- Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
- / ISBN・EAN: 9784062879613
作品紹介・あらすじ
アメリカの正義、イスラームの正義、相互理解は不可能なのか。
感想・レビュー・書評
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近年政治哲学でも重要なテーマとなっているグローバル・ジャスティス論を主題とした新書。古典古代以来の正義観の問題にも触れながら、戦争の形態の変遷、グローバリゼーションによって生じた一国単位では済まない問題(難民や環境問題)の顕在化に対して、政治哲学がいかなるアプローチを取りうるのか、そして実際に国際社会でどのような取り組みがなされてきたのかを、要点をおさえながら解説してくれる。
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現代の国際政治において、正義論が直面している課題について解説している本です。
アリストテレスからカント、アーレントにいたるまでの政治思想史のなかで正義の問題がどのようにあつかわれてきたのかということについても、ごく簡単な紹介がなされていますが、本書全体を通じて思想的な側面を掘り下げることはめざされておらず、どちらかというとアクチュアルな国際政治の出来事によって、国際正義の論理がどのような問題提起を受けているのかということを論じることに、本書の目的があるように感じました。
このテーマについて概観を得るとともに、その現代的な課題についても一通り抑えることができるという意味では、すぐれた入門書にはちがいないとは思うのですが、個人的には理論的な側面でもう一歩掘り下げた考察が欲しかったように感じました。 -
国際関係・政治思想史の専門家が、「国際正義」に関する考え方の変遷と現状の課題を分析・解説した、2008年の著作。
本書は大きく二つのパートに分かれ、前半では正戦論や人道的介入などの軍事力行使に関わる問題を、後半では貧困や飢餓などを含む南北格差の問題を取り上げており、著者は以下のように述べている。
◆古代ギリシアから中世カトリックの世界までは、正義に国境はなく「唯一絶対の正義」であった。
◆16~7世紀のヨーロッパの宗教戦争により、主権国家や民族という概念を背景とした「正義の領土化・国有化」(=統治者・国によって正義は異なり得る)という考え方が誕生した。その後、「正義により戦争を防止、停止させることはできないし、結果を何某かの正義とみなすこともできない」とする「無差別戦争観」が広まり、19世紀前半にはヘーゲルが「戦争は諸民族の自然淘汰の過程」であると主張した。その結果、各国家がいわば権利として、「勝算があればためらわずに戦う」、「好機があれば素早く仕掛ける」というスタイルが一般化した。
◆その後、二回の世界大戦を経て、国際連盟・国際連合の設立や国際的な立憲化により、侵略戦争を違法化し、なお合法的な戦争の可能性をも低下させる枠組みが確立していく。
◆冷戦後の世界では、ボスニア・ヘルツェゴビナでの紛争などを通して、二国間紛争や内戦への「人道的介入」の正義というテーマが、専門家の間での激しい論争を巻き起こしている。また、アメリカの主導する対テロ戦争、軍事介入なども、今後、国際的な合意が求められるものである、
◆20世紀後半以降、南北格差(地球的な富の不平等)を問題とする「社会正義」が注目されるようになった。この問題は、「飢餓に苦しむ異国の人々を放置して、その人々よりましな境遇にいる同国人を救済することは、同国人と外国人に人種差別をするようなものである」とするコスモポリタンと、「正しさの概念はそれぞれの社会に固有なものであり、共通にそれを正しいと信じる人々の間でしか正義の履行は期待できない」とするコミュニタリアンによる論争のテーマとなっている。
◆文明や国によって正義が異なることを認識した世界が目指す方向は、移民の国アメリカにおいて、各人の出身国の正義とは異なる「契約論的な正義」が浸透し定着しているように、国際的な対話の場では、文明・国内での正義を押し通すことなく、共通の正義を探し求め、対話により正義を達成するということであろう。人権をめぐる文明間の対話については、イスラムの教えとの矛盾の解消等の問題はあるものの、総じて前進を見せている。
本書により、「国際正義」の変遷については、改めて認識することができた。
しかし、本書刊行以降も、中東をはじめとした世界各地での紛争は止まることはなく、新たに台頭したIslamic Stateはまさに「イスラムの正義」を世界に主張している。混迷を深める世界で、国家レベルで如何に対応していくべきなのか、極めて難しいテーマである。
(2009年1月了) -
【 はじめに 】
古典的現実主義者
:人間の道義心や倫理観が、法律の徹底が可能な国境内で向上しても、中央集権が存在しない国境外では向上しないことを根拠に、国際関係の無政府的な性格を強調
→勢力が均衡ならば相手国の侵略を予防・侵入者を撃退
Q.グローバル化→地球的な共存倫理をてい立しなくてよいのか?
【 第一章 】
・正義の境界性と地域性
→集団の定住と相互の戦いの恒常化
→正義が生存と結びつくことで「殺人」が正当化
・アリストテレス:ポリスの政治的自足性を強調
・古代ギリシャの時代に共通する正義はなかった
→衣食住や法律などはどこの国もにており、殺人や窃盗を禁止しているのに集団と集団ではあたかも異なる正義のものとに暮らしてると感じる
=キケロの自然法
「すべての人間はある種の自然な親切と情愛によって、さらに法を共有する事によって、一つに結ばれている」
<キケロによる人間の具体的義務>
①他者の身体を侵害しない
②他者の私的財産、公的財産を尊重する
③誓約した義務、約束を履行する
④他者をその価値と、われわれの資力に応じて寛大に扱う
・キリスト教における正義の自己主体化
:「人間がこの世で正義を他の人間に施す」というのは人間が神のように振る舞うこと=傲慢
→人間は原罪を負っている人間がより罪深くならないように生きることが目標
→平和の理念は、異教徒、不信者と相対する場合に中断
例)十字軍
・宗教改革
領土と結びついた宗教空間の樹立
例)ドイツ=万人司祭論:聖書を通じて神と向き合うべき思想、また各個人が信仰を内面化
→教会に教義の解釈権と信者の統治権→信仰の個人化・相対化に歯止めをかける
→教派は領域のなかでそれぞれの自治を行なう
【 第二章 】
・自然の中には人間の自然権を抑制するようないかなる正義も刻み込まれていない
→法によって規制しなければアナーキー状態になってしまう
→各君主が意図して下す命令が正義の内容にとってかわる(正義国有化)p46
・カントは状況はどうであれ、また相手が誰であれ守るべき行為規則を「定言命法」と名づけ、「もし相手が同胞だったら、義務を果たさなければならない」という「仮言(条件)命法」と区別した。p57
・カント「コスモポリタン権」
カントによると、この地表は人類すべての共有物とみなされる。したがって、特定の領土に居場所を持つ国民がいたとしても、彼らは偶然そこに住まうことが許されたにすぎない。したがって、彼らは遠方から訪れる異邦人の領土内通行を妨げてはいけないし、異邦人の訪問権が保障されなければならないというのである。
・「ステークホルダー理論」p66
(国際関係に応用された場合)「国境の内外を問わず、他者に影響を与えるかもしれない立場にいる人間や機関が、その影響をこうむるかもしれない人間や機関に対して説明責任を負う」こと。
ex) CSR理論
→国家のみならず、企業も社会に対しての責任を考える必要がある
【 第三章 】
・ヘーゲル:戦争を真の精神(理性)が発現していく場
→歴史自体も一種の理性の自己顕現の課程と考え、各民族の使命の優越を世界法廷としての歴史のまかせようとした
・シュミット:政治の本質は、敵国の関係のなかで結束しながら自己の存在意義を確認する国家と、戦争という例外状況のもと、誰が敵で、誰が味方かの「決断」を行い、それを宣言する能力としての主権である。
→戦争の違法化は、一部の国家を人類の敵として犯罪者にみたて、敵を根絶させる
(正しい戦争、不正な戦争の線引きは戦勝国によって行なわれる)
【 第四章 】
・アメリカの正義のディスコースの誤用
→秩序維持や人道的介入などで大幅にアメリカに頼らなければならない
例)核抑止、CIAによる情報収集
→介入の軍事的な技術提供は介入の恣意的な「選別性」(人道的手段がアメリカ意向)につながる
【 第五章 】
・アマルティアセンの正当な権原
①自然に働きかけることにより生み出したもの
②創意工夫や加工により生み出したもの
③所有物を、相手との自発的に交換することにより所有するにいたったもの
④他者からの自発的に交換することにより所有するにいたったもの
・風土原因論と西欧責任論
前者:西欧の生産性や勤勉さが途上国との差を生んだ
⇔
後者:マルクス主義:戦力を活かした不当な交換、譲渡の強要によるもの
・エージェントがもつ責任
・途上国の債務
複利や前政権の債務を負ってしまし、開発にお金を費やせない
【 第七章 】
・カントによる自己の普遍的超越
個々人がその倫理的生活においえ、「なんじの意思の格率が常に同時に普遍的な立法の原理として打倒するように」→文明間の対話には、自己のこだわりを脱することが大切
・「コミュニケーション的行為の理論」
各ユニットが自己利益の最大化という目的をかかげ、それに貢献するような手段を選ぶ事を「道具的思考(打算的)」vs より包括的な公共の福利との関係で自己ユニットの目標を設定する「コミュニケーション的思考」 -
319||Os
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読みやすい。序盤の勢いに比べて、終盤の失速を感じた。人権のある程度の普遍性という落としどころでは。。。正義をめぐる思考の整理には役だった。
・国の法律を犯さぬ限り、なにをしても不道徳ではない、という相対主義的な正義解釈を招き寄せる。良心の呵責ではなく。
・戦争における相互性の原則:赤十字関連条約、ジュネーブ条約、ハーグ条約
・戦争における犯罪者の一方的な特定とそれが引き起こす不満は、いまもない未解決。
・アメリカの正義のディスコースを批判することは容易。しかし、人道的介入も国際犯罪もアメリカ抜きには成り立たない。
・トマス・ポッゲによると、過去15年間で2億7千万人が貧困で死んでいるが、20世紀のあらゆる戦争で死んだ人間よりも多い。
・世界人権宣言では、義務の主体について各国政府をほのめかすのみ。
・世界価値観調査から見える多様性
・「異文化への寛容」「文明間の協力」を申し合わせて幕を下ろすのが通例。
・アダム・スミスの公平な観察者というヒント。 -
大学の時教科書として使ってた本を実家で発掘。
当時は理解できなかったけど今なら少しはわかることも多々(>_<)
正義は矛盾だらけ。 -
「(国際)正義」という概念が、どのような変遷を辿って伝播されてきたかという記述的な理解の促進に役立つ(*^◯^*)