誰も戦争を教えられない (講談社+α文庫)

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  • 講談社
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感想 : 27
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  • Amazon.co.jp ・本 (400ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062816069

感想・レビュー・書評

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  • うーん、読めなかったなあ…もちろん初めから終わりまできちんと読んだのだけど、結局のところ古市さんはどういうスタンスに立っているんだろうかということが良くわからなかった。
    各国各地の戦争博物館は、エンタメ性がなければ、そしてリニューアルをしなければ、来場者が見込めず、廃館となってしまい、その戦争の記憶を残せなくなってしまうという言い分はよくわかるのだが、やはり戦争にエンタメ性は求めてはいけないというように思うし、戦争は、テレビだったり映画だったり、もしくは本だったり体験した人から話を聞くなりそういうもののさまざまな視点から学ぶもので、『「誰も」教えてくれない』わけではないと思う。まあ、でも、コロナが始まって最初の緊急事態宣言が出てしまった頃、出る前に広島で原爆ドームや平和記念博物館を見たが、この本に書いてあるような視点から見たわけではなかったので、やっぱりこの本は買って、旅先に持って行って読んで、改めて観に行ってみたいなと考えさせる本だった。

  • 著者がハワイのパールハーバーを訪れたことからこの本は始まる。
    パールハーバーは、白を基調とした記念館があり、いたって爽やかで戦争の暗いイメージはあまり感じられない。それはアメリカが戦勝国で今も現在進行形で戦争をしているから。
    対して日本の戦争関連の博物館では、戦争の悲惨さは目一杯伝わってきても、なぜこの戦争は起きてしまったのか、今後どうしていくべきか、などのメッセージは感じられない。
    いずれも主語がない。右派と左派の妥協の産物のような中途半端な博物館しかない。
    唯一、靖国神社にある遊就感はメッセージ性のある博物館だが、運営団体は宗教法人であり国ではない。
    国としては、大東亜戦争に触れたくない、メッセージなんて残したくない、後世に伝えることは何もないということなんだろう。
    義務教育で教えないことにも通じている。

    「戦争ダメ絶対」と繰り返しながら戦争の加害者にも被害者にもなることができない日本。対してドイツは威風堂々と敗戦を宣言し、街を歩けば戦跡に当たる。国家として戦争の記憶を残そうという姿勢が伝わってくる。もう一つの敗戦国イタリアは、国家ではなく地方の歴史として戦争を語り継ぐ。特に第二次世界大戦の終結に至っては複雑な経緯があり、純粋な敗戦国とも言えないから、日本ドイツとは立ち位置が異なる。

    時間はどんな凄惨な出来事でさえも冷却させる効果を持っている。
    近代国家の出現によって戦争は悲惨さを増し、犠牲者も増えたと思いがちだがそんなことはない。国家が出現する前の狩猟時代には、現代では考えられないほど部族間の争いが絶えなかった。世界的に殺戮やジェノサイドが深刻化するのは独裁政権下ではなく、無政府状態になった時。
    近代国家は、実は戦争による犠牲を抑止してきたと言える。

    「誰も戦争を教えてくれなかった」という単行本の題名について、著者なりの答えが文庫本の題名「誰も戦争を教えられない」。誰も戦争を知りようがないし、教えようがなかったということ。
    戦時下を生きていた人でも、年齢、属性、住んでいる地域によって戦争の姿は全く違ったものになる。
    日本として共有している大きな記憶も、人によってその記憶はバラバラで、数えきれないほど無数の小さな記憶の上に成り立っている。

    戦後70年、著者をはじめとする若年層は戦争なんて知らない。そこから始めていくしかない。
    戦争を知らず平和な世界で生きてきた。そのことを気負わず肯定して生きていくこと。
    背伸びして国防の意義を語ることも、安直な想像力で戦死者たちに同情することも、戦争を自分に都合よく解釈することも不要。

    著者の戦争に対する独特な考え方が赤裸々に綴られていて読み応えがあった。

  • 歴史や戦争のことに関しては、国や人によって様々な見方がありますが、著者は執筆時、学校で教わった知識程度(著者いわく)でした。
    よって、中立で冷静な視点が貫かれており、どのような歴史観を持つ人にも楽しめる内容になっています。
    海外も含む戦争関係の施設を巡り、エンタメの視点からも分析した各国、各世代の歴史観の違いについて分析しています。
    こう書くと、お堅い本だと思われるかもしれませんが、語り口は軽妙で、時折、ジョークも交えた内容が読みやすいです。
    特に日本では、戦争のこととなるとシリアスに語られがちですが、本書のように身近なものとして捉える視点は大事だと思います。
    著者が言っているように、歴史は実際に体験した人であっても、立場によって見え方、感じ方は異なるので、「戦争は誰にも教えられない」というのは、まったくその通りです。

  • 社会学から見た観点で、国内外の戦争博物館について考察している。戦争を知らないままでは済まされないと思うものの、戦後生まれの我々は確かに、どうしたらいいのかわからない時もある。

  • 世界各国の戦争博物館を観光しながら社会学者の目線で、世界中の戦争教育のあり方を述べている。そして、エッセイ風なので読みやすい。

    フツーの人が観光では行かない世界各国の戦争博物館を観に行き、その国と日本の文化比較しつつ、歴史教育としての敗戦教育のあり方を題名通り答えのない問題なのかを考えさせる。

    また、アジアの反日国の市民が、その国の博物館を見学している風景の著述を読むと、ホッとしてしまう自分もありながら、反面、歴史教育の難しさをはっきりと理解させる。

    著者のいう公共サービスの博物館にも、マーケティング観点が必要というメッセージには、本当にその通りだと思う。

    著者は、私より若いのだが、次世代の論客の一人となることは、間違いない。
    結構、軽い文章に騙されるが、引用資料も充実して、流石、学者と感心させる。

  • 読みやすかった。脚注も面白かったし、なんだかライトノベル読んでる気分だった。
    戦争を真面目にとらえねば!って言う人にはバシバシ叩かれるだろうなー。てかこの人叩かれまくってるだろうなー。
    でも若くて戦争を知りたい人にはいいと思う。
    少なくとも私には価値のある本です。終戦記念日前に読めてよかった。

    難点は分厚くて鞄に入れると重いのと片手で持ちにくいこと。

    他の本もこんなテンションだったら読みたいな。

著者プロフィール

1985年東京都生まれ。社会学者。慶應義塾大学SFC研究所上席所員。2011年に若者の生態を的確に描いた『絶望の国の幸福な若者たち』で注目され、メディアでも活躍。18年に小説『平成くん、さようなら』で芥川賞候補となる。19年『百の夜は跳ねて』で再び芥川賞候補に。著書に『奈落』『アスク・ミー・ホワイ』『ヒノマル』など。

「2023年 『僕たちの月曜日』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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