田舎のパン屋が見つけた「腐る経済」 タルマーリー発、新しい働き方と暮らし (講談社+α文庫)
- 講談社 (2017年3月17日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (276ページ)
- / ISBN・EAN: 9784062817141
感想・レビュー・書評
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筆者の人間性や考えが随所に表れており、多くの共感するところがあった。マスプロの一端を担っている今の自分の仕事に疑問を感じつつあったが、その疑問点への解となりそうなエッセンスが感じられたのが収穫。提供者側が信念に基づいて正しくつくり、利用者がそれに正しく対価を支払う。互いに尊重し合う関係性構築がこれからのものづくりには求められているように思うし、それがこれからの生き方にも通じるものなのかなと思えた一冊。
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職を安くするために、食を安くする。
消費者は安い商品を求めるが、それが巡り巡って労働者の首を絞める。
厳選した食材を使い、手間暇をかけて作ったパンには、その対価として真っ当な価格をつける。
タルマーリーのパンを食べて、ビールを飲んでみたい。
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タイトルに惹かれて読んだら、思想に共感した。マルクスの資本論の市場経済に対抗するために、野生の菌にたどりつく。
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この前加計呂麻島に行った際、天然の麹菌で作るお酢の味の芳醇さにびっくりした。何の気なしに読んだこの本にも麹菌の驚異的力の話が書かれている。自然に寄り添う生活はほんと並大抵にできることではないし、この本に書かれていることは努力の末大成功した一例に過ぎないのかもしれない。しかし、たとえ世界が進化しても、変わらない、変えられないことには素直に従って生きていく、そんな人生を少しでも味わいたいと思った。
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前半は、ちょっと乱暴だけどとってもわかりやすいマルクス経済学の紹介。後半は「里山資本主義」の実践論になっている。
原発事故という思わぬ要因があったとはいえ、その実践の場を、いっときは岡山県の奥地、そして今はすぐ隣の智頭に求めてくれたのは嬉しい。機会があれば車を飛ばして行くことができる。
勝山は偶然にも里山資本主義を最初に実践していた製材会社がある。竹細工の「飯かご」という伝統工芸品を作っている平松幸男氏もいる。何時の間にか、地域から変革が始まっている。
窒素の地中に吸収されるルートに、稲妻があり、そのおかげで稲が豊かに実ることがあるとは知らなかった。古代人の「確かな目」を著者は感心している。
タルマーリーは天然の菌だけでパンをつくるパン屋さんであると、同時に智頭町に移って野生酵母だけでつくるクラフトビール製造所にもなった。改装を重ね、勝山の新しい名所にもなりつつあったパン屋を閉じるのは、地域の人の理解が得られたのかどうかは不安なところだけど、いたずらに利益を求めて支店を作ったりして規模を大きくしない、やりたいことを極めるという姿勢は評価したい。ともかく一度行ってみたい。
2017年4月16日読了 -
資本主義と商い。著者の実体験による体当たりが、この悩ましきテーマに光をぶっさしてくれる。ほんとうの商いって、心地よくて、喜びに満ちたものなんだって、教えてくれる。
金本位制ではなく菌本位制の「腐る経済」というキーワード
も秀逸。学者のマルクス解説とは全く違う、血肉が通った労働者そして経営者の立場から、マルクスを実学として読み解こうとする姿にも奮い立たされる。 -
職人に憧れるな。
昔は誰もが職人=生産者だったんだろうな。
何かを作ることができるという自信は、労働の搾取からの解放の安心感に繋がる。
手仕事を大切にしていきたいし、味噌、梅干し、ぬか漬けは私もしっかり受け継いでいきたいな~
・腐らないお金の不自然さが、僕たちを「小さくてもほんとうのこと」から解離させていく。
・自分の「労働力」を切り売りすることを避けようと思ったら、自前の「生産手段」をもてばいい。
・「職 」(労働力)を安くするために「食」(商品)を安くする。それが、マルクスが解き明かした資本主義の構造なのだ。
・「天然菌」は作物の生命力の強さを見極めている。リトマス試験紙のように、自分の力で逞しく生きているものだけを「発酵」させ、生きる力のないものを「腐敗」させる。
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タルマーリーは好きで何度か行きましたが、パン屋の話だけではなくて、経済の本質が理解できる本。
安売りがなぜダメなのか等、分かりやすく書かれています。 -
マルクス資本論を読み、資本主義の問題点と小さいながらも今の資本主義とは違う生き方を考えて実践している田舎の小さなパン屋さんの話。
マルクスの資本論というと共産主義のように思えるが、それは現代に合わないことを前提として、小さな経済圏で実践しているのが興味深かった。
食品表示の話、天然酵母の話が特に個人的に興味をひかれた。 -
金本位制ではなく菌本位制、資本主義は不自然と断言する筆者の語り口調に違和感を持ちつつも、では〇〇本位制、〇〇主義の〇〇の部分にどんな名詞が入ることが自然なのかと考えた。腐らないものつまりストックできないものだ。現在の社会はお金を自然の摂理に抗い大量増殖させている反作用で環境破壊や安全を犯した生産がされている。また、市場に大量供給されたお金の余りによって日本のバブル経済、アメリカの住宅バブルが発生した。本書はそんな資本主義の不自然さを訴え循環経済を薦める書である。
一方で、筆者は小さくてもほんとうのことをすることを目指しているが、現状日本の企業の大部分は大きくてほんとうのことを成し遂げている。経営者の多くはがめつさを持ち合わせはおらず、抱える従業員の生活を支えることを重要に考えている。このような事実からも、筆者の木を見て森を見ない資本主義批判には違和感を持たざるを得ない。
筆者は利潤を生まない経営を語っていた。しかし、利潤を生み蓄えることは一概に否定できない。スラック資源を持つことは、一つは企業の成長発展の為に有効である。これに関しては筆者の関心にはない。しかし、もう一つの目的として外部環境の変動に対するバッファーとしての意味がある。将来の不確実性に対して備えるのだ。この点に関して筆者は利潤を生まずに消費を減らすことで差益を得ているのだろうと考えられる。