オリンピックの身代金(上) (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社
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感想 : 47
  • Amazon.co.jp ・本 (480ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062779661

作品紹介・あらすじ

小生、東京オリンピックのカイサイをボウガイします――兄の死を契機に、社会の底辺というべき過酷な労働現場を知った東大生・島崎国男。彼にとって、五輪開催に沸く東京は、富と繁栄を独占する諸悪の根源でしかなかった。爆破テロをほのめかし、国家に挑んだ青年の行き着く先は? 吉川英治文学賞受賞作

「東京だけが富と繁栄を享受するなんて、断じて許されないことです。誰かがそれを阻止しなければならない。ぼくに革命を起こす力はありませんが、それでも一矢報いるぐらいのことはできると思います。オリンピック開催を口実に、東京はますます特権的になろうとしています。それを黙って見ているわけにはいかない」――本文より――

感想・レビュー・書評

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  • 前回の東京オリンピック開催前を描いていて、オリンピック主催に沸く当時の日本の国民全体での高揚感が読んでいて興味深かった。

    本作は犯人が最初から分かっているので、何故犯人が犯行に及んだかの経緯を追う形だが、その心理が丁寧に描かれており、当時の日本の貧富の格差を読むにつれ犯人の動機には納得してしまう。ただ薬物に手を出す辺りからあまり共感出来なくなった。

    後半がどのような展開になるのか楽しみだ。

  • 昭和39年。東京は五輪開催に湧きに湧いていた。
    日本人というのは根っからの五輪好き、お祭り好きである。
    他に娯楽が山ほどある現代でさえ、五輪となれば国をあげて大盛り上がりする。
    2002年にサッカーW杯が開催されたとき、サッカー好きは当然のこととしても、今までサッカーなど見向きもしなかった人々までもが、世界最大のスポーツの祭典が自国にやってくることに熱狂した。
    まして、敗戦から復興しようとしているタイミング、諸外国の仲間入りをしたいと熱望している時勢に、世界が注目するイベントが開催されるというのだからその盛り上がりたるや、想像に難くない。

    そして時を経て2021年(たぶん)オリンピックが再び日本にやってくる。
    僕はスポーツが大好きで、オリンピックも興味があるけれど、東京でオリンピックを開催することに意味があるのか懐疑的である。
    一時の快楽のためにはらう犠牲が大きすぎるような気がするのだ。
    もちろん、景気回復に一役買うであろうことや雇用が増えることはプラス要因だけれど、それは短期的、一時的なカンフル剤に過ぎない。
    長期的な視点がモリくんをはじめとした五輪歓迎派には欠けているように思えてならないのだ。
    五輪開催後に作ったスタジアム、広げた道、改修したスタジアムは果たして有効に利用されるのだろうか?
    (まず間違いなくされないんだけどね)

    もちろん、子供たちに夢を与えるという大義名分があることもわかっている。
    マイナースポーツに陽が当たるというメリットもある。
    だけど、夢だけでは腹はふくれない。
    僕はスポーツが大好きで大好きで、シロクロのボールを心から愛しているけれど、その僕でさえ、今東京で五輪を開催することはデメリットのほうが大きいと思う。

    当時の東京は五輪を開催するのにもっと相応しくない状況だったのだ。
    多くの人々は五輪に熱狂し、復興のための一助にはなった。
    敗戦に落ち込む人々の心に再び火を灯し、「もはや戦後ではない」と言わしめた。

    でも、盛り上がっていたのは東京だけだった。
    五輪の名前には国の名前ではなく、都市名が冠される。北京五輪、ロンドン五輪…。決して中国五輪、イングランド五輪ではない。
    日本で開催された五輪もまた「東京オリンピック」と呼ばれた。
    それはただ単に慣例ということだけではなく、本当の意味で「東京オリンピック」だったのだ。
    日本中が熱狂したわけではない。
    あくまで東京に住む人たちやマスコミ、一部の階級の人々が盛り上がったというだけで、多くの日本人、特に労働階級は完全にカヤの外であった。
    いや、カヤの外ならまだましだ。
    彼らは五輪を開催するための礎とさせられた。
    ひどい言葉を使うのならば、彼らは人身御供、人柱だった。

    この物語の主人公、島崎国男。東大生。
    田舎のちいさな村で秀才と崇められ、村の期待を背負って東大に入学した青年。
    学力こそ秀でていたものの、それ以外はどこにでもいる、いい意味で平凡な青年だった。
    彼は東京に住んではいたけれど五輪に熱狂する側にもいなかったし、五輪を縁の下で支える側にもいなかった。数少ない「カヤの外」に存在する人間だった。
    しかし、彼は兄の死をきっかけに五輪の、東京の現実を知る。
    華やかなステージではなく、そのステージを生身で支える人々の、五輪の光などこれっぽっちも当たらずにステージの端でつつましやかに暮らす人々の現実を知ったのだ。

    本書はそれを延々と克明に書き込んだ一作である。
    五輪妨害を企て、それで身代金を強奪しようとする誘拐小説の亜流では決してない。
    破壊だけを目的としたテロリストサスペンスでもない。
    ただただ、ここに書かれているのは現実なのである。

    誘拐小説の眼目は身代金の受け渡し方法にある。
    たとえば、「人さらいの岡嶋」と呼ばれたほどの誘拐小説の名手・岡嶋二人には「あした天気にしておくれ」「七日間の身代金」など、受け渡し方法に抜群の工夫をこらした作品がある。
    これが誘拐小説の面白さだ。
    だが、この小説にはそういった面白さはまったくない。
    彼が要求した身代金は何の工夫もトリックもなく、やり取りされる。
    「おいおい、そんな単純なやり方でいいのかよ?」と心の中で叫び、それでもなお、僕は彼が「そう見せかけて実は…」という仕掛けを隠していることを期待していた。

    結果、そんなものはなかったわけだが、それでこの作品が色褪せるわけではない。
    僕は驚くべきトリックを読みたくて「奥の手があること」を期待していたのではなく、彼らにどうしても成功してほしくて、それで警察の裏をかく奥の手があることを期待したのだ。
    どうしても、彼には成功してほしかった。
    結局、彼が身代金を奪ってどうしたかったのかわからない。
    本当に五輪をめちゃくちゃにしてしまいたいなら、身代金を奪うよりも本当に爆破事件を起こしてやったほうがよっぽどいい。
    もし身代金を首尾よく奪えたとしても、彼の気持ちが晴れるとも思えない。
    それでも、僕は彼に成功してほしかった。
    この気持ちはこの小説を読んだ人にはきっとわかってもらえるはずだ。

  • 時系列がバラバラなので最初は一瞬戸惑うけれど、慣れてくるにつれ、ひとつの事象を複数の視点から描いているのがとても効果的。
    1964年の東京オリンピックを前に、草加次郎を名乗る爆弾魔がオリンピックを狙うというお話なのだけれど、そのバックグラウンドにある地方出身の人夫、格差、東京一極集中の経済などがきめ細かく描かれている。たった50年ほど前のことなのに、こんなにも日本は今と違っていたのかと、驚いてしまう。

  • 奥田英朗を初めて読んだ本。
    この本めっちゃ面白いやん!

    その後伊良部シリーズのエンタメ性にもやられ、群集劇の「最悪・邪魔・無理」など、あれよあれよという間に20数冊を読了。
    奥田のおっさんの本は読みやすくっておもろすぎ~

  • うん、面白い。
    国男がいい人故に、その正義感から
    悪い方に進んでいるのが読んでいて苦しい。
    日本はこんな風に復興してきたのか。
    2011/11/1

  • オリンピックに向けて劣悪な環境で働かされる人夫、進化する東京と貧しいままの地方、弱いものに寄り添う気すらないが日本を強国に導く使命感に燃えるエリート、高揚する市民、支配層への怒りを持つ犯人、日本を護ろうと犯人を追う刑事、どの人物も丁寧に描かれていて、感情を揺さぶられた。日本が大きく変わろうとした時代だったことも感じた。

  • 上巻なので評価が難しいですが、やっと物語が動いてきた感じがします。
    戦後どのようにして東京オリンピックが開催されたのか、その時代背景や人々の暮らしなど垣間見れます。
    今年の夏に東京オリンピックが行われる前によみたかった作品でした。
    話が日付ごとに区切られていて、さらに前後するため、簡単にメモするとより小説を楽しめるかもしれません。
    基本として、主人公のターン、警察のターン、マスコミのターン。という構成ですね。

  • 犯人、刑事など、複数の登場人物の視点で描かれています。「あの時は、そうだったのか。」と読むにつれて、引き込まれました。
    書かれている時間が、前後するので、途中、何度も前のページに戻って日付を確認してしまいました。オリンピックの光と影。社会の光と影。この犯人、嫌いになれません。

  • これは面白かった。オリンピックに向かう日本、前のオリンピックのときはこんな感じだったのだろうなぁ。と思いながら読んだ。首都高速、新幹線、国立競技場を作る工事現場の出稼ぎ労働者たちの姿も非常にリアル(と思われる)で興味深かった。

  • 続きが気になるけど、下巻に出会えない!

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著者プロフィール

おくだ・ひでお
1959年岐阜県生まれ。プランナー、コピーライターなどを経て1997年『ウランバーナの森』でデビュー。2002年『邪魔』で大藪春彦賞受賞。2004年『空中ブランコ』で直木賞、2007年『家日和』で柴田錬三郎賞、2009年『オリンピックの身代金』で吉川英治文学賞を受賞。著書に『最悪』、『イン・ザ・プール』、『マドンナ』、『ガール』、『サウスバウンド』、『無理』、『噂の女』、『我が家のヒミツ』、『ナオミとカナコ』、『向田理髪店』など。映像化作品も多数あり、コミカルな短篇から社会派長編までさまざまな作風で人気を博している。近著に『罪の轍』。

「2021年 『邪魔(下) 新装版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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