オスマン帝国500年の平和 (興亡の世界史)

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (406ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062807104

作品紹介・あらすじ

バルカン、アナトリア、アラブ世界を席巻した大帝国は、多文化、多宗教を柔軟に包み込むメカニズムを生みだした。強力なスルタンのもとで、広大な地域を征服した成功のあとに続いた、大宰相を中心に官人たちが支配する長い時代。多民族の帝国が、民族の時代の到来により分裂するまでを描く。

感想・レビュー・書評

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  • 「オスマン」という新しい価値観に出会ったという印象。そして現代にいたる旧オスマン領での悲劇は、まさにオスマン的価値観から、民族主義的価値観へ移行したことによる悲劇だったというのも理解。

    オスマン恐るべし。

    イスラムの名のもとに、異宗教・異民族の人ぴとが共栄し、500年も続いたという事実は、結構自分の中では、この人間社会の営みを理解していく上では、大きな落とし穴だったかもしれない。古代ローマ文明、キリスト教文明、そして中国文明以外で、非常に興味深い新たな文明に遭遇したような印象。

    オスマンという、中国とはまた異なった、スルタンを頂点とした独特の中央集権国家の枠組みの中で、イスラム法の枠組みの中であれば、異宗教にも寛容な社会。この枠組みの中では、民族の対立や宗教の対立といったものが、今のように取り立てて意識されずにきたようだ。

    そしてオスマンの体制も、アナトリア地方とバルカン地方を統一して以降、体制そのものは変遷していったが、どんな体制であれ、著者のいう以下の3つの原則は、守られた。すくなくともセリム3世以降の近代オスマンまでは(この近代化も凄いが)。

    1.直接支配域を属国や辺境諸州で囲み、戦争によって外からの干渉を排し、内側の平和を維持する。

    2.イスラムとその法に基づき、正当制を主張する。

    3.中央集権的な官職体制と軍制に基づき、効率的に全土を支配する。

    塩野さんの本を読んでいた限りは、オスマンの強さというのは、スルタンの奴隷であるイエニチェリ軍の強さや有能なスルタンによる世襲なのかなと思っていたが、それも初期にはあったのだろうが、それよりも、このポリティカルスキームといったらよいのか、古代ローマのとまでは行かないまでも、500年続いた独特の国を維持するためのスキームがあったのだなと思う。

    ローマンカソリック系の国々に恐れられたイエニチェリも官僚化・世襲化・地方へ定住化して以降は、すっかり、様相も異なってきたのだなあという印象。
    スルタンの世襲は、最も実力のある子供が継ぎ、他の兄弟は全て抹殺されるという体制も、時代の変遷により、ゆるくなったという印象。
    それでもこれだけ、オスマンが帝国として長く続いたのは、そういうことか。。。

    現代にいたるまで、このオスマン帝国またはオスマンの精神が、何らかの形で続いていたのならば、9.11を象徴としたイスラム原理主義者のテロとその影響としてのアフガン・イラク問題、バルカン半島の旧ユーゴ解体に至る悲劇、トルコ・アルメニア・クルド間の大量死など、多くの悲劇が克服できたかもしれない。

  • 理系の私には最も苦手な分野(歴史)の本でした。。。
    主に読み手の問題ですが、こういう文章の中から歴史の面白さを発掘できないorz。。。

  • オスマン帝国の入門書としては最適です。
    実に過不足なくツボを押さえた内容です。
    2冊失敗して漸くたどり着きました。
    学者による記述は、教科書的になりがちですが、ぼくのような疑ってかかる読者の好奇心を的確に満足させてくれます。
    最新(?)の歴史解釈により、オスマントルコに対してのステレオタイプな固定観念を否定してくれます。
    正直なところ、最初は、日本人による、しかも女性による歴史書はどんなものかと先入観を持っていましたが、西洋人の書いた歴史書のようなキリスト優位にたった歴史観ではなく、公平に見ることが出来る点が却って良かった。

    それに歴史に疎い翻訳家の訳した読みづらさもありません。

    現代のイスラム社会の問題点を語るためにも、是非読んでいただきたい一冊です。

  • バーキーを紹介

  • オスマン帝国の前期について書かれた本は私は読んだことがなくてなかなか勉強になりました

  • 上橋菜穂子さんの推薦から読書。

    オスマン帝国はトルコ人の国ではなく、イスラム教を奉じるスルタンが、イスラム法に則って支配した地域。
    徴税のため、民族よりもイスラム教徒であるのか、非イスラム教徒であるのかの方が重視されていた。
    オスマン帝国の支配を受けていた人々が、国民であり、民族によって差別を受けなかったという、支配体制。
    官僚の腐敗はあったけれども、民族差別のないこの支配体制はなかなかよかったと思う。
    これが終焉期には、ヨーロッパ列強の干渉や、支配体制の揺らぎによって、言語や宗派の違いから人々が民族というものを意識し、貧富の差が民族間で発生するようになって互いに憎みあい、自治を求める。
    ここからバルカン半島やアラブ諸国の、今に到る争いが起こったという経緯を知る。
    民族が自治を求めるとは、こういうことか……と、初めて意味がわかった気がする。

  • オスマントルコは、トルコ帝国でもイスラム帝国でもなかった、というのには驚いた。僕は世界史で何を習っていたんだろう?
    塩野七生もそうだけど、たまにこういうのを無性に読みたくなる。

  • この本のなかに魚は頭から腐るという言葉がある。国の隆盛、滅亡は指導者によって決まる。オスマン帝国の歴史はその事を教えてくれる。

  • もう一度読みたい。

  • ちょっと前に読んだトルコ狂乱は トルコ人のためにトルコ人が書いたトルコの歴史 という本でしたそれだけに 日本人の私が読むと きつい部分もありましたが こちらは 日本人が日本人のために書いた トルコの歴史本で 大変読みやすく 面白かったです。民族と 国 が 必ずしも 一致していない 緩やかな まとまり だった オスマントルコ から民族自決へ そして 今 現在 また いろいろな国のまとまりである ヨーロッパ へと国の あり方も 変化するんだなぁ と 思いますね  

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著者プロフィール

1958年山口県生まれ。お茶の水女子大学文教育学部卒業、東京大学大学院人文科学研究科博士課程中退。東京大学東洋文化研究所助手を経て、現在、東京外国語大学大学院総合国際学研究院教授。著書に『オスマン帝国の時代』、共編著に『記録と表象―史料が語るイスラーム世界』『イスラーム世界研究マニュアル』などがある。

「2016年 『興亡の世界史 オスマン帝国500年の平和』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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