読書介助犬オリビア (講談社青い鳥文庫)

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (212ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062851077

作品紹介・あらすじ

ドッグシェルターで安楽死寸前のところを救われ、世界初の読書介助犬となったオリビア。「犬に絵本の読みきかせをする。」この、ユニークなプログラムを思いついた女性サンディと、オリビアと出会い、オリビアに本を読むことで変わっていく子どもたちを描いたノンフィクション。あなたもきっと、犬に本を読んであげたくなる!小学中級から。

感想・レビュー・書評

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  • ソルトレークシティ中央図書館では、子どもが犬に読み聞かせを行うプログラムが行われている。
    始めたのは看護師のサンディで、病院で患者のストレス軽減のためのセラピードッグによる活動を行っていたが、それ以上にできることはないか?と思ったことがきっかけだったということだ。
    サンディが図書館に連れて行ったのは、アニマルシェルターで処分寸前だった子犬だった。「オリビア」と名付けられたこの犬が世界初の図書介助犬になったのだ。
    図書館で大好評だったこのプログラムは、学校でも行われるようになった。
    訪ねてくる子どもたちのなかでも、本が嫌いな子、読むことが苦手な子、周りの人間に不信感がある子のほうが、リラックスや他人との触れ合い、そして成績向上効果があったという。
    子どもたちには、オリビアたち介助犬との触れ合いによって「オリビアなら自分の側にいて自分の読み聞かせを聞いてくれる。間違っても笑ったりしない。」という安心感と自信にも繋がっていった。それは「じゃあ自分もオリビアのためにできることをしよう」という他者を思いやる心も生まれてゆく。
    そいsてこの本で取り上げられている子どもたちで家庭に問題がある子も多く、じっくりとプログラムに馴染んでいったのに逃げるように引っ越したり、いつのまにか来なくなることも多い。人の心を変えるためにはじっくりと時間をかける必要があるけれど、現実は難しいという厳しさも感じた。

    私も小学生に読み聞かせや本の紹介はしていますが、やっぱり大人が「この本面白いよ」という一方的なものになっている感じがするんですよね。
    そして子どもたちのなかでも、小説は興味ない、ノンフィクションなら読んでもいい、という子は多いです。それならば面白いノンフィクションを紹介できるようにならないとなあ。
    読書でも勉強でも大人が「読んだらご褒美あげる」のような働きかけよりも「犬があなたの言葉を聞きたがっているよ」という安心と居場所提供のほうが子供の方から何かをしようという気持ちになれますよね。
    子供への本の勧め方も考えてしまいました。

  • 読むことが苦手な子どもが犬に読み聞かせするという、アメリカの公共図書館から始まったユニークなプログラムを誕生から追ったノンフィクションです。読み間違えてもそばでじっと聞いてくれる読書介助犬と出会い、本の苦手な子どもたちが心を開いていく様子や、また犬を通じて他者のために何かをしてあげるという気持ちが生まれ、目覚ましく変わっていく様子が描かれます。
    同じテーマで『わたしのそばできいていて』リサ・パップ/作(WAVE出版)という絵本もあります。こちらもあわせてどうぞ。

  • 本書との出会いは、図書館の新刊書架。

    表紙に絵本を読む犬がいる。

    目は前を見つめているけれど、左前足はしっかりと本に置かれている。

    読書介助犬?

    はじめての見る言葉だった。

    米国には、いろいろな種類のセラピー・アニマルがいるらしいと、
    少しだけ知っていたが、「読書介助犬」については、
    この本に出会う瞬間までまったく知らなかった。

    日本でアニマル・セラピーと呼ばれているものは
    大きく2つに分かれるという。

      動物介在療法=AAT(Animal Assisted Therapy)

      医療の一環として、専門知識を持つ医師や看護師、
      動物の飼い主であるボランティアなどが協力して行うものをさす。

      実際に対象となる患者はリハビリなど、
      具体的な治療の目標を決めて、計画的に行っていく。


      動物介在活動=AAA (Animal Assisted Activity)

      病院や施設などを訓練された動物が訪問するというかたちをとる。

      こちらは、動物とふれ合うことで人が癒されるという効果を利用し、
      患者のストレスなどを軽減することなどが主な目的となる。


    本書の人間の方の主役である、看護師・サンディは、
    後者を取り入れたいと考えていた。

      サンディはいままで、病に苦しむ患者の心の内をだれよりも多く見てきた。

      心から誠意をもって看護に当たってきたという強い自負もある。

      しかし、人間の自分ができるのは、目に見える傷や病気の手当てだけであり、
      病によって閉ざされた人々の心の闇は想像以上に深く、濃かった。

    サンディは、医療機関や福祉施設などにもセラピー犬の受け入れを訴え、
    NPO団体のボランティアの一人としてセラピー犬活動の普及を行うようになった。

    サンディにとっての最初のセラピー犬となるオリビアとの出会いは、実に劇的だ。

    サンディは、自分のかけがえのないパートナーとなり、
    セラピー犬となる犬を探すためにアニマル・シェルターに通っていた。

    彼女は、仕事をもち、ひとり暮らしをしている身には
    負担が大きすぎると考えていたため、
    当初は子犬を引き取るつもりはまったくなかった。

    何回かシェルターに通ううちに、希望の成犬が見つかったのだが、
    そんな彼女がなぜ子犬だったオリビアを引き取ることになったのか。

    そのエピソードは、直接味わってほしいのだが、
    サンディとオリビアには深い縁があったのだと思う。

    自分とオリビアにどんなセラピーができるだろうと考えていたサンディが、
    子どもが犬に絵本を読み聞かせるというアイディアを思いついたのもまた、
    彼女が絵本好きだったところから生まれた、まったくの偶然の思いつきだった。

    本好きだった彼女は、図書館ともなじみがあり、
    ソルトレイクシティ中央図書館の宣伝部のマネージャー・ディナとも懇意だった。

    サンディから「子どもたちが犬に本を読み聞かせするプログラム」について聞かされたディナは、
    最初からそのプログラムが当たると思ったわけではなかった。

    だが、初の試みで話題性があるならやってみようということで了解したのだった。

    でも、他の職員を説得できるのかがディナは気になった。

    サンディは、ここでこのプログラムについてこのように語った。

    「説得理由はこうよ! 
    子どもたちがうまく本を読めなくても、スペルをまちがえて発音しても、
    犬は決して笑わない、ばかにしない、ただだまって聞いてくれる。
    それによって、子どもたちは自信がついて、
    本を読むのが好きになる! ね、どう?」

    そして、プログラムの名前は、R.E.A.Dプログラム。

    READは、読むという意味だけでなく、
    "Reading Education Assistance Dog"(読書介助犬)の略だった。

    本書では、様々な理由で本が嫌いな子どもたちにスポットが当たる。

    エビイは、幼児期に軽い聴覚障害があったため、
    祖母が心配して読書を勧めすぎたことが原因で、
    かえって読書が嫌いになってしまった女の子。

    ザッカリーは、サンディの親友のロリの孫息子。

    読むのが苦手でみんなの前で当てられて読まされるのが大嫌い。

    読み方をからかわれたりして、学校に行くことも苦痛になっていた。

    ザッカリーは、特に本書ではその言葉は書かれていなかったが、
    ディスレクシアの傾向があったのだと思う。

    サンディは、自身が絵本が好きで、
    「絵だけが描かれている本であっても、"読書"はできる」という信念の持ち主だった。

    「ストーリーを絵から創造することは、子どもにとって、
    もっとも楽しい読書である」とも考えていたので、
    ザッカリーに、絵を見ながら自分でお話を作ってよいと言った。

    ザッカリーは、絵を見ながら、わずか1、2行のテキストを読み、
    さらにお話をくわえてオリビアに語り聞かせ、
    絵本を読むことを楽しんだのだった。

    図書館のREADプログラムが成功したため、
    ベニオン小学校でも採用することになった。

    ベニオン小学校の学区には移民が多く、
    母語が英語ではない子どもが大勢いた。

    経済的にも貧しい家庭が多く、
    安定した生活環境にない子ども達が集まっていた。

    学校の成績も平均して振るわなかったので、
    サンディはこの子どもたちの力になりたいと思ったのだ。

    身なりを整える習慣さえついていなかったエイプリルは、
    みんなに会うときはオリビアもブラッシングして歯を磨いてくるのだと教えてもらい、
    身だしなみを整えるようになる。

    心が不安定で物を壊したり、先生に反発ばかりしていたショーンは、
    少しずつ心を開いてくる。

    けれども、READプログラムだけでは、
    解決できないような苛酷な環境に子どもたちは生きていた。

    うまくいったケースだけではなく、
    どうすることもできなかった過酷な現実も、
    本書は、きちんと書き抜いている。

    福祉関係者やボランティア、そして、学校関係者でさえも、
    読書の効能を知っている人は少なく、
    また、図書館関係者やボランティアで、
    福祉的なプログラムを知っている人は少ない。

    サンディは、看護師という職、
    犬が好きで、絵本が好きということを、
    見事に生かしてこのプログラムを生み出したのである。

    私は、自身の問題意識から人間の方にスポットを当てたが、
    犬の魅力もたくさん詰まっている。

    本好き、犬好き双方にオススメしたい。

  • アメリカの図書館や小学校でオリビア(犬)に本を読んであげて本好きになった子供たちの心温まるお話。

  • 青い鳥文庫っていうのが、不思議だった。

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著者プロフィール

児童文学作家。(公財)日本動物愛護協会常任理事。著書『ドッグ・シェルター』(金の星社)で、第36回日本児童文学者協会新人賞を受賞。執筆の傍ら、動物愛護センターから引き取った愛犬・未来をテーマに、全国の小中学校を中心に「命の授業」(講演会)を展開。主な著書に、『犬たちをおくる日』(金の星社)をはじめ、累計45万部突破のロングセラー「捨て犬・未来」シリーズ『捨て犬・未来 命のメッセージ』『捨て犬・未来、しあわせの足あと』ほか(岩崎書店)、『捨て犬未来に教わった27の大切なこと』『いつかきっと笑顔になれる 捨て犬・未来15歳』(小社刊)など多数。

「2023年 『うちの犬(コ)が認知症になりまして』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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