのまま語られています。
    しかし、現実は本書のようにうまくいかない...
    そこはエンターテイメントストーリということで..

    ストーリとしては
    中国にて開催されたワールドカップで世界中のサッカーファンが集まる中、発生した致死率60%の強毒性インフルエンザ。
    中国当局の封じ込めも失敗し、事実を伏せていたことで、罹患したサッカーファンが帰国し世界中にウイルスをバラまくことに。
    日本では、空港での検疫体制・隔離体制で、水際対策を行います。
    ここまでは、新型コロナ発生と同じ経過をたどっています。
    さらには、予防として手洗い・うがいの徹底・蜜を避ける・移動制限など、今私たちが行っている行動がそのままこの時代に語られています。
    しかし、その水際対策も破られ、都内にて患者発生。

    ここから、リアルと小説で対策が分かれます。
    本書の中では、首相をはじめとする主人公たち決断、行動が早い。そして、東京を封鎖しウイルスを封じ込めます。
    現実世界では法整備が無いことからロックダウンはできません。おまけに行動制限もできません。

    そして、封鎖された東京でウイルスと戦う主人公たち。
    ワクチンは間に合うのか?
    抗ウイルス薬は作られるのか?
    といった展開です。

    物語はハッピーエンドで終わってよかった

    現実世界では、2020年に発生した新型コロナで、今日現在2021年9月では、2回のワクチン接種済が国民の53%。政府は8か月の間をあけて3回目のワクチン接種実施を決めました。
    国内感染者約167万人、死者1.7万人

  • まるでノンフィクションのようなシミュレーション小説。相変わらず、高嶋哲夫の作品は迫真性に満ちている。

    W杯開催に沸く中国で強毒性のインフルエンザ・ウイルスが猛威を奮う。W杯終了まで事実をひた隠しにしようとする中国。インフルエンザの猛威は日本にも及ぶ。そんな中、元WHOの医師・瀬戸崎優司が政府に招聘されるのだが…

    ここ数年、特に自然の猛威を身近に感じる。巨大地震、津波、台風、竜巻…近い将来、この作品に描かれているような新たなウイルスのパンデミックが起きても不思議は無い。そんな恐怖を身近に感じた秀作。

    ウイルスに立ち向かう多くの日本人に東日本大震災後に見せた日本人の良心に満ちた行動を思い出した。

  • コロナが流行りだしてから書店などでよく見かけて、2020年のうちに読んでおきたかったもの。これは2010年に書かれたフィクション小説だけど、全体を通して現在の世界と細部の違いはあれど「予言の書」なのではと空恐ろしく感じさせられる内容。参考文献にも沢山の本が載っていて、多くを学んで書かれただけありウイルスの勉強にもなった。

    この本を読んで、我々が日々生きていく上では全く意識しないがウイルスは昔から人間とともにあり、感染によって人間が淘汰されたりまた収束したりするのを繰り返してきたんだという史実を再確認した。これは「予言の書」などではなく、現在の世界の状況はいつかは来ると予想できるものだったのだということ。自分の経験だけで物事を捉えるのではなく、人類の歴史を見よということなんだと感じた。

    高嶋哲夫さんの本は初読。経歴を読んで、慶應の工学部卒でその後原研で研究員もしてらしたとのことで色々と納得した。災害系の小説をたくさん書いていて、2005年に書かれた『TSUNAMI 津波』や他にも『メルトダウン』というタイトルのもの、首都直下地震や富士山噴火を題材にした小説もあるということで、とても興味を持った。他の本も読んで、自然災害などに油断しがちな自分の意識を高めておきたい。

  • これはもう現代の預言書レベル。コロナ禍において、このような意思決定、決断がなされていたら、今頃は平穏な暮らしが戻ってきていたのだろうか。
    危機に直面したとき、自身と他者のリスクを冷静に見極め、行動できる人でありたいものだ。説明責任と質問責任、どちらも大事だなぁ。

  • 強毒性新型インフルエンザのパンデミックが発生。世界で12億以上の死者が出たが、日本は早期からの鎖国政策と首都東京の封鎖による感染封じ込めによって感染者・死者を少なくすることに成功した。2010年の作品だが、現実のコロナ初期をみるようで驚いた。由美子さん、良かった。

  • 中国で発生した強毒性インフルエンザ。その致死率は60%!中国で開催していたサッカーW杯の裏側で実施された封じ込めも空しく、全世界へと感染が拡大する。感染阻止のため、日本は東京封鎖作戦を断行する。

    今より10年前に書かれた作品ながら、新型コロナで揺れる世界を予見していたような内容に驚かされる。「未来のノンフィクション」という解説の言葉がまさにそう。平等に人を襲うウイルス、その戦いに勝者はいない。まさしく今の社会が直面している問題を読んでいるように感じた作品。

    ただ、あくまでもエンタメとして楽しめる仕上がりで読みやすい。総理と元WHOメディカル・オフィサーの息子コンビの活躍や、厚生相の手回しの良さなど、気持ちいいほどの行動力。現実の社会ではわかってても絶対やれないし、その決断がいい方へ転んだという強引な展開も多いけど、フィクションとして最悪の状況の中での最大限の希望を描くという意味ではいい内容だったと思う。

    どちらにせよ「やはり大事なのは各自の理解です。一人ひとりの自覚がもっとも大切です」という言葉に尽きる。政治家や医療関係者だけじゃなく、生活を営む一人ひとりもチームの一員であり、ヒーローなんだという意識を大事に過ごしていきたい。

  • 574Pもある長編文庫本にも関わらず、面白すぎて一気に読み進めてしまった。
    10年も前に新型インフルエンザによるパンデミックを書き、世界中に蔓延した新型コロナウイルスの予言の書と言っても過言ではない作品。読みながら何度か鳥肌たったほど。
    この著者の作品は初めてだったので、他の作品も読んでみたい。

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著者プロフィール

一九四九年、岡山県玉野市生まれ。九四年「メルト・ダウン」で第1回小説現代推理新人賞、九九年「イントゥルーダー」で第16回サントリーミステリー大賞・読者賞を受賞。他に『ダーティー・ユー』『ミッドナイトイーグル』『M8』『TSUNAMI津波』『東京大洪水』『風をつかまえて』『乱神』『衆愚の果て』『首都感染』『首都崩壊』『富士山噴火』『日本核武装』『神童』『ハリケーン』『官邸襲撃』『紅い砂』『決戦は日曜日』など著書多数

「2022年 『落葉』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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