すべて真夜中の恋人たち (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社
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本棚登録 : 2671
レビュー : 277
  • Amazon.co.jp ・本 (360ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062779401

作品紹介・あらすじ

「真夜中は、なぜこんなにもきれいなんだろうと思う」。わたしは、人と言葉を交わしたりすることにさえ自信がもてない。誰もいない部屋で校正の仕事をする、そんな日々のなかで三束さんにであった――。芥川賞作家が描く究極の恋愛は、心迷うすべての人にかけがえのない光を教えてくれる。渾身の長編小説。

感想・レビュー・書評

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  • 私の中では、とても意味のある作品。

    ハードカバー版の評価は★三つで、しかも、非常にしょうもないレビューを書いているにも関わらず、私の中にずっと閑けさが残り続け、文庫も絶対買おう!と決めていたのだった。

    川上未映子は、ここから『ヘヴン』などにも遡るのだけど、改めて戻ってくると、平日の昼間にも関わらず酔っ払いながらしか三束さんと会えないことや、カルチャーセンターの申し込み直前で嘔吐してしまうシーンなんかは、彼女らしい生々しさだな、と思う。

    冬子が人をイライラさせる感じ。主体的に物事を選ばず、しかし、三束さんという冬の人に惹かれて崩れてゆく様子から目が離せない。

    そうして、冬子とは対称的にガツガツと生き抜く聖も、とても好きだ。
    自分の持つ定規でしか人を測れなくて、でも、その定規に意味がないということに気付いていて、なのに止められない聖は可愛い。

    二人が凹凸を埋め合うように泣き合う夜のシーンは、とても印象的だった。
    それが、青春のワンシーンのようなチープな盛り上がりに見えても、「人生の登場人物ではない」と言い放たれた冬子を思うと先に進めたように感じるのだ。

    校正の仕事をしている「私」の、訥々とした言葉を追っていると、不思議な言葉繰りの世界観に引き摺り込まれる感じがする。

    早く読むな、早く読むな、と自分に言い聞かせながら、「私」のペースに合わせて歩むこと。
    その行為が、誕生日の真夜中に散歩する錯覚さえ見せてくれる。

    この閑けさに、浸って欲しいと思う。
    前回のレビューより、少しはマシになっていると良いのだけど。

  • 川上未映子さんの小説は芥川賞を獲得した「乳と卵」を読んで、物語の内容はけっこう好きだけど文章の個性が強くて(リズムとか、あと個人的に関西弁にはあまり馴染みがないので)そこがあまりはまらなくて、それ以来読んでなかった。
    そして今回。表紙とタイトルに惹かれて買ってみたのだけど、「乳と卵」と本当に同じ人が書いたの?ってくらい、私的には印象が違った。
    文章自体の個性は減ったと思うけど、描写の美しさは芸術の域だと思えるほどで、読んでいてその世界に引きずり込まれるような感覚。
    初期のファンの人はもしかしたら不満なのかなと思ったりもした。そのくらい違った。

    恋愛小説だけどそれに終始してるかと言ったらそうでもなくて、主人公・冬子の周りの人間たちの台詞(主に女性)にあぁ…っていろいろ思ったり。
    本質を突きすぎてて怖かった。
    冬子はどこにでもいるような“地味な普通の女性”で、なんだろう、本当それぞれの人にいろんなドラマがあるんだろうってよく思うけど、多くの人にとっては取るに足らないようなことが、本人にとっては人生に大きな影響を与えるような出来事になり得るんだってことを改めて思った。
    リアルだと思うかどうかは読み手の性質にもよるような気がするけど、恋愛に於いて何か過去に抱えて消極的になっている人なら、解るところがけっこうあるような気がする。
    恋愛ってしようと意識してもなかなか出来ないのに、いつの間にか落ちてることがある、そういう感覚とか。
    物理要素もちょくちょく出てきて(光や色について)興味を惹かれた。

    川上さんに俄然興味を持ったので他の著作も読んでみたい。
    読み手によって評価が真っ二つに分かれるような作家さんって、それだけ求心力もあるんだろうと思う。

  • 【久しぶりに、読み終えた勢いでの印象】
    感情がひどく抑制されている主人公の入江冬子さんの生活は覗いていてあまりに哀しくて何度も涙が出そうになってしまいました。

    川上未映子さんの作品はこれまで乳と卵しか読んだことがありませんでしたが、乳と卵は今まで読んだどの作家さんの作品とも全く違っていて(当然といえば当然ですが、でも本当に違う、と思ったのです)唯一無二とはこの感じだな、と思ったものです。本作は全体を包む空気こそ全く違うものでしたが、やはり川上さんの独特の色合いは出ていて、読んでいて、「これだ、これだ」とわくわくしていました。特にツボなのが、登場人物の言葉が「」の枠をはみ出て、ポツリポツリと崩れていく感じです。生きている言葉だ、と感じられて大好きです。

    川上さんは女性の感情の変化の微妙さのようなものをよく理解されていて、それを表に出す方法が非常にお上手な方です。冬子さんの心の中も、声も、聖さんの言葉も、他に登場にした女性たちの言葉も、間違いなく今の女性の生の声です。どの声も、その人にとっては正しくあるべきで、その人の中にある限り誰も否定する権利はないようなものばかりです。それなのに、他者に届いた途端、何だか間違った感じになってしまう、ガタンと、何だか光が吸収されてしまう様みたいです。物語の文脈で表れる光のイメージとは少し異なりますが。最後の冬子さんと聖さんのやり取りなんて典型的です。意見が食い違って、それぞれに傷ついて、結局お互いに「ごめん」と言い合って、ああ、女性同士の深い付き合いってなんてめんどくさいんだろう、ってなんだか辛くなってしまいました。

    そういえば考えてみると、私も聖さんが最後に冬子さんのことを語ったように、自己完結型の人間のような節はあって、聖さんの言葉は結構鋭い棘のようにグサッと来ました。私の場合下手したら聖さん以上にめんどくさいのが、自己完結型なところがある、という自己分析は出来ている上で、だけど、だけど、の堂々巡りをしているところなのですが。それと、自己完結こそしていても、そこに私の家族という要素が少なくとも必ず存在しているので、決して孤独ではないのです。だけど、冬子さんはただひたすらに孤独な自己完結型の生活を送っています。物語途中で冬子さんは孤独の出口を見つけるのかと思いきや、最後は結局孤独に戻るわけですから、私は悲しいという類の感情を通り越して何だかゾッとしました。それでも、三束さんが一瞬でも冬子さんと交流して、与えたもののお蔭で、冬子さんの物語は豊かになって、ずっと抱きしめていられるものが出来たのかな、と思ったら、それでいいのかな、と勝手に今ちょうど腑に落ちました。

    ぷかぷか頭の中には色んなものが浮かんでいますが、ひとまずこんなところで。

  • 多分、冬子さんみたいな人はどこにでもいるし、こういう人同士の恋愛もよくあるんじゃないかと思う。こんな風に、なんの形にもならない恋、のようなものも。
    だけど、人とのかかわり方の下手さが自分と重なりすぎて、慣れていないから恋をした時の何もかもが新鮮な気持ちとか、これから先に起こるかもしれないことを想像して夢にまで見てしまう、その純粋なようで痛々しいくらい経験不足なところとか、何だか客観的に突きつけられた気がして悲しかった。たとえそこまでではないとしても。
    全体的に優しくて、でもところどころ厳しかった。
    言い合いになった時に聖が言ったことは、厳しいけれど
    正論だなあと思う。他人とうまくやっていくにはエネルギーを使うから、しんどいんだよね。だけど、それを放棄したらどんどんひとりになっていってしまう。それでいいと思っていても、実際そうなってみないと分からないことの方が多いんだけども。
    あってもなくても何も変わらないような小さなことを書いた話かもしれないけど、心が痛かった。

  • ひとりの女性が恋をしていくようすを、これでもかというほど大切に大切にすくいとって、そこにあるひとつひとつの感情のゆれうごきを丁寧に丁寧に言葉にしてくれていた。
    こんなに細やかな心理描写ってなかなか読めない、とても好き。
    そこかしこに私をみつけた。冬子がみている世界や景色や感情に、たしかに覚えがあった。
    聖の言葉にも、恭子の言葉にも、典子の言葉にも否応なしに共感してしまう。
    一日は何度でも夜になる。

    川上未映子さんに対しては正直これまでどうしても読まず嫌いなところがあった。
    嫌いというか、今にして思えばそれは畏怖とか憧憬がぐちゃぐちゃに混ざり合ったものだったんだなと思う。
    自分にとって絶対特別になってしまうと分かってたから、自然と遠ざけてたんだろうな。

  • 主人公の冬子は、他人から見れば、「流されるようにぼんやり生きてる」「自分の意志がない」「自分で選択せずに生きてきた」そういうもの静かな影の女性で、アグレッシブとは全く縁のない場所で生きていて、でも、だからと言って、平坦な人生というのも、決して楽な人生でもないし、目立たなく生きていても、人知れず傷つくことも多く、冬子は冬子で自分の人生をやるせない気持ちで一生懸命生きている。

    こういう、冴えない主人公の内面や人生を、すごく静かに丁寧にリアルに描かれているのがとても新鮮だった。
    空気感、情景的な描写は、村上春樹氏に匹敵すると思う。

    冬子とは真逆の性格の、仕事仲間のアグレッシブな聖も、「誰かに自分のことをわかってほしい。理解されたい」と常に渇望している。そういう二人の渇きみたいなものが、ありありと描かれていて、とても良かった。

  • 二回目。謂わば自分とは正反対の女性が主人公なんだけど、彼女の孤独には何故だか共感できる。
    じぶんのつまらなさを他人にわかってもらう必要はないけど、他人にわからせられる、みたいな瞬間が生きていたら多々あって、その瞬間の強さ、みたいなものが彼女とは正反対の自分にも何故だかささる。そして、彼女はきっとルックスにあまり恵まれていないのだろう、けれど、私は初めて読んだ時も今回も、とても清潔で美しい容姿を彼女に当てはめながら読んだ。正しさや善悪ではどうにもならない大体の問題の、最も繊細な部分を、不器用な恋愛を通して描いた作品。

  • 最後の数十ページはとても好き。
    あとは寂しい一人の夜のように長い。

  • 恋愛ものだと思って読んだらそれだけじゃなくもっと深い話だった。自己肯定感がものすごく低そうな主人公の周りにはやっぱり彼女を大事には扱わない人たちがたくさん集まってくる。
    自分の人生に満たされない人が集まってきて、みんな彼女に不満をぶちまけたり、八つ当たりのようなことをしていくのは悲しかったり腹が立ったり。
    昔の自分とかぶるところがすごくあったから、強く思い入れながら読んでしまってこの高得点。

    自分のごみごみとした感情についての長々とした描写、すごく好きだった。
    夜や光についてのこれまた長々とした描写も。

    地味な冬子が服をもらって着て、嬉しそうなところがよかった。
    服の描写も感情も。
    やはり女性はめかすと元気になるよね。

  • 川上未映子さん初読。文章が美しくてびっくりした。美しい文章だと主人公の心象風景をこうも痛々しくさらけだしてしまうのだな、とも思った。
    世の中を渡って行くには「素手」すぎて疲れてしまった頃(主人公本人は自覚なし)に手を伸ばしたのはお酒。その展開が現実的で先が読めない、とそこで初めて思った。
    三束さんへの気持ちがどんどん積まれて行く描写。終盤の方、圧巻でした。
    読後、とあるラブソングが頭に浮かんだけれど、ああ、それじゃ弱い、と思ったくらい。連動して中村文則氏のインタビューで見かけた「小説は、一般的な言及よりも深い言葉を書かないといけない。マンガよりも映画よりも音楽の歌詞よりも深くないと」という言葉も浮かんだ。

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著者プロフィール

1976年大阪府生まれ。2006年に随筆集『そら頭はでかいです、世界がすこんと入ります』を刊行。2007年に初の中編小説『わたくし率  イン 歯ー、または世界』が第137回芥川賞候補になる。同年、早稲田大学坪内逍遙大賞奨励賞を受賞。2008年、『乳と卵』が第138回芥川賞を受賞。2009年、詩集『先端で、さすわ さされるわ そらええわ』で第14回中原中也賞を受賞。2010年、長編小説『ヘヴン』で芸術選奨文部科学大臣新人賞と第20回紫式部文学賞を受賞。2013年、詩集『水瓶』で第43回高見順賞を受賞。

「2013年 『りぼんにお願い』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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