東京裁判 (講談社現代新書)

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感想 : 29
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  • Amazon.co.jp ・本 (416ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062879248

作品紹介・あらすじ

「文明の裁き」か「勝者の報復」か。不毛な論争に新世代の学究が終止符を打つ。

感想・レビュー・書評

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  • 映画を観るにあたり、予習として読みました。
    国際関係の視点が強いことが本書の特徴であり、東京裁判の特徴や欠陥などを論じつつ、当時の主要国の対外利益を踏まえた行動を解説するあたりが非常に面白い。どちらかに偏りがちなトピックにおいて、冷静な根拠分析かは著者の意見を述べていることにも好感を持てる。

    アメリカが裁判の平等性に拘ったこと、赦免時には裁判の正当性と冷戦情勢の変化による早期決着のジレンマに挟まれていたことなどは、読み進めるに当たり非常に面白かった。

    アカデミックでありやや難しい気がするが、読み応え十分の良書。

  • 東京裁判を勝者にやらせたのは失敗だったと笹川良一は言っていたらしい。
    事後立法そのもののA級戦犯より、九州帝国大学米兵生体解剖事件と言ったB級戦犯の方が罪は重いし裁かれて然るべきだと言う見解は、その通りだろう。
    だが日本人の中には勝者による敗者への一方的リンチだと感情、反発が残っていると思う。

  • 改めて東京裁判について見つめ直すことが出来ました。
    知らなかった所も、よく分かりました。
    何だかんだ言っても、結局勝者が敗者を裁く、歪んだ裁判です。

  • A級とB級、C級戦犯の違いは何かから知らなかったが、本書を読んで東京裁判がどんなものだったのかを知ることが出来た。本書は客観的であり、膨大な事実をもとに書き上げられているため、悪戯に日本人が大好きなパル判事を持ち上げたりと言った事もなく、安心して読むことが出来た。検察側、弁護側、判事側とそれぞれが自国の背景を抱えながら参加し、うまく行ったり行かなかったりと、そこにも人間模様があるのが生々しく、主張と妥協の末にやはり物事決まっていくよなと思う。

  • 本書は、極東国際軍事裁判(=東京裁判)について概観し、その枠組みの成立から戦犯の釈放、更にA級戦犯の靖国合祀までの主要な論点を中立的な立場から整理した本である。とりわけ東京裁判に関するwhat・why・howを重視して論じられている印象である。

    一度通読した程度では、この膨大な内容を脳内で完璧に整理することは困難であるが、映画『東京裁判』で見落としていた論点を知ることができたので満足している。研鑽を重ねていきたいと思う。

  • 東京裁判に関して客観的な事実を整理しようと試みた本。

    現状のロシア・ウクライナのことをきっかけに、かつての戦争にまつわる東京裁判について知りたいと思い読んでみた。

    細かいところまではあまり興味が持てなかったので流し読み。


    あとがきのまとめが著者の主張を端的に語っている。
    東京裁判の結果を、連合国側からの視点と日本からの視点とで評価している。

    連合国側から見た場合:東京裁判という政策に批判的。
    粗雑な善悪史観で敗者に戦争責任を負わせるのは「行きすぎた正義」であり、敗者に屈辱感や怨恨感情を残すため。

    日本側から見た場合:やむを得ない犠牲だった。
    ①敗戦国であり、戦争の責任追及は不可避だった。その際に自身による責任追及ではなく勝者による責任追及を容認した。
    ②軍国主義者を退場させ、米英に協調することで、戦後の発展や安全を確保することが必要だった。

    ー-----------

    そもそも東京裁判やらA級戦犯やら、靖国神社問題やら、なんとなく聞いたことはあるけれどあまり知らない、というレベルでした。

    でも、拙い知識の中でも、どちらかというと「戦争に善悪なんてないのに勝者が敗者を裁くなんて傲慢じゃないか」という視点をもっていました。

    実際に本書を読んで、日本側にとっても、「必要悪的な、現実的な解としてやむを得ない処置だった」という視点を得られたのは新しい気付きでした。

    映画も見てみたいけど、ストリーミング配信がないものか・・・
    
    http://www.tokyosaiban2019.com/

  • 東京裁判の国際政治上の意義を見ていくことによって、歴史論争やイデオロギー論争が過熱しがちな東京裁判をめぐる議論に冷静さをもたらそうとする。

  • 極東国際軍事裁判、いわゆる東京裁判を様々な角度から克明かつ実証的に論じた一冊。
    著者の立場は、「東京裁判史観」といわれる肯定論に立つものでもなければ、単純な否定論に与するものでもありません。
    「あとがき」から引用すれば、

    東京裁判の「意図」よりも、政策としてどうだったかという「結果」を評価し、そのさい「連合国側から見た場合」、「日本側から見た場合」と目線を変えることが有用であると考えている。

    と、明快に宣言されています。

    章立ては以下の通りです。

    第一章 東京裁判をどう見るか
    第二章 東京裁判の枠組みはいかにして成立したのか
    第三章 連合国は何を告発したのか
    第四章 日本はどのように対応したのか
    第五章 判決はいかにして書かれたのか
    第六章 なぜ第二次東京裁判は実施されなかったのか
    第七章 戦犯釈放はいかにして始まったのか
    第八章 なぜA級戦犯は釈放されたのか

    裁判の成立過程から、逮捕・起訴、審理の過程、判決、後処理まで一連のフェーズに分け、また、判事団・検察団・弁護団それぞれのグループの構成や内部での路線対立など事細かに論証されていきます。判事側にしても、弁護側にしてもまったく一枚岩ではなく、個人個人の信条やそれぞれの出身国の国内事情、あるいは個人的なレベルでの好き嫌いも含めて深刻な路線対立が存在したことが明らかにされており、そのことからだけでも東京裁判を一元的な肯定/否定で評価することが不適切であるということができると思います。

    これを読むと、東京裁判が「裁判」という形を取りながら、まぎれもなく「政治」であったことがよくわかります。
    連合国側がドイツのニュルンベルグ裁判とのバランスに腐心したり、裁判に参加した連合国側各国がそれぞれに異なる国内世論の影響に配慮する必要があったり、冷戦構造が確立していく中で東京裁判が東西両陣営の駆け引きの場になったり、と枚挙に暇がありません。
    また、戦犯に対する日本国内世論も時代につれて変遷していく過程にも興味深いものがあります。終戦直後は戦犯に対して非常に厳しい世論があったものが、裁判の長期化・占領の終了を迎えるにつれて同情論へと変化し、そして戦犯釈放が完了し高度経済成長を経て経済的に豊かになるにつれ戦前否定の考え方が一般化するとともに戦犯に対するネガティブな見方が支配的となった、と解説されます。

    これまでまったく知らなかったトリヴィア的知識も得ることができました。
    たとえば、
    ・A級、BC級といった戦犯の区別は、悪質度や重責度でABCと並べたといった序列関係にあるものではなく、単に裁判所憲章第五条の(a)項(b)項(c)項に該当するというだけの意味しかない。
    ・占領終了後、巣鴨プリズンが日本政府管轄になって以降は、「一時出所」の制度が相当緩やかに運用され、A級受刑者においても「3、4日外泊して帰ってきて一晩監獄で過ごしまた帰宅する」なんてことも珍しくなかったり、「職業補導」名目で企業に毎日「通勤」するBC級受刑者がいたりなどした。といった話。

    克明に記述された大作なので読むのはちょっと大変ですが、東京裁判の全体像をイデオロギーから離れて客観的に知りたい、という人にはお勧めの一冊です。

  • [法廷という政治]丁寧に第一次資料を積み重ねながら、今日においても論争が絶えない東京裁判を、「国際政治」の場だったと捉え直した作品。戦中・戦後の混乱の中で、各国・各人の異なる思惑がいかにして東京裁判という場に結実したかが解き明かされています。著者は、2008年にサントリー学芸賞(思想・歴史部門)を本作で獲得した日暮吉延。


    東京裁判やその評価に関する書籍は数あれど、ここまで総合的に透徹した情報や見解を盛り込んだ作品は珍しいのではないでしょうか。国際政治という強弱の軸を東京裁判にとおすことにより、本書は長年続いた正邪に関する論争に今までにない回答をもたらすだけでなく、何故にこの「歴史」が外交課題としてまだじくじくと疼くものであるかをはっきりと示していると感じました。

    〜東京裁判というのは、「文明の裁き」と「勝者の裁き」の両面をあわせもつ「国際政治」であったととらえる。「文明か勝者か」ではなく、「文明も勝者も」なのである。〜

    2008年に「今更」の感がある東京裁判に関する本がサントリー学芸賞を受賞したことからも、この見方がいかに新鮮なものであったかがわかる気がします☆5つ

  • 「共同謀議」という概念の導入により被告を一網打尽にすることができたが、裁判は長期化した。この東京裁判を受容することは日本側にとっての安全保障政策であって、戦後政治と対米協調への移行をスムーズにし、「東京裁判史観」は学問的な概念ではなく、また「自衛戦争論」や東京裁判否定論を言ってみても、それは東京裁判の法廷審理を国内的次元で再現することにしかならないと言う。

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