エンデの遺言 ―根源からお金を問うこと (講談社+α文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062814195

作品紹介・あらすじ

『モモ』『はてしない物語』などで知られるファンタジー作家ミヒャエル・エンデが日本人への遺言として残した一本のテープ。これをもとに制作されたドキュメンタリー番組(1999年放送/NHK)から生まれたベストセラー書籍がついに文庫化。忘れられた思想家シルビオ・ゲゼルによる「老化するお金」「時とともに減価するお金」など、現代のお金の常識を破る考え方や、欧米に広がる地域通貨の試みの数々をレポートする。

感想・レビュー・書評

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  • 本書は、現代の経済を考える上で必読の書だと思う。エンデは本の中でこう言っている。「第三次世界大戦はもう始まっているのです。それは時間の戦争です。ある地域が別の地域に仕掛ける戦争ではなく、ある時代が別の時代に仕掛ける戦争です。われわれは、自分たちの子や孫が生きてゆけないような世界を作り出そうとしているのです。」このまま行けば、決定的な経済的破綻が起きるか、さもなくば地球が滅亡するだろう。
    根源はどこにあるのか。エンデはロシアのバイカル湖のエピソードを紹介する。その湖畔の人々は、日によって漁の成果は異なるものの、毎日売れるだけの魚を採り、自宅や近所の食卓に供していた。彼らはよい生活を送っていた。しかし、ある日紙幣が導入される。それと一緒に銀行のローンもやってくる。状況は一変した。漁師たちはローンで大きな船を買い、より効率的に魚が取れる漁法を採用する。採った魚は遠くまで運搬できるように、冷蔵庫が建てられた。漁師たちはさらに大きな船を買い、より早く、より多くの魚を採ることに努めた。ローンを利子付きで返すためにも、そうせざるを得なかった。競争に勝つためには、相手より早く、より多く魚を採らなければならない。その結果、湖には魚が一匹もいなくなってしまった。
    この話はどこか『モモ』に似ていないだろうか。そう、エンデは経済について深く考えていた。問題はお金のあり方にある。
    いかなる物も、時とともに劣化する。食べ物は腐り、服は傷む。しかし、お金だけは劣化しない。昨日の千円は、今日も千円である。したがって、人々は物よりもお金を所有しようとする。物は溜め込んでも無駄になるが、お金はいくらでも溜め込むことができる。だから自然の収奪が起こる。環境問題の根はここにある。
    もうひとつ、お金には重要な問題がある。それは利子である。考えてみれば、利子は変なものである。これも物と比較するとわかりやすい。たとえば、あなたが食べきれないほどの食べ物を持っていたとする。そのままにしておけば、食べ物は駄目になってしまう。そこへ誰かがやってきて、その食べ物を分けてくれと言う。その代わり、今度あなたが必要なときに、同じだけの新鮮な食べ物をあごるから、と。そうすれば、あなたは喜んでその人に食べ物を分け与えるだろう。このように、物ベースで考えれば、利子などもらわなくても、あなたは十分得をしていることがわかる。利子には何の根拠もないのである。
    利息をとってお金が貸し出されると、借りた方は自分が売るモノやサービスの価格に、その利息分を上乗せしなければならなくなる。ということは、この利息は人々が作り出した富から、その分だけ富を取り去っているのである。ちょうど、時間泥棒が人々から時間を取り上げたように。つまり、利息とはまだここにない未来から得ている利益である。そのことが、経済に無限の成長を強制する。
    すべての問題の根源は、いまの貨幣システム、つまり「お金」のあり方にある。それを変えることができるかどうか、それがわれわれ人類がこの惑星上で今後も生存できるかを決める決定的な問いだ。そうエンデは言う。では、その具体的な方法はあるのだろうか。それは本書を読んで考えてもらいたい。この本にはたくさんのヒントが散りばめられている。

  • ミヒャエル・エンデの遺言をベースに取材し作り上げたNHK番組「エンデの遺言」を書籍化した一冊。

    現在の通貨の機能には、1.交換の媒体、2.価値の尺度、3.価値の保存、4.投機的利益の道具、5.支配の道具 があるが、3以降が問題ではないかと提唱。

    問題点はこんな感じ:
    ・物は劣化していくのに、お金は価値を保存し続けるのは矛盾。
    ・むしろお金は持っているだけでプラスの利子が成立するので、余裕がある人は貯め込み、お金の交換の機能を阻害する。
    ・株価投資とは、将来を輸入して今を生きること。
    ・複利(指数関数的成長)は非現実的。
    ・利子は成長を強い、環境と人間が犠牲になる。
    ・お金の信用機能はお金を持つ者の権力と混同される。

    オルタナティブとして、マイナス金利や地域通貨を提唱し、特に地域通貨について多くのページ数を割いている。

    感想:
    個人的には、マイナス金利は長期的な価値に投資する行動を、プラス金利は短期的な価値に投資する行動を誘引するというところが目から鱗だった!!
    (お金が利子を生むものなら、さっさとお金に変えて貯め込んだ方が得だから。昔エジプト文明やヨーロッパでは減価するシステムが採用されていて、その頃の遺産がピラミッドやカテドラルだとか。)

    ただ2021年に読むと、今のマイナス金利政策と本書が提唱してるマイナス金利は何が違うのか解説してもらいたくなる。
    (今のマイナス金利では提唱されている問題は解けていない。多分、株などの投資先が存在していて、そこでバブルができていて結局「お金がそれ自体で富を生み出す」という構造が変わっていないからだと想像するけど)

    引用:
    34p. 拝金主義は一種の偶像崇拝といっても差し支えないでしょう。

    →デトロイトのGuardian Buildingを思い出してぞっとした。金融業の会社が入っているビルで、その内装は教会を彷彿とさせる独特なデザイン。そこを案内してくれた人が「お金を信仰化してこういうビルを作った気がするんだよね…」と呟いていた。

    48p 灰色の男たちは、不正な貨幣システムの受益者にすぎない。 (...)灰色の金利生活者等が利子を通じて人間から時間を盗む

    →『モモ』の中の時間と金融システムの繋がりまで考えいたってなかったなー!

  • 内容や視点についてはとても興味深かった。
    特にお金は交換手段であって目的ではない。しかし、お金がお金を稼ぐ道具として使われることから、お金を稼ぐ・蓄える事が目的になっている。金融や投資にお金が大量に回っていて、必要な物やサービスを得るためにはあまり回らなくなっている。
    現実の世界を見るといいサービスや物より、そういったものを生み出すかもしれないという会社の方が大きなお金を産むという事になっている。
    この本を読んで、今まで考えたこともなかった視点だったのでお金の本質について知る機会となった。

  • ◯お金を持っている人間はお金を持ち続けても費用がかかりません。対照的に、例えば、農民は種をまくのを延期できません。(中略)これでは、取引をしようにも、立場が違いすぎます。(117p)

    ◯お金を使うことで利便を受けているなら、受益者はそのための料金を社会に対して支払って当然です。(228p)

    ◯マイナス利子のシステムは、環境にもよい長期的な投資へと、投資要因の変更をもたらすのです。(245p)

    ★20年前の本。現在の経済システムが持続可能なものでないことを既にエンデさんが指摘していたのだ。1920年代からゲゼルが言っていることに、環境破壊が進んで災害が自らの身に及んでようやく気付く愚かさ。

  • 20年前以上前にエンデが言ってることが今に刺さる。

    ・お金は常に成長を強制する存在。その理由は利子。
    ・そのシステムの犠牲者は、第三世界の人々と自然に他ならない。
    ・パン屋でパンを買う購入代金としてのお金と、株式取引所で扱われる資本としてのお金は、2つの異なる種類のお金であるという認識が重要。
    ・巨大マネーの源泉は、世界に存在するありとあらゆる種類の「格差」である。「格差が格差を生む」構造が「利が利を生む」構造を可能にしている。
    ・マネーの運動がもたらすものは、貧しい国(人)から富める国(人)への資源の転移である。
    ・現代人が、物質的な豊かさだけが人生を価値のあるものにすると考える限りは、他のことに目を向けることはできない。メンタリティの変革こそ必要。このほうがシステムの変革より難しいだろう。
    ・シルビオ・ゲゼルの思想。「お金は老化しなければならない。」お金で買ったモノ(本来の意味でのモノ)は経済プロセスの中で消費されなくなる。お金も経済プロセスの終わりにはなくなるべき。血液が骨髄で作られ、循環してその役目を果たしたあとに老化して排出されるように。お金とは経済という、いわば有機的組織を循環する血液のようなもの。
    ・現代のお金がもつ本来の問題は、お金自体が商品として売買されていること。
    ・近代自然科学の問題から、社会心理、宗教、文化、経済と、問題はみな関連している。どれか一つの問題を取り上げようとすると、他の問題も浮上して、すべての問題を同時に解決できないと困るが、実はそれをしなければならない。
    ・現代人は大人から子どもまで「この本は何をいいたいのかという質問」にとらわれてしまっている。本を読むことは豊かな体験であって、作者と読者の個別的な関連を築いていく行為。
    ・将来に生じる利子をいま、われわれは価値として受け取っている。われわれは将来を“輸入”して、いまを生きています。そのために環境を消費し、資源を食い潰している。
    ・シュタイナー。「所得と職業、報酬と労働が一つになってしまっていること」が現代の悲惨の原因とし、「同胞のために働くということと、ある決まった収入を得るということは、相互に完全に分離された二つの事柄である」としている。
    ・お金の問題を考えてみるとき、お金が存在しない状態をまず想像する必要がある。

  • 仮想通貨ビットコイン、お持ちですか?
    私は、まったく興味がなかったのですが、
    最近のニュースで、私の予想よりもビットコインを持っている人、使用している人がはるかに多いことを知りました。
    たしかに、「お金」を持っていると、欲しいものが買えたり、旅行ができたりします。(価値あるモノとの交換)

    将来、病気の療養や介護が必要になった時に、
    お金が頼りになるという側面もありますね(資産)

    仮想通貨で持つのがいいのか、日本円で持つのがいいのか分かりませんが、
    「できるだけ、たくさんのお金をほしい」
    「持っているお金をもっと増やしたい」
    そういう気持ちは、多くの人に共通するものなのかなと改めて、考えているところです。

    ただ、どのくらいの「お金」があれば十分なのかは、人それぞれかもしれません。

    「モモ」「はてしない物語」などの著者であるミヒャエル・エンデのインタビューや蔵書をもとにまとめられた「エンデの遺言」を手に取りました。

    より良い人生を生きるための「お金」であるはずが、
    「お金」を得るために、心と身体を消耗しているようなことが起こる。
    それは、なぜか。
    「お金」そのものの性質について、改めて考えさせられる本でした。

    この本に文章を寄せている河邑厚徳さんによると、
    エンデは、人は目に見える危機には対処できるが、目に見えない危機には無力な存在であると言っている。
    解決ができないような根源的な問題に対しては、気が付いていても目をそむけていると言った方がよいのかもしれない。
    さらに、エンデは、かつては、過去の文化や歴史を学ぶことで、現代の問題にどう対処すべきかが了解できたが、私たちが今、向き合っている「お金」の問題では、どう考えるべきかの規範が過去にはない。したがって、未来を想定し、何が起きて来るか予言的に直視しなければならないと語っている。
    問題解決を、過去からではなく、未来から考える。それが、エンデのファンタジーの力である。

    「お金」を求める気持ちを考えるとき、その心には、未来に対する漠然とした不安があるように思います。

    これから先、どんなことが起こるか分からない。
    経済の動向、高齢化社会、加齢に伴う体力や気力の低下などなど、
    不安につながる要素が出てきた時、
    とりあえず、それらに関連する危機を乗り切れるように備えておきたい気持ちになります。
    頼りにできるのが「お金」。
    「お金」を所有することで、安心が担保されるという発想が沸いてきます。

    いざと言う時に頼りにできるのは、「友達」「地域の人々」と思えたら、
    「お金」も大事だけど、「お金」を求める気持ちはそれほど強くないかもしれません。

    一方で、孤立していて、友達や地域の人々など頼りにならないと思ったら、
    「お金」を頼りにするようにも思います。

    「お金」は、万能ではないということに、改めて気が付かされた一冊です。

  • 作家、ミヒャエルエンデ。僕がこの作家と初めて出会ったのはアインシュタインロマンだった。その制作チームがその後、継続的に彼に逢いつつまとめたドキュメンタリーのまとめ冊子が本書である。
    エンデの遺書と言うタイトルはほんの序盤で、大半は地域通貨やローカルマネーの事例や貨幣経済の不備への批判が占めている。

    さて、この書籍を読み始めて気づくのだが、イーロンはもしかするともしかするかもしれない。のかもなぁ。と思うのです◎

    ちなみに、イーロンは置いておいて、地域再生や伝統産業再生のヒントがここにある。と感じました(^^)

  • マイナスの利子の実現を!

  • ある程度、経済に精通していないとむずかしい内容だと思う。私はあまり理解出来なかったけど、お金のあり方について考えさせられた。
    お金が利子を産むことが、歪な世の中にしている。
    お金は本来は等価交換のためだけに使われるもので、お金自体が商品になったことが問題。
    利子は例え自分が借金をしていなくても、間にある企業で発生しているので、商品には実に30%も上乗になっているそう。
    利子がつかない、もしくは価値が下がっていくことが健全な経済になるのでは?ということを終始問いかけている。
    その代替案として、過去からさまざまな利子のつかない貨幣が考えられていて、代表的な成功した貨幣としてイサカアワーが取り上げている。
    しかしこの本が出て10年以上経った今、検索してみるともう誰も使っていないようだ。
    利子がつくということは、貧富の格差をどんどん広げていくので、こういった考えは今もまた出てくると思う。PayPayに始まった支払いが、やりようによっては可能性があるかも知れない。

  • NDC(9版) 337 : 貨幣.通貨

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著者プロフィール

1948年生まれ。
映画監督。大正大学特命教授。71年東京大学法学部卒業。NHKディレクター、プロデューサーとして『がん宣告』『シルクロード』『チベット死者の書』『エンデの遺言』などを制作。長編ドキュメンタリー映画作品として『天のしずく 辰巳芳子“いのちのスープ"』『大津波3.11 未来への記憶』『笑う101歳×2 笹本恒子 むのたけじ』がある。

「2017年 『むのたけじ 笑う101歳』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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